表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ギャンブル中毒者が魔王討伐!?~ギャンブルスキルだけで魔王討伐~  作者: がりうむ
1章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/16

討伐

翌朝。


「……頭いてぇ」


酒臭い声が部屋中に響いた。

俺が目を開けると、テーブルに突っ伏したガルドが頭を押さえながら唸っている。

足元には空になった酒瓶が何本も転がっていた。


「朝から二日酔いか?」


「朝だから二日酔いなんだよ……」


「昨日あれだけ飲めば当然でしょ」


「うるせぇ……」


異世界に来て、まだ一日。

昨日、無一文だった俺をガルドは拾い、宿まで用意してくれた。

酒ばっかり飲んでいて髪もぼさぼさなので、老けて見えるが俺と同い年だという。

年齢が同じだと知った俺は、自然と敬語をやめた。

そして、この男の生活リズムも大体分かってきた。

飲む。

寝る。

飲む。

ギルドへ行く。

飲む。

頭がおかしい。

本当にこんな奴が剣士なのかと疑いたくなる。


「ほら、水」


俺がコップを差し出すと、ガルドは一気に飲み干した。


「生き返る……」


「酒じゃないと力が出ないんじゃ?」


「水飲まないと酒も飲めねぇだろ」


「もう意味分からない」


そんなくだらないやり取りをしながら、二人でギルドへ向かった。

重い扉を開ける。

ギィッ――。

朝にもかかわらず、ギルドは多くの冒険者で賑わっていた。

依頼書を眺める者。

朝食を食べている者。

武器の手入れをしている者。

受付では朝一番の依頼を受けようと長い列ができている。


「お、問題児コンビだ」


「先日パーティー組んだらしいぞ」


「新人も運がねぇな」


「アル中と組むなんて終わったな」


周囲からそんな声が聞こえてくる。

ガルドは気にした様子もなく、受付横に置かれた酒樽を見つめていた。


「飲むなよ」


「まだ飲んでねぇ」


「まだって言ったな?」


「バレたか」


こいつ、本当にダメだ。

受付嬢も俺たちに気付き、小走りで近寄ってくる。


「おはようございます、ジョーさん! ガルドさん!」


「おはようございます」


「おう」


「今日は依頼を受けるんですよね?」


「ああ。昨日飲み過ぎて、もう今日の宿分の金すらなくてな……」


「酒ばっかり飲むからでしょ!」


朝から受付嬢のツッコミがギルド中へ響く。

冒険者たちは苦笑いしていた。

どうやらこれもいつもの光景らしい。

俺は依頼掲示板へ近付く。

木製の大きな掲示板には、無数の依頼書が貼られていた。

薬草採取。

ゴブリン討伐。

荷物運搬。

迷子猫探し。

俺でも受けられそうな依頼も多い。


「最初はこの辺だな」


薬草採取の紙へ手を伸ばそうとした、その時だった。

掲示板の一番上。

赤い封蝋で留められた一枚の依頼書が目に入る。

他の依頼より一回り大きく、周囲だけ妙に空いている。

まるで誰も触れようとしないかのように。

俺は思わず読み上げた。


「緊急討伐依頼……?」


依頼内容。

北方、グレイロック渓谷。

ワイバーン一体確認。

討伐推奨ランク──A。

依頼達成報酬、金貨百二十枚。

思わず息を呑んだ。

周囲を見渡す。

これだけ高額な依頼なのに、誰一人として手を伸ばそうとしない。

むしろ依頼書から目を逸らしている。


「誰も受けないんですか?」


近くにいた冒険者へ尋ねると、男は苦笑いを浮かべた。


「当たり前だ」


「ワイバーンだぞ?」


「去年も討伐隊が組まれたが、半分以上が帰ってこなかった」


「生き残った奴も引退した」


別の冒険者も肩をすくめる。


「割に合わねぇんだよ」


「金は魅力だが、命がなくなりゃ意味がねぇ」


ギルドの空気が少し重くなる。

その時だった。

