3章『地上のオーロラ』:4
「最初から全力で行く!」
地面を蹴りつけ、立ち並ぶ木々よりも高く飛び上がったアストラルは、背中のブースターを激しく噴射し手近なヤタガラスに向け一気に加速した。
突撃に躊躇いは一切なかった。
攻撃のペースが判らない以上、相手のアクションを待つというのは下策だ。
こちらから仕掛け、最大限のリアクションを引き出す。
初動のリスクは小さくないが、早い段階で相手の限界が判れば、余裕を失う前に対策を立てられる。
「外部からのエネルギー供給に自給と揃ってる以上、攻撃の回数に制限はないだろうけど、ヤタガラスの数自体は有限だ!」
『数を減らせば加速度的に対応は楽になる、か。無理をするべきは最初こそだな』
ガトリング砲で地上の木々を薙ぎ払いながら、バーニングも突撃した。
ホーミングビームという攻撃の性質上、全方位から攻撃が来る可能性があるため、回避方向の制限される、周囲を木々に囲まれた状態はあまり好ましい状況ではないが、アストラルが注意を引いてくれていることを前提に、バーニングも最短で距離を詰めていく。
ヤタガラスの攻撃と、バーニングという機体の特性を考えた結果だ。
装甲と武装で重量のあるバーニングは、空中でどうしても機体が慣性に流されがちだ。ホーミングビームの強烈な食いつきから考えても、飛べばそれだけで的になりかねない。
対して地上であれば、回避が立体から平面になるとはいえ、クローラーを使ってある程度機敏な動作はできる。ホーミングビームに対する迎撃はガトリングをぶつけることになるということも併せて考えれば、結果的に確実性を持てるのは地上からの接近の方だった。
『そう強い装甲は持っていないと思いたいが……』
ヤタガラスの耐久性は未知数だ。かなりの高速で飛行しているタイミングもあったことから、そう強力な装甲を持ってはいないはずだが、ショートカノン1発で落とせるかは怪しいところだった。
本体が正八面体という単純ながら特殊な形状をしているのも、正対したときに垂直面がなくなるようにという意図も考えられる。武器を搭載した自律飛行体という時点で、戦闘を考慮されていないはずがないからだ。
「来るか!」
切羽詰まった声を上げたのは飛鳥だ。
狙いをつけて突撃していたヤタガラスが、身じろぐようにアストラルへと振り向いた。まるで睨め付けるような生々しい動きに怖気を感じるが、飛鳥はそんな感覚をねじ伏せて、即座に回避機動をとった。
鋭く軌道を変えたアストラルをぴたりと真正面に捉えて、ヤタガラスの4面から閃光が放たれた。
一度大きく膨らんでから挟み込むように迫ってくるホーミングビームを、アストラルは一気に内側へ踏み込むことで回避した。その勢いのまま、適当な狙いでフォトンライフルを引き抜きざまに発射する。
射線上のヤタガラスは、高速で飛来する青い光弾を最小限の動きで回避。直後、そのさらに後方のヤタガラスが、一斉にアストラルに向き直った。
「クッソ――!?」
あまりにも早い反応に、アストラルは踏みとどまらざるを得なかった。こちらを向いたヤタガラスからは、すでに強く攻撃の意思を感じる。
無理をすれば1つ落とせる可能性も無くはないが、欲をかいて致命的なダメージを負っていては、後が続かない。
判断は一瞬。行動も同じ。
ビームブースターを出力を抑えつつ前方へ放ち、前進から後退へと切り替える。さらに一度回避したホーミングビームが後方から迫るのを、両手のフォトンブレードでまとめて薙ぎ払った。
「ぐっ!」
だがすれ違いざまに乱雑に振るったがために、取りこぼした1発が脚部の装甲を掠めた。
直撃を避けても激しい衝撃が足を襲い、炭素繊維の装甲に浅くひびが入る。
『アスカ!』
「大、丈夫だッ!」
フィードバックされる疑似衝撃を堪えて隼斗の声に応えながら、6基のヤタガラスから大きく距離を取った。
直後に、20の光線が空を裂いた。
薄紅の光線が、蜘蛛の巣に似た幾何学模様を描き出す。
それらは瞬く間に視界の端に到達すると、アストラルめがけて殺到した。
