【Viva!】第16話:ハーデントレスの町【ナーロッパ】
**ウサ耳姫たちの山賊討伐を見届けたヒドゥン・エンカは、
自らも山賊のアジトを後にした**
「やっと町ですね、先生。さっそく入りましょう」
「待つんだ、少年。まずは町を出入りする人を観察するんだ」
ここは遥か遠くに石を積んだ外壁が見える街道の外れ。
俺は自作した操り人形のケンノスケとの茶番を演じながら反響定位を使い、石を積んだ外壁に囲まれた町の様子を観察している。
山賊どもがアジトに使っていた砦跡から逃げ出して5日は経っただろうか?
実は騎士団がいなくなった頃合いを見計らい、一度砦跡に戻っていた。
だが制圧した騎士団が徹底的に“調査”したのか、目ぼしい情報は何も無かった。
礼拝室だけでも残っていれば魔王のいる方角くらいは分かったのだが、どうやらどこの異世界でも“唯一神”は嫌われ者らしい。
最初の手掛かりは空振りに終わり、残る手掛かりとなったウサ耳姫たちの消えた方角を辿っていたら外壁に囲まれた町を見付けて今に至る訳だ。
途中で新たな魔王信者のアジトでも見付からないかとこまめに反響定位を使って移動を続けたが、結局何も見付からなかった
山奥の村を占拠していたゴブリンどもや砦跡を根城にしていた山賊団が例外的な脅威になっていただけなのか、ここら辺の治安は至って良好なようだ。
もしかして、騎士団の仕事と手柄を横取りする形になってしまったのだろうか?
過ぎた事はしょうがない、今は町に入る方法を考えないと。
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とはいえ、どうしたものか?
数日かけて行商や冒険者を観察したが、町に入るには通行証が必要らしい。
もちろん俺は、通行証なんて持っていない。
そもそも、どこで手に入れるんだ?
あの町で手に入るとしても、入る手段が無ければどうにもならん。
どんな制度かは不明だが、少なくとも発行には手数料も掛かるはずだ。
でもこの異世界の金なんて持っていないし、服でも売るか?
そんな事を考えていると、突然俺の背後にただならぬ気配が現れた。
「いっ!?」
振り返ると見慣れた白い扉が静かに佇んでいる。
何で【暖衣飽食】が!? まさか自動発動したのか!?
人に見られるのは危険だと判断した俺は、急いでケンノスケと中に入った。
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【暖衣飽食】の扉を閉めた俺はそのまま玄関でひと息つき、部屋の隅まで敷いた反物の上を歩かせてケンノスケを移動させた。
普段は空気を抜いてから【暖衣飽食】に入れるケンノスケだが、いざという時のためにそのまま中に入れるよう作っておいて正解だったぜ……
改めて【暖衣飽食】が発動した原因を探ろうとした俺は、背を向けたままの扉の内側が光っている事に気付いた。
「これはいったい?」
振り向いてよく見ると、扉の内側に貼り付いていた金属板が光っているようだ。
三柱の女神が作ったスキルなら危険は無いと判断した俺が金属板を手に取ると、やはり町を出入りする人達が持っていたものと同じ通行証だった。
だが何故、今になって出て来たんだ?
最初に発動した日から毎日、【暖衣飽食】の内部の確認は怠らなかった。
器用さ10兆、他のステータスも運以外は10万あるこの身体で確認したのに、今日の今日まで発見出来なかった。
まさか、通行証が必要な町に近付くのがトリガーだったのか?
これからも突然【暖衣飽食】が自動発動する可能性がある事は、頭の片隅にでも入れておこう。
気を取り直して金属板を手に取ると、自動的にアイテムの説明が浮かんで来た。
【通行証】
どの町にも入れる三柱の女神から祝福を受けた通行証
世界を愛で満たしましょう!
