【腰巾着の】第18話:予期せぬピンチ【矜持】
**冒険者ギルドの試験に臨んだヒドゥン・エンカは、
ケンノスケのガトリングキャノンでロックゴーレムを破壊した**
「スクロールを持ち帰るのが、合格の条件だったな?」
「勝って驕らず、か……オッケー、文句なしの合格だ」
闘技場の奥から戻ったケンノスケから試験用のスクロールを受け取った試験官を務める巨漢は、何もかも観念したような複雑な笑顔を返して来た。
「後は向こうの扉から受け付けに行ってくれ、最後の手続きをする」
「その前に、少年もひとりで試験を受けさせてくれ」
「なんだって!? いったい、どういうつもりだ?」
ホント、どういうつもりだろうな?
ケンノスケを操作している俺自身も同感だよ。
だがこれも重要な茶番だ。
「これ以上、少年を危険に巻き込みたくない」
「何を言ってるんですか、先生。俺はどこまでも着いて行きますよ!」
「なあ、旦那。同じ試験にボウズが合格したら、一緒にいてやってくれねえか?」
「ふむ……合格出来たらいいだろう」
巨漢が茶番に食い付いてくれたおかげで、俺も試験を受ける流れになった。
単独で試験に合格する事で、俺だけがケンノスケの相棒だと強く印象付ける。
この試験なら俺が戦う必要は無いから、安全に自己PR出来る算段だ。
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「結界を張った。これでボウズの試験が終わるまで、誰も入れないぞ」
「ほぅ、見事なものだな」
「本来は外部からの妨害防止用だがな、こんな使い方は初めてだぜ」
「手間を掛ける」
「構わないさ……信じてるんだろ? ボウズの実力をよ」
スクロールを再配置して準備を終えた闘技場に結界を張り終えた巨漢がこっそり小声でケンノスケに話し掛けて来た。
配慮のつもりだろうけど、丸聞こえなんだよな~……
それだけの信頼を“ケンノスケ”が得たと考えれば、目論見通りと言えるか。
「準備は終わった、始めてくれ」
「分かりました。見ててくださいね、先生」
闘技場に新たなゴーレムが入るのを合図に試験が始まり、俺は身を低くしながら慎重に走り出した。
とはいえゴーレムの動きは分析済みだし、距離を取って走るだけでスクロールを置いた台に行き着いた。
実に簡単だったが入口に帰るまでが試験、さっさと戻って合格をもらおう。
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「どうです、先生? これで俺も先生と……」
「あぶない、ボウズ!」
「へ?……おわぁっ!?」
闘技場の入口まで戻った俺は、巨漢の大声に反応して大きく後ろに跳んだ。
『ゴァァッ!』
直後にゴーレムが両手を振り下ろし、大きな土煙が舞い上がった。
常人ならミンチになる攻撃、色んな意味で危なかったぜ……
「どうなってるんだ!? 何でゴーレムがまだ動いてるんだよ!」
「結界は解除出来ないのか?」
「ダメだ、どういう訳か解除出来ねえ!」
「他にこの結界に詳しい者は?」
「もう助けは呼んでいる! すまないボウズ、もう少しだけ逃げてくれ!」
結界操作用のパネルをひと通り操作した巨漢が力無く項垂れる。
操作パネルから応援を要請する仕組みとか興味が尽きないが、端から見れば俺は相当なピンチらしい。
ちょうどいい、このまま擬装刀刹那の検証でもしてみるか。
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『ゴァァッ!』
ゴーレムが振り下ろして来た右手に呼吸を合わせた俺は鍔の無い刀、刹那を黒い布製の鞘から抜いた。
キィンッ!
辺りに金属同士がぶつかるような乾いた音が響く。
俺の抜いた刀がゴーレムの右手に当たり、僅かに狙いを逸らして直撃を避けた。
……ように端からは見えるだろう。
鉄粉を詰めた袋の周りを鉄粉入りのこんにゃく糊で固めた刀モドキは、俺の想定通りの働きをしてくれている。
その後も数回キンキンキンと金属音を響かせ、俺は辛うじてゴーレムの攻撃から逃れる演技を続けた。
今にして思えば刹那の刀身の下半分にカルシウムの粉末を混ぜたこんにゃく糊を塗って研磨すれば、切断糸夜天光と同じ切れ味にも出来た。
だが俺は、刹那には切れ味を持たせずに夜天光を1本張って代用している。
しかも夜天光は常に刹那の側面に張り、指の僅かな加減で刀身に糸を乗せないと完全に切れ味が無くなるよう工夫しておいた、
こんな面倒な仕組みにした理由は簡単だ。
いくら俺でも油断はするし、隙を突かれて盗まれるのは刹那しかありえない。
つまり盗まれても脅威にならない、フェイルセーフティの考え方だ。
『ゴァァッ!』
キィンッ!
