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アークライセンス  作者: 植伊 蒼
第7部-始祖の末裔-
204/259

2章『真実を求めて』:5

 シミュレーターの内外では、5倍ほど時間の流れに差がある。

 研究所内にあるスーパーコンピューターに処理を任せているのだが、それでもシミュレーター内での時間の流れを遅くしないと、処理が追いつかないのだ。技術的にも改良の余地はあるようだが、今はこんな所である。

 外から低速化された戦闘風景の映像を眺めていた隼斗と泉美。

 彼らにとっては20分ない程度の時間で、飛鳥達の模擬戦闘は終了した。

「意外と早く終わったね。もう少し掛かると思っていたよ」

「アストラル同士だとこんな風になるのね。もっと細かな差し合いになる気がしてたけど……、まぁこれはアスカだからかな」

 ハイスピードカメラで撮影したようなスロー映像を見終えて、隼斗と泉美は口々にそう感想を述べた。

 模擬戦の前での隼斗の考えは、どちらが勝ってもおかしくないというものだった。

 技量に関してはやはり一葉の方が上だと感じていたが、飛鳥にはそれ以上の経験がある。

 アークの操縦システムは、パイロットの操縦情報が機体に記録される事によって、動作精度や反応性が向上するが、それと同時に、機体のレスポンスがパイロットの脳に直接フィードバックされるという機能がある。

 つまりアークに乗るということは、最適な機体の動かし方を無意識に学んでいくということと同じなのだ。

 これはシミュレーターには搭載されていない機能だが、飛鳥はアストラルそのものの操縦経験もそれなりにあるし、何より戦闘経験が非常に多いのだ。この点が、一葉と飛鳥の決定的な差だった。

 飛鳥によるアストラルでの戦闘は、大部分がそういった経験による的確な操縦と、高精度な機体の追従性に下支えされている。こればかりは一葉でも真似はできない。

 模擬戦闘を傍から見ていた隼斗の感想としては、武装理解度と戦術では一葉が勝ったが、とっさの判断力と行動選択の正確さ、そして純粋な操縦能力では飛鳥が勝っていたように感じられた。

 高速戦闘を得意とするアストラル同士の戦いにおいて、飛鳥側に軍配が上がったのはそういった理由からだろう。

 ロックが解除される、金属がすれるような乾いた音の後、シート型シミュレーターの中に居た二人が同時に出てきた。

 勝った飛鳥も負けた一葉も、どちらも晴れた顔をしている。

「おつかれ、アスカ」

 泉美がそう言うと、飛鳥は肩をぐるりと回しながら応えた。

「ああ、なんだずっと見てたのか。……ま、疲れたっつーか、身体は使わないから頭がな」

 首をかくかくと横に振りながら、言葉通り疲れた様子でそう続ける。

 シミュレーターの筺体に腕を預けてもたれかかる飛鳥の元に、自然と3人が集まる形になった。

「さすがですね、アスカくん」

 悔しそうな態度は見せず、ともすれば喜んでいるような表情で一葉がそう言った。

「手加減はしなかったつもりですが、完敗です」

 一葉は確かに手加減していなかっただろうが、それでも飛鳥が勝つことを望んでいたのだろう。自慢したい気持ちが有るわけではないものの、元アストラルのパイロット候補ということもあって、飛鳥の師匠的なポジションにあったからだ。弟子が自分を超えたということに、喜びを感じているのだ。

「いや、俺もギリギリでしたよ。かなりヤバかったし、だいぶ無茶もしましたし。結果も紙一重っすよ」

 以前なら必要以上に大きな顔をしていただろうが、今回の飛鳥は落ち着いたものだ。

 とはいえ人間的に成長したとかそういうことではなくて、単に戦闘の結果を冷静に考察出来るようになったというだけの話である。

「ま、確かに無茶苦茶よね。アストラルは打たれ弱い方なのに、正面から突っ込むとかさ」

「言うな……。なんつーか、ここだ! って思うとブレーキかかんないんだよなぁ」

 泉美の言葉を受けて、後頭部をガジガジと掻いた飛鳥は自嘲気味にそう呟く。

 改善すべきポイントだなぁ、等と考えていた飛鳥だったが、それに対する一葉の意見は違っていた。

「ですが、チャンスと見れば臆さずリスクを冒せるというのは、良いところだと思いますよ。どうしても私はリスクの小さい行動ばかりを選んでしまって、結果後手に回るパターンが多いですから。今回も先手を取っておいて、途中からは完全にアスカくんのペースに合わせる形になっていましたし」

