【これも】第20話:狭まる選択肢【女神の采配】
**冒険者登録を終えたヒドゥン・エンカは、
先代転生者が永遠の賢者と呼ばれている事を知った**
冒険者になる……
まるで物語の登場人物になったような興奮に俺が浸っていると、ロッサがケンノスケに話し掛けて来た。
「夕飯、まだなんだろ? ギルドには酒場もあるんだ、案内するぜ」
「ロッサさん、羽目は外さないようにしてくださいね」
「わかってますぜ、ルドさん」
難しい話がひと段落したら酒場へ、だけなら珍しくも無い話だろう。
だが、ギルド長のルドが一枚噛んでいるなら話は別。
迂闊な深入りは危険だし、ここは用意していた断りを返そう。
「せっかくの誘いはありがたいが、生憎俺はこんな身体でな」
「そうか……でも、ボウズに食わせてやらないといかんだろ?」
しまった!……顔は隠れて“美”は無くとも、俺の身体は少年だった。
荒くれ者の集まりだとばかり思っていたけど、さすがは神殿が運営するギルド。
ここは別の作戦を考えるしか無いか……
知力10万の脳みそをどうにかフル回転させた結果、俺はケンノスケを操作して懐からゴブリンシャーマンの杖を取り出した。
「だが路銀は底をつき、今はこれしか持っていないありさまだ」
「こ、これは!?」
「ケンノスケさん、いったいこれをどうやって?」
「この町に来る途中、ゴブリンどもに滅ぼされた村を見付けたのでな」
「分かりました、少々お待ちください」
思った通りギルド長のルドと受付のレセさんが食い付いた。
やはりギルドはゴブリンどもの脅威を把握していたか。
事情を知る人に見せれば情報料にはなるだろうと踏み、空洞になっているケンノスケの胴に保管しておいたのが功を奏したようだ。
ここで杖の出どころを明かせば確認の手配が必要になり、俺の飯なぞ有耶無耶になってくれるはずだ。
「まさか、旦那が倒したのかい!?」
「もちろん先生の剣で一閃! かっこよかったな~」
「こら、少年。この力は世の歪みを正すため、誰かに自慢するものではない」
「おっといけね」
ロッサの質問にドヤ顔で答えるお調子者の俺と、そんな俺を窘めるケンノスケの茶番も忘れない。
でも嘘は言っていない、魔王というこの異世界の歪みを討つためにケンノスケを作ったのは事実だから。
そんな茶番を演じている間にレセさんが、銅貨を盛ったトレーを持って来た。
よく見ると銀貨も混じっているし、情報量にしては少々多い気が……?
「お待たせしましたケンノスケさん、こちらをお受け取りください」
「あの村のゴブリンシャーマンにはAランクの討伐依頼を出していました。報酬はお出ししますので、こちらは討伐の証拠として受け取りますね」
「俺は構わないが、冒険者に登録する前の話なのにいいのか?」
「ええ、冒険者しか討伐してはいけないルールなんてありませんから」
「なら、遠慮なくいただこう」
やっぱり“何かオレ、やっちゃいました?”系の展開になったか。
だがどんな高評価も肩代わりさせるために作ったのがケンノスケだし、この程度ならば問題は無さそうだ。
せっかく金も入った事だし、この世界の食事を知っておくのも悪くないな。
「おめでとさん、歓迎祝いにちょとした“しきたり”を教えとくぜ」
「ふむ、聞いておこう」
「難しい話じゃねえ。高ランク依頼の報酬を受け取った時は、ギルドの酒場にいる全員に1杯奢るってだけだ」
「なるほど、上手い事を考えたものだ。案内がてら付き合ってくれるか?」
「行ってください、ロッサさん。きちんと2人を案内するのですよ」
「分かったぜ、ルド。それじゃ、酒場にご案内だ!」
ギルド側にも思惑があるのだろうが、話はトントン拍子に進んだ。
下手に嫉妬を買わない慣習なら、利用しておくのが得策。
魔王の根城が分からない今、波風を立てないのが賢い選択だろう。
人が集まるなら情報も集まる、せいぜい利用させてもらうぜ。
▼
響く喧噪、魔法の照明、酒のにおいに温かな料理の香り……
よく見ると、思い思いの装備を身に付けた冒険者がパーティ単位で丸テーブルを囲んで談笑している、
__俺は今、異世界の酒場に立っている。
受付側から入ったから第一印象こそ想像と少し違ったけど、それでも想像通りの酒場の風景が目の前に広がっていた。
しばらくして喧騒は収まり、ケンノスケと俺に注目が集まった。
これは情報を集めるチャンス!
