【多神教の】第22話:女神たち【異世界】
**ギルドの会議にてゴーレム暴走の真相が暴かれ、
ヒドゥンの実力も人知れず評価された**
ギルドに登録した翌朝、ギルドの用心棒を務める巨漢のロッサに教えてもらった宿屋を出た俺とケンノスケは冒険者ギルドに向かった。
黒髪のメカクレネコ耳少年、ネコ族のフィースに神殿を案内してもらうためだ。
ちなみに宿屋は手持ちの心許ない冒険者向けだったが、それでも個室だったので快適に過ごせた。
もっと安いと大部屋で雑魚寝になるので、さすがにそれは勘弁してもらった。
宿を教えたロッサとしても俺とケンノスケが訳ありなのは察しているだろうし、適度に距離を取ってくれている。
やはりコミュ力が高いと、距離の取り方も上手いのか?
生前の記憶を持ったままの俺には、どうにも難しい……
そんな事を考えていたら、ギルドを運営する神殿前で待っていたフィースが手を振って来た。
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「おはようございます、昨日はよく眠れましたか?」
「ああ、おかげさんでぐっすり眠れたぜ」
「俺は寝る必要はないが、久し振りに気を張らずに済んだ。感謝する」
「ケンノスケさんの身体は甲冑なんですよね? どんな感じなんですか?」
ここでケンノスケの身体に興味を示す辺り、やっぱりフィースも男の子だね~。
でもゴメン。甲冑は布製で、気も空気のことなんだ。
ケンノスケの全身を眺めていたフィースがふと我に返り、誤魔化すように咳払いした。
「では、行きましょうか」
「町のはずれに神殿とは、随分と変わった配置だな」
「この町の中央には商売の女神キーナ様の神殿がありますから」
「それは、どういう事だ?」
「冒険者ギルドは旅と探索の女神トーラ様の神殿がまとめています。各町の空いた土地に分殿を建てるのが一般的ですね」
「つまり、どの町にも町独自の神殿とギルドを管轄する神殿がある訳か?」
「はい、その通りです」
思惑通り、フィースはケンノスケとの会話を弾ませてくれている。
おかげで俺は目立つ事なく、この異世界の神殿事情を把握出来た。
それにしてもさすがは多神教の異世界、三柱以外にも女神様が大勢いる訳か。
三柱の女神が俺の身体を作ったのだから、この世界の神は人の想像では無く実在する。
実在するからと言って、地上から神にコンタクトを取れるのかは別の話だ。
だからまずは、神殿から神に話し掛けられるのか確認してみる事にした。
魔王の手口を三柱の女神に伝える事無く俺の死が果たされたら、次の転生者に危険が及ぶ。
そんな寝覚めの悪い話は勘弁してほしいから、最低限の義理は通したい。
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改めて見ると古代ギリシャかローマみたいな造りの神殿の前に鳥居という、和洋折衷を斜め上にかっ飛ばしたような不思議なデザインだ。
でもここの住人とってはこれが普通なのだから、あまり言及しないでおこう。
些細な事で“ケンノスケ”が転生者だとバレる事態は避けたいからな。
一礼をして鳥居をくぐると神殿とギルドに向かう道に分かれ、俺達はフィースの案内に従って神殿に向かった。
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神殿の構造は至ってシンプル、大きく開けた入口の先には巨大な女神像と簡素な祭壇の置かれた礼拝堂になっていた。
反響定位でケンノスケを監視する神官が隠れているのも確認したが、特に接触の必要も無いだろう。
さらに奥の方には神官達が作業やら生活をする施設があるだろうからもっと複雑なのは想像出来るけど、わざわざ反響定位で確認する必要も無い。
ここは参拝者向けの気遣いを素直に受け取っておこう。
肝心の女神像は法衣をまとってランタンの付いた杖を持つ右手を高く掲げる姿を石膏か何かで形作ったのか、白一色だった。
異世界の住人の想像図か、あるいは地上に顕現した時の姿なのだろうか?
夢に出て来た三柱の女神を思い出した俺は、複雑な感情を気取られぬようケンノスケを大きく動かして女神像を見上げさせた。
「あの像が旅と探索の女神トーラ様ですね」
「では、女神様もこの神殿に?」
「ええ、トーラ様は世界に88個ある神殿を順に回っていると言われています」
フィースの説明には感謝するが、どこの高僧だ……
いや、でも! もしかしたら、今ここにいるのかもしれない!
