【死亡フラグは】第12話:予期せぬ遭遇【突然に】
**対ゴブリン戦の検証を終えたヒドゥン・エンカは、
異世界の厳しい現実を目の当たりにしてから村を去った**
「今回は人のようだな」
「古い砦の跡みたいだし、山賊か何かですかね?」
ゴブリンどもに滅ぼされた村を出て数日の夜、俺達は古めかしい石造りの建物を遠くに見付けて足を止めた。
ここ数日は道沿いの森の中を歩いて来たが、特に大きな問題に遭遇しなかった。
俺達がここまで慎重な移動をするのは、それなりの理由がある。
“魔王を討伐しても生き残ったら、最初に目が合った女の子にプロポーズをする”
山を下りる時に立てた死亡フラグのような誓いを実現するためにも、この道中で最初に目を合わせる女の子は慎重に選びたい。
旅とは全く縁の無い女の子と目を合わせておけば、その女の子を心に誓った相手として行く先々で断る口実に使える。
かなり自意識過剰なのは自覚しているが生前には無縁だった話な上にこの身体は三柱の女神の肝煎り、思い付く限り警戒を最大にしたつもりだ。
道から隠れて移動するのも関わる人物をこっちから選別するためとか、我ながら正気の沙汰とは思えない。
それでもケンノスケの反響定位を使って来たから、分かれた道の奥に隠れていた砦跡を発見出来た訳だ。
魔王と刺し違える旅を始めた俺だが、今は圧倒的に情報が足りない。
だからどんな情報も貴重になる上に、魔王信者の可能性がある悪党のねぐらともなれば期待もひとしお。
次の目的地が決まった俺達は、砦跡に向かう分岐点から森へと分け入った。
▼
「そろそろ明かりを消した方がいい」
「分かりました、先生」
砦の入口が見える位置に隠れて日没まで待った俺は、ケンノスケとの茶番を演じながらペンライトの明かりを消した。
無論ペンライトと言っても地球にあった電池式では無く、ゴブリンシャーマンの持っていた杖に刻まれた光の魔法陣を参考に作ったものだ。
モンスターの使う杖に光の魔法と言うのも変な話だが、ゴブリンどもはキングも含めて夜行性だったから光で脅して従わせていたのか?
一瞬で灰燼に変えたから確認出来なかったが、杖以外にも従わせる手段は持っていると仮定して次の遭遇に備えた方がいいな。
何にせよ持ち歩ける光源が手に入ったのは大きな収穫だ、これで【暖衣飽食】を小さく開けて照らさずに済む。
ペンライトは布バズーカと同じ要領で魔法陣を描いた包帯くらいの幅の白い布で作った筒を一番下にしていくつか重ね、周囲に黒い布を巻いて一体化させた。
違うのは魔法陣を描くために作ったペンを芯に使って小さな筒にした事と、布に塗ったカルシウムの粉末入りこんにゃく糊を研磨して反射を強くしたくらいだ。
反響定位で暗くても周囲が分かるとはいえ、やはり明かりは安心するし心強い。
「俺が様子を見て来よう、少年は隠れていてくれ」
「分かりましたよ、足手まといにはなりたくないですからね」
前に出ようとする俺をケンノスケが片腕を広げて止める、これが操り人形によるひとり芝居だと気付く人はまずいないだろう。
ケンノスケには俺の事を“少年”と呼ばせている。
腰巾着を適当にあしらう距離感を周囲に印象付ければ、誰も俺が転生者だなんて思いもしないだろう。
ゴブリンシャーマンを秒殺したどころか、そもそもケンノスケを操っている俺が邪魔になる訳も無いけどさ。
だが今回の相手は殲滅確定のモンスターでは無く人間、生け捕りにする可能性も視野に入れれば俺が目立つのは得策では無い。
ここはケンノスケに行ってもらい、俺は高みの見物と洒落込む事にした。
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「なんだ、おまえは?」
「変な格好してやがるが、旅人か?」
真正面から砦跡に向かったケンノスケは、当然だが入口で見張りをしている髭を蓄えた2人の男に呼び止められた。
三柱の女神が見せてくれた“体験版”と同じ言語、意思疎通には困らないようだ。
篝火の明かりが漏れているのか、俺が身を隠している木陰からもよく見える。
薄汚れた革鎧を身に付けた2人は、同じように使い古しているが手入れだけ行き届いた槍をそれぞれ持っていた。
どう見ても山賊だが、まずは様子を見よう。
「お控えなすって!」
充分距離を置いて立ち止まらせたケンノスケを半身に構えさせた俺は、少しだけ片膝を落としてから片手を前に出す操作をした。
いわば、時代劇に出て来る渡世人のあいさつをさせたのだ。
異世界で通用する礼儀では無いが、先代の転生者が広めた可能性もゼロでは無い以上は試す必要があった。
「何を言ってんだぁ? おい、ここを知られたからには生きて返すな!」
「オレ達のアジトに迷い込むとか、間抜けな旅人もいたもんだなぁ」
「助かるぜ! こんなナリをしてるが、俺もこの先は知らねえんだ!」
しばしの沈黙の後に山賊2人が槍を構え、ケンノスケもポーズを解かせた。
やっぱり知らなかったか……
当然の反応をした2人の山賊に安堵した俺は、ケンノスケの左手に持たせている長剣、金色の断罪剣の柄に右手をかけて戦闘態勢を取らせた。
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「くらえ!」
1人が距離を取りながら槍を突き出し、もう1人は退路を断つように後ろへ回り込む。
逃げようとすれば挟み撃ち、長引けば奥から増援……
実戦を重ねて学んだ効率的な作戦だが、反響定位で山賊の動きが手に取るように分かる俺には無意味だ。
「ふんっ!」
「おわぁっ!?」
槍の穂先を躱しながら前に踏み込んだケンノスケが金色の断罪剣の腹を槍の柄に当て、両手に衝撃を受けた山賊は大きく後ろに吹き飛んだ。
では、今回の検証に移ろう。
その場にケンノスケを立ち止まらせた俺は、尻餅をついている山賊に手のひらを向けて【Sドレイン】を発動した。
立ち上がろうとする山賊からごく少量の追加ステータスを奪い、高熱化した余剰MPを金色の断罪剣に送って即座に振り払った。
成功だ!
