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アークライセンス  作者: 植伊 蒼
第7部-始祖の末裔-
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3章『欧州連合』:9

 模擬戦を終えたアストラル達東洞側の3機は、海を越えて出撃したハンガーへと戻った。

 まだ飛行の出来る状態だったアストラルとホライゾンは自力で戻り、メインブースターが破壊され飛行の出来なくなっていたバーニングだけは、貨物船に乗って戻ることとなった。

 また、撃破され機能を停止していたEU側の3機は、それぞれ運搬用の重機などを使用して大型の戦艦にまとめて乗せられた後、アストラル達同様に元のハンガーへと戻されていた。

 飛鳥と泉美は帰還中、海上で数隻の船舶を見つけた。どうやら戦闘で破損した装備や、パーツの破片などを回収するための要員が送られていたらしい。

 模擬戦を行う程度の関係ではあれど、それはそれ。アークはパーツ単位、あるいはその破片程度であっても、研究能力のある組織にとっては情報の塊となる。むやみに外部に残すわけにもいかないようだ。

 当然そういった部品の回収はアメリカでの模擬戦の際も行なわれたわけだが、当日終わってすぐというほどせわしなかったわけではない。スケジュールに余裕があるかという点にも確かに違いがあるが、それだけが理由ではないだろう。

 細かなところに、アメリカやオーストラリアとの合同研究の時とは違う、互いを信用しきっていない雰囲気のようなものが感じられた。

 なにはともあれ、東洞側の被撃破機体は0機。完全勝利である。

「ナイスサポートだったよ、泉美」

「あんたも、今日は良い動きだったよ。おつかれ」

「ああ」

 テレポートを使って機体から降りてきた飛鳥と泉美は、軽くハイタッチをしながら互いの健闘を称えた。

「3対3ってのは始めてだったけど、案外上手くやれた感じか」

「あたしはもっと早い段階から前に出ても良かったかもね、結果論だけどさ。アストラルとバーニングに釘付で敵がこっちに来なかった分狙撃に集中できたけど、それだけ二人に負担を掛けてたわけだし」

「でも泉美が狙撃に集中してくれてたから、そっちを守ることは気にしなくてもよかったんだ。実際どっちが良いかってのは、結果からはわからないだろうさ。ま、今回は隼斗も大活躍って感じだったしな。全員それなりに上手くやれてたとは思うぞ」

「それもそっか」

 今回の勝利にはいくつもの要因があるだろうが、飛鳥達がそれぞれの役割をしっかり果たせていたというのが大きな要因の一つだろう。

 アストラルは前線に出て注目を集め、それでいて被弾は最小限。バーニングは被弾こそ多かったが、持ち前の頑強さで競り勝ち、一番の脅威であったリフレクトが持つ反射能力の制約を暴いた。ホライゾンは読心能力を封殺されながらも、要所の狙撃で前線の二人をサポートし、なおかつ自らが危機に陥ることは無かった。

 EU側の3機とは違い綿密な連携という点ではあまり優れなかったが、それぞれが互いをカバーし合う息の合った動きと、単純なパイロットの腕で勝ったというところである。

「つっても、そもそも向こうの連中があんまり戦い慣れてない感じはしたな。連携はユナイテッドの能力もあって凄かったけど、一機ずつなら大したこと無かった気がする」

「撃破した時もそれぞれ1機分のコードしか出なかったことを考えると、そもそもアーク同士での戦闘をやってないんじゃない? シミュレーターは日米しか持ってないんでしょ。ここはどちらかというと通常戦力との戦闘をメインに考えていたみたいだし、単純に対アーク戦の経験が少ないってことだと思うわ」

 簡潔にまとめた泉美が、軽く肩をすくめる。

 大きな要因としての二つ目は、結局のところそこになる。目立ったポイントとしては目の前の敵から注意を逸らすとことが多かった事だが、他にも受けに回った時の脆さを感じる事は多かったのだ。

「耳が痛いな」

 英語の、聞き慣れない声が聞こえた。

 飛鳥達は話を止めて、声の元へと視線を向ける。視線の先には隼斗を先頭に、同年代らしき3人の見覚えのない少年というか青年たちが続いていた。

「おお、隼斗。その人たちは?」

 尋ねる飛鳥。

 少し距離を開けて足を止めた3人と離れる形で、隼斗は飛鳥達の方へと合流する。

「お疲れ、二人とも。彼らはさっき戦った3機のアークのパイロットだよ。船から機体を出した時にたまたま会ってね、お互い挨拶ぐらいはしようってことになったのさ」

「相変わらず律儀だな」

 飛鳥の軽口には答えず、隼斗はEU側の三人を振りかえった。

 しかし隼斗が口を開くのに先行して、一人の青年が前に出る。さきほど飛鳥達の会話に一言言った、白い肌の青年だった。

 彼は茶色が褪せたような色の髪を軽く掻きあげると、

「俺はユリウス=クルーガー。ドイツ、ゲルトパンツァーのコードRのパイロットをやらせてもらってる。そしてこっちがコードUのシリル=オリオール、こいつがコードQのダリオ=ブルーニだ」

