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ギャンブル中毒者が魔王討伐!?~ギャンブルスキルだけで魔王討伐~  作者: がりうむ
1章

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ゲーム

俺は街へ向かって歩き出した。

草原を渡る風が頬を撫でる。

さっきまで感じていた寿命を削られた不気味な感覚は、まだ胸の奥に残っていた。

命を賭けて戦うスキル......。

普通なら二度と使いたくない能力だ。

だが、不思議と恐怖よりも好奇心の方が勝っていた。

勝てば大きな見返りがある。

負ければ失う。

単純明快。

まるで俺が今まで散々ハマってきたギャンブルそのものだった。


「ああ......。ゾクゾクする」


俺は興奮気味に街門をくぐる。

昼を過ぎた街は相変わらず賑わっていた。

露店では焼いた肉の匂いが漂い、商人が威勢よく客を呼び込んでいる。

子どもたちが笑いながら走り回り、冒険者たちは依頼帰りなのか血の付いた武器を肩に担いで歩いていた。

さっき殴られて倒れていた場所を通る。

石畳にはまだ乾ききっていない俺の血が少しだけ残っていた。


「……情けない」


ほんの数十分前まで、俺はここで犬みたいに転がされていた。

頬を触る。

鈍い痛みが走った。


「次は負けない」


誰に言うでもなく呟く。

その時だった。


「おい」


聞き覚えのある声が背後から飛んできた。

振り返る。

やはり、あいつらだった。

昼間の三人組。

酒場の前で酒瓶を片手に笑っていた男たちが、俺を見つけて立ち上がる。

ハッ! 戻ってきやがったぞ!」


「また殴られ足りねぇらしい」


「今度はカードだけじゃ済まさねぇぞ。人身売買で売り捌いてやる」


三人はゆっくり近付いてくる。

周囲の通行人たちは察したように距離を取った。

また始まる。

そう思ったのだろう。


「今度は逃げねぇのか?」


傷跡の男がニヤつく。

俺は小さく笑った。


「逃げても追いかけてくるだろ?」


「分かってんじゃねぇか」


男は剣を抜く。

ギラリ、と刃が日差しを反射した。

俺は無意識に唾を飲み込む。

正直、怖い。

レベルは上がったとはいえ、まだまだ3レベ。

しかも相手は武器持ちの三人だ。

普通に考えれば勝ち目なんてない。

その瞬間――


――ピコン。


聞き慣れた電子音が頭の中で鳴り響く。

青白い画面が視界いっぱいに広がった。

《イベント発生》

《対象:荒くれ者との再戦》

《成功率 41%》

《勝負方法を変更できます》

《変更しますか?》


俺は口元をゆっくり吊り上げた。


「……なるほど」


背後では男たちがじりじりと距離を詰めてくる。


「おい、何一人で笑ってやがる」


「怖すぎて壊れたか?」


俺は画面から目を離さず、文字を押した。

その瞬間、青白い画面に新たな文字が浮かび上がる。


《ゲームを選択してください――》


ジョーが文字を押した瞬間、世界が白く染まった。

街の喧騒が消える。

足元の石畳は黒い床へ変わり、気付けば俺は一脚の椅子に腰掛けていた。

目の前には古びた丸テーブル。

その向こうには、黒い燕尾服を着たディーラーが静かに立っている。

顔は見えない。

シルクハットの影が、その表情を完全に隠していた。

静寂だけが空間を支配する。


「ここが……ゲームか」


《勝負方法を変更しました》


サポーターの声だけが無機質に響く。


《ゲーム名──シングルカード》


俺の前へ、一枚のカードが置かれる。


《ルールを説明します》

《ディーラーが五十二枚のトランプから一枚を選択します》

《あなたはそのカードの数字と絵柄を宣言してください》

《完全一致で勝利》

《不一致で敗北》


「……は?」


思わず間抜けな声が漏れた。


「五十二分の一?」


《はい》


「それだけ?」


《それだけです》


「ふざけんな!」


俺は思わず机を叩いた。


「そんなもん運じゃねぇか!」


《ギャンブルです》


「……」


言い返せない。

確かにギャンブルだった。

ディーラーは何も言わず、カードをシャッフルし始める。

パサッ。

パサッ。

一定のリズム。

まるで機械のように正確な動きだった。

俺は目を細める。


「癖は……?」


シャッフルには癖が出る。

ディーラーによって切り方も違う。

カジノで何度も見てきた。

だからこそ、俺はその手元を凝視する。

右手。

左手。

指先。

カードの角度。

呼吸。

視線。すべてを見る。


だが──


「ない……」


何もない。

完璧だ。

一切の無駄がない。

イカサマも癖も存在しない。

本当にランダム。


「クソッ……」


嫌な汗が流れる。


「……」


俺は目を閉じた。

今までの人生が頭をよぎる。

競馬。

パチンコ。

スロット。

オンラインカジノ。

勝った日もあった。

だが、最後に残ったのは借金だけだった。

それでも俺は打ち続けた。


「よっし、勝ってやる」


ディーラーの手が止まる。

一枚のカードが裏向きでテーブルへ置かれた。


《宣言してください》


静寂。

呼吸だけが響く。

一体なんなんだ?