……余計なお世話だ。
思わず心の中で突っ込んだ。
これがネット小説ならばご都合主義だと叩かれただろうが、そもそもこの身体は三柱の女神が信者を増やすために作ったもの。
ハーレムを作るための身体が町くらいスムーズに入れないと、それこそ話を引き延ばす類のご都合主義になる。
ハーレムを作るのは、少なくとも魔王と刺し違えた後だけどさ。
とりあえず通行証はケンノスケに持たせ、より転生者らしく見せる事にした。
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あっさり問題が解決した俺は、ケンノスケと町を目指して何事も無く到着した。
数日観察していて分かったが、あの町には人通りが少ない時間帯がある。
その時間を狙って到着したのだから、予想通り俺達以外に通行人はいなかった。
だからといって無防備な訳では無い。
町の入口にある大きな門にある詰所から、手足や胸を金属で補強した革鎧を身に付けた2人の兵士が出て来た。
治安を維持するのだから緊張感もあるが、それでも穏便に話し掛けて来る。
「ようこそ、ハーデントレスへ。通行証を確認しますね」
「ああ、これでいいか?」
予想通り通行証を求められたので、俺はケンノスケを操作して【暖衣飽食】から出した通行証を見せてやった。
「こ、これは!?」
しばらく通行証を確認した兵士が驚きの声を上げる。
「何かいけなかったか?」
とりあえず俺は、異世界ものの無自覚チート主人公の定番セリフで返した。
一度でいいから言ってみたかったんだよ、こういうセリフ!
実際に言ったのは、正確には声のような音を出したのはケンノスケだけどさ……
「いえ、とんでもございません」
「それと連れは村を焼け出されたのだが、俺が身元を保証する形でいいか?」
「は、はい! どうぞお通りください!」
異世界ものなぞ知らない兵士は想定通りのリアクションをしてくれたし、ケンノスケの腰巾着を演じる俺もスムーズに入れそうだ。
あとは冒険者になるだけだが、ここは兵士にもうひと働きしてもらおう。
「知っていたらでいいのだが、冒険者になるにはどうしたらいいか教えてくれ」
「それならギルドで手続きしてください、ここから壁沿いに行けます」
「感謝する」
「はい、お気を付けて」
さすがは女神様の通行証、おかげで目的地まで最短で移動できそうだ。
これ以上話していても怪しまれる可能性もあるので、俺はケンノスケを操作して足早に町へと入った。
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ハーデントレスの門を抜けた俺達の目の前には、典型的な異世界ものに出て来る中世と近世の建物が入り混じった街並みが広がっていた。
三柱の女神が地球を参考に創造した上に魔王やら先代転生者が入って来たんだ、地球と全く同じ歴史を歩んでいる方が不自然で異常事態だろう。
その証拠にハーデントレスには至るところに鳥居が建ち、振り返れば門の裏側も巨大な鳥居になっていた。
女神様の配慮か先代転生者の尽力なのかまでは知らないが、俺にとって居心地のいい町だと言えよう。
もう少し感傷に浸りたい気分になるが、まずは冒険者ギルドを探そう。
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「確か壁沿いだったな……」
人の目が無いのに自然と声が漏れる。
どれだけ【暖衣飽食】を駆使しても音声を記録する装置を作れない以上、聞いた言葉を復唱するしか手段が無い。
この先その手の魔法でも見付かれば記録も可能になるだろうが、今は優先順位が低い。
そんな事を考えているうちに、どうやら目的地らしい建物に到着した。
(なるほど、神殿か……)
今度は声に出さずに感心した。
周囲に人影が無いからと言って、どこで聞かれているかも分からないからな。
それはさておき、辿り着いた冒険者ギルドは雰囲気のある石造りの神殿だった。
入口は三柱の女神を筆頭に多くの神々のシンボルとなっている鳥居が一体化している、これなら魔王信者が冒険者に紛れる危険も少ない。
もしかして先代転生者の知恵か?
看板には確かに
【冒険者ギルド ハーデントレス支部】
と書かれている。
どうやら文字も言葉同様、この身体のデータベース的なところにあるのだろう。
言葉が通じて文字が読めるのなら、あとは考えるより行動あるのみ。
いざ、冒険者ギルドへ!




