【実に楽な】第17話:冒険者ギルド【試験だった】
**難無くハーデントレスの町に入ったヒドゥン・エンカは
そのまま冒険者ギルドを抱える神殿を目指した**
神殿と一体化した冒険者ギルドの鳥居をくぐった俺達は、光の壁みたいなもので進路を塞がれた。
よく見ると、壁には文字が書かれている……
【冒険者登録はこちらへ】
便利だが、どんな仕掛けだ? やはり魔法か?
何にせよ波風を立てる必要のない俺は、そのまま案内に従った。
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案内に従った先には小さな石造りの建物があり、入ると木組みの格子に遮られた受付を正面に置いて左右に扉があるだけのシンプルな間取りだった。
「邪魔をするぞ」
「ようこそ冒険者ギルドへ、キミ達が登録希望者だね?」
少し横柄な口調でケンノスケをしゃべらせてみたが、受付に座っている優男風の青年は眉ひとつ動かさずに聞き返して来た。
「ああ、具体的には何をすればいい?」
「ちょっと先生、いきなり失礼ですよ」
引き続きケンノスケは横柄なキャラにして、俺が宥める役に徹する。
これで主導権が俺に無い事は印象付けられたはずだ。
「構わないよ、キミ達には試験を受けてもらう」
「なるほど、試験に合格すれば冒険者になれるわけだな」
「そのとおりだ、まずはあの扉から闘技場に行ってもらえるかな?」
そんな茶番に気付く由も無い優男は手短に応対し、向かって右の扉を指差した。
「分かった、案内に感謝する」
「どういたしまして、ご武運を」
ケンノスケを操作して感謝を伝えた俺は案内された扉に向かい、優男は軽く手を振って見送ってくれた。
茶番に茶番を重ねるのは疲れるな……
最初に反響定位で構造を確認したが、試験はここに入った時から始まっていた。
不合格ならおそらく左の扉から外に追い出されていただろう。
と言っても基準は単純明快、常識的なやり取りが出来れば合格ってだけだ。
生前に苦労した落とす前提の面接に比べれば、実に楽な試験だったよ。
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扉の先は石の壁に囲まれた広い空間、案内通り闘技場につながっていた。
闘技場と名付けられているが観客席など無く、俺達が入ったのも選手の入場口のようなところだ。
どういう間取りなのか理解に苦しむが、合格するまで立ち入る場所を制限したい意図は理解出来る。
そんな事を考えながら俺が周囲を見回していると、入場口を出た辺りのところに立っていた筋骨隆々の巨漢が声を掛けて来た。
「よく来たな、さっそく試験を受けてもらうぜ」
「分かった、何をすればいい?」
巨漢は手短な説明と共に闘技場の奥へと親指を向け、俺はケンノスケを操作して試験のルールを聞き出す。
これも試験の範疇なのかは知らないが、ルールがあるなら把握するに越した事は無い。
「簡単だ、ロックゴーレムから逃げて奥にあるスクロールを持ち帰るだけだ」
「逃げる? 倒すのではないのか?」
「冒険者の評価は生きて貴重な情報を持ち帰れるか、蛮勇は早死にするぞ」
巨漢が親指を向けた先に目を向けると、巨漢よりひと回り大きいヒト型の岩塊が堂々と闘技場を歩き回っていた。
試しにケンノスケを通して疑問を返すと、至極納得の行く答えが帰って来る。
神殿が後ろ盾になる以上、従事者に求める素養も生前のイメージと違う訳か。
「目的は理解したが、別に倒してしまっても構わんのだろう?」
「構わんが、大ケガでもしたら即不合格だからな」
とはいえ、せっかく魔王の喉首に食らいつくために作ったケンノスケなんだから定番のセリフを使わないのは礼儀に反するだろ?