「全部こっちか」
後方にさらに加速しつつ、アストラルは身をひねり、迫りくる光線にフォトンライフルの銃口を向ける。
「なら、来い!」
素早く放った二つの重光子弾。うち一つがホーミングビームを捉え、相殺して炸裂する。
着弾の確認すらせず、アストラルは再び身を翻す。後方斜め上に移動していた機体を、下方へと加速させる。
上方向に広がり、そこからアストラルめがけて降り注いでいた3条の光線の向きが、アストラルの進行方向とぴたりと重なる。
「そこっ!」
アストラルは降下しつつ、背中のビームブースターを真後ろにノーモーションで照射した。
僅か1秒にも満たない時間に、重光子ビームを素早くなぎはらい、まっすぐに迫っていた上方のホーミングビームを、3条まとめて撃ち落とした。
しかし、なおも迫る16のビーム群。
『アスカ、大丈夫か?』
最初にアストラルに攻撃を行ったヤタガラス目がけ突撃していたバーニングが、一度立ち止まり頭上を確認する。
そこでは未だ16の光線に追い立てられながらも、縦横無尽に激しく飛び回り、紙一重でそれらを回避し続けているアストラルの姿があった。
「問題ない何とかする! 構うな、行けッ!」
頭部を掠めるビームに喉が干上がるも、飛鳥は歯を食いしばって恐怖を堪え、力強くそう答えた。
逡巡は一瞬もなかった。
バーニングは再度クローラーを回転させ、ブースターの出力を全開にし、木々をなぎ倒して加速する。
アストラルは急上昇してまとわりつくホーミングビームを引き離し、さらに両手のフォトンライフルで2つを撃ち落とす。
残り14。
(フォトンブレードなら突っ込んでくる奴をまとめて潰せるけど、弾いたときに体勢を崩す。タイミングがずれてたら残りをモロに食らうとすれば、安易な方法は命取りになるか)
常に回避機動の選択に思考を割かれながらも、飛鳥は残りの頭のリソースをフルに活用して、状況を冷静に分析する。
アークが持つ思考補助のシステムを意図的に強く引き出しつつ、自分がすべきことに集中する。
(ヤタガラスは一旦隼斗に任せる。俺はこいつらをさっさと撃ち落として、それからあっちの加勢に回る。少しなら時間は掛けられるはずだ、確実にやる!)
決意を固めた飛鳥は、機体を急上昇させる。
島を見下ろす形になったアストラルの足元から、14の閃光が迫る。
上昇し、ホーミングビームと距離を取りつつ、両手のフォトンライフルを連射する。
軽く8発程度を怒涛の勢いで撃ち放ったが、当たったのはその内の半分程度だ。
ホーミングビームは的が小さいうえに、戦闘機動でのアストラルの最高速度に匹敵する弾速で、かつアストラルと同等以上に鋭い軌跡を描ける飛翔体だ。
十分に狙わなくては正確に撃ち抜けないが、十分に狙っていては、確保した彼我の距離が失われてしまう。可能な限りの速度で、後退しながらの迎撃が最善手ではある。
「時間はかかるが……、隼斗、一人で行けるか!」
『心配ない。こっちに攻撃は……、ッ! いや、来るか!』
ヤタガラスはもはやすぐ近くに迫っている。
だが隼斗が前方に意識を集中させたとき、バーニングへと向き直るヤタガラスが見えた。
強く、そして攻撃的な視線を感じる。
その直後、向き直ったヤタガラスの4面それぞれから、放射状に閃光が溢れ出した。
『連射はこのスピードか……! ええい!』
バーニングは素早く腕のガトリングを発射しつつ、横から迫るホーミングビームに向ける。
薙ぎ払うように打ち込み、まず一つを相殺。さらに逆サイドに薙ぎ払うようにしてもう一つも撃ち落とした。
「まだあるぞ……ぐぅ! っ、上だ! 隼斗!」
自身に迫るホーミングビームの一つをフォトンブレードで叩き落し、機体を襲う衝撃を逃がしながら、飛鳥は叫ぶ。
その間にも、もう一方の手に持ったフォトンライフルで光線を一つ撃ち落とし、身をひねりながら、ブレードからライフルへと持ち変えた手で、さらに一つを撃ち落とした。
その眼下では、上方に発射されたホーミングビームが鋭く曲がり、バーニングの直上から降り注いでいた。
