幕間21.5話:ゴーレム暴走事件報告会議
**ウサ耳姫ことルルーメの使用人フィースと知り合い、
ヒドゥン・エンカは僅かだが確かな前進に手応えを覚えた**
※今回は三人称になります
酒場の宴会が解散となり、ギルド長の部屋に巨漢のロッサが入って来た。
「戻ったぜ、ルド」
「ロッサさん、ご苦労様でした」
「ホント、大変だったぜ。旦那もボウズも町を出て野宿しようとするし」
机を挟んで労うルドにロッサは、大袈裟ため息をつきながら肩をすくめた。
ロッサの報告を聞いたルドは、机に広げた書物に目を落としながら聞き返す。
「ほう……それで、どうしました?」
「ギルド懇意の安宿を紹介したら2人して画期的な解決策を聞いたように頷いて、まるで最初から宿屋に泊まる気が無い様子でしたぜ」
「確かに変な話ですね……」
「変と言えば、神殿で礼拝する作法を教えて欲しいとも聞かれましてね。猫坊主が案内を買って出やしたぜ」
「そうですか、これでだいぶ見えてきましたね」
清潔で安全な生活空間の固有スキル、【暖衣飽食】の存在を知る由も無い2人にとってケンノスケとヒドゥンの行動が不可解に映るのも無理はない。
だがケンノスケの監視をルドから命じられたロッサには、更なる不満があった。
「なあルドさんよぉ。あの2人の何を調べたいのかを教えてくれねぇと、こっちも動くに動けませんぜ?」
「それを含めて今から話し合う予定です」
「話し合いって、まさか!?」
「ええ、ロッサさんにも参加してもらいますよ」
「勘弁してくださいよ……」
思うところを並べ立てたロッサは、ルドの返した微笑みに顔を引きつらせる。
否定する事無く頷いたルドは、塩を掛けた青菜のように諦め切ったロッサを伴い部屋を後にした。
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ギルドの運営を担う神殿につながる廊下を抜けたルドは、仰々しい両開きの扉を悠然とノックする。
「ルドですね、入りなさい」
「失礼します、大神官」
「ロッサも中へ」
「オレ……いえ、わたくしめもですかい?」
「無理にかしこまらなくともよい」
「へい、失礼しやす」
女性の声に促されたルドが部屋に入り、天井から吊り下げられた薄布の向こうに見える大神官の影にお辞儀をする。
入室を拒むも薄布越しの大神官に微笑みを向けられたロッサは、観念した様子でルドと共に席に着いた。
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「本日の議題は分かりますね?」
「ゴーレム暴走の件ですね、正確には暴走ではありませんでしたけど」
「どういう事です?」
「2回目の試験で闘技場に入ったのは、侵入者迎撃用のアダマンゴーレムでした」
「何ですって!? どうして迎撃用ゴーレムが試験場に?」
ルドの報告を聞いた大神官が動揺するのも当然である。
遥か山奥でのみ採取できる希少なアダマン鉱石を精錬し、この世界で最も硬いとされるアダマン鋼で出来たゴーレム。
物理、魔法を問わず生半可な攻撃が通らぬ上に、指令によって妥協も配慮も無く標的を執拗に攻撃する殺戮マシーン。
ギルドの試験を受けに来た初心者は無論、最強レベルの冒険者パーティでさえも全滅の危機にまで追い込みかねない最悪の兵器。
仕様の関係で冒険者を含む部外者との接触を避けている秘蔵兵器が何故闘技場の中まで入り込んだのか?
神官長の動揺をよそに、ルドの報告は続く。
「どうやら哨戒中に闘技場の入口が開いたので、そちらに進路を変えたようです」
「異変を察知したら調査するよう、ゴーレムには指示していたのだな?」
「ええ、それで闘技場の入口を異変と認識したのでしょう」
「しかも調査に行った先には、まだギルドに登録してない人間がいた、と……」
「はい、アダマンゴーレムはヒドゥン君を侵入者と認識して攻撃をしてしまった。これが調査の結論です」
「報告ご苦労。まさか、このような偶然が重なろうとは……」
ルドの報告を聞き終えた大神官は手を額に当て、小さく首を横に振った。
神殿のゴーレムは先代転生者、永遠の賢者が伝えたとされるプログラムの概念によって組まれた魔術式で行動をあらかじめ指示している。
その術式の不備が予想外の事態を招いた事は大きなショックであったが、術式を組んだ大神官以上に動揺した者がいた。
「まさか、オレがゴーレム用の扉を開けたせいで……」
「いえ、ロッサさんの操作に問題はありませんでした」
「うむ、これは不幸な偶然が重なった事故としか言えぬな」
「試験用のロックゴーレムと迎撃用のアダマンゴーレムが奥で入れ替わるなんて、普通は予見出来ないでしょう」
「それでも、ボウズを危険な目に遭わせたのは事実だ」
「だからこそ、再発を防止するための術式変更は急務。この件は神殿で預かろう」
「かしこまりました。こちらも闘技場の運用方法を確認しておきましょう」
人的被害が無かった事もあり結果的にロッサはお咎めなしとなったが、それでも納得が出来ない様子で首を横に振る。
そんなロッサをフォローするように大神官とルドはそれぞれの再発防止策を出し合い、会議は一応の幕引きを迎えた。
部屋中に張り詰めていた緊張の空気が解け、大神官は改めて報告書に目を通す。
「犠牲者が出なかったのは幸いだが、ヒドゥンと言う少年もただ者では無いな」
「なんだって!? 何でボウズが……」
「あの硬いアダマン鋼をコアごと斬った事になりますから」
「ボウズはカタナ……って言ってたか? あれがとんでもない剣なのは確かだぜ」
「果たして、あの剣の切れ味だけでアダマンゴーレムを斬れたでしょうか?」
「確かボウズの話では、旦那の剣を真似て練習してたらしいですぜ」
「聞けばヒドゥン君はケンノスケさんと知り合って1か月ほどとか?」
「へい、そう話してましたぜ」
「その1か月の間に達人の腕を真似出来る少年ですか……」
ひと通り読み終えてため息をついた大神官にロッサが理解出来ない表情を返し、ルドは神妙な面持ちと共に頷く。
それから矢継ぎ早に飛んで来たルドの質問に答えて来たロッサは、思わずルドの呟いた疑問を遮るように立ち上がった。
「ルドさんよぉ。今夜は旦那の、ケンノスケの話じゃありませんでしたか?」
「ええ、そうでしたね。話を戻しましょう」
「ルドはケンノスケをどう見る?」
「永遠の賢者様と同じく女神様に遣わされた者ではないかと」
「それなら神殿に参拝しようとするのも納得だ」
「こちらも同じ見解だ。秘密裏に神官が数名、接触を図るらしい」
険悪な空気を払おうと大神官が助け舟を出し、ルドは自らまとめた報告書を手に取って該当箇所に目を通す。
安堵の表情を浮かべて椅子に腰掛けたロッサが腕を組んで大きく頷き、大神官は天井に吊るした薄布越しに開封した封筒を手に取って見せた。
「我々に出来る事は?」
「誰が神官か“分からぬ”以上、余計な事を2人に漏らさぬだけでよい」
「かしこまりました、ロッサさんもですよ」
「へい、お任せくだせえ」
「くれぐれも頼みましたよ」
眉を顰めて聞き返したルドは、大神官の含み笑いに満足しながら立ち上がって恭しくお辞儀をした。
続くようにロッサも立ち上がり、奇妙な旅人を巡る会議は解散となった。
次回はヒドゥンの一人称に戻ります