とはいえ生前は宅飲みばかりだったから、取っ掛かりすら掴めない。
ここはしばらく“専門家”に任せるとしよう。
「諸君、聞いてくれ! 新しい仲間を紹介する!」
「お? そいつら新入りかい?」
「ロッサの旦那が直々に案内するなんて珍しいね~」
「聞いて驚け、ただの新人じゃないぞ。ここに来る前にゴブリンシャーマンを討伐したんだからな」
「何だって!? いや、ロッサさんが嘘をつくはずないか……」
「それじゃ、もしかして」
「ああ、新入りのケンノスケからお前らに1杯の奢りだ!」
「「よっしゃー!」」
ちょっと話すだけで空気がひとつになるなんて、さすがはギルド長の用心棒。
どれだけステータスが高くても生前の記憶がある限り、俺には真似できない芸当だよ。
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そこからは流れ通りだ。
半ば強引に座らされた俺のテーブルの両隣にテーブルが寄せられ、ちょっとした宴会が始まった。
ちなみにケンノスケは俺の後ろに立たせている。
熱のこもったロッサの説明を冒険者の全員が聞き入り、失った身体を装甲に置き換えたというケンノスケの設定はあっさりと受け入れられた。
「おっ、料理が来たぜ。ボウズは旦那の分も食うんだぞ」
「は、はぁ……」
さも当然にロッサが隣に座り、俺の目の前にも串焼きの肉やらチーズやら揚げた芋など色とりどりの料理が木皿に山と盛られて運ばれて来た。
脳内でどんな同情が出来たのか知らんけど、小食の俺に無茶振りすんなよ……
いざとなったらケンノスケに割って入らせればいいと判断した俺は、とりあえず木皿に盛られた何かの肉の串焼きを1本手に取って口に運んだ。
「これは……!?」
醤油!?
噛み千切った肉はそのまま、思わず出そうになった言葉だけを飲み込む。
脂の少なさや肉質の固さから考えて野生動物のものだろうが、噛み締めるたびに生前の慣れ親しんだ風味が口いっぱいに広がって妙な郷愁にとらわれた。
「どうした、ボウズ? ボーッとして?」
「い、いえ。予想外の味に驚いて……でも、美味しいですよ」
「そいつはよかったぜ。こいつはショーユと言ってな、永遠の賢者様が耕した畑で育てた豆から作ったソースのひとつだ」
「へ、へぇ……他にはどんなものを作ったんですか?」
「料理はオレの専門外だけど、マヨネーズなんかは有名だな」
やっぱり出た……定番のマヨネーズ。
卵と酢、油と塩さえあれば作れるから、これらをそろえられる異世界なら生前の常識がある程度は通用する指標にもなる。
しかもこれで、俺の固有スキル【暖衣飽食】で作れる料理に和食まで入っている理由も分かったぜ。
女神様方からすれば、畑に種を蒔くくらいなら……いや、ここは自重しよう。
しかしこの異世界転生はゲームみたいなやり込み要素があるように見えて、結局出来る事は何も無いな。
魔王討伐を決意しなかったら、ハーレム作りしか出来なくなっていた……
「ねえ、ボウヤ。帽子を被ったままだと、食べにくくないかい?」
そんな事を考えていたら、いつの間にか向かいに座っていたビキニアーマー姿の女性に声を掛けられた。
肌が青いから、砦跡で見掛けた魚少女と同じ種族なのだろうか?
顔は隠しても声はそのまま、やはり女性に興味を持たれるのは必然なようだ。
ならばここは、某カードゲームのトラップカードみたいに用意していた切り札の発動で切り抜ける!
「その、俺……村を焼け出されて顔に火傷があって……」
帽子を取った瞬間、俺に向けられていた視線は自然と逸れた。
それもそのはず。目の周りは黒く焼け爛れた火傷痕に覆われた上に白い遮光器、しかも頭には包帯まで巻いていたのだから。
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一瞬で周囲に心の壁が出来たのを確認し、俺は帽子を被り直した。
こんにゃく糊を塗った黒い布を利用して目の周りに火傷の痕があるように見せ、頭には髪を押しつぶすように包帯で雑に巻いただけだが効果は覿面のようだ。
髪の上から包帯を巻いただけでも火傷を仄めかせば、あとは勝手に脳内で悲劇を作ってくれる。
どの世界でも髪が人権なのは共通するらしい。
顔は綺麗で服も選び放題、その上この異世界の転生者は男だと確定しているから最初は女装をしようかとも考えた。
だが魔王側を誤魔化せるだけで、“目立たない”という本来の目的を果たせない。
それならいっそ、人間側から距離を置かれる人間を演じればいい。
……死出の旅路はひとりの方が気楽だ。
「そこまでの火傷となると、回復魔法を何度使えばいいんだ?」
「ちょっと高いけど、お布施を積めば高位の回復魔法ですぐ治るわよ」
って、治せるんかい。
ロッサと青肌姉さんの会話を聞いて、心の中でため息をついた。
さすがはファンタジーな異世界、俺の小細工程度では壁を作れなかったよ。




