スキルサポーター
俺はふらつきながら街の外れへ向かった。
やがて草原へ続く道が見える。
街道から少し外れた草むらへ腰を下ろした。
風が草を揺らす。
鳥の鳴き声だけが静かに響いていた。
「さて……」
俺は空を見上げる。
「はぁ。どうするかな~」
せっかく異世界に来たのはいいもののやることがない。
ふと、先ほどもらった冒険者カードを出してみると、俺の名前の横にこう書かれていた。
《レベルアップ可能》
「うおっ!?」
思わず変な言葉が出る。
「これはアツいぞ」
俺がその文字を押すと、Lv.1と書かれていた欄がLv.3と書き直された。
そして俺の体から力が湧いてくるような気がする。
「これがレベルアップか……」
下のスキルの欄を見るとまたもや何かが書かれていた。
スキル《ギャンブル》Lv.1 《レベルアップ可能》
「おおこれもか!」
俺が再び文字を押すと、今度は何も感じない。
「あれっ?」
だが、紙には
《ギャンブル》Lv.3
と書かれている。
「なんだ?何も感じないぞ?」
すると、
――ピコン。
電子音が鳴る。
《サポート起動中……》
文字が出てくる。
「サポート?」
《起動完了。こんにちは》
急に画面の中のやつが話し出した。
「え、え?」
俺は混乱した。
《ご安心ください。私はあくまであなたのスキル《ギャンブル》のサポーターです》
「お前……何なんだ?」
数秒沈黙し、画面に文字が浮かぶ。
《私はあなたの魔力から生成された補助人格です。基本的には《ギャンブル》の管理とあなたのサポートをします》
「はいはい。スキルのサポーターねぇ」
《はいそうです》
「じゃあ聞く」
「寿命は本当に減ったのか?」
《はい》
短い返答だった。
「どれくらい?」
《ぴったり一か月です》
「それだけ?」
《それだけです》
「……見えないのか?」
《寿命は見ることができません》
「なんでだ」
《このスキルの能力外だからです》
「ならこのスキルの能力は何なんだよ」
《このスキルの能力は、名前の通りギャンブルをすることで運命を決めることができます。ちなみに設定することで、ゲームを変更することができます》
「えっ? ゲーム変えれるの?」
《はい。コイントスやルーレットなどに自由に変えることができます》
「最初から言えよ……」
《それは無理です。私は、《ギャンブル》スキルがLv.3になれば追加されるので》
こいつ……。
ちょっと腹立つ。
「じゃあ勝率どうなってるの? 54%で負けたんだけど」
《正常です》
「正常?」
《成功率54%とは、54%成功する可能性があるという意味です》
「知ってるよ!」
「でも普通54%なら勝つだろ!」
《46%で失敗します》
「……」
正論だった。
何も言い返せない。
《確率は保証ではありません》
《あなたは誤認しました》
「……クソ」
完全に俺の負けだった。
パチンコでもそうだ。
期待値が高いからと言って当たるわけじゃない。
なのに俺は、
『54%だから勝てる』
と思い込んだ。
ギャンブラーとして一番やってはいけないミスだった。
「じゃあ質問を変える」
「勝率は何で決まる?」
《対象、あなた自身の能力、環境、あなた自身の幸運値、その他です》
「その他って何だ。」
《非公開です》
「なんでだよ」
《仕様です》
「腹立つなぁ……」
思わず頭を抱える。
「幸運値って何だ?」
《運にバフがかかります》
「どれくらい?」
《非公開となっています》
「お前……。」
《仕様です》
「便利な言葉だな!」
青白い画面は何事もなかったように揺れる。
こいつ、絶対わざとだ。
「ベットできる物は?」
《《寿命》《魔力》《所持金》《保有スキル》《能力値》など大体のものはベットできます》
「……能力まで?」
《可能です》
「全部失うことも?」
《はい。可能です》
思わず息を呑んだ。
「じゃあ逆に。」
「勝てば?」
《対価に応じた報酬を獲得します》
「寿命を一年賭けたら?」
《報酬は大きくなります》
「十年なら?」
《さらに大きくなります》
「全部なら?」
画面が数秒止まる。
そして。
《推奨しません》
「推奨しない?」
《敗北した場合》
《死亡します》
「……。」
風が吹いた。
草が揺れる。
さっきまで暑かったのに、急に寒気がした。
「つまり俺は」
「命をチップにして戦うスキルってことか」
《概ね正解です。命以外もかけることはできますが》
「狂ってるな」
《否定しません》
乾いた笑いが漏れる。
俺らしい。
ギャンブルしかやってこなかった人間に与えられたのが、
命を賭ける能力。
笑うしかない。
「最後に一つ」
「お前は俺を助けるのか?」
画面は静かに揺れる。
数秒後。
《私は公平です》
《勝者にも敗者にも平等です》
「……なるほど」
味方じゃない。
敵でもない。
ただ、賭けを成立させるだけ。
それだけの存在。
「ならいい」
俺は立ち上がった。
ズキリ、と頬が痛む。
まだ殴られた傷が残っている。
「次は負けねぇ」
《その発言を記録しました》
「記録すんな」
《記録完了》
「消せ」
《拒否します》
「なんなんだ、お前!」
思わず笑ってしまった。
異世界に来て初めてだった。
心の底から笑ったのは。
この世界は優しくない。
スキルも優しくない。
でも。
「面白ぇ」
俺は胸ポケットの冒険者カードを握り締める。
命を賭けるなら、
誰よりも上手く賭けてやる。
そう心に誓い、ゆっくりと街へ戻り始めた。