またしてもゴーレムが腕を振り下ろし、俺は器用に刹那で弾き返す。
しかしゴーレムも懲りないな~。
「……まず結界を解除……」
「……急いでくれ! ボウズを……」
ケンノスケを通して闘技場の外の声が聞こえて来る。
どうやら応援も来たようだし、そろそろ攻撃もしてみるか。
▼
『ゴァァッ!』
「っと……動きは見切ってるぜ」
ゴーレムの大きく振り下ろす腕に呼吸を合わせて後ろに跳んだ俺は、鞘に納めた刹那を前に突き出しながら小さく屈伸を繰り返す。
擬装刀刹那を完成させた時から、そして布人形のケンノスケの腰巾着を演じると決めた後も刀を振る訓練は欠かさなかった。
参考にしたのは動画の知識と時代劇の殺陣だが、それでも器用さ10兆の身体で調整と研鑚と試行錯誤を重ねて来た。
その成果が今、試される……!
全力を出せばゴーレムを細切れにするのも容易いが、転生者だとバレないために細心の注意が必要となる。
ケンノスケより弱く目立たず、その上で後ろを歩くに足る実力を示す……
とっくに狙いも呼吸も定まっている俺は、それでも小さく屈伸を繰り返しながら最高のタイミングを待ち続けた。
『ゴァァッ!』
(今だ!)
狙った瞬間はすぐに来た。
ゴーレムが攻撃を繰り出す直前、この一瞬に踏み込んで刹那を抜けば俺の攻撃を周囲に隠せる。
「でぃやー!」
緊張と恐怖で裏返った声を演じながら走った俺は、右腕を振り上げたゴーレムの腹から首に向けて刹那を抜いた。
表面を撫でる確かな手ごたえを感じ、あとは助けが来るまで逃げるだけと考えた直後にすれ違って互いに背を向ける格好となったゴーレムに異変が起きた。
『グォォォ……ッ!?』
「これはどういう事だ!?」
低い唸り声と共にゴーレムが膝をつき、入口で受付をしていた優男が駆け寄る。
呼ばれた応援はこの人だったのか……やはり、ただ者では無かったようだ。
「ボウズ、大丈夫だったか!」
「え、ええ……何とか」
「そいつはよかった。ギルド長、早くゴーレムの停止を」
俺の方には巨漢が駆け付け、幅広の剣を構えながら優男に声を掛けた。
あの優男がギルド長!?
初手でトップが出て来るなんて想定外だが、不審に思われる事は無いだろう。
だが、そんな甘い憶測は直後に打ち砕かれた……
「どうやら、その必要は無さそうですね」
「なっ!? そいつはいったい、どういう事です?」
「コアが切断されています。これは、キミが?」
「えー……ッと」
しばらくゴーレムを確認していたギルド長が俺に近付き、2枚に切れた粘土板を見せて来た。
しまったーっ!
ギルド長の言葉を信じるなら、泣き別れした粘土板がゴーレムのコアと言う事になる。
そしてどうやら、俺が刹那で放った居合モドキは見事にコアを両断したようだ。
しかも滑らかな切り口をしているから、偶然割れたなんて言い訳も通じない。
この予期せぬピンチをどうやって切り抜けるか考えていると、視界の端にケンノスケの姿が映った。
とりあえず疑惑の目を逸らそう、ケンノスケはこんな時のために作ったんだし。
「さすがは先生の刀、見事な切れ味でしたよ!」
「隠れて剣の修行をしているのは知っていたからな」
「旦那もいいとこあるじゃねえですかい」
俺の操作だと気付いていない巨漢がケンノスケの肩に手を乗せ、なんとか嘘をでっち上げる事が出来たようだ。
「ふむ……この話はあとにしましょう、まずは2人の登録手続きを」
「俺も合格でいいんですか!?」
「もちろんだ。旦那も忘れちゃいけませんぜ?」
「約束は違えない、これまで通りででもいいのなら来るがいい」
何やら考え事をしていたギルド長が扉に向かい、俺はダメ押しの茶番を演じる。
今はこれで誤魔化し切れたと信じるしかないな……




