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アークライセンス  作者: 植伊 蒼
第7部-始祖の末裔-
208/259

3章『欧州連合』:3

 お互いに距離をとり、様子を伺う状態になった東洞サイドとEUサイド。

 建物に機体をそわせるような形で、アストラルとバーニングは身を隠していた。

 一部を除いて、基本的にはアークにステルス機能はない。ただ推進系や武装等を使用していない限りは、放熱などは非常に小さいという特徴がある。そういう意味では非動作状態のアークには、レーダー及び光学センサに対する物を除いて、一定のステルス性があるのだ。

 つまりこうして身を隠して動きを止めている限り、遠方から捕捉される危険は小さいということである。

「クワイエット、ギリギリだった。見えてたのか? こっちは直前までセンサーに反応が無かった。なんだったんだあれは……」

 先ほどの強襲の瞬間を思い出しながら、飛鳥は戦慄を感じさせる声音で呟く。

『こちらもセンサーに反応は無かった。レーダーもそうだし、熱も音もどちらもな。だから捕捉したのは僕じゃない。彼女さ』

 隼斗がそう言うと、バーニングの背後から黒い板が一枚飛び出してきた。

「それ、ヒスイか?」

『そういうこと』

 通信で声を飛ばしてきたのは、遠方から機をうかがっている泉美だった。

 どうやらホライゾンはヒスイという『目』だけを飛ばして、バーニングのサポートをしていたらしい。

『センサー系に反応が無いのは二人の言う通り間違いないはずよ。ただ光学的には捕捉できた。機体が黒い影みたいになっていたのが見えたわ。恐らく、あれがあの機体、クワイエットの能力。ステルス系のね。たぶんだけど、機体の表面にフィールドを展開して、内部からのエネルギーを閉じ込めてるんだと思う。熱は周囲温度に合わせて一定量を放出しているみたいだけど、可視光はほとんど透過していないみたい』

「だから影に……。となると、最初にレールガンをぶっ放してきたのはあの機体なのか?」

『十中八九そうだろう。あれほどの出力の兵器が、発射の瞬間まで何の反応も無いとは考えづらい。断定するのは危険かもしれないが、クワイエットの能力はステルスと見ていいだろう。光や音まで外部に漏らさず、一定量のみの熱量だけを放出するというのが、後付けの装置で実現可能な機能だとも思えない』

『まぁそういうことね。見てさえいれば、ステルスを使われても捕捉はできる。ただセンサー系にはアークとして反応しないから、FCSが黒い影を敵として認識してくれないのよ』

「つまり?」

『ミサイルが使えない。あと照準の修正をアーク側からやってくれないから、全部手動で狙わないといけなくなる。かなり当て辛くなってるわ』

 基本格闘攻撃をメインに、射撃も近距離で行なうアストラルにはそこまで大きな影響は無いだろう。逆に超遠距離から、狙撃の精度で当てていくホライゾンには影響が大きいだろう。ホライゾンの高い狙撃能力は多分にパイロットである泉美の能力に依存する部分があるとはいえ、機体からの補助も当然大きい。それが丸ごと無くなれば、狙撃の精度も落ちるだろう。

 多少の影響は受けるだろうが、隼斗は落ち着いた様子でこう言った。

『それでも見えるのは見えるんだ。とにかく、3人の内誰か一人でもクワイエットを常に視界にとらえておけばいい。互いに指示を出し合えば、背後を取られる心配もないだろう。……こうもわかりやすい欠点なら、向こうも対策はしてきているだろうが』

「一瞬でも相手の目を潰せればいいわけだしな。フラッシュのジャミングロケットみたいなものでも持ってると見たほうがいいか」

 だとすれば厄介だな、と飛鳥は唇を噛む。

場合によっては正面から目つぶしをしてステルス能力を使ってくるという強引な手段に出てくる可能性もあるということだ。視界にとらえているからといって油断はできない。

 能力の仕様か、攻撃の直前には姿を現すといっても、先ほどと同じように他の機体と連携して来られては対応しきれないだろう。

「だったら、ホライゾンの読心能力で相手の狙いがわかったりはしないのか? 誰を狙ってるかわかれば――」

『残念だけど、できそうにないわ』

 飛鳥の言葉を遮ってそう言った泉美は、忌々しげにこう続ける。

『ノイズが酷いの。思考を読もうとしたら、何人かの思考がまとめて聞こえてきて、何を考えてるのかがほとんどわからないのよ』

「なんだそれ、そんなことできたのか?」

『ホライゾンじゃないわよ。恐らく向こう側の機体の能力だと思う。こんな干渉を受けたのは始めてだから、詳しくはわからないけど、クワイエットのステルスと同じで後付けの装置でどうにかなるようなものじゃないはず。……とにかく、読心能力は使いものにならなそう』