俺の隣で依頼書を眺めていたガルドが、ニヤリと笑う。


「面白そうじゃねぇか」


そう言うと、何の迷いもなく依頼書を掲示板から剥がした。

ビリッ、と紙の剥がれる音がギルド中に響く。

一瞬で空気が凍りついた。


「お、おい……」


「ガルド……本気か?」


「また無茶しやがる……」


受付嬢は顔を真っ青にして駆け寄ってくる。


「ガルドさん! 本当に受けるつもりですか!?」


ガルドは依頼書を肩に担ぎ、いつものように気の抜けた笑みを浮かべた。


「もちろん。金貨が百二十枚もあれば、高級酒が飲み放題だ」


そして俺の方を見る。


「ジョー」


「ワイバーン、狩りに行くぞ」


「ええ……。本気?」


俺はそう返したがガルドは迷いない目で俺を見てくる。


「ああ」


「わかったよ……」


俺はしぶしぶ了承した。

ギルドを出ると、街の喧騒は少しずつ遠ざかっていった。

北へ向かう街道を歩く。

ガルドは歩きながら酒瓶を口へ運び、鼻歌まで歌っている。


「……本当に戦う前から飲むんだな」


「飲まなきゃ剣が鈍る」


「普通は逆なんだけどな……」


一本道を抜けると岩山が見え始めた。

空気が重い。

草木は焼け焦げ、鳥の鳴き声すら聞こえない。

俺は無意識に唾を飲み込んだ。



グレイロック渓谷。

切り立った岩壁が幾重にも連なり、吹き抜ける風が低いうなり声を上げている。

足元には巨大な爪痕。

砕けた岩。

焼け焦げた木々。

ワイバーンがこの辺りを縄張りにしている証拠だった。


「……本当にいるんだ」


俺は思わず息を呑む。

ガルドは腰の酒瓶を一口あおると、大剣の柄へ手を添えた。


「静かにしろ」


その一言だけで空気が変わる。

普段のだらしない男とは別人だった。

ピクリ。

頭上から小石が転がり落ちる。

嫌な予感がして空を見上げた、その瞬間だった。


「ギャアアアアアァッ!!」


耳をつんざく咆哮。

巨大な影が太陽を覆い隠す。

翼を広げれば十メートルはあるだろうか。

黒緑色の鱗に覆われた巨体。

鋭い鉤爪。

槍のように尖った尻尾。

黄色い瞳が俺たちを見下ろしていた。


「あいつがワイバーン……!」


奴は翼を一度羽ばたかせる。

ドゴォッ!!

暴風が渓谷を駆け抜け、俺の体は数メートルも吹き飛ばされた。


「ぐっ!」


岩へ背中を打ち付け、息が詰まる。

強い。

こいつは殺られる。

本能が叫んでいる。

――逃げろ、と。

だが、ガルドだけは違った。


「酒のおともにちょうどいい相手だな」


こんな化け物を前にして、ガルドは笑っていた。

しかも、片手には酒瓶を持ったまま。

ガルドが剣を抜くとワイバーンが急降下する。

巨大な爪が一直線に振り下ろされた。

ドガァァン!!

地面が砕け、岩が宙を舞う。

だが、その一撃は空を切っていた。

ガルドは紙一重でかわし、一気に懐へ潜り込む。


「おらぁ!」


剣が閃く。

ギィィン!

金属同士がぶつかったような音が響いた。

鱗が硬すぎる。

浅い傷しか付かない。

ワイバーンは怒り狂ったように尻尾を振るう。


「危ない!」


俺が叫ぶより早く、ガルドは身を低くして回避する。

尻尾は背後の岩壁を粉々に砕いた。


「あれ食らったら即死だろ……」


冷や汗が止まらない。

その時、ワイバーンが大きく息を吸い込んだ。

嫌な予感しかしない。


「ガルド!」


次の瞬間。

ゴォォォォッ!!

灼熱の炎が一直線に放たれる。

地面が焼け、岩が赤く溶ける。

熱風だけで肌が焼けそうだった。


「終わった……!」


そう思った。

だが炎の中から飛び出してきた影があった。

ガルドだ。

鎧の一部は焦げていたが、その足は止まっていない。


「いい火力じゃねぇか!」


叫びながら跳び上がる。

信じられない跳躍力だった。

ワイバーンの首元まで一気に飛び上がり、渾身の一撃を叩き込む。

ズガァァン!!

