【寄らば】第14話:お手並み拝見【斬るぞ!】
**ケンノスケの安全を確認したヒドゥン・エンカは、
戦闘開始寸前の山賊のアジトへと乗り込んだ**
「これ、返すの!」
乱戦開始と同時に魚少女が網を大きく振って捕えていた見張りを投げ飛ばした。
とりあえず3人組の女の子は暫定的に、
白いドレスを着てレイピアを持ったウサギ耳の女の子をウサ耳姫、
ハルバードを手にして背中にオレンジ色の羽が生えた女性を鳥姉さん、
青肌に白いさらしと青いフンドシ姿で投網を振り回す女の子を魚少女、
と、それぞれ呼ぶ事にした。
アニメなら相手の名前とステータスを見る事も出来たのだろうが、この異世界にそんな便利な機能は無いらしい。
「ぐぇ……」
「このアマ!」
そんな事を考えている間に投げ飛ばされた見張りを慌てて避けた山賊のひとりが手斧を振りかざし、魚少女に襲い掛かった。
「させるか!」
キィンッ!
「なっ!?」
割って入ったウサ耳姫がレイピアで手斧を弾き、そのまま横薙ぎに振り払った。
バシィッ!
「がはっ!?」
続けて乾いた音が響いたかと思うと、手斧を持っていた山賊が崩れ落ちた。
よく撓る刀身の側面で鞭のように打つとは、随分と器用な真似をしやがる。
打撃だけで気絶するとは思えないし、あれは魔法か職業スキルかもしれない。
素早さ10万の俺ならともかく、打たれた本人含めて山賊どもには何が起きたかまるで理解出来なかっただろう。
次の敵に備えてレイピアを構え直すウサ耳姫を見て確信したが、とりあえず山賊どもの命は奪わない方針らしい。
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キンッ! バシッ!
「ぐぁっ!?」
キンッ! バシッ!
「げぇっ!?」
キンッ! バシッ!
「そんなぁっ!?」
次々と山賊が死角から襲い掛かるが、反射的に振り向いたウサ耳姫のレイピアに武器を弾かれては返り討ちに遭って地面に転がって行く。
「獣人相手に1人では無理です! 2人以上で同時にかかりなさい!」
「おう!」「食らいやがれ!」
後方に控えていた耳の尖った背の高い男の指示を受け、2人の山賊がウサ耳姫に挟撃を仕掛ける。
そろそろケンノスケを向かわせた方がいいか?
「させないわよ!」
「うぁっ!?」
「よいしょー、なの!」
「どわーっ!?」
俺の僅かな迷いの間に鳥姉さんがハルバードの柄で片方の山賊の足を払い、もう片方の山賊も魚少女が投網で捕まえて放り投げた。
ふむ……少しの迷いで出遅れるのは生前の悪い癖か、これを機に変えないとな。
「何をしているのです! 早く小娘達を仕留めなさい!」
「冗談じゃない! オレは降りるぜ!」
「ああ、やってられるか!」
「むっ! 待てなの!」
さっきの耳の長い、おそらくエルフの男が出す指示に逆らって数人の山賊が逃げ出し、魚少女の投げる網も届かない。
今度こそケンノスケを参戦させるチャンスだ!
「ふん!」
「ぐぁっ!?」
「ぶへっ!?」
先回りさせたケンノスケの金色の断罪剣で山賊どもを殴って気絶させ、そのまま中庭に放り込ませた。
「誰なの!?」
「俺は通りすがりの旅の者、義によって助太刀させてもらう」
最初に気付いた魚少女が投網を構え、俺はケンノスケの口に張った糸を震わせて人間の声みたいな音を出した。
「お前は!? あの時の……」
「あらあら、無事だったのね~」
「2人とも、あの剣士は知り合いなのか?」
「入口で門番と戦ってたの」
「敵じゃないみたいだけどぉ、油断しちゃダメよぉ」
「見張りが消えても構えを解かなかったの、かなりの達人なの」
「ああ。隙が無いのに殺気も無い、出来れば敵に回したくないな」
魚少女と鳥姉さんの会話から察するに、あの2人は門番を排除してからすぐ砦に入ったようだ。
更にはウサ耳姫の反応を見る限り、ケンノスケはただ者ではないと映るようだ。
概ね満足の行く検証結果を得られた俺がケンノスケの糸を緩めて小さく腕を振り上げていると、魚少女が周囲に気付かれないようにウサ耳姫の袖を引いた。
「向こうも敵に回る気は無いみたいなの」
「分かった、助太刀感謝する! 出来れば殺さぬようにしてくれないか?」
「承知した!」
魚少女の言葉に頷きを返したウサ耳姫が周囲の山賊にレイピアを向けながら走り出し、俺はケンノスケの糸を引き直して金色の断罪剣を構えさせた。
▼
「ぐぁ!?」「がはっ!?」「げぇっ!?」
中庭を見渡せる位置へと移った俺はケンノスケに金色の断罪剣を振らせ、不利を悟って逃げようとしていた山賊どもを次々に気絶させた。
ウサ耳姫の要望通りに山賊どもを無力化するのは、器用さ10兆の俺にとっては造作も無い注文だった。
だが、半分くらい気絶させた頃だろうか?
奥から長いあご髭を垂らした……って、エルフ男を除いて全員髭面なんだよな~
この異世界の山賊は髭を生やさないといけないルールでもあるのか?
