【マジで】第13話:奇妙な冒険者【何者だ?】
**山賊のアジトに向かったヒドゥン・エンカは、
突然降って来た女の子に押し倒された**
まさか山賊のアジト前で女の子に遭遇するなんて!
帽子で月明かりが遮られて光を反射しなかった遮光器越しに目が合うなんて!
これがステータスの運が“1+0”の弊害なのか?
決意を込めて見えざる遭遇と名付けたこの俺が、無様な不意討ちを食らうなんて完全に計算外だ!
まず俺は何をすべきだ!?……言うまでも無くステータスの確認だ!
名前:ヒドゥン・エンカ
種族:人間
性別:男
職業:なし
レベル9999
経験値――
次のレベルまで――
HP:**198964**
MP:9999999999999
腕力:1+99999
体力:1+99999
素早さ:1+99999
器用さ:1+9999999999999
知力:1+99999
魔力:1+99999
運:1+0
武器
・さざなみ:攻撃力7
・刹那:攻撃力65
・ケンノスケ:攻撃力9999
防具
頭:ボロ布の帽子:防御力4
頭:遮光器:防御力64
体:偽革の服:防御力4
体:ボロ布の合羽:防御力4
右腕:夜天光×20:防御力8105
左腕:夜天光×19:防御力8105
足:偽革の靴:防御力2
スキル
【暖衣飽食】:消費MP1
【Sドレイン】:消費MP1
ステータス画面をひと通り確認したが、変化はどこにも無い。
ならば何故、俺は押し倒された!?
一時的なステータスダウンか? 基本ステータスのみを参照するスキルか?
ここで可能性を考えても埒が明かない!
スキルか何かは知らんが、あの女の子は俺を組み伏せる手段を持っている!
ならばいっそ、口封じするか……?
転生者である俺自身が魂の存在証明、あの女の子の魂も輪廻を巡るに過ぎない
俺の心に渦巻くドス黒い感情が、静かに鎌首をもたげて来る__
「違う!」
俺は砦の見張りに気付かれるリスクもかなぐり捨てて大声を出した。
いくら魂が輪廻を巡るからと言って、これは違う!
ただの感情で理屈は無いけど、理屈も所詮は感情を納得させる手段に過ぎない!
とにかく俺は、あの女の子の命なんて奪いたくない!
今はまだ、あの女の子が敵か否か見極めるだけで充分だ!
武器欄にも変化が無いならケンノスケも無事、今すぐ後を追える!
何度も自問自答を重ね、俺の心はようやく平静を取り戻した。
とはいえ俺がウサギみたいな耳と尻尾をした女の子に押し倒されていた間、布で作った操り人形でしかないケンノスケは完全に無防備になる。
見張りの山賊2人に正体がバレて攻撃を受けている最中かもしれないし、最悪の事態も覚悟してケンノスケを操る糸を引いてみる。
……ケンノスケを動かす空気袋の感触が糸に伝わって来る、まだ無事のようだ。
もっともケンノスケ自体は魔王の喉首までの血路を開く手段、簡単に壊れないし壊した奴がタダでは済まない備えもある。
だが同時に、腑に落ちない点が出て来る。
状況を把握するため反響定位を使ってみると、見張りの姿が消えていた。
囲んで警戒するならともかく、持ち場を離れるとかますます分からん……
完全な想定外に直面した俺は、糸を手繰ってケンノスケの元へと向かった。
▼
果たして、ケンノスケは無事だった。
左手に持った金色の断罪剣の柄に右手を掛けて腰を落とし、いつでも剣を抜ける居合の構えで止まっていた。
細かい説明は省くが、俺からの操作が一定時間無かった場合はケンノスケが居合切りのポーズを取るように仕掛けておいた。
俺の存在を隠すために作ったケンノスケだ、人間らしい動きをさせるよりも俺の基準でカッコイイ動きをした方が目立つし都合がいい。
ところで……消えた山賊どもはケンノスケを警戒して応援を呼びに行ったのか?
いや。あの山賊どもは実戦慣れこそしていたが、武術の達人では無かった。
動かないケンノスケを警戒して仲間を呼ぶような判断はしないだろう。
そうなると考えられるのは第三者の介入……だがどうやって確認する?