 ユリウスと名乗った少年は、右隣りの中性的な容姿の少年、そしてその奥の黒い短髪の青年を順に示してそう言った。

「あーれ、名乗ろうと思ってたのに。まぁいいや、ダリオだ。イタリア、CNTのクワイエットに乗ってる」

「シリルです。僕はフランス、アリオーのユナイテッドに。よろしく」

 一応の紹介を受けながらもダリオ、シリルの二人は順番に簡単な自己紹介をした。

「僕はさっきも言ったから、いらないか」

「じゃ。俺は星野飛鳥。そこの……アストラルのパイロットをやってる」

「あたしは本郷泉美。ホライゾンのパイロットよ」

 振り返って機体を指さしながら言う飛鳥と、特に補足なしで簡単にまとめる泉美。あくまで慣れ合う気はない、というのが泉美のスタイルのようだ。

 そうして互いに挨拶を交わしたところで、ダリオが気だるげにボサボサ髪を掻いて口を開いた。

「ユリウス、終わったのならこれでいいか? 俺もう疲れちまったよ」

「施設の案内を頼まれたのは忘れたのか。相変わらず脳が仕事をしていない奴だな」

「頼まれたのお前だろ、俺はお前から聞いただけ。さぁってシリル、飯食いに行こうぜ、良い店知ってんだ」

 ガッ、と無理矢理シリルの肩に手を回しながら、ダリオは勝手な調子で言う。

 シリルは窮屈そうにしながらも、戸惑った様子でこう答えた。

「え、僕も? そんな、ユリウスに悪いよ」

「いいんだよ、面倒なことは任せとけって。ほらほら行くぞ」

「ちょ、ちょっとダリオ!?」

 抵抗するシリルだったが、二回りも背丈の違うダリオに無理矢理引っ張られては、抗いきることはできないようだった。それでもなんとか首だけ振り返って、棒立ちで見送るユリウスの方を向いた。

「ごめんユリウス、お詫びはまた今度ー!」

「構わん! 気にするな!」

 声を張ったユリウスは遠ざかるシリルにそれだけ言って、軽く手を振り二人を見送った。

 ダリオは適当というか自由な性格で、ユリウスは真面目、シリルはそんな二人の弟分といったところだろうか。

 なんとなく性格の見えるやり取りに、飛鳥も苦笑気味になる。隣を伺えば、隼斗も同じような顔をしていた。泉美は興味なさげに明後日の方を向いていたが。

 ふぅ、と一つため息をついて、ユリウスは飛鳥達の方を振りかえった。

「悪いな、勝手な奴で。ダリオの事は恨んでくれて構わん」

 申し訳なさそうにしつつもどこか不機嫌さを感じさせる態度のユリウスに、隼斗は笑って返す。

「仲良いんだね、君たちは」

「何かと一緒にいることが多いのでな。それにこういう立場だ、いざという時に背中を預ける相手と、喧嘩はしないさ」

「なるほど、そういうことか」

 隼斗の言葉は冗談交じりのものだったが、ユリウスはあくまで真面目な態度でそう答えた。

 彼は一つ咳払いをすると、改めてこう告げる。

「実は君らにこの施設の案内をするように言われているんだ。忙しくなければ、付き合ってくれないか?」

 隼斗は頷いて、飛鳥達の方を伺った。

「そういう話だったね。僕らに予定はないから、お願いするよ。飛鳥達も問題ないよね?」

「ま、そりゃ何も指示されてないしな。遥さん達もそのつもりなんだろ」

「でしょうね。あたしも問題ないわ」

 というわけだ、と二人の返事を聞いた隼斗はユリウスにそう答えた。

 ユリウスは満足気に頷くと、飛鳥達を手招きしつつ、ハンガーの出入口の方へと足を踏み出す。隼斗もそれに続いた。

「案内、か。どういうつもりなんだろうな」

「……さあ?」

 怪訝な表情で顔を見合わせる飛鳥と泉美も、とりあえずといった調子で隼斗とユリウスを追い掛けた。



「ここがアリオー中心の研究区画の最後の一つだ。まぁアリオーもゲルトパンツァー同様に研究所本部ではないから小規模だが、ユナイテッドの可動推進翼のスペアも、今日は持ってきているらしい。まぁこれは今回日本側に見せるために持ってきたものだろうな」