 隼斗はうんうんと頷くと、一葉に続いてこう言った。

「確かに見る限りは、アスカの行動に音深先輩が対応するっていう状況が多かったようにも見えたね。あんな風に守りの状況から、危険を冒してでもイニシアチブを奪いにいけるのは、アスカのセンスなんだろう。さすがだよ」

「お、おう……? なんか今日はえらく持ち上げ激しいな……」

 水を差すのが泉美ぐらいで、あとは二人ともベタ褒めという状況に飛鳥は戸惑った様子でたじろぐ。

 やけに警戒した態度を取る飛鳥に、隼斗は苦笑いを浮かべて肩をすくめた。

「そりゃあ、今僕が勝負を挑んでも、まず音深先輩には勝てないだろうからね。本郷さんはどうだい?」

 隼斗のやや意地悪な質問に、泉美は眉を寄せながら渋々といった様子で答える。

「負けるなんて言うつもりはないけど……。まぁ、勝てるとも言い切れないわね」

 泉美としては勝つと言い切りたかったところだが、根拠もなく適当な事を言うのも彼女の主義に反していた。自分の実力を絶対的な根拠としきれない程度には、泉美も一葉の能力を評価しているのだ。

 隼斗は笑みを浮かべる。

「要するにそういうことさ。多少ブランクが有ったとはいえ、一葉さんに勝ったのは大金星だ。凄いと思うよ」

「少々私の方の買い被りが過ぎるような気がしますが……、でも、アスカくんは強くなりました」

 一葉と飛鳥をまとめて誉めそやす隼斗の言葉に恐縮しながらも、一葉はその言葉に同意を示した。

 こう何度も押されては、飛鳥としてもそういうものなのだろうと受け入れる気分になってくる。

「そういうことなら、確かに……。そうだな、この結果も自信にするよ」

 肩の力を抜いて、ニッと飛鳥は笑ってみせた。

 彼はもたれかかっていたシミュレーターから身体を離すと、パンと掌に拳を打ちつけた。

「この感じなら、今度のEUとの模擬戦もなんとかなりそうだな」

「ああ、その通りだよ。ここまで飛鳥が動けるなら、色々と出来ることもありそうだしね」

 軽く胸の前で拳を握りながら、力強い声で隼斗も答える。

 妙に汗臭い二人のやり取りを脇から眺めつつ、泉美もまた余裕の表情を浮かべていた。こと彼女に限って言えば、最初から負ける可能性を考えていないようにすら見える。

 泉美は泉美で極端なもので、遠距離狙撃に特化したホライゾンという機体を扱いながらも、模擬戦では一葉を相手に1対1で同等レベルの戦いを繰り広げるほどなのだ。

 それもシミュレーターを使用という関係上、バーニングの物とは違い再現の難しいホライゾンの能力は使用できない状態で、である。

 自信を裏打ちするだけの実力があればこそ、泉美は先に待つ戦いに憂いを覚えることはなかった。

 その上で、泉美は勝手に盛り上がる二人にちょちょいと水を差すのだ。

「でも相手がどういう機体なのかもまだよく分かってないんだし、勝つつもりならまずその辺の情報を集めてみてもいいんじゃない? とは言っても交流は始まったばかりみたいだし、情報は無いかもしれないけど」

「ん……、そうだな、始まる前から油断してちゃダメだよな。じゃあ適当に時間見つけて、研究員の人に聞いてみるか」

「うん、そうすべきだろう」

 飛鳥の呟きに頷いて答えた隼斗は、そこでポンと手を叩いた。

「そうだアスカ、時間があるときでいいから、今度は僕の模擬戦の相手をしてくれないかい?」

「構わないけど、今からじゃないのか?」

「今はアスカも疲れてるだろう? それに、バーニングの強化改修で追加された武装やシステムがあってね。シミュレーターに登録した後に、それの試用がてら少し相手をして欲しいんだよ」

「そういやそんなこと言ってたな。何やったんだよ?」

「それは見てのお楽しみさ。ま、楽しみにしてくれていいよ。結構凄いから」

 自信ありげに胸を張る隼斗に、飛鳥は楽しげに鼻を鳴らして返した。

「へっ、じゃあ本番でのサプライズに期待しとくよ。……さてっと、やっぱちょっと疲れたから、俺は休憩してくるわ」

 そうして肩を回しながら去っていく飛鳥。

 なんとなく解散という空気になったので、隼斗達もそれぞれその場を離れた。

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