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アークライセンス  作者: 植伊 蒼
第7部-始祖の末裔-
213/259

3章『欧州連合』:8

「隼斗ッ!」

 反射が切れるや否や、叫ぶような声で告げる飛鳥。

『わかっている!』

 タイミングを見計らってアストラル達の元へと接近していたバーニングは、後ろに移動しながら、追いかけるクワイエットに大量のガトリング弾をばら撒いていた。

 アストラルの位置からも、リフレクトの後方で交戦する2機の姿が辛うじて見えた。

 リフレクトを撃破するためにも、ここはクワイエットを引き離さなければならない。しかしアストラルとクワイエットを結ぶ直線上には、リフレクトが立ちはだかっていた。

 飛鳥がそう考えたとき、リフレクトは両手の散弾を同時に発射した。

「ちぃッ!」

 アストラルは上下逆さまのまま下方に加速する事で、ギリギリで散弾を回避する。

『それ使って!』

 聞こえた泉美の声に、飛鳥ははっとなる。

 リフレクトの後方両脇にそれぞれヒスイが一枚ずつ浮かび、既にエアロゾル膜を展開して待機しているのが見えたのだ。

「そういうことなら! フルロードだ!!」

 アストラルの両手に握られたフォトンライフルの銃口に、光が集まる。一瞬の後、下降を続けるアストラルの二つのフォトンライフルから、大きな重光子が同時に放たれた。

 それらはヒスイの展開する膜にあたるとその場で屈折し、バーニングを追うクワイエットへ真っ直ぐ突撃する。ガトリングを回避するクワイエットの移動方向に、光弾の軌道はピタリと重なっていた。

 直撃寸前で手甲鉤を割り込ませたクワイエットだが、着弾衝撃を逃がし切れずに姿勢を大きく崩してしまう。そこにダメ押しとばかりに放たれたバーニングのショートカノンを受けて、そのまま後ろへ大きく吹き飛ばされた。

 クワイエットの迎撃を済ませるなり、素早く反転したバーニングは即座に脚部装甲を展開する。そこから8発のミサイルを一斉に射出した。

 突然のミサイルアラートに驚いたのか、その場で振り向こうとしてしまったリフレクト。

 その正面でアストラルは地面すれすれで宙返りしつつ着地。すぐさまリフレクトに向き直ると、間髪いれずに全力のサマーソルトキックをその腹部に叩きこんだ。

「これでもっ、食らえ!」

 リフレクトの腹部につま先を押しつけたまま、アストラルはビームブースターを短く噴射して一気にリフレクトを蹴りあげた。

 さらには空中に撃ちだされたリフレクトに、バーニングの放ったミサイルが下方から食らいついた。息つく間もない連続攻撃に、リフレクトは成すすべもなく空中に押し上げられる。

