【いざ尋常に】第15話:一騎討ち【勝負!】
**ウサ耳姫が山賊の注意を引き付けている間に、
鳥姉さんと魚少女が別行動していた幹部を仕留めた**
ドサッ! ドサッ!
程無くして胸を突かれたエルフ男と二つ折りになった司祭の死体が投げ込まれ、中庭で戦っていた山賊どもに戦慄が走る。
「なっ!? 2人をどうやって……そうか、それが狙いだったのかよ!」
「どうした? 来ないなら、こちらから行くぞ?」
手下の陰に隠れていた山賊の親玉が大声を上げ、ウサ耳姫はレイピアの切っ先を向けて挑発する。
「わかった、一騎討ちだ。誰も手を出すなよ」
「ふっ、いいだろう。旅の者も手出し無用に願う」
「委細承知! 真空閃!」
手のひらを向けて来た親玉に頷いたウサ耳姫がケンノスケに声を掛け、俺は了承がてらケンノスケに金色の断罪剣を振らせた。
「おわっ!?」「げぇっ!?」
左右奥の物陰に隠れていた山賊の構えていた弓が突然斬れ、2人同時に飛び出すように逃げ出した。
種明かしするまでも無く片方は俺が、もう片方はケンノスケの右腕から飛ばした切れ味鋭い切断糸の夜天光で弓を斬っただけだ。
だが端から見ればケンノスケが斬撃を飛ばしたように見えるので、充分な効果があっただろう。
「この決闘に割って入る者があれば、俺の剣の錆になると思え!」
「重ねて感謝する。では、いざ尋常に勝負!」
「ちっ、まあいい……来いよ!」
金色の断罪剣を構えて威嚇するケンノスケに周囲の空気が凍り付いたかのように静まり返り、ウサ耳姫と山賊の親玉は剣を構え直した。
取り巻きの死角から命を奪うウサ耳姫たちの手口を見抜いた親玉が一騎打ちだと騙して闇討ちを狙ったが、反響索敵を持つ俺の前には無意味だった訳だ。
かくして互いの得意分野を封じられた、真の一騎打ちが始まった。
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キンッ! キンッ! キンッ!
右手で柄を握って左手で刃の根元辺りを掴んだ山賊の親玉が小刻みに斬撃を繰り出し、ウサ耳姫は左手のレイピアで的確に捌き続ける。
「ハーフソードか……貴様、ただの山賊では無いな?」
「ただ者じゃないのはお互い様だろ!」
しばらく剣を捌いたウサ耳姫が呆れ気味に聞き返し、親玉は怒気を含んだ言葉を斬撃と共に返した。
ハーフソード、確か西洋剣術のひとつだったか?
両刃剣の刀身は鍔の近くにリカッソと言う刃の無い箇所があり、そのリカッソを掴んで長剣でも小回りの利く攻撃を繰り出す事が出来る。
生前の知識だが、この異世界でも同じ使い方をするらしい。
三柱の女神、魔王、先代転生者のいずれかがもたらした知識か、あるいは歴史の必然な収斂進化なのか。
何にせよ、この異世界には生前の知識が通じる箇所もあるようだ。
「おらぁっ!」
もっと続くかと思っていた攻防だが、親玉が柄を持った右手を離してリカッソを掴んだ左手だけで鍔をハンマーのように振り下ろした。
「なんのっ!」
「甘いぜ!……!?」
ウサ耳姫が左手のレイピアで打撃を受け流し、親玉は踏み込もうとした足を戻しながら地面を蹴って大きく後ろに下がった。
「ちっ、なんて反応しやがるんだ……」
「そういう手合いには慣れてるからな」
何度か右膝を上げて具合を確認した親玉が剣を構え直し、ウサ耳姫は下に向けた右手のレイピアを元の高さに戻した。
親玉は鍔で武器破壊を狙いつつ膝蹴りで腹を狙い、ウサ耳姫は左手のレイピアで打撃を受け流しつつ右手のレイピアで膝蹴りへのカウンターを狙った……
素早さ10万の俺だから何が起きたか分かったが、この一瞬でどんな攻防を繰り広げているんだよ……
「こうなりゃ小細工なしだ!」
「ふっ」
決着を急いだのか親玉が柄を両手で握った剣を振り上げて踏み込み、ウサ耳姫は左手のレイピアで難無く弾いた。
……ように見えた。
だが親玉は剣を振り下ろす直前で腕を止め、更に半歩下がりながら腰を落として下から剣を突く体勢を取っていた。
「しまったっ!?」
「かかったな!」
レイピアに手ごたえを感じなかったウサ耳姫が焦りの表情を滲ませ、親玉は隙を逃さず渾身の突きを放った。
ガキィン!
突然中庭に金属同士がぶつかり合う大きな音が響き渡った。
ウサ耳姫の胸を貫くかと思われた親玉の長剣は吸い寄せられるように右手のレイピアを打ち付け、逆にウサ耳姫が左手のレイピアで親玉の胸を貫いた。
「なっ!? バカな……っ」
胸周りを補強した鉄板の隙間から肋骨の隙間までを的確に貫かれた親玉は、何が起きたのか理解出来ない表情を浮かべたまま地面に倒れた。
逆転からよもやの大逆転だが、いったい何が起きたんだ?