だが巨漢も手慣れたもので、特に驚きもせずあっさりと受け流されてしまった。
やはり血気盛んな輩も多いからか、この程度はよくある話なのだろう。
「そうか。では、遠慮なくいくぞ」
「な!? そんなもの、どこから出しやがった!?」
ここでめげないのが我らの先生ケンノスケ。懐から8門の銃口を持つ巨大なガトリングキャノンを取り出すと、今度こそ巨漢は驚きの声を上げてくれた。
ケンノスケの背丈と同じくらいの巨大な銃器が懐から出てくれば、驚かない方がどうかしている。
このガトリングキャノンも当然、鉄粉を混ぜたこんにゃく糊で補強した布の袋で作ったハリボテだ。
普段は空洞になっているケンノスケの胴体の中に折り畳んで収納し、取り出すと同時に空気を入れてガトリングキャノンの形状に膨らませる。
端から見ればアイテムボックスを使用したように見え、よりケンノスケを転生者らしく見せる仕掛けだ。
巨漢の様子を見る限り、この世界には銃身を回転させて撃つガトリング砲に分類される銃火器は無いか、少なくとも試験官の巨漢は知らないようだ。
よくある勘違いなのだが、ガトリング砲は全部の銃口から同時に弾を撃つのではなく、薬室とつながった1本の銃身からのみ弾丸を撃ち出す。
円形に並べた銃身を高速回転させる事で、銃身を交代させながら弾丸を発射する仕組みとなっている。
この構造最大のメリットは、連射砲には避けられない高熱化する銃身をこまめな交代と遠心力で効率よく冷却出来る事に尽きる。
ここまでが生前の俺が持つガトリング砲の知識だが、ケンノスケに持たせたガトリングキャノンは本物と違う部分が多々存在する。
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布バズーカをケンノスケの支柱に使ってしまった俺は、新たな重火砲を補充する必要に迫られた。
同じバズーカを作るのも芸がないと思った俺はケンノスケが使う事も考え、より強力な銃を作る事にした。
そこで俺の頭に浮かんだのが、生前の現代戦において最大級の面制圧機能を誇る機関砲だった。
材料にしたのはおなじみの布とこんにゃく糊、知識はネット動画やアニメの設定くらいだが、試行錯誤を重ねた末にどうにかそれらしい形となった。
弾丸代わりの魔力弾は各銃身の根元に魔法陣を描いて撃ち出せるようにしたが、同時に発射するのでは無く本物と同様のタイミングで撃ち出すよう調整した。
ここまで本物に似せているが、どうしても似せられなかったものが2つある。
それは硝煙と薬莢だ。
魔力弾を撃つのに火薬は必要ないから、いくら撃っても硝煙反応が残らない。
ネットで検索した知識程度だが、黒色火薬なら材料次第で自作も出来るけど無煙火薬はさすがにお手上げ。
材料も製法もまるで頭に入って来なかったから、どう足掻いても思い出せない。
そもそも魔力があるし、どのみち擬装しか使い道が無いから不要と判断した。
もうひとつの薬莢も、魔力弾を撃ち出す以上は実包なんて必要ない。
擬装用に作るとしても大量生産出来る鋳造設備が必要になるから、今のままでは絶対に不可能だ。
もし先代転生者が現代兵器を広めていれば、これが偽物の銃火器だと気付く者も現れるだろう。
どうせ出来ないのなら、せいぜい俺の知的好奇心を満たすまで。
ひとまず薀蓄はここまで、まずは実践と行こう。
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「では、いくぞ」
反響定位を使って闘技場を歩き回るゴーレムの位置と距離を確認した俺は、ガトリングキャノンの上に突き出した取っ手をケンノスケの左手に握らせる。
鉄粉を混ぜたこんにゃく糊を塗って補強しているとはいえ布製のハリボテだから軽々と持ち上がるが、端から見れば相当な怪力に見えるだろう。
現に試験官の巨漢は、驚きのあまり言葉を失っている。
想定内の反応に満足した俺は、銃身の根元に隠したタービンの羽根に風を送って銃身を回転させながら魔法陣に魔力を流し込んだ。
ブーンッ! ドガガガガッ!
『……ッ!?』
派手な回転音と発砲音が周囲に響き、闘技場の中央で待ち構えていたゴーレムが瞬時に粉々になる。
ガトリングキャノンは布製なので、回転や発砲の音は空洞にした回転軸の内側に張った糸を振動させて再現している。
素人の作ったガトリングキャノンの音が正しいかは知らんが、結果だけは素人の想像と願望通りとなった。
そもそも魔王配下の大群を蹴散らすために作った武器だ、たかが石人形を相手に苦戦やドラマが生まれるようでは先が思いやられる。
粉々になったゴーレムを確認した俺はガトリングキャノンの空気を抜いてケンノスケの懐に戻し、そのままスクロールを置いている台に向かわせた。