「また能力か、全く面倒だな」

 理屈は全く分からないが、ホライゾンの能力は使えないということのようだ。どうやら陽動と撹乱にだけ集中して、敵に対する攻撃を全てホライゾンに任せる、などというパターンは無くなってしまったらしい。

 言葉通り面倒くさそうな表情を浮かべて、飛鳥はビルの陰から向こう側を伺う。

「わかった。とりあえず泉美は無理せず後方から支援で頼む」

『了解。クワイエットはこっちで捉えておくから、指示は聞き逃さないでよ、二人とも』

「オッケー」

『わかった。……よし、アスカ、仕掛けるぞ』

 飛鳥と同様にビルの陰から向こうを伺うバーニングの姿が、視界の端にチラリと映り込む。

『クワイエットの能力を考えれば、後手に回った分だけ不利になる。大まかな位置はわかるな? 先手を取ろう』

「任せろ!」

 地面を蹴って、アストラルがビルの向こうへと飛び出した。バーニングも脚部のクローラーを展開して、アストラルの後ろに続いて行く。

 一度索敵をして反応を記録しておけば、ある程度接近した時点でセンサーが敵を見つけてくれる。

 同時に相手からも発見されるわけだが、先に動いておけば相手に対応を強いることができる。何より、EU側に先行されると初手からクワイエットに裏を取られた状態で始まりかねない。それが危険な状況であることは明白だった。

『まずはリフレクトとユナイテッドの能力を割り出せれば良い。その能力が起こす現象次第では、ホライゾンの読心能力に干渉している能力を持っているのがリフレクトなのかユナイテッドなのかはっきりする。そちらを優先して落とす』

「能力がはっきり分からなかったら?」

『両方落とせばいい。なんにせよクワイエットは後回しだ。時間がかかる』

「了解、そのつもりで行く。反応あった! 突っ込むぞ、後ろは頼む!」

 センサーからの反応で、建物の裏に3機の存在を感知したアストラル。敵からも感知されていることを前提に、背部ブースターを噴射して一気に接近する。

 ブースターのノズルが煌めく青い焔を吐きだしたのと、ビルの陰から敵機が姿を現したのはほぼ同時だった。

 現れたのは黒い機体、リフレクト。既に右腰の高速榴弾砲を構えている。

 加速しながら接近するアストラルに対し、正確に高速榴弾砲で狙いを定めつつ、両肩のチェーンガンを掃射した。

 軌道をずらし下方へ回避したアストラルに向け、すぐさま高速榴弾砲を発射するリフレクト。

「だろうな!」

 リフレクトの行動を読み切って、飛鳥はそう声に出す。

 榴弾が発射される寸前に地面を蹴り飛ばしたアストラルは、足を丸めて空中で縦に一回転する。足元の地面に突き刺さった榴弾の爆風を飛び越えて、さらに前方へ飛びだす。

 数発掠めながらも、アストラルはチェーンガンの射線の上を取ると、肩越しにビームブースターをリフレクトへと向けた。

 即座に反応したリフレクトが建物の影に隠れるが、構わず2条の閃光を真っ直ぐに放たった。

「砲撃モードだ、よく見ておけよ!」

 そう言う飛鳥の言葉と共に、砲撃モードのビームブースターから吐き出される2本の重光子ビームが、リフレクトが隠れたビルの外壁を深く抉る。

 だがついでとばかりにフォトンライフルを撃ちこもうとしたタイミングで、背後にロングブレードを構えたユナイテッドが飛び出してきた。

「後ろか!」

『余計よ、無視して!』

 泉美の声が聞こえた直後、紫の閃光がユナイテッドへと襲いかかった。

 既でのところで反応したユナイテッドが純白のロングブレードを割り込ませたが、炸裂する重光子弾から発された力によって、ブレード発生装置がマニピュレータからもぎ取られてしまう。