とりあえず髭面で白いローブを着た小太りの男が砦の奥から出て来た。
「何事だ! 間も無く祈りの時間だぞ!」
「分かってますよ、司祭様。それまでには始末を付けますから」
「あれは悪魔のしもべどもでは無いか! 今すぐ殺せ!」
「もちろんですぜ、その前にちょいと……」
「間違っても生け捕りにしようと思うな! 絶対に殺すんだぞ!」
「へ、へいっ!」
出迎えた山賊どもに司祭様と呼ばれた男は手にした緑色の本を振り回し、かなり無茶な指示を出していた。
山賊のアジトに司祭?
随分と場違いな組み合わせだが、この異世界の事情を考えれば納得出来る。
この山賊団は、唯一神を僭称する魔王信者の集まりだ。
さすがにこいつらが魔王の居場所を知っているとは思えないが、俺の想像が正しければ方角だけでも分かるはずだ。
突然出て来た手掛かりに内心興奮した俺だが、しばらくは山賊団を無力化させる単純な作業を続けるとしよう。
▼
そういえば、いつの間にか鳥姉さんと魚少女が消えている?
消えた2人に意識を向けようとした瞬間、ウサ耳姫にも動きがあった。
手にしたレイピアを左手に持ち替え、更には腰の鞘に納めていたもう1本のレイピアを右手で抜いた。
いわばレイピアの二刀流となったウサ耳姫は、左手のレイピアを肩に乗せてから垂直に立てていた右手のレイピアの刃を水平に寝かせた。
「寄らば、斬るぞ!」
鬼気迫るウサ耳姫の声に気圧されたのか、山賊どもは距離を置いて取り囲む。
首筋に当てて引く、あるいは肋骨の隙間から突き刺す……
刃を水平に寝かせるだけで“死”をいくらでも連想出来る。
「ちっ! ハッタリだ!」
「ふっ!」
キンッ!
「ぎゃっ!?」
ひとりの山賊が踏み込みながら剣を振り下ろすが、ウサ耳姫は左手のレイピアで攻撃を弾いてから右手のレイピアを山賊の手に突き刺した。
「いてえ……いてえよぉ!」
剣を落とした山賊の押さえる手から血が滴り落ち、周囲の山賊にも緊張が走る。
これで山賊どもには、ウサ耳姫が攻勢に転じたと強く印象が残っただろう。
だがレイピアは本来防御の剣、それを両手に持つのなら狙いは猛攻などでは無く防御に専念した時間稼ぎとなる。
3人の目的も理解出来たし、ケンノスケを操作して山賊どもを無力しながら反響定位でだいたい把握出来るから、ここはしばらくお手並み拝見と行きますか。
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反響定位で鳥姉さんを追った俺は、砦の奥にある頑丈な扉に行き当たった。
「お前達、ちゃんと見張ってるのですよ」
いつの間にか姿が消えていたエルフの男が扉の前で鍵を取り出し、落ち着かない様子で2人の取り巻きに声を掛け続けている。
反響定位越しでも分かるほどに震える手、おそらくだが参謀役であろうエルフにとってこの襲撃は相当な予想外だったらしい。
「分かってますって」
「それにしても女どもを人質に使うなんて、さすがは……」
2人の取り巻きは余裕のある声を返し続けていたが、その声が突然途絶えた。
静かに天井まで飛んでいた鳥姉さんが急降下し、取り巻きの2人をハルバードで殴って気絶させていたのだ。
「どうしました、急に黙って……っ!?」
「ふふっ、バカね。道案内ごくろうさ~ん」
慌ててエルフの男が振り向いた先には当然鳥姉さんがいて、手を振っていた。
「おのれ!……がはっ!?」
逆上したエルフ男がナイフを抜くが、鳥姉さんは軽々とエルフ男の頭を飛び越えながら背中にハルバードの穂先を突き立てた。
短い悲鳴を上げてエルフ男は絶命したけど、あの3人の本当の目的はこれという訳か。
予想が的中して満足した俺は、別の方向に反響定位を飛ばした。
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魚少女を追った反響定位は、砦の中庭が一望出来るバルコニーで止まった。
「これでは埒が明かん、侵入者を吹き飛ばすぞ!」
「へい、すぐに撤退の合図を」
エルフ男と同じく姿を消していた司祭が本を広げ、取り巻きのひとりがカバーを被せたランプを取り出す。
どうやらあの本は教典兼魔導書らしく、中庭にいるウサ耳姫とケンノスケを吹き飛ばす魔法を使う気らしい。
「詠唱は1分かかる。侵入者に気付かれるなよ」
「お任せくだせ……えっ!? えーっ!?」
司祭の指示に頷いてカバーを外そうとした取り巻きの体が、突然宙に浮いた。
いや、正確には魚少女の投網に足元を絡み取られてから投げ飛ばされていた。
「なっ!? いつの間に!?」
「残るはお前だけなの」
「冗談じゃない! オレはこんなところで終わる訳には!」
「逃がさないの!」
他の取り巻きも消えた事に気付いた司祭が背を向けて逃げ出し、魚少女は広げた投網で容赦なく全身を絡め取った。
「ぐぅっ!?……がっ……がぁっ!?」
バギンッ!
網に捕まった司祭の腰から骨の外れるような音がしたかと思うと、そのままメキメキと軋むような音を立てながら背中に向かって二つ折りになってしまった。
「ふうっ……おととい来やがれなの!」
せっかく魔法を見るチャンスとも思ったが狙いは俺達だったのだから、ここは魚少女に感謝しておこう。