 だが地上を駆けてそれを追うバーニングが、唐突に機体をひるませた。

『ぐっ!!』

 遠方のクワイエットが必死に撃ちだした掌部武器の重光子弾が、運悪くバーニングの背部ブースターを直撃したのだ。

「隼斗!?」

『構うな、行け!!』

 橙の光弾はさらに続いていたが、ヒスイが間に割り込むことでバーニングを守っていた。メインブースターに被弾しながらも、バーニングはなおもその足を止めていない。

「チィッ、ガンサバイブ、機能停止!」

 リフレクトを蹴りあげたアストラルは起動していたガンサバイブの機能を停止させ、即座に地面を蹴りつける。

 ミサイルの着弾衝撃で身動きの取れないリフレクトの背後に、アストラルが躍り出た。その両手には青い光刃が構えられていた。

「止めは任せたぞ!」

 アストラルは両手のフォトンブレードを全力で振り抜き、リフレクトの背中を切りつけた。

 上方へと打ち上げられていたリフレクトが一転、地表へと吹き飛ばされる。

 そしてその下方にはバーニングが待ち構えていた。

『おおおおおっ!』

 突きあげられたバーニングの左拳が、高速で落下するリフレクトの胸部を打ち抜く。その直後、左腕のパイルが打ちだされた。

『バスター・パイル!』

 耳を覆いたくなるような激しい金属音が響き、リフレクトの機体が一瞬痙攣したように震える。

 僅かな後、発光体だけでなくコアの光すらほぼ失ったリフレクトが、静かにその機能を停止させた。

 動かなくなったリフレクトを、その場に下ろすバーニング。

 地上に横たわったリフレクトのコアからコードが飛び出し、アストラル達3機のコアへと飛翔して吸い込まれた。

【アーク・リフレクト撃破

 コードR 取得を確認

 一部システム領域に対し、管理者権限を解放】

 コード取得のシステムメッセージが流れ、リフレクトの撃破を疑いようのないものにした。

 地上へ降下したアストラルは、バーニングの横に立つ。

「大丈夫か、隼斗?」

『問題ないが、速度が出ないな……。クワイエットはこっちでなんとかする。アスカはユナイテッドの方へ向かってくれ』

「……いいのか?」

『信じろ』

 隼斗の臆する様子の無い言葉。

 アストラルは一つ頷くと、ユナイテッドとホライゾンが交戦している方向へと駆けて行った。

 アストラルを見送ったバーニングは、クワイエットのいた方向を指さした。

「本郷、手を貸してくれ。そこの建物の影にクワイエットが隠れているはずだ。燻り出して欲しい。一瞬で落とす」

『わかったわ』

 泉美の承諾の言葉を聞くと、隼斗はとっておきを放つ体勢に入る。

「マルチバレットガトリング、最大口径」

 指定した建物にガトリング砲を向け、そう宣言する。

 金属繊維の束で作られたガトリングの砲身がその形状を変え、口径を二回りほど巨大化させた。

「弾帯接続解除、残弾排出。次弾はサーマル弾、弾帯射出」

 ガトリング砲に接続されていた金属製弾帯の先端が弾かれ、蛇のようにのたくりながら背部のバックパックに吸い込まれていく。入れ替わるように、一回り大きな弾帯がバックパックから飛び出した。バーニングは左手でそれを掴むと、ガトリング砲の給弾部に接続する。

「履帯展開、ダンパーアクティブ」

 クローラーが展開し接地すると、バーニングの脚部と接続されていた部分がわずかに浮き上がる。普段は使われていない耐衝撃ダンパーが、バーニングとクローラーを接続する部分に組み込まれたのだ。

「外部量子コンピュータ起動、バーストショット発動。姿勢制御システムハック、慣性制御システム停止、対衝撃性最大、モードT。全余剰エネルギーを火器へ集中。エネルギーライン最適化、完了。砲身回転開始」

 システムの変更を完了させ、ガトリングを装備する右腕に左手を添えると、ついに発射態勢への移行を完了させた。太くなったガトリングの砲身が静かに回転を増していく。

 それとほぼ同じタイミングで、クワイエットの隠れる建物の上方にヒスイがやって来る。そこに搭載された高性能のカメラは、能力を使って隠れた気になっている地上のクワイエットを正確に捉えていた。

『タイミングは?』

「任せる」

『わかった。……右に追いだすよ』

 泉美がそう言うなり、上空を紫の閃光が突き抜けた。

 アマツバメの光弾はヒスイが展開するコロイドの膜に命中すると、ほぼ直角に軌道を曲げてクワイエットの頭上から襲いかかった。

 建物の壁に背を預けていたクワイエットは寸でのところで気付き、光弾を掠めさせながらも右方向へ飛退き回避する。だがそれは、泉美が宣言した通りの動作だった。

 飛び出すクワイエットに、ピタリと向けられたガトリング。

「マルチバレットガトリング・サーマルモードッ!!」

 言葉と共に、ガトリングの砲口が火を噴いた。

 それは比喩ではない。砲口それ自体が爆発したかのように、猛烈な炎を吐きだしたのだ。

 放たれたのは確かに砲弾だった。だが砲身内部で火薬の炸裂をバーニングが持つ灼熱能力によって増幅され、弾薬後部がプラズマになるほどの高熱を受けた砲弾は、その膨張圧の力をも借り、レールガンに匹敵する弾速と鉄すら溶かす高熱を伴って発射されたのだ。

 発射の反動が周囲の空気を振るわせる。ダンパー越しに巨体を支えるクローラーが軋み、大地を覆うアスファルトに蜘蛛の巣のようなヒビが入る。それでもなお、掃射は止まない。

 恐ろしい弾速で、且つ連続で襲いかかるガトリング弾。毎分数百発に及ぶ大口径弾の掃射は、視界を埋め尽くすほどの炎を纏い空を切る。

 クワイエットには、防御も回避もできなかった。ただ地獄の業火の如く迫る火炎弾をひたすらに浴び、ものの数秒で全身の装甲を粉々に砕かれてしまう。そうして抵抗らしい抵抗を見せぬまま、冗談のように吹き飛んで行った。