親玉の突いた長剣がウサ耳姫の右手のレイピアに吸い込まれたように見えたが、まさか磁石にでもなったのか?
これが魔法、あるいはスキルなのか?
「ふぅ……助太刀感謝する、旅の者。急ぎここを離れた方がいい」
興味本位でとりとめのない推測を俺がしていると、刃に付いた血を勢いよく振り払った両手のレイピアを鞘に納めたウサ耳姫が声を掛けて来た。
「承知した」
ここは一度ウサ耳姫の助言を受け入れた方が賢明と判断した俺は、ケンノスケを正面の門に向かわせた。
魔王の信者でもある山賊のアジトを調べたい気持ちはあったが、ウサ耳姫たちが去った後でも充分に出来るだろうと判断したからだ。
「では、さらば!」
ケンノスケの後ろ姿に頷いたウサ耳姫は、大きく跳び上がって姿を消した。
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砦を出る途中で空気を抜いたケンノスケを【暖衣飽食】に入れた俺は、そのまま物陰に隠れてウサ耳姫たちの動向を探る事にした。
腕に巻いた切断糸夜天光を使えば、俺でも反響定位を使えるからね。
ウサ耳姫が跳んだ先は、魚少女が司祭を二つ折りにしたバルコニーの上だった。
よく見ると魚少女が待ち構え、気付けば鳥姉さんも合流していた。
「何が起きて?……おわぁ!?」
「あいつら、お頭たちを!? ふざけやがって!」
起き上った山賊どもが親玉たち3人の死体とバルコニーに立ったウサ耳姫たちを交互に見ながら、口々に喚き散らし出した。
しかし、あの3人はどうする気だ?
門から出るには中庭を通らないといけないし、裏口があるとしても一度中に入る必要があるから場合によっては待ち伏せされるかもしれない。
鳥姉さんは空を飛べるしウサ耳姫と魚少女も半端ないジャンプ力があるし、屋根伝いに跳んで逃げるのか?
だとしたら矢を射掛けるかもしれないし、今のうちに弓を破壊するか?
「は~い、みなさん注目~」
どうやって援護しようか俺が考えていると、突然鳥姉さんの声が中庭に響いた。
拡声器みたいに聞こえるから、そういう魔法なのか?
「ふざけるな! おい、弓だ! 弓を持って来い!」
「扉を押さえれば袋の鼠だ、何人かオレに続け!」
案の定、山賊どもは統率が乱れながらも体勢を立て直し始めた。
「じゃあ、いくわよ? それぇっ!」
ドカーンッ!
鳥姉さんが振り上げた手を合図にバルコニーで爆発が起き、立ち上る煙の中から巨大なシマエナガが姿を現した。
……よく見るとシマエナガの形をした風船……いや、気球だった。
3人で乗るには大きな籠を吊っているが、どうやら鳥姉さんが助けた女性たちが乗っているようだ。
つまりは山賊の“戦利品”……
彼女たちの心の傷を考えれば、俺やケンノスケがしゃしゃり出るよりはウサ耳姫たちの方が適任だろう。
「「え?……あ。あ?」」
突如出現した巨大な小鳥に固まった山賊どもは、飛び去って行くウサ耳姫たちを茫然と見送る。
後で砦を物色したいし、今のうちにあいつらを拘束しておくか?
「では諸君、さらばだ!」
「バイバイなの」
「もう1回寝てもらうわねぇ、【爆音閃光】」
次の手を俺が考えている間にもウサ耳姫と魚少女が挑発するように別れを告げ、最後に鳥姉さんがハルバードを地上に向けて魔法の名前らしきものを唱えた。
(やばい!)
直感で危険を察した俺は、慌てて身を隠せる場所を探した。
カッ!
直後に砦全体が眩い閃光と爆音に包まれ、俺が【暖衣飽食】の中に退避したのはまさに間一髪だった。
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(もう大丈夫だろうか?)
しばらく【暖衣飽食】に身を隠していた俺は。鳥姉さんが起こした魔法の爆発が収まる頃合いと判断して外に出た。
中庭には山賊どもが倒れていたが火傷ひとつ無く、ただ気絶していた。
あれだけの爆発でケガが無いって事は、攻撃力の無い魔法と考えるのが妥当。
鳥姉さんが放ったのは、スタングレネードみたいな魔法だったのだろうか?
初めて見た魔法についてしばらく考えていると、門の方から声が聞こえて来た。
「総員突撃―!」
「「おおー!」」
金属鎧のこすれる音が聞こえるし、騎士か何かだろうか?
門は開いたままだから中庭まですぐに入って来るだろうし、迂闊に歩き回ったら俺まで山賊の一味と間違えられかねない。
このままでは捕まると判断した俺は門の近くに移動してから【暖衣飽食】の中に隠れ、騎士団が通り抜けたのを確認してから一目散に逃げ出した。




