魔法使い
夜。
ワイバーン討伐の祝いも兼ねて、ギルド併設の酒場は今日も大賑わいだった。
木のジョッキがぶつかり合い、笑い声が響く。
その中心では当然のようにガルドが酒を飲んでいる。
「もう一杯!」
「まだ飲むのかよ!」
俺が呆れて突っ込むと、ガルドは豪快に笑った。
「勝った日の酒は別腹だ!」
「酒に別腹なんてあるか!」
周囲の冒険者たちも笑い出す。
昨日まで「問題児コンビ」と呼ばれていた俺たちも、ワイバーン討伐以来、酒場ではちょっとした有名人になっていた。
「ジョー!」
「飲め飲め!」
「いや、俺そんな強くないんだけど……」
酒を勧められて困っていると、受付嬢が苦笑しながら料理を運んできた。
「はい、ステーキです」
「助かった……」
「ガルドさん、今日は飲みすぎないでくださいね?」
「努力はする」
「しない人の返事なんですよ、それ」
また笑いが起きる。
平和だった。
本当に平和だった。
――その瞬間までは。
ドォォォン!!
突然、酒場の壁が爆発した。
「うわぁぁぁ!?」
木片が飛び散り、酒場中が悲鳴に包まれる。
煙の向こうから、一人の少女が飛び込んできた。
黒いローブ。
腰まで届く束ねられたポニテールの黒髪。
年齢は俺より低いくらい。
16歳くらいだろうか。
そして、手には杖。
「はぁ……はぁ……」
少女は後ろを振り返る。
「もう少しだったのになぁ」
直後。
壊れた壁から巨大な魔物が姿を現した。
全身が岩でできた二メートルほどのゴーレム。
酒場がざわつく。
「ゴーレムだ!」
「なんで街中に!」
「おかしいだろ!」
「逃げろ逃げろ」
少女はニコッと笑った。
「やっと追いついた!」
「……え?」
俺は意味が分からなかった。
「『ライトニングフレイム』ッ!」
少女が杖を振る。
一直線に閃光と炎が走り、ゴーレムへ直撃する。
ドガァァン!!
爆炎。
酒場の窓ガラスが震える。
だが、ゴーレムはまだ立っていた。
ゴーレムは大きな声で威嚇する。
「ごおおお!」
少女の目が輝く。
「まだ生きてる!」
「もう一発いける!」
「いやいやいや!」
俺は思わず叫ぶ。
「ここ酒場だから!」
「大丈夫!」
「何が!?」
「壊れても直せばいい!」
「誰が直すんだよ!」
少女は俺の話なんて聞いていない。
杖を構え直す。
「次はもっと大きいの!」
「『オーシャンストーム』ッ!」
「やめろぉぉぉ!!」
その瞬間だった。
ゴーレムの前へ、一人の男が立つ。
「邪魔だ。そこの嬢ちゃん」
ガルドだった。
酒瓶を片手に持ったまま、大剣を抜く。
「ガルド!」
「俺の大切な酒場を壊すな」
ガルドは酒を一口飲む。
「ぷはぁ」
「よし」
「エンジンかかった」
次の瞬間。
ドンッ!
地面を蹴る。
一瞬でゴーレムの懐へ入り込み、
「終わりだ」
ズガァァァン!!
一撃。
ゴーレムは真っ二つになって崩れ落ちた。
酒場は静まり返る。
「終わった……?」
少女は残念そうに頬を膨らませた。
「えー。何するんですか!?」
「あと一発撃ちたかったのに」
「撃たなくていい!」
俺が叫ぶ。
少女は首をかしげた。
「どうして?」
「どうしてじゃない!」
「酒場が吹き飛ぶ!」
「あ......」
そこで初めて周囲を見る少女。
壊れた壁。
割れた机。
怯える客。
「……やっちゃった?」
「やっと気付いたか!」
受付嬢が頭を抱えて座り込んでいた。
「修理費……また増えた……」
「また?」
俺が聞くと、近くの冒険者が苦笑する。
「あいつ、有名なんだ」
「いつも魔物を街に連れ込む」
「依頼中でも街中でも関係なく魔法をぶっ放すんだ」
「問題児じゃねぇか!」
少女は照れくさそうに笑った。
「えへへ」
「褒めてない!」
そこへギルドマスターが現れる。
大男は壊れた壁を見るなり、大きなため息をついた。
「……またお前か」
「久しぶり!」
「久しぶりじゃない」
「今月で五回目だ」
「そんなに?」
「そんなにだ」
少女は「えへへ」と頭をかく。
反省している様子はまったくない。
ギルドマスターは俺たちを見る。
「ジョー」
「ガルド」
「頼みがある。」
「なんです?」
「あいつを見張れ」
「え?」
「一人だと街を壊す。どうせお前ら暇だろ?」
「……否定できない」
ガルドが酒を飲みながら笑う。
「面白そうじゃねぇか。」
「よし、それならお前ら3人でここの修理代稼いで来い!」
「ええ……」
少女は目を輝かせた。
「本当!?」
「いいの!?」
「俺まだ何も言ってない!」
「私はリリア!魔法が大好きな上級ウィザードよ!」
「よろしく!」
勢いよく握手を求められる。
断る間もない。
「……ジョー」
仕方なく手を握る。
その瞬間、リリアは満面の笑みを浮かべた。
「やった!」
「次はドラゴンに魔法撃とう!」
「嫌な予感しかしないんだけど!」
すると、ガルドが驚いてこう言った。
「お前上級ウィザードなのか!?」
「ええそうよ!すごいでしょ」
「お、おい……お前上級ウィザードだったのか?」
「まだ十六歳くらいだろ?」
「どうりであんなに強力な魔法をポンポンと……」
リリアは胸を張って笑う。
「えへへ! もっと褒めてもいいのよ!」
「性格だけが残念なんだよな……」
誰かがぼそっと呟き、酒場に苦笑いが広がる。
ギルドマスターは腕を組み、俺たち三人を見回した。
「話は決まりだ。」
「リリアが壊した酒場の修理代は、しばらく依頼を受けて返してもらう。」
「その間、お前ら二人が見張れ」
「また街を半壊されたら困るからな」
「俺たちが保護者かよ……」
俺がため息をつく。
リリアは元気よく手を挙げた。
「じゃあ明日からよろしくね!」
「まだ仲間になったわけじゃないからな?」
「え?」
「修理代を返すまで、一緒に依頼を受けるだけ」
「その後はその時考えればいい」
リリアは少しだけ口を尖らせた。
「そっかぁ……」
「でも、一緒に魔法撃てるならいいや!」
「俺は撃たないからな?」
「えー?」
周囲の冒険者も驚いていた。
ガルドは酒瓶を掲げて笑う。
「よし!」
「飲むぞ!」
「結局酒かよ!」
酒場中に笑い声が響いた。




