【ようやく】第21話:世直し姫【判明】
**火傷を装って周囲と距離を置こうとしたヒドゥン・エンカだが、
魔法で治せる事を知って目論見は失敗に終わった**
「もしかして少年の火傷は治せるのか?」
「あたしだって神官のはしくれ、見ただけでも傷の具合は分かるわよ」
心の壁が出来ないなら情報収集にシフト……って、青肌姐さんは神官なのか!?
ビキニアーマーなんて着ているから、全くの予想外だったぜ……
まだ名前を知らない青肌の種族はいかにも海の女神ナギの寵愛を受けていそうな見た目だし、それほど変な話でもないか?
「ふむ……少年の治療費を稼ぐのも手か」
「おいおい、なら何で冒険者になったんだよ?」
「この世の歪みを断ち切るためだ」
「オレにはちょいと難しいな…まあ、止めはしないぜ」
「でも何でボウヤまで、こんな難しい旅をしてるのさ?」
「俺は、先生の本懐を見届けたら心に決めた人にプロポーズするんです」
魔王の存在がどこまで知られているか分からない以上、迂闊な事は言えない。
でも嘘は言ってない、布の袋で作られた操り人形でしかないケンノスケの本懐は持ち主たる俺の本懐なのだから。
死亡フラグも立てた事だし、早く話題を逸らそう。
「そういえば道中で白いドレスを着たウサギみたいな耳の女性を見掛けたのだが、2人は何か心当たりは無いか?」
冒険者になったのは、魔王の根城を探すためだけじゃない
貴重な死亡フラグでもあり俺の身体を押さえ込んだウサ耳姫も冒険者を名乗った以上、何らかの手掛かりはあると踏んだからだ。
とりあえず魔王信者が冒険者に紛れ込めないのは理解したから、ウサ耳姫が問答無用で敵に回る確率は低い確信はある。
あとは素性とまではいかないが、せめて遭遇の傾向だけは把握しておきたい。
「ウサギの耳って、まさか世直し姫がボウヤの思い人なのかい!?」
「あの姫さんだけはやめときな、ボウズには荷が重すぎるぜ」
「いや、違いますって。先生も変なところで話題を変えないでくださいよ」
「むぅ……すまなかった」
茶番を仕込んでおいて正解だった、やはりウサ耳姫は“珍獣”らしいな……
これは俺が生前から持っている偏見だが女性は大きく分けると、既に相手がいる高嶺の花か制御出来る人が限られている珍獣の2種類に分けられる。
ロッサや青肌姐さんの反応を見る限り、ウサ耳姫は後者になるようだ。
身勝手な理由で死亡フラグに利用しているだけの俺としては、下手に応援されるよりは心が楽だけどさ。
それにしても変わった呼び名だな、もう少し情報を集めてみるか。
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「世直し姫? どこかの姫君なのか?」
「まさか、ここら辺りの通り名ってだけだ。ギルドにはルルーメ・ティーミルって名前で登録してるけど、誰も名前では呼ばないぜ」
「あの姫さんは、冒険者の中でもかなりの変わり者なのよ」
なるほど、ルルーメって名前なのか……
ただ青肌姐さん然り、冒険者は滅多に名前で呼び合うものでは無いらしいな。
覚える名前が少ないのは助かるからいいけどさ。
「ふむ……他の2人も合わせて、かなり奇抜な姿をしていたな」
「服はどうでもいいのよ、実力さえ見合えば目立ってナンボの商売だからね」
何となく納得した俺がケンノスケに相槌を打たせると、首を振った青肌姐さんが自分のビキニアーマーを指差した。
貝殻で胸を覆った、いかにも海の種族らしい意匠のビキニ。
もし姐さんに依頼したい時には立派な目印になる、一種の看板みたいなものか。
ちなみに魚少女よりは大きいけど、それでも膨らみは控え目だった……
って、どこを見てるんだ俺は!?
たぶん、帽子と遮光器越しでも慌てて目を逸らしたのがバレただろうな。
生前の免疫を考えればこんなものだ、だからこそケンノスケを作った訳だし。
「では、いったい何が変わり者なんだ?」
「普段の姿を見せないのよ」
「それはどういう……?」
「口で説明するより、実物を見る方が早いぜ」
青肌姐さんが少し不機嫌になった?
人の感情、特に女性の心は生前から興味が無かったから、さっぱり分からん。
そんな事より情報収集と思った矢先、ロッサが受付側の入口に親指を向けた。
釣られるように向けた俺の視線の先には、黒いローブを着た黒髪ネコ耳メカクレ少年の姿があった。
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メカクレ少年はそのままカウンターに向かい、何やら話しながら銀貨を出した。
随分と事務的に見えるけど、どういう事なんだ?