『――――ッ!』
隼斗は歯を食いしばり、素早く頭上を見据える。
慣性で回るガトリングの銃身を再び加速させ、弾丸の軌跡を真上にはね上げる。一方はそれで迎撃ができる。だが迫るホーミングビームは二つだ。
迷っている時間はなく、だからこそ判断は一瞬だった。
もう一方の腕と、背中の迫撃砲を、素早く逆のホーミングビームへと向ける。
『当たってくれ……!』
間髪入れずに、天へ突きあげた砲身から一斉に砲撃を放った。
左腕のガトリングは、左上方から襲い来るホーミングビームを難なく撃ち落とす。だがもう一方は、ろくに狙う時間もなく放った、たった二発の砲弾が迫る小さな的に当たらなければいけない。
被弾を覚悟して衝撃に備えた直後、天で紫の閃光と炎が同時に爆ぜた。
『やったか。よし、なら!』
一転攻勢、バーニングは正面のヤタガラスへと狙いを付けた。ターゲットのヤタガラスは回避行動を取ろうとするが、逃す隼斗ではない。
しかし、それは撃つことができたらの話だ。
その瞬間、背筋に走る嫌な感覚に、はっと、隼斗はとっさに周囲に視線を走らせた。
『マズ――――』
言い終える前に、残り5基のヤタガラスが一斉にバーニングへと振り向いた。
停滞している時間は僅かもなかった。
20の閃光が、間髪入れずに放たれる。
『片手間には……!?』
この物量を相手にしては、バーニングも攻めの姿勢を維持できなかった。
クローラーを逆側に高速回転。前方につんのめりそうになるのを、脚部の強靭な駆動系で支え、一気に後退を始めた。
『火炎放射器は外してきたが、これならガトリングを2基にしておくべきだったかっ』
隼斗は迫る数多の光条を前に、忌々しげにつぶやいた。
バーニングの装備は以前と少し変わって、火炎放射器がオミットされ、ショートカノンが2基という構成になっている。
武装変更に伴うスタビライザーの調整試験を行っていた関係だが、今回は役に立たなさそうな火炎放射器が外された良いとして、最も役立つだろうガトリングがいつも通り1基しかないのが惜しまれた。
迫るホーミングビームを雑な狙いのガトリングの乱射で撃ち落としつつ、正確に狙ったショートカノンで更に一つずつを狙って撃ち落とす。
先ほどよりはタイミングに余裕がある分、確実に撃ち落とせるだろう。
『くっ』
だが時間がかかる上、後退しながらのためさらに距離を詰めなおすのも時間がかかる。ヤタガラス本体には、迫撃砲で狙いをつけている余裕はなく、またあったとしても、この距離では着弾までに逃れられるだろう。
『すまないアスカ、一度下がる!』
隼斗は唇を噛み、しかしすぐさまそう叫んだ。
「構わない、迎撃に集中しろ! 俺が何とかするッ!」
言うなり、飛鳥は逃げの姿勢を反転させた。
迫るホーミングビームに背中を向け、とにかく距離を置こうとしていた動きから一転、アストラルは素早く光線に向き直り、武器を構えた。
フォトンライフルだけではない。プラズマバズーカ、ビームブースターの照射モード、それぞれ2門ずつが、素早く前へと向けられた。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
咆哮にも似た叫びと共に、6の銃身から閃光が溢れた。
巨大なプラズマの塊が二つ飛び出し、薄青の重光子弾が嵐の如く降り注ぎ、その軌跡の隙間を2条の閃光が吹き荒れる。
迫る7条の光線群。
光の奔流が、それを真正面から食らいつくす。
そしてアストラルの攻撃は、そこに留まらない。
「イチか……、バチかだ!」
いくつ撃ち落としたかの確認すらせずに、飛鳥は機体を一気に前方へと加速させた。ビームブースターは使い切ったところだが、通常推力の全てを注いだ。
炸裂したプラズマの残滓を突き抜けて、アストラルはそれ自体が一個の弾丸と化したかのように、一直線にヤタガラスへ突撃した。
最初に攻撃を放った1基のヤタガラスが、アストラルに反応した。
だが飛鳥は微塵も躊躇わなかった。
機体は加速し、音速を超え、さらに速く。
(このタイミングなら……!)
