【せめて】第11話:弔い【安らかに】
**ケンノスケと共に村に入ったヒドゥン・エンカは、
占拠していたゴブリンの群れを一掃した**
(今度こそ終わりのようだね……)
【Sドレイン】の余剰MPで高熱化した切断糸、夜天光を使ってゴブリンどもの親玉を両断した俺は、ケンノスケの反響定位を使って村の様子を確認する。
下っ端ゴブリンどもを生きたまま荼毘に伏した後の不意討ちに対応出来たのも、村にはまだ3体の敵が残っていると反響定位で把握していたからだ。
うち2体はケンノスケが横薙ぎに両断した巨大ゴブリン、ゴブリンキングとでも呼べばいいだろうか?
そして俺を人質に取ろうとして来た最後の1体がゴブリンシャーマン、背丈こそ普通のゴブリンと変わらないがキング2体を従える強力なモンスター。
両断した時に落として灰化から逃れた禍々しい装飾の杖が、その証拠だ。
イレギュラーな事態も起きたが、ケンノスケの初陣は成功と言えるだろう。
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まず俺はケンノスケの全身に仕込んでいる袋に空気を充填してから、剃刀付きの指輪、さざなみを【暖衣飽食】に戻す。
圧縮して袋に詰めた空気の力を使って全身を動かすケンノスケは、いつでも袋に空気を充填出来るように作っておいた。
足元から空気を噴射するホバー機能はもちろんだが、高山で作ったケンノスケは山から下りれば気圧の変化でしぼんでしまうから充填機能は必要不可欠だった。
ちなみに、金色の断罪剣を大剣に変えた仕掛けにも空気を使っている。
芯に使っている袋に空気を送り込んで膨らむと同時に袋の周囲に巻き付けている金色の糸が張り出し、大剣の形になる仕掛けだ。
もちろん金色の糸には夜天光と同じくカルシウムの粉末を混ぜたこんにゃく糊を塗ってから研磨してあるから切れ味も充分。
力の入れ方ひとつで切断する事も巻き付ける事も出来る幅の広い用途は、今後も何かと役に立ちそうだ。
しかし金色ビキニから解し取った糸で胴を両断される最期とか、ゴブリンキングどもは想像も出来なかっただろうな。
元の形に戻した金色の断罪剣をしばらく眺めてから鼻で笑った俺は、一度村から離れる事にした。
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村から外れた森に入った俺は【暖衣飽食】に入り、先の戦闘の検証を開始した。
俺があの村から離れたのは、ついさっきまでゴブリンの巣窟だったからだ。
あの野蛮な生物が人の生活圏を清潔に保つはずなど無く、入口に立っただけでも悪臭が漂って来た。
俺が持つ固有スキルの【暖衣飽食】は外の環境に影響されないが、このスキルを他人に知られるのは大きなリスクだ
もし明日にでも討伐隊が来て、村の中で鉢合わせでもしようものなら無用なトラブルを招きかねない。
そのため、人が通る確率の低い場所を拠点にする癖を付けるようにしている。
では改めて戦闘の検証をしよう。
だいたい想定通りだったが、未知数の部分を解明出来たのは収穫と言える。
それは【Sドレイン】で吸収しきれなかったMPの扱いだ。
まずは先の戦闘でゴブリンから吸収したMPが余剰と判定された理由を検証するため、俺はステータス画面を開いた。
名前:ヒドゥン・エンカ
種族:人間
性別:男
職業:なし
レベル9999
経験値――
次のレベルまで――
HP:**198964**
MP:9999999999999
腕力:1+99999
体力:1+99999
素早さ:1+99999
器用さ:1+9999999999999
知力:1+99999
魔力:1+99999
運:1+0
武器
・さざなみ:攻撃力7
・刹那:攻撃力65
・ケンノスケ:攻撃力9999
防具
頭:ボロ布の帽子:防御力4
頭:遮光器:防御力64
体:偽革の服:防御力4
体:ボロ布の合羽:防御力4
右腕:夜天光×20:防御力8105
左腕:夜天光×19:防御力8105
足:偽革の靴:防御力2
スキル
【暖衣飽食】:消費MP1
【Sドレイン】:消費MP1
吸収したMPが余剰判定された理由は、現在のMPが関係しているはずだ。
生前の知識にあるどのゲームより桁が遥かに大きいが、やはりMPはこれでカンストと考えるのが妥当だろう。
【Sドレイン】は敵の追加ステータスを吸収し、カンストしたらMPになる。
では、MPがカンストしたらどうなるのか?
生き物のいない山奥で検証出来なかった疑問のひとつだったが、先の戦闘で余剰MPがモンスターを瞬時に焼き尽くす高熱を帯びると分かって解消した。
ゴブリンキングやゴブリンシャーマンを一瞬で灰にした高熱化は、今後もケンノスケと俺にとって大きな武器になるだろう。
空気を抜いて【暖衣飽食】の隅に置いたケンノスケの金色の断罪剣を取り外した俺は、剣の形に巻いた糸に触れる。
高熱化による劣化が無い事を確認してから戻した俺は、布を簡単に縫い合わせた布団に包まって床に就いた。
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翌朝、食事を済ませて【暖衣飽食】から出た俺はケンノスケに空気を入れてから村へと向かった。
何か使えるものがあったら拝借したいが、やはり“弔い”は必要だろう。
しばらく村を歩き回った俺は、道端に捨てられていた骨の山から人の頭骨だけを集めて村の外れに埋葬した。
ここに来るまでモンスターはおろか獣にも遭遇しなかったのは、ゴブリンどもが周辺の生き物を狩りつくしていたからなのだろう。
先端が折れて柄だけになった農具で掘った穴に頭骨を入れた俺は、まだこちらの世界の弔い方は知らないから土を丸く盛っただけの墓を作った。
同じくお供えも何がいいか分からなかったから【暖衣飽食】から出した水を村の民家で見付けた木の器に入れて供え、近くに生えていた花も添えた。
いったい彼等の恐怖はいかばかりのものだったのか、想像すらしたくない。
骨の具合からして俺が早く山を下りていれば間に合ったものでもないだろうが、理屈を無視した後悔が胸を突く。
基本ステータスが全て1で神官になれない俺の祈りに意味があるか分からんが、せめて魂だけは穏やかな来世を過ごして欲しいと祈らずにいられなかった。
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一応の弔いを終えた俺は改めて村を回ったが、結論から言えば収穫は無かった。
今の俺に足りないのは、言わずもがな金属製品。
【暖衣飽食】で無限に作り出せる布で必要なものはそろえたが、やはりナイフかそれに類する刃物は持っておきたい。
しかし農具や工具と言った目ぼしい物はゴブリンどもが狩りのたびに使い捨てたのか、何ひとつとして残っていなかった。
そして最後に残った道具類は、俺がケンノスケを使ってゴブリンともども灰燼に帰してしまった。
他にイスや棚みたいな木製品がいくつか見付かったが、手入れどころか掃除すらしないゴブリンどもが使っていたせいで半ば腐りかけていた。
夜天光を作っていなければまだ腐っていない木材でも集めて棍のような武器でも作っただろうが、今の俺は木材を必要としていない。
結局この村で手に入れた物は、昨晩ゴブリンシャーマンを両断した時に拾った杖1本と言う結果に終わった。
この杖を道すがら調べれば、この世界の魔法について何か分かるかもしれない。
そう考えれば悪くない結果だ。
最後に形ばかりの祈りを村人に捧げてから村を出た俺は、下草に半ば隠れた道に沿って山を下りる事にした。