「いったい彼がどうしたんだ?」
「本人に聞いた方が手っ取り早いぜ」
言うが早いか、ロッサはメカクレ少年に向かって行った。
「よう、猫坊主。姫さんのお使いご苦労さんだな、こっちで1杯飲んでけよ」
「いえ、ぼくは支払う側ですので」
「こっちの旦那も奢る側なんだ。酒場にいる冒険者全員が飲む決まりだろ?」
「それなら断れないですね、アルコール以外でお願いします」
「よし分かった、こっちに来てくれ」
一歩間違えばアルハラも同然なのに、さすがはギルド長の懐刀……
ややあって、メカクレ少年は俺の向かいに座る事となった。
メカクレ少年は15歳くらいだろうか?
享年を考えれば俺の方が年上だけど推定13歳のこの身体なら年下、ここは少年らしく振る舞うとしますか。
「俺はヒドゥン・エンカ、こっちは先生の……」
「ケンノスケだ、よろしくな」
「ぼくはルルーメ・ティーミルの使用人をしているフィース・ロッドと言います、先日はルルーメがお世話になりました」
主を呼び捨て? まるで生前のビジネスマナーみたいだ。
ギルドの冒険者がいい顔しないのは、使用人を寄越すからなのか?
でもフィースは死亡フラグの重要な手がかり、慎重に情報を聞き出さないと。
「もしかして知り合いなのか?」
「山賊のアジトでルルーメ達に助太刀してもらいましたから」
「へぇ……そんな事があったのかい」
「それでルルーメより、報酬の分け前を渡すよう言付かっています」
「あれは俺が勝手にした事、気遣いは無用に……」
「旦那。ボウズの火傷を治すんだろ? ここは受け取っておきな」
「うむ……では遠慮なく頂戴しよう」
山賊のアジトに乗り込んだ事は話していないし、ロッサが不思議に思うのも仕方ない。
経緯を話した流れでフィースが銀貨と銅貨を数枚渡して来たので、ロッサを巻き込んだ茶番を演じながらもちゃっかり受け取っておいた。
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木製のコップを手にしたロッサがカウンターから戻り、フィースの前に置いた。
「ミルクだ。これならネコ族のお前さんでも飲めるだろ?」
「ええ、ありがとうございます」
「ネコ族……?」
2人の会話を何気なく聞いていた俺は、ケンノスケの操作を忘れて自分の口から疑問を漏らしてしまった。
安直な種族名だけどここは異世界だし、山賊のアジトにはエルフもいた。
定番の種族の他にどんな種族がいるのか、知っておく必要もありそうだ。
どう話を切り出すか考えていたら、またしてもロッサが助け舟を出してくれた。
「あ~……旦那とボウズは山奥にいたんで町の事情を知らないんだ」
「気にしてませんよ。ぼくは大きく分けて獣人、その中のネコ族に当たります」
「それで世直し姫は同じ獣人のウサギ族ね」
「でも獣人は月の女神サヤ様が創られましたから、みんな仲間ですよ」
「女神様に!?」
交互に飛んで来たフィースと青肌姐さんの説明を聞いていた俺は、またもケンノスケの操作を忘れて声を上げてしまった。
だがよくある話なのだろうか、青肌姐さんが慣れた様子で話を続けてくれた。
「そこまで変な話でもないよ。あたし達海辿族も、海の女神ナギ様が創られたのが始まりなんだから」
「そう言えば、ルルーメ殿の仲間にもいたな。随分と個性的な格好をしていたが」
「彼女はポーラ・ネフです。海辿族は肌を見せる服装を好みますから」
「あたし達海辿族の肌は攻撃を滑らせて受け流す潤滑膜に覆われてるからね、鎧を着込むよりは余程安心なのさ」
「ふむ、そういう事だったのか……」
青肌姐さんが微かな光沢に包まれた腕を見せてくれたが、孤独な死出の旅に出る俺には無用な情報なのでケンノスケで適当に相槌を打って置いた。
魚少女ことポーラや青肌姐さんは海辿族っていうらしく、生前の知識に照らすと人魚や半魚人が近いのか?
潤滑膜なんて個性的な能力もあるし耳のヒレ以外に目立つ魚要素も見当たらないから、似て非なるものと言う認識を強く持った方がよさそうだけど。
「では、もうひとりの羽の生えた女性は?」
「ミア・ソコーシャの事ですね、彼女はフェザリー族です」
「もしや、そのフェザリー族も女神に?」
「はい、太陽の女神セキ様が創られたと言われています」
少々強引だが、これで鳥姉さんの情報も引き出せた。
ニュアンス的に羽と妖精の組み合わせだろうか?
なるほど、三柱の女神それぞれで自身の貴重な信者を創った訳ね。
とはいえ趣味もネーミングセンスもバラバラ、さすがは多神教の世界だよ。
肝心のウサ耳姫はフィースのガードが固いし、情報収集は難しそうだ。
個人的には遭遇しない手段を模索したかったけど、まずは及第点。
今は勝利の美酒に酔いしれよう……身体は未成年だから実際には飲まないよ。