 当らなかった砲弾が遠方の景色すら一瞬で書き替えてしまう中、バーニングは赤熱したガトリング砲をゆっくりと下ろす。

「よし、これで二つ目だ」

 驚くほどにあっけなく、クワイエットは機能を停止した。


【アーク・クワイエット撃破

 コードQ 取得を確認

 一部システム領域に対し、管理者権限を解放】


「隼斗がやってくれたのか!」

 ユナイテッド達の元へ急ぐアストラルのコックピットの中で、飛鳥は歓喜の声を上げた。

 メインブースターを破壊されていながら、ほぼ単機でクワイエットを沈めた隼斗の手腕はさすがの物だ。

 自分も負けていられない、と対抗心を燃やす飛鳥は、遠方にユナイテッドとホライゾンの姿を認めた。

「泉美、そっちは無事か」

『無事は無事だけど、決定打が無いからずっと持久戦。読心を使ってもダメージを抑えてくるから、こっちも残弾カツカツだわ。話す余裕はあるくらいなんだけどさ』

 目を凝らすと、周囲をヒスイに囲まれながら空中を泳ぐようにサブマシンガンの射撃を回避するユナイテッドの姿が見えた。

 ホライゾンは常に連射をし続けるのではなく、要所要所で数発を撃ち込んでユナイテッドに反撃をさせないようにしている様子だった。

 ホライゾンの射撃武装は、重光子兵器でも弾数に限りがあるものがほとんどで、撃ち切った後はリロードまでに時間がかかる。使いでのよいデュアルサブマシンガンがあるが、こちらも弾切れのリスクはあるのだ。

 口ぶりだけは余裕そうだが、ホライゾンという機体の継戦力の限界は避けられないようだった。

「そういうことなら」

 少し離れた位置で、アストラルは周囲より高いビルの屋上に降り立った。

「一撃で決める、動きを止められるか?」

『少しだけなら』

「おっけ、なら久しぶりのコイツだ。アストラルチャージ!」

 右手を空に掲げるアストラル。ビームブースターとプラズマバズーカがX字に展開し、直後に機体の表面が強い光を放った。掲げられた右腕と機体、そして武器のシルエットが*の形の光を形作る。

 その眩しいまでの輝きはユナイテッドにも見えていたことだろう。だがライフルを遠方のアストラルに向けたところで、射線にヒスイが割り込んだ。

『これで終わりなら、派手にやっちゃうわよ。残り全部持っていきなさい!』

 ユナイテッドの放つロングレンジライフルの軌道を逸らした直後、ホライゾンは展開させていたヒスイを全て回収しつつ、背部のミサイルランチャーから8発のミサイルを発射した。

 自動帰還ならば、ヒスイはホライゾンの火器管制を圧迫する事は無い。

 上方へ飛び上がったミサイルは鋭角に軌道を曲げると、ライフルを発射した直後のユナイテッドへと一斉に襲いかかった。

 そしてそれらは真っ直ぐにユナイテッドに突撃したのではない。一部は左右から、一部は上から、一部は後ろから。まるで意思を持ったように宙を舞い、爆薬の檻でもってユナイテッドの退路を断ったのだ。

 その動きに気付いたユナイテッドはミサイルを破壊しようとするが、ガトリングを失った今、それに適した武器はせいぜいが片手のライフルのみ。8発のミサイル群を退けるにはまるで足りない。

 それでも何とか檻をこじ開けるべく、即座に振り返ったユナイテッドは背後のミサイルを正確に撃ち抜いた。

『――隙だらけよ』

 だがその行動は、すなわち対面していたホライゾンに背を向けることと同義だった。

 静かに構えられたリボルバーグレネードから榴弾が撃ちだされた。放たれた榴弾は真っ直ぐにユナイテッドの背中に吸い込まれると、そこで起爆。

 ひるんだユナイテッドに、残り7発のミサイルが立て続けに襲いかかった。

『アスカ、今よ!』

「オッケー。出力30パーセント、あれば十分! いくぜ、アストラルカノンッ!!」

 全包囲から襲いかかる爆圧に機体の動きを完全に止められたユナイテッドに向かって、アストラルの腹部から荷電粒子砲が放たれた。

 ベルトのバックルのような小型の砲身から、サイズ比を無視したかのような莫大な光の渦が吐き出される。

 たったの30パーセント。それでも空を切り裂いたのは、機体1機を悠々飲み込むほどのあまりにも強力な荷電粒子の奔流だった。

 尋常ならざる破壊に呑まれ、ユナイテッドは成すすべもなく吹き飛ばされる。

 太陽よりも眩しい閃光がやがて消え失せた後には、音もなく浮かぶユナイテッドのコードがあるばかりだった。

【アーク・ユナイテッド撃破

 コードU 取得を確認

 一部システム領域に対し、管理者権限を解放】

 勝敗は決した。

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