ハートか?ダイヤか?

いや違う。

最初に思いつくカードは罠だ。

ディーラーの癖はない。

なら。

数字だけで考えるか?

七か?

ギャンブラーは七を選びたがる。

じゃあエースか?

キングか?

考えるほど泥沼だ。

考えれば考えるほど沼にハマって抜け出せなくなる。

癖もない。

情報もない。

俺が沼にハマろうとしていると、ディーラーが話しかけてきた。


《寿命十日追加ベットすることで的中率を10%上げることが可能になります》


何!?

もうヤケクソだ。

やってやる。

俺は了承した。

補正がかかっているなら行くしかない。

ギャンブルで一番怖いのは途中で賭けを変えることだ。

迷った時は最初の勘。

スペードの七。

俺はそれに賭ける。


「スペード」


口が自然に動く。


「数字は──七」


宣言した瞬間、ディーラーの白い手がカードへ伸びる。

ゆっくり。

本当にゆっくり。

カードの端が持ち上がる。

俺の鼓動が速くなる。

一秒が一分にも感じる。

そして。

カードは完全に表になった。

黒いスペード。

中央には大きく刻まれた数字。


『7』


《勝利》


電子音と同時に世界が砕け散る。

視界が真っ白になった。

眩い光が解けた次の瞬間、俺の意識は街へと引き戻される。

目の前には拳を振り上げた男。

さっきまで俺を殴り飛ばしていた荒くれ者だった。


「死ねぇ!」


拳が一直線に迫る。

だが――。


「遅い」


気付けば体が自然と動いていた。

半歩だけ身をずらす。

拳は鼻先をかすめ、そのまま空を切った。


「なっ!?」


男の目が見開かれる。

続けて二人目が剣を振るう。

その軌道も、不思議なほどはっきりと見えた。

俺は一歩踏み込み、腕をつかみ、武器をはたき落とす。


「さっきのお返しだ」


勢いを利用して投げ飛ばすと、男は仲間へ突っ込み、二人まとめて石畳へ転がった。


「ぐあっ!」


「てめぇ!」


最後の一人が怒鳴りながら突進してくる。

何も怖くない。

さっきまで感じていた焦りも恐怖も、今は不思議なくらい消えていた。


「終わりだ」


俺は男の懐へ潜り込む。

腹へ拳を叩き込むと、男の体が「く」の字に折れ曲がる。

そのまま顎を蹴り上げる。


ゴッ!


鈍い音とともに男は宙を舞い、そのまま地面へ倒れ伏した。

静寂が訪れる。

三人とも動かない。

辺りにいた人々も言葉を失っていた。


その様子を見ていた通行人がざわめき始めた。


「あいつが勝ったぞ!」


「うそだろ!?」


「昼間はボコボコにされてた奴だぞ!」


「三人まとめて倒しやがった!」


歓声と驚きの声が次々に上がる。

荒くれ者たちは悔しそうに俺を睨んだ。


「くっ……覚えてろ……!」


捨て台詞だけを残し、三人は逃げるように路地裏へ消えていく。

俺はその背中を追うことなく、小さく息を吐いた。


「勝った……」


その瞬間。


――ピコン。


青白い画面が目の前に現れる。


《勝利》


《報酬を付与します》


《戦闘勝率補正を終了しました》


《ギャンブル経験値を獲得》


《スキル熟練度が上昇しました》


「経験値まで入るのか……」


やはり、このスキルはただの戦闘能力じゃない。

命を賭け、運命そのものを賭ける能力。

勝てば大きな報酬を得られる。

だが、一歩間違えれば全てを失う。

そんな危険な力だ。


「……でも」


俺は倒れた三人がいた場所を見つめる。

頬の痛みはまだ残っている。

寿命も一か月減ったままだ。


それでも、胸の奥では別の感情が静かに燃えていた。

恐怖ではない。

興奮だ。


命を賭ける。

勝てば未来を奪える。

負ければ寿命を失う。

狂ってる。

でも、俺はそうは思わない。


「最高じゃねぇか」

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