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ギャンブル中毒者が魔王討伐!?~ギャンブルスキルだけで魔王討伐~  作者: がりうむ
1章

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アル中

俺はギルドの扉を押し開けた。

ギィ、と重い音が響く。

昼間と変わらず酒と汗の匂いが漂う室内。

依頼を終えた冒険者たちが酒を飲み、受付前では新人たちが登録を待っている。

だが、俺の姿を見た瞬間。

ざわっ――

空気が変わった。


「おい、あいつだ」


「あの新人だろ?」


「昼間、三人まとめて返り討ちにした奴だ」


「マジでレベル三だったって話だぞ」


あちこちから視線が集まる。

さっきまで騒がしかったギルドが、一瞬だけ静まり返った。

俺は少しだけ肩をすくめる。


「……なんだよ」


こんな風に注目されるなんて人生で一度もなかった。

高校では落ちこぼれ、仕事は一か月で辞めた。

あとはギャンブル漬けの日々。

誰かから期待されたことなんてない。

なのに今は違う。

皆が俺を見ている。

それだけで、少しだけ胸が熱くなった。

受付嬢も俺に気付いたらしい。


「あ……ジョーさん!」


彼女は驚いたように目を丸くする。


「ご無事だったんですね!」


「まぁ、なんとか」


苦笑いしながら頬をかく。

まだ殴られた痛みは残っている。

すると、近くにいた大柄な戦士が椅子から立ち上がった。


「お前、うちのパーティー来ないか?」


「え?」


「前衛が一人抜けたんだ。昼間の戦いを見た。あの動きなら十分戦力になる」


それを聞いた別の男も割って入る。


「待て待て。俺たちの方が報酬はいいぞ」


「いや、うちに来い!」


「俺たちは魔物討伐専門だ!」


「新人にしては見込みがある!」


一人。

二人。

三人。

次々に声が飛ぶ。


「……」


まさか異世界に来て、こんな風に必要とされる日が来るなんて。

悪くない。

いや。

最高じゃないか。

このまま異世界で大活躍するのも悪くはない。


「ジョーさん!」


受付嬢が冒険者カードを持ってくる。


「皆さん、まずはカードを確認してください」


「ああ、そうだな」


大柄な戦士がカードを受け取る。

そして。

その場の空気が止まった。


「……レベル三?」


「え?」


周囲の冒険者も覗き込む。


「本当だ」


「レベル三しかないぞ」


「じゃあ昼間のは……」


一人がスキル欄を見る。


「《ギャンブル》?」


「なんだそれ?」


「聞いたことねぇ」


「戦闘スキルじゃないのか?」


ざわめきが広がる。

さっきまで期待に満ちていた視線が、困惑へ変わっていく。


「いや……」


「待てよ」


「レベル三で三人倒した?」


「そんなのあり得るか?」


「たまたまだろ」


誰かが呟いた。

その一言が広がる。


「運が良かっただけじゃね?」


「あいつら酒飲んでたしな」


「偶然だろ」


「一回勝っただけだ」


「そう考えた方が自然だ」


さっきまで俺を誘っていた戦士がカードを返してくる。


「悪いな」


「え?」


「やっぱ無しだ」


「……」


「悪く思うな。命を預ける仕事だからよ」


続いてもう一人。


「俺たちも遠慮しとく」


さらに一人。


「もっとレベルが上がったらまた来い」


さっきまで俺を囲んでいた冒険者たちは、何事もなかったように散っていく。

数十秒後。

俺の前には誰もいなかった。


「……はは」


そうだよな。

現実なんてこんなもんだ。

少し期待されて。

少し持ち上げられて。

結局は元通り。

前世と何も変わらない。

受付嬢も気まずそうに目を逸らしていた。