攻撃の意思を滾らせるヤタガラスが、アストラルを正面に捉える。
それでも、怯まずにただ前へと進む。
ヤタガラスの4つの砲門が光を放つ、その刹那。
「ハアァッ!!」
裂帛の気合と共に、すれ違いざまに放たれたフォトンブレードの一閃が、ヤタガラスの本体を両断した。
隕石さながらのスピードで地面にまで突撃してしまったアストラルは、着地に失敗して濡れた地面に叩きつけられる。その背後で、ヤタガラスが一瞬火花を散らし、直後に爆散した。
「くっ、ぐっ、づぁ……つッ、やったか!?」
派手に地面を転がるアストラル。
飛鳥は機体の損傷などお構いなしに、ほとんど反射的にマニピュレータを地面に食い込ませ、滑る勢いを殺しながら素早く後方を伺った。
叩き切った本体は、内蔵されていた燃料に引火したのか、中心から派手に爆散していた。
上半分はまだ辛うじて原型を残しているものの、羽のパーツは派手にもげ、上部側の砲門は内から爆ぜるように砕けていた。下半分に至っては、もはや跡形もない。
完全に機能を停止したヤタガラスを見やって、飛鳥は安堵の息を吐いた。
だがその時、沸き立つ喜びの感情に、氷水を叩きつけるような、鋭い緊張感を孕んだ声が聞こえた。
『アスカ、油断するな! 様子がおかしい!』
後退の速度を緩めないことでなんとか距離を確保しつつ、ガトリングの乱射でホーミングビームを悉く撃ち落としたバーニング。
だがその中にいるはずの隼斗の声に、安堵の様子はまるでなかった。それどころか、それまで以上の強い緊張感――――あるいは恐怖感が、言葉の端からにじみ出ていた。
通信越しの声に、飛鳥もまた神経を張り詰めさせる。
――――けて
ふと、耳を打つ『音』
だが周囲を見渡すより先に、飛鳥の背筋にゾクリと悪寒が走った。
「っ……!?」
漠然とした感覚ではない。視界に映っていなくとも、はっきりとその原因が判る。
両腕を地面に叩きつけるようにして、アストラルは立ち上がり、素早く振り返った。
「インターン、か……?」
残る5基のヤタガラスを従え、その中心に立つインターンは、それまでとはっきりと違って見えた。
強く意思を感じる瞬間は、細かくだが、これまでにも確かにあった。しかし今の異様さはまるで違う。
溢れるそれは意思と呼んでいいものか。もっと混濁していて、なにより、重い。
俯いていて、視線は感じない。にもかかわらず、物理的な重圧を感じるようだと飛鳥は思ったが、それも正確ではなかった。
耳を打つ重い音とともに、厚みのある風が吹いた。
その中心はインターン。
「なっ――――!?」
不意に手が震えた。それは生理現象に近いものだったが、機体は律儀に動きに反映させていた。
機体から風が吹いた。より正確には、物理的な圧力が発せられた。
「まさか、バースト・ドライブ!?」
そう。この現象は、バースト・ドライブを発動したときのそれと似ていた。ジェネレーターより放たれる過大なエネルギーが、機体の内に収まりきらずにあふれ出す。それが光や熱、あるいは物理的な圧力となって、機体の周囲に吹き荒れるのだ。
『いや、恐らく違う。だがかなりの出力だぞ……!』
バースト・ドライブの発動に伴う衝撃は、こんなものではない。例えば周辺数十メートルにある木々は、その下の地面ごと吹っ飛ぶことだろう。
だが規模はともかく、それに類似した現象が今、目の前で発生しているのだ。
「こいつは…………」
『不味いスイッチを入れてしまったかな……』
戦慄する飛鳥。そして軽口を、しかし僅かに震えた声で呟く隼斗。
二人の眼前で、吹き荒れる風の様子が変わり始める。
乱れたテンポで圧をまき散らしていたインターン。
不定期だった木々のざわめきが、少しずつ、だが確かに一定のリズムを宿し始める。
まるで心臓の鼓動のように、ザワリザワリと風が鳴る。
気圧され、動きのとれない飛鳥と隼斗の視線の先。インターンはやはり俯いたまま、静かに力を溢れさせていた。
そして鼓動が少しずつ弱まっていく。
風が凪ぎ、豪雨のカーテンが再び視界を覆ったその時、インターンがその顔を上げ、アストラル、そしてバーニングを見据えた。
なんの予兆もなく、光があふれ出す。
「来るぞッ!」
『一度下がれ、引き受ける!』
バーニングが前へ飛び出し、放射状に放たれたホーミングビームの前に身を晒した。
入れ替わるようにアストラルが大きく後退し、バーニングの後ろに回る。
手数を面に展開できるバーニングが前に出ることで、ホーミングビームの迎撃を引き受け、その間にアストラルがヤタガラスを落とす。さっきと同じ対応を、今度は能動的に行う構えだ。
やることは同じ、加えてヤタガラスの数は減っている。
そう思っていた。