 背後で起こった事態を気配で察知しつつ、アストラルは改めてフォトンライフルを発射。リフレクトが身を隠すビルを倒壊させた直後、振り返りつつユナイテッドへ攻撃を行う。

「外した!?」

 だが放たれた後ろ回し蹴りは、空を切った。

 その場で下方へ潜るように攻撃を回避したユナイテッドは、放り出されたブレード発生装置をキャッチし、滑らかな挙動で宙返りをしつつ上空へと飛び上がる。

 即座に両手をブレードに持ち換え追い立てるアストラル。

 上昇するユナイテッドに対しバーニングが地上から迫撃砲を放つが、わずかに装甲を掠めただけだ。

ユナイテッドは構わず空中で反転すると、背部の大口径砲を左肩越しにアストラルに向ける。

 発射された緑の光弾は、とっさに両手のブレードを交差させたアストラルの眼前で拡散した。

(散弾だと……!)

 小さな重光子の雨となった散弾砲の光弾は、フォトンブレードの防御を掻い潜りアストラルの装甲へと降り注ぐ。それぞれの威力は低く目立ったダメージにはならないが、着弾衝撃から完全に足を止められてしまう。

 その隙にアストラルから大きく距離を取るユナイテッド。そこに再びホライゾンからの狙撃が放たれたが、やはり読心能力は使えない。超高速弾の狙撃だったものの、警戒していたユナイテッドは反応しこれを回避した。

『くっ、やっぱり狙撃が安定しない……、っ! 久坂、後ろに機影!』

 忌々しげに呟きかけた泉美は、ヒスイからの映像を見て即座に指示を出した。

『クワイエットか――』

 音もなく現れた黒い影。

 能力を発動し、あらゆるセンサーに捉えられなくなっていたクワイエットだったが、ホライゾンが操るヒスイの一機はそれをコンマ一秒と逃さず捉え続けていたのだ。

 黒い影が霞のように消え、本当の姿を現すクワイエット。赤と白の装甲を備え、コアと発光部から緑の光を放つその機体は、両手の甲から橙に光る鉤爪を伸ばし、一息にバーニングへと斬りかかる。

『――そうだろうな!』

 顔を向けることすらせずに、バーニングは腕を大きく振り払う。背後へ放つ裏拳にクローラーによる超信地旋回の勢いを乗せ、超重量の拳を高速で叩きつけた。

 音を砕く衝撃波と共に、クワイエットが後方へと吹っ飛ぶ。

「ひゅー、やるぅ!」

 真っ直ぐにビルへと叩きつけられた赤い機体を見て、飛鳥は感心したように言う。

 しかしその直後、さらなる轟音と共に、空を一筋の赤い閃光が突き抜けた。

「っ、なんだ!?」

 慌てて振り返ったアストラルの視線の先に、薙ぎ払われた土煙の中央で銀の銃器を構えるリフレクトの姿があった。

 空間に刻まれた灼熱の軌跡の一点から、黒い破片がバラバラと飛び散る。

『やられた! ヒスイが……』

 飛鳥達全員の意識がリフレクトから離れてしまったこのわずかな時間で、敵はホライゾンのヒスイを破壊したのだ。

 焼け、そして砕けた残骸が地に堕ちる中、リフレクトは抱えた銀の銃器をアストラルに向ける。

 直後、とっさにビームブースターで横方向へ加速したアストラルの足先を、灼熱のプラズマが掠めた。

 足先の蒸散塗装が焼かれ、黒いカーボン装甲がむき出しになる。

「こいつもレールガンかよ! 避け辛い!」

 歯を食いしばった飛鳥は、アストラルを大きく後退させて体勢の立て直しを図る。

 発射の前にビームブースターによる加速をしていたために直撃はしなかったが、それでも完全には回避しきれないほどの驚異的な弾速だった。

 直前にビームブースターの砲撃モードを見せることで、攻撃用武装であるという印象付けをしていなければ、回避を読まれて直撃させられていた可能性もあるレベルだ。

 後方へと加速するアストラルに向け、リフレクトはチェーンガンを掃射して牽制する。その片手間に、手に持った6発分のリボルバー弾倉を備えた銀色のレールガンをバーニングへと向ける。

 殴り飛ばした後ろのクワイエットを警戒しつつアストラルを援護しようとしていたバーニングだったが、先ほどのレールガンの一撃を見ていたため、無理には攻撃に回らずに、建物の影を使い銃口から逃れつつ迫撃砲をビル越しに撃ちこむにとどまった。