「すみません……」


「いや、受付のお姉さんが謝ることじゃないですよ」


そう言って笑ってみせる。

笑えていたかは分からない。

その時だった。


「なら、俺んとこ来るか?」


酒臭い声がギルドの奥から聞こえた。

全員が一斉に振り向く。

カウンターの隅。

昼間だというのに酒瓶を抱え、だらしなく椅子にもたれ掛かっている男がいた。

ぼさぼさに伸びた赤髪。

無精ひげは何日も剃っていないのだろう。

鎧には幾つもの傷が刻まれ、ところどころ革紐も切れかけている。

見るからに金もなく、生活も荒れている。

それでも、不思議と腰に差した一本の大剣だけは違っていた。

鞘には傷一つなく、革の柄には丁寧に油が塗られている。

まるで恋人でも扱うように、大切に手入れされていた。

受付嬢が額に手を当て、小さくため息を漏らす。


「あぁ……」


「また昼間から飲んでる」


近くの冒険者も苦笑した。


「やめとけ新人」


「あいつは酒しか飲まねぇ」


「依頼中でも飲むぞ」


「酒場を追い出されてギルドで飲んでるような奴だ」


「アル中剣士だよ」


あちこちから失笑が漏れる。

男はそんな声など聞こえていないかのように、ぐびりと酒を飲み干した。


「うめぇ」


「昼間の酒は最高だ」


「最低ですよ!」


受付嬢がすぐさま突っ込む。


「ここ酒場じゃありません!」


「細けぇこと言うな」


「細かくありません!」


二人のやり取りに周囲から笑いが起こる。

どうやらこの光景は日常らしい。


「俺は酒を飲まなきゃ力が出せねんだよ」


「それもう病気です!」


男は空になった酒瓶を机へ置くと、ようやく俺へ視線を向けた。

その目を見た瞬間、俺は少しだけ息を呑む。

酔っている。

間違いなく酔っている。

なのに、その瞳だけは驚くほど鋭かった。

さっきまでのだらしない雰囲気が一瞬だけ消え、まるで獲物を見定める猛獣のような視線になる。

目が合った瞬間だけ、背筋が勝手に伸びた。

ほんの一瞬。

本当に一瞬だけだった。

すぐにまた気の抜けた笑みに戻る。


「で、どうだ?」


「俺のパーティーに来るか?俺一人だけど」


俺は思わず聞き返した。


「……なんで俺?」


男は椅子を軋ませながら立ち上がる。

俺と同じ二十代前半くらいだろうか?

思っていたよりずっと背が高い。


「……立ったぞ」


誰かが小さく呟く。

さっきまで笑っていた冒険者が、その瞬間だけ口を閉ざした。

その声には、さっきまでの嘲笑ではなく、警戒が混じっていた。

そして俺の目の前まで来ると、酒臭い息を吐きながらニヤリと笑った。


「お前、昼間負けただろ」


「……見てたんですか」


「ああ」


「そのあと勝った」


「普通の奴なら、一回負けりゃ心が折れる」


「でも、お前は戻ってきた」


男は肩をすくめる。


「そういう馬鹿、俺は嫌いじゃねぇ」


俺は思わず苦笑した。


「褒められてる気がしないんですけど」


「褒めてねぇ」


男は豪快に笑う。


「俺も馬鹿だからな」


その言葉に、ギルド中から一斉にため息が漏れた。

周りからの評価も最悪。

普通なら断る。

だが。

俺も普通じゃない。

ギャンブル中毒だった俺が、命を賭けるスキルを手に入れた。

そんな俺を仲間に誘う奴なんて、まともな人間のはずがない。

だからこそ。

少しだけ興味が湧いた。

俺は笑う。


「よろしくお願いします」


ガルドは酒瓶を掲げた。


「交渉成立だ」


その瞬間、ギルド中から呆れたため息が響いた。


「問題児が増えたな」


「終わったな、あの新人」


「ご愁傷様」


誰も祝福しない結成だった。

世間じゃ落ちこぼれ……でも。

俺には妙に居心地が良かった。

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