「ッ――!? 違う、避けろ隼斗ォッ!!」
危機を前に、油断があった。
隼斗は確かにその瞬間、視界の外へ飛び散ったホーミングビームの軌跡に注意を奪われていた。すべてを操る、インターンではなく。
はっと、隼斗が正面に注意を戻す。
その視界、バーニングのカメラの映像が、刹那に紅に塗りつぶされた。
『ばっ――――――――』
機体をありったけの力で翻した。過剰な動作にアクチュエータが悲鳴を上げ、自らの動きに機体がダメージを受ける。それでも、一切の躊躇なく。
直後、超速の閃光がバーニングを掠めた。
『ぐぉわッ!!!!』
冗談のような光景だった。バーニングの巨体が、その瞬間に真後ろに吹っ飛んだのだ。
回避はしていた。少なくとも直撃ではない。にもかかわらず、鋼鉄の巨人が紙くずのように吹き飛んでいた。
「なっ……!?」
振り返り、言葉を失う飛鳥。
だが絶句している余裕すらなかった。バーニングを吹き飛ばしたものと同じ、真紅の光が視界の端で瞬いた。
「インターン、……か!!」
素早く身を翻して、インターンから放たれる真紅の重光子ビームを紙一重で避ける。
掠める閃光が、機体を押しのけるほどの衝撃波を伴っていた。
腕から照射されるビームは先ほども見ていたが、今のは瞬間的とはいえ、桁外れの出力だ。
『隼斗ッ!!』
回避するなり、即座に後ろを見やるアストラル。その視線の先には、自身のなぎ倒した木々に埋もれるように、横たわるバーニングの姿があった。
『ぐっ、うぅ…………』
よほどの衝撃だったのか、バーニングは地面に手をついて、しかしまだ起き上がることができないでいた。
『アスカ君! 前!』
聞こえた通信越しの声に、飛鳥ははっと顔を上げた。
前方から迫る大量のホーミングビームは、足を止めたわけではない。
「これは……、いや――――」
視界のあちこちを走る光の軌跡。その先端が向かうのは、アストラルではない。
「バーニングか! ちぃッ!」
アストラルは迫る閃光を尻目に一気に後方へと加速。そしてバーニングの前に立ちふさがった。
『アスカ!?』
「させるかよぉおおおおおおおおおおおおお!!!!」
両手のフォトンライフルを構え、ビームブースターとプラズマバズーカを前方へと向け、一気に撃ち放った。両足を地に着け、最大限の精度を確保して一気に連射、照射する。
プラズマバズーカ一射のたびに重い反動がのしかかり、かかとの部分の土が爆ぜて飛び散る。だがそうでもしなければ、この量の攻撃を単機で凌ぐことは不可能だ。
アストラルは持てる最大の火力でもって、視界の全方位から高速で迫るホーミングビームを片っ端から撃ち落としていった。
煌く砲火、吹き荒れるプラズマ、飛び散る重光子の炸裂光、そして薙ぎ払われる雨粒と木々の破片が一瞬にして視界の尽く埋め尽くした。
「はぁ、はぁ、はぁ…………、ッ!?」
すべて撃ち落とした。そう安堵した瞬間、3条の閃光が前方にかかる煙と雨のカーテンを突き破った。
「ぐぅっ!」
アストラルはとっさに反応して、両手をフォトンブレードに持ち換え、慌ててビームを叩き落とす。
だが不安定な姿勢から行った防御は、アストラル自身の姿勢を崩すことになった。
足が地面から浮き、腕にかかる衝撃で機体が錐もみ回転を始める。
直後、さらに3条の閃光が襲い掛かった。
寸前に気付いた飛鳥は機体を逃がそうとするが、ビームブースターは直前の迎撃のため使いきった後であり急激な加速はできない。
アストラルは中途半端な速度で後方へ加速するも、襲い来るホーミングビームは圧倒的な速度で、抉りこむように突き刺さった。
「っ、ぐぅおわぁあ!?!?」
下方から突き上げるような軌道でビームが直撃し、アストラルが優に百メートル以上の距離を吹っ飛んで地面に叩きつけられた。
『馬鹿げてる、なんて出力だ……。ぐ、アスカ……!』
バーニングはその巨大な腕を地面に押し付けて、何とか機体を起こす。
「ち、っくしょお…………」
激しい衝撃に、飛鳥の意識が混濁する。
被りを振って振り払うが、身体はすぐに元に戻っても、機体のダメージはそうではない。
僅か3発の直撃でありながら、地面に叩きつけられたことも含めて、強烈なダメージを既に負っていた。ホーミングビーム、特に本体からのそれに秘められた威力の、その大きさがうかがいしれた。
そしてヤタガラスが攻撃を始める前に、本体からの攻撃を防御した時よりも、明らかに威力を増している。
アストラルは引きずり木々に埋もれて、仰向けの状態から上半身をかろうじて起こして、インターンを見据える。
「愛…………ッ!!」
歯を食いしばる飛鳥の視線の先。
五基のヤタガラスの中心に立つインターンが、いまだ揺るがぬ、鋭い敵意を迸らせていた。