今回は相手を殺さず【Sドレイン】を使う手段の検証だが、想定通りの結果だ。
転生直後に遭遇したモンスターの大群は俺に触れる事無く使っていたから、ある程度の射程がある事は推測通りだった。
そして、誰も殺さずに余剰MPを処理する手段も完成した。
だがこれらの検証は、あくまでおまけ。
本命の検証結果を確認すべく、俺はステータス画面を開いた。
名前:ヒドゥン・エンカ
種族:人間
性別:男
職業:なし
レベル9999
経験値――
次のレベルまで――
HP:**198964**
MP:9999999999999
腕力:1+99999
体力:1+99999
素早さ:1+99999
器用さ:1+9999999999999
知力:1+99999
魔力:1+99999
運:1+0
武器
・さざなみ:攻撃力7
・刹那:攻撃力65
・ケンノスケ:攻撃力9999
防具
頭:ボロ布の帽子:防御力4
頭:遮光器:防御力64
体:偽革の服:防御力4
体:ボロ布の合羽:防御力4
右腕:夜天光×20:防御力8105
左腕:夜天光×19:防御力8105
足:偽革の靴:防御力2
スキル
【暖衣飽食】:消費MP1
【Sドレイン】:消費MP1
毎度おなじみトンデモステータスだが、今回確認したかったのは運の数値。
見ての通り“1+0”のままだが、運だけ増えない理由を確認するのも目的だ。
今までモンスターのステータスを吸収しても運は上がらなかった。
この原因について俺は運の項目がモンスターのステータスに無いと仮定したが、同時に別の可能性も浮かんだ。
そして今回、ステータスに運があるはずの人間から吸収して確信に至った。
魔王が作ったスキル【Sドレイン】には、運を吸収する能力が無いと。
納得の行くデータも取れたし、もう山賊は始末しよう。
そう決めてケンノスケを操作しようとした矢先、俺は身を隠している木の上から降って来た何かに正面から押し倒された。
▼
「「えっ……?」」
気が付くと俺の目の前には、まつ毛の長い女の子の瞳があった。
女の子の方も状況が理解出来ないのか、目をぱちくりさせている。
よく見ると目元だけを覆う、確かドミノマスクと言ったか? そんな感じの赤い仮面を付けている。
しかも女の子の温かい吐息が途切れ途切れに俺の唇に当たって来る……
って、近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近いーー!
このままだと唇同士がくっ付いちゃうよーー!
瞬く間に少女漫画の主人公みたいなセリフで脳内を埋め尽くされた俺はまず振り解こうとしたが、何故か動けなくなっていた。
いやいや、おかしいだろ!
こちとら腕力10万、器用さ10兆の化けもんだぞ!?
手足の感覚をチェックしてみると、どうやら女の子の手足が俺の手足を関節技のように押さえ込んで動けなくしているらしい。
木から落ちた女の子が偶然関節を極めるなんて、別の意味で奇跡だよ!
とはいえ、どうしたものか?
こっちから話し掛けようものなら、それこそ唇がくっ付きかねん……
しばらく俺が躊躇っていると、女の子の方に動きがあった。
「すまない少年、ケガは無いか?」
やっと我に返った女の子が俺の腕から手を放し、顔を少し赤らめながら仰け反るように起き上がった。
「あ、いえ……大丈夫です……」
「そうか。先を急ぐので、失礼する!」
突然の会話イベントに内心パニくった俺が何とか無事を伝えると、女の子は軽く頷いてから立ち上がって砦の方に大きくジャンプして去って行った。
何て速さだよ!?
急ぎ立ち上がった俺の目には白いドレスみたいな服を着た女の子の長い耳と丸い尻尾が一瞬だけ映ったし、ここは異世界だからウサギ系の獣人だったのか?
とはいえ“少年”ね……向こうからすれば、確かに俺の方が年下か……
そ・ん・な・こ・と・よ・り!
俺はあの女の子と目が合ってしまった。
“魔王を討伐しても生き残ったら、最初に目が合った女の子にプロポーズをする”という死亡フラグの誓いの対象は、さっきの女の子と言う事になる。
事態の深刻さに気付いた俺は、女の子の後を追うために砦の入口へ向かった。