 ここはイタリア、ターラントの研究施設であるわけだが、つまりCNTの本社がある場所でもある。EUアーク総合研究所に協力している企業の中核である3社の中でも、他2社に比べてCNTの研究区画は二回りほど大きかった。

 かれこれ1時間弱ほどの時間が経って、飛鳥達は研究所内の施設の案内を一通り終えていた。

 あまり詳しい話はせずに、どこに何があってそこで何をしているか程度の簡単な説明だったが、なかなか広さがあったため結構な時間がかかってしまった。

 今彼らがいるのはアリオーがメインの研究区画の一つである。

「最後に、そこのシャッターの奥に……うーん、少しわかりにくいな。あぁ、一応見えてるんだが、その建物の中に既存のVTOL機をベースにした新型輸送機の開発がされてる」

「輸送機?」

「ああ、アーク用のな。3機のアーク、もしくは1機のアークとその整備空間を丸ごと運べる、飛行空母とも言える程のかなり大型の物だ。アークは単独で飛行できるし燃料の心配もいらないわけだが、現地で機体を整備できる空間ともなれば使える状況もある。あとは単純に機体に負荷をかけずに長距離を運ぶぐらいだな。ただこいつの開発が少しばかり難航しているんだ。今回協力を依頼した理由の一つは、そんなところだ」

 質問というほどでもない隼斗の疑問に、ユリウスは丁寧にそう返した。

「何か聞きたい事はあるか? 俺が把握している範囲はそう広くないが、答えられることなら答えよう」

「いいさ。十分細かく教えてもらったよ」

「そうか、それならよかった」

 役目を果たせたことに安堵したらしく、ユリウスはわかりやすく胸をなでおろした。

 ユリウスの案内は、お世辞でも無く十分にわかりやすいものだった。深い話はさすがに無かったが、ある程度なら詳細な話もしていたし、特別何かを隠すような態度を取ることもなかった。

 ただ、飛鳥にはそこが引っかかったのだ。

「でもなんでこんなに詳しい話をしてくれたんだ? あんまりあれこれ教えて、そっちが得するようなもんでもないだろ?」

 飛鳥の言葉にユリウスは逡巡する態度を見せるが、少し間をおいて肩をすくめた。

「このぐらいの情報なら、お互い研究所の職員同士でかわされているだろう。あとは君たち日本のアーク研究機関とは仲良くしておきたいのもある。真面目な話、今の俺達よりも明らかに強いからな。不信感を持たれて、争いごとを起こしたくはないんだ」

「…………」

 少なくとも飛鳥には、ユリウスの言葉に嘘は見えない。

 しかし額面通り受け取るなら、間違っても日本と戦争は起こしたくないとか、そういうニュアンスの言葉だ。友好的な態度が生き残る術としての強かさの表出に見えてしまって、それが目の前の男に対する不信感になった。

 ピリピリとした緊張感が肌を引きつらせる。

「お前たちは、アークを使って戦争が起こるとでも思ってるのか?」

 結局、迂遠な言い回しができずに、飛鳥は直球でそう尋ねた。

 ユリウスは首を横に振る。

「そうなって欲しいという気持ちは一切ない。ただ少なくとも俺個人としては、結果的にそうなってしまう可能性は小さくないと考えている。そしてその時は恐らく、アーク同士の戦いが、そのまま戦争の決着になってしまう可能性も」

「……そうか」

 苦虫をかみつぶしたような表情で押し黙る飛鳥。

 ユリウスもどこか割り切れない表情で、それでも静かにこう続けた。

「どうあれ、自分のすることを全て自分で決められるとは思っていない。政治や宗教のぶつかり合いがそのまま戦争になって、俺達を戦場に引きずり出すかもしれないだろう。だから戦場に立つ可能性は考えているし、逆にそれを避けるための努力はする。負っている責任は、決して小さくないはずだ」

「そう、だな……」

 顔を俯ける飛鳥。

「アスカ?」

「……なんでもない」

 心配げな表情で顔を覗き込む泉美に、飛鳥は首を振ってそう答えた。


 全て自分で決められるわけではない。

 そんなユリウスの言葉は、この模擬戦を終えてなお、飛鳥の心に楔のように突き刺さり続けるのだった。

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