僅かな希望に過ぎないが胸を躍らせた俺は、ケンノスケを操作してフィースから祈りの作法を聞き出した。
これで女神様に話を聞いてもらえれば、肩の荷も少しは下ろせるだろう。
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結論から言えば、女神様には会えなかった。
神殿で祈っただけで神と会えるほど、この世界は都合よく出来ていないらしい。
最低限の作法として外した帽子を被り直しながらケンノスケに三度笠を被らせた俺は、こっそりとため息をつきながらステータス画面を開いた。
これを見れば、理由なんて一目瞭然だろう。
名前:ヒドゥン・エンカ
種族:人間
性別:男
職業:ニセ剣士
レベル9999
経験値――
次のレベルまで――
HP:**198964**
MP:9999999999999
腕力:1+99999
体力:1+99999
素早さ:1+99999
器用さ:1+9999999999999
知力:1+99999
魔力:1+99999
運:1+0
武器
・さざなみ:攻撃力7
・刹那:攻撃力65
・ケンノスケ:攻撃力9999
防具
頭:ボロ布の帽子:防御力4
頭:遮光器:防御力64
体:偽革の服:防御力4
体:ボロ布の合羽:防御力4
右腕:夜天光×20:防御力8105
左腕:夜天光×19:防御力8105
足:偽革の靴:防御力2
スキル
【暖衣飽食】:消費MP1
【Sドレイン】:消費MP1
さすがは運が“1+0”だけあるよ。
運任せのコンタクトなんて確実に失敗する。
旅の女神様がこの町に来るまで神殿に通い詰めるか、女神様の後を追って各地の神殿を巡るか、もしくは別の女神様に会う方法を模索するか……
次の手段を頭の中で整理していた俺は、フィースとケンノスケの背を眺めながら神殿を後にした。
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神殿を出た俺は、フィースから手掛かりを得られないか考えて行動に移した。
「残念でしたね、先生。せっかく女神様に会えると思ったのに」
「ケンノスケさんは女神様に会いたいのですか?」
腰巾着らしい俺のからかいにフィースが食い付いてくれた。
ここはケンノスケを使って話を広げてみるか。
「俺の身に受けた世の歪みを伝えねば、と思っている」
「歪み?……この間の山賊も関係しているのですか?」
「ああ。直接では無いが、深いところで根はつながっているだろう」
「そうですか。もしよろしかったら、ルルーメに同行してみませんか?」
「ふむ、話が見えないのだが?」
思わず聞き返してしまった。
随分と持って回った質問といい、フィースも何らかの目論見があるのだろうか?
俺の警戒心がケンノスケから滲み出てしまったのだろうか、フィースはネコ耳と一緒に頭を下げた。
「すみません、説明不足でした。ルルーメは剣士としてギルドに登録してますが、同時に月の女神サヤ様の神官なんです」
「ほぅ……」
「それで、次の満月の夜にサヤ様への報告の儀式を執り行う予定があります」
「俺としてはありがたいが、使用人が勝手に約束をしてもいいものなのか?」
またしても聞き返してしまった。
女神の実在を認識している異世界の住人がいるのは大きな収穫だけど、使用人が主人の予定に変更を加えるなんて随分とおかしな話だからな。
今度は当然の疑問だからなのか、フィースも落ち着いた様子で肩掛けカバンから小さなメモ帳を取り出した。
「ルルーメのスケジュールは一任されていますので、絶対に説得して見せます」
「うむ、そういう事なら同行させてもらおうか」
「では2日後の夕方に町の門で落ち合いましょう、本日はこれで失礼しますね」
「ああ、よろしく頼んだ」
メモ帳を数ページめくってから閉じたフィースは、ケンノスケに食い付くように頷いて来た。
フィースの持つこっちの世界のメモ帳に気を取られた俺は、ついうっかりケンノスケを通して約束を了承してしまった。
とはいえ獣人の主従関係がこういうものなのか、それともルルーメとフィースの関係は主従とは別の何かがあるのか?
そんな疑問を投げ掛ける間も無く、フィースは走り去ってしまった。
ウサ耳姫ことルルーメと直接会う流れになるなんて、運の数値が“1+0”の俺に都合のいい話じゃないよな?
それでも女神様とコンタクトが取れる可能性がある以上、準備だけは入念にしておいた方がよさそうだ。