 バーニングの注意がリフレクトに向いた隙を見計らって、クワイエットは味方の方へと戻って行く。

 クワイエットを追撃しようという考えが頭をよぎる飛鳥だったが、今は泉美のヒスイが無いことを思い出してその手を止めた。

 弾数はある程度限られているのか、あるいはそう連射はできない武器なのか。リフレクトも構えたリボルバーレールガンは撃たずに、牽制だけをして味方と合流する。その際に、上から降ってくる迫撃砲の砲弾も無理なく回避していった。

 図らずも再び様子を伺い合う状況となったところで、泉美からの通信が届いた。

『大丈夫?』

「案外な。ちょっと意外なのもあったが、また少し敵の手も見えた」

 壁に背を沿わせて油断なく先を伺うアストラル。リフレクトのレールガンは下手をすると建物ごと貫通してきかねないため、飛鳥は語りながらも一切緊張の糸を緩めない。

 隼斗が続く。

『こちらでも見ていたよ。ユナイテッドの背中の砲は重光子散弾砲だった。榴散弾と言った方が近いかもしれないが。そしてリフレクトの銀の銃器はレールガン、か。こちらが厄介だな』

『見る限り連射は利かないでしょ。あるいは弾数が多くないか。ここぞってところで使ってくるはずだから、それだけ警戒しておけばいいと思うわ。それに単純にサイズが大きいから、近距離では取り回せないはず』

「その辺胡散臭い変形ショットガン持ってる奴が言っても説得力がなぁ」

 泉美の考察に対し、飛鳥はしみじみと呟く。

 シミュレーション上の模擬戦でも、飛鳥は毎度ホライゾンの重光子散弾銃、ムラドリには悩まされている。狙撃銃アマツバメの銃身が真ん中で折れることで、超長距離狙撃を得意とする銃が一転、近距離の面制圧に適した散弾銃へと変形するのだ。

 こういう例が身近にあると、大型火器は近距離での取り回しが悪いという言葉をあまり信用できなくなってしまう。疑ってかかる飛鳥の態度に、泉美は面倒そうに言う。

『じゃあアレ変形するように見えるの?』

「お前のそれも変形するようには見えねーよ」

『そもそも重光子兵器でも無いんだから、変形したところでレールガンはレールガンでしょ。使い勝手は変わらないわよ』

「わかんねーぞ。もしかしたらシリンダーごと6発まとめて発射するかもしれない」

『強そうね。バカみたい』

 オブラートに包もうなどという意思は一切感じさせずに、泉美はどストレートに罵倒してくる。

 しかしまぁ言われてみればその通りである。過度な警戒は決断を鈍らせるし、今回は飛鳥も泉美の言葉を信用しておくことにした。

『お喋りはそこまでにしておこう』

 飛鳥達のやり取りを蚊帳の外から聞かされていた隼斗は、呆れた様子でそう呟く。

『肝心な読心能力に干渉する能力を持った機体がどちらか分からない。とにかくこれを暴くのを優先しないと話にならない。問題は奴らの連携をどう崩すかだ』

「それだな。こっちから仕掛けたってのに、まるであらかじめ作戦を立ててたみたいに全員が動きを噛み合わせてやがった。かなり頭のキレる奴がいるってとこか?」

『だとすると手に負えないな。どうあれ受動的な初動で、コンマ秒単位に連携してくるのは少し異常だ。口頭での指示系統では追い付かないスピードだし、何か細工がある可能性も考えられるか……。あるいは相当練度が高いのか、それこそ思考を共有するレベルで』

 観察した結果というよりは想像に近い内容だったが、隼斗は自分の考えをまとめるために敢えて口に出して語った。

『思考を、共有…………』

 隼斗の呟きを聞いた泉美が、何かを思案するように呟く。

「泉美?」

『ううん、何でもない。気になることがあるけど、これから自分で確かめるわ。……あたしもそっちに行く。読心無しの狙撃じゃ100%直撃とは行かないし、片手間に対応されてたんじゃそっちの負担が大きくなるから」

「余裕もないし、そんなに援護はできないぞ」

『自分の事はなんとかする。ついでにヒスイは残り5機全部出しておくわ、出し惜しみする理由もないし。それと……敵、来てるよ』

 泉美がそう言うと同時に、風を切る鋭い音が響いた。

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