【暖衣飽食】で作れる布と食料では記録装置など作れなかった以上、どこまでも推測の域は出ない。
どうやって推測を証明しようか考えていると、砦の奥から大声が響いて来た。
「ぐぁ!」
「何もんだ、てめえら!」
あの短い悲鳴は見張りの声だし、何者かが介入して来たのは間違いない。
さっき目が合ったウサギみたいな女の子もいるのだろうか?
他に手掛かり無しと判断した俺は、動作チェックを済ませたケンノスケを走らせながら砦へと入って行った。
▼
「知れたこと! 悪党を退治する冒険者だ!」
この声は、さっき俺を押し倒したウサギの女の子か。
移動より状況の把握を優先した俺は、声の聞こえた方に向けてケンノスケの反響定位を使った。
反射して来た魔力入りの音を解析した結果、中庭に3人の女の子がいるようだ。
そして、背中に羽の生えた長身の女の子と背の低い女の子との間にドレスを身に付けたウサ耳の女の子がいた。
ビンゴだ!
俺と最初に目を合わせた死亡フラグの女の子、ここは情報を集めさせてもらう!
どうやらウサ耳の女の子が手にした刺突用の剣、レイピアの切っ先を山賊どもに向けて今にも戦闘開始といったところらしい。
情報を集めるならもっと近付く必要があると判断した俺は、ケンノスケを操作しながら砦の中庭へと急ぎ走った。
▼
「はぁっ!? そんなふざけた格好の冒険者があるか!」
ようやく中庭が見える位置に到着した俺の視界は、腕や胸を金属の板で補強した革鎧を着た山賊の親玉らしき男を捉えた。
いかにも山賊といった髭面が怒り心頭の表情を浮かべ、女の子達に長剣を向けている。
親玉が怒るのも無理はないかもしれない……
真ん中の女の子は目の周りを覆う赤いドミノマスクを付け、胸に大きなリボンを付けた白いドレス姿。
頭にも王冠みたいな飾りを付けた大きなリボンを巻き、柔らかなウェーブを描く金色の髪を額が見えるまで押し上げながら長いウサ耳の根元を隠している。
左右の腰にはレイピアを1本ずつ、1本は手にしてもう片方は鞘に入ったまま。
持っている知識は漫画やアニメだけとはいえ、俺の知っている冒険者からは掛け離れた姿をしている。
他の2人の格好もかなり奇抜だ。
まず背中にオレンジ色の羽が生えた長身の女性が身に付けている谷間を強調した銀色の鎧は腰で途切れ、エグいハイレグの赤いレオタードと太ももが丸見え。
手にしたハルバード、長い棒の先に斧と槍が付いた武器を軽々と振るうが、どうしても谷間や下半身に目が行ってしまう。
背の低い女の子は更に過激だった。
平たい胸に白いさらしを巻いただけで、他には青いフンドシを穿いているだけの極めて露出が高い格好。
手にした大きな投網の中には見張りをしていた山賊の片割れが入っているから、消えた2人の見張りは彼女のしわざと推測出来る。
女の子は青い肌をしていて、肌より少しだけ薄い青髪で隠れた側頭部からは魚のヒレのようなものが見えている。
ここは異世界だから水辺とかに棲む感じの種族なのだろうか?
いや、そんな疑問よりも重要な事がある。
そう、フンドシは女の子の肌と同じ色をしているのだ。
2人の見張りを投網で捕えて持ち運べるような油断ならない怪力の持ち主だが、やはりこちらも“はいてない”ように見える下半身に目が行ってしまう。
例え悪人でもこの異世界の住人である山賊の親玉が“ふざけた”と怒るくらいだ、3人が奇抜に見える俺の感性も間違ってはいないのだろう。
3人を取り囲む山賊の手下どもは蓄えた髭の下にニヤけた笑いを浮かべながらも親玉の無言の制止に戸惑い、微妙な空気と沈黙がしばらく続くかに見えた。
「ふっ! 怖気付いたのなら、こちらから行くぞ!」
「くそっ! お前ら、やっちまえ!」
だがこういった空気に慣れているのか、ウサ耳少女がレイピアを構えながら走り出し、なし崩しに乱戦が始まった。