今度は鱗が大きく砕け、鮮血が舞う。


「ギャアアアアッ!!」


初めてワイバーンが悲鳴を上げた。

しかし、それでも倒れない。


「クッソ。殺れないか」


怒りに染まった瞳がガルドを捉える。

俺は拳を握り締めた。

このままじゃ押し切られる。

俺も戦わなければ。

命を賭けるしかない。

俺は震える手を前へ突き出した。


「《ギャンブル》、発動――!」


青白いウィンドウが俺の目の前に浮かび上がる。


《イベント発生》

《対象:ワイバーン討伐》

《現在勝率 3%》


「三パーセント……」


思わず顔が引きつる。

こんなの勝負にもならない。

だが、その時。


《寿命をベットすることで勝率を上昇でき、ベット額が大きくなるほど確率は上昇します》


俺は迷わなかった。


「寿命三十日。ベットだ」


《受理しました》

《勝率 3%→18%》


まだ足りない。

ガルドは押しているように見えて、実際は押し返され始めていた。

肩から血を流し、息も荒い。

ワイバーンも傷ついているが、まだ倒れる気配はない。


「さらに三十日!」


《受理しました》


《勝率 18%→52%》


まだ決め手に欠ける。

だったら――。


「全部乗せだ!」


「あと三十日!」


《受理しました》


《勝率 98%》


その瞬間、頭の中へ一つの光景が流れ込んできた。

ワイバーンの左翼。

付け根。

鱗が一枚だけ割れている。


「あそこだ!」


俺は叫んだ。


「ガルド! 左の翼の付け根!」


ガルドは一瞬だけ俺を見る。

そしてニヤリと笑った。


「信用するぞ!」


ガルドは腰の酒瓶を片手で抜く。

グビッ。

一口飲み干した。


「よし」


「エンジンかかった!」


ワイバーンが咆哮を上げ、再び炎を吐く。

その炎へ向かってガルドは真正面から駆け出した。


「ちょっ、おい!」


普通なら避ける。

だが、この男は違う。

炎が迫る直前、地面を蹴る。

岩壁を踏み台にしてさらに跳躍。

炎の上を飛び越えた。


「うおおおおおっ!!」


空中で剣を両手に構える。

ワイバーンも迎え撃つように鉤爪を振るう。

激突まで、一瞬。

ガルドは空中で体をひねり、爪を紙一重でかわした。

そして。


「終わりだぁぁぁ!!」


渾身の一撃が、俺の見た傷口へ吸い込まれる。

ズバァァァァン!!

砕けた鱗が宙を舞う。

剣は翼の付け根から深く食い込み、そのまま首元まで斬り裂いた。


「ギャアアアアアアッ!!」


ワイバーンが断末魔を上げる。

巨体が大きく揺れ、翼が力なく垂れ下がる。

そして。

ドォォォォン!!

大地を揺らしながら、その巨体は渓谷へ倒れ伏した。

土煙が舞う。

しばらく誰も動かない。

やがて土煙が晴れ、そこには動かなくなったワイバーンだけが横たわっていた。


「……勝った」


《成功》

《寿命 90日返還》

《報酬》

《幸運値+50》


思わずその場へ座り込む。

全身の力が抜けた。

ガルドは肩で息をしながら剣を鞘へ納めると、懐から酒瓶を取り出す。


「ぷはぁ……」


「勝利の酒はうめぇ」


「まず治療してください!」


俺が叫ぶと、ガルドは豪快に笑った。


「生きてるから問題ねぇ!」


「問題だらけですよ!」



二人でワイバーンの討伐証明となる巨大な角を持ち帰り、俺たちは夕方にはギルドへ戻った。

ギィッ。

扉を開けた瞬間、ギルド中の視線が俺たちへ集まる。


「帰ってきたぞ」


「まさか……」


受付嬢が駆け寄ってくる。


「ガルドさん! ジョーさん! まさか討伐は……」


俺はワイバーンの角を床へ置いた。

ドンッ。

一瞬、ギルドが静まり返る。

次の瞬間。


「ワイバーンの角だ!」


「本当に倒しやがった!」


「嘘だろ!」


「二人だけでか!?」


「ガルドの奴、本当にやりやがった!」


歓声が一斉に上がる。

昨日まで俺を笑っていた冒険者たちも、信じられないという顔でこちらを見ていた。


「ジョーもいたんだよな?」


「あの新人も戦ったのか?」


「レベル三だろ?」


「いや……本物かもしれねぇ」


昨日とは違う視線。

疑いではない。

驚きと敬意が入り混じった眼差しだった。

受付嬢も目を潤ませながら笑う。


「お疲れ様でした!」


ガルドはそんな歓声など気にもせず、報酬の袋だけを受け取ると酒瓶を揺らした。


「よし」


「今日は報酬で飲むぞ!店で一番いい酒をここにいる全員分持って来い!!」


「うおおおお!!」


「ガルド!!」


「たまにはいいことするじゃねぇか!」


「また酒かよ」


俺が思わずツッコむと、ギルド中から笑い声が上がる。

こうして俺たちの名前は、少しだけギルド中に知れ渡ることになった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