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ギャンブル中毒者が魔王討伐!?~ギャンブルスキルだけで魔王討伐~  作者: がりうむ
1章

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2/14

転生

「止まれ」


街の門をくぐろうとした瞬間、槍を持った兵士に肩を叩かれた。


「……俺?」


「他に誰がいる。身分証を見せろ」


身分証?

免許証のことか?

いや、財布ごと死んだはずだ。


「えっと……なくしました」


兵士の眉がぴくりと動く。


「なくした?」


「はい」


「名前は」


「神崎譲です」


「カン……何だ?」


噛み合わない。

まるで聞いたこともない名前だと言わんばかりの反応だった。

兵士は隣の兵士と顔を見合わせる。


「怪しいな」


「だな」


おいおい……いきなり職質かよ。


「悪いが、詰署まで来てもらおう」


まずい。

何も分からないまま牢屋なんて御免だ。

逃げるか?

いや、槍を持った兵士が四人。

無理だ。

俺が考え込んでいると、不意に視界の端が青く光った。


――ピコン。

まただ。

視界に半透明の画面が現れる。


《イベント発生》

《賭けを開始しますか?》


「……は?」


誰にも聞こえないくらい小さく呟く。

兵士たちは何も反応しない。

俺にしか見えていないらしい。

画面には続きが表示された。


《対象:門番の尋問》

《成功率 38%》

《成功時:自由に街へ入れる》

《失敗時:拘束》

《ベットするものを選択してください》


「ベット?」


画面が切り替わる。


《所持金 0》

《魔力 0》

《寿命》


「は?」


寿命?

冗談だろ。


《最低ベット 一日》


思わず顔が引きつる。

寿命を賭ける?

意味が分からない。


だが、このままでは兵士に連れて行かれるハメになる。


「おい、どうした」


兵士が怪訝そうな顔で俺を見る。

時間がない。


「……一日だけだ」


半信半疑で画面に触れる。


《寿命 一日》

《成功率 38%》

《開始します》


画面が砕けるように消えた。

何も起きない。

失敗したか?

そう思った瞬間だった。


「おい! 止まれ!」


門の外から怒鳴り声が響く。

荷馬車を引いていた馬が突然暴れ出したのだ。

御者が必死に手綱を引くが制御できない。


「避けろ!」


兵士たちは一斉にそちらへ駆け出した。

門前は大混乱になる。

その中で、一人だけ残った兵士が俺を見て舌打ちした。


「……ちっ。お前!」


「はい!」


「今日は通してやる! 余計なことをするなよ!」


「え?」


「早く行け!」


背中を押される。

俺は訳も分からないまま門をくぐった。

その瞬間。


――ピコン。


《成功》

《寿命 一日は返還されました》

《報酬》

《幸運値 +1》


「……マジかよ」


思わず立ち止まる。

あの騒ぎは偶然だったのか、それともこのスキルが引き起こしたのか。

分からない。

だが、一つだけ確かなことがある。

このスキルは本当に"賭け"を成立させたのだ。


口元が自然と緩む。

ギャンブルで勝った時の、あの胸の高鳴り。

街の大通りを歩きながら、俺は周囲を見回した。


石畳の道。木造と石造りが入り混じった中世ヨーロッパのような街並み。

耳の尖った少女が果物を売り、犬のような耳を持つ男が大きな荷物を運んでいる。

遠くではローブ姿の老人が指先から炎を出し、子どもたちが歓声を上げていた。


「……手品?」


思わず立ち止まる。

いや、違う。

炎には種も仕掛けもない。

周囲の誰一人として驚いていない。

それが当たり前の光景なのだ。


「なんなんだ……ここ」


現実感が少しずつ崩れていく。

さっき見た青い画面。

耳の生えた人間。

炎を指先から出す老人。

どれも日本では説明がつかない。

そんな時、ふと視界の先に大きな建物が目に入った。

剣と盾を組み合わせた紋章。

その下には大勢の武装した男女が出入りしている。

入口の看板には、大きくこう書かれていた。


『冒険者ギルド』


「……冒険者?」


俺は看板を見上げ、思わず息を飲んだ。

その瞬間、頭の中で今までの出来事が一気につながった。


「……いや、そんな馬鹿な」


思わず首を振る。

漫画やゲームじゃあるまいし、異世界なんてあるわけがない。

そう思いたかった。

だが、現実は俺の常識を笑うように目の前へ並べられている。


「……認めるしか、ないのか」


乾いた笑いが漏れる。


「俺、本当に死んで……異世界に来たのか」


胸の奥が妙に熱くなる。

恐怖か、混乱か、それとも――。


「ハハ……最後の賭けで、人生ごと当てちまったってことか」


俺は苦笑しながら、ゆっくりとギルドの扉へ手をかけた。


重厚な木製の扉を押し開けると、酒と肉の匂いが鼻をついた。

中では剣や鎧を身につけた男女が酒を飲み交わし、大声で笑っている。


「おい、新顔だ」


「見ねぇ顔だな」


一瞬だけ視線が集まるが、すぐに誰も興味を失ったように会話へ戻っていった。

俺は胸をなで下ろし、受付へ向かう。


「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょうか?」


笑顔で迎えたのは、金色の髪を後ろで束ねた若い受付嬢だった。

久しくまともな女性と話していなかった俺は、緊張しながら作り笑顔で話す。


「えっと……」


俺が言葉に詰まると、受付嬢は笑顔で話してくれた。


「冒険者登録でしょうか?」


「あ、はい。それですそれ」


「了解いたしました。登録料として三銀貨を頂いております」


「……三銀貨?」


「はい」


俺の笑顔が固まる。

財布どころか、持ち金はゼロだ。


「ちなみに……日本円だと?」


「にほんえん……?」


「あ、いや……何でもない」


受付嬢は首を傾げた。


「三銀貨をお持ちでなければ登録はできません」


「そう……ですよね」


当然だ。

仕事をするには登録が必要。

登録には金が必要。

しかし、その金を稼ぐには仕事が必要。

完全に詰みだ。

だが、長年ギャンブル漬けだった俺に諦めるという選択肢はない。

俺が頭をフル回転させ考えたその時だった。


「はぁ……」 思わずため息をついた、その時だった。


――ピコン。


聞き覚えのある電子音が鳴る。

俺の視界の中にまた青白い画面が現れた。

《イベント発生》

《登録料を入手しますか?》


「またか……」

誰にも見えていないらしく、受付嬢は不思議そうに俺を見ている。

画面には続きが表示される。

《成功率 20%》

《成功時:三銀貨獲得》

《失敗時:寿命三日消費》

《最低ベット 寿命一日》


「二割か……」


低い。

普通ならまず選ばない数字だ。

だが、俺の口元は自然と緩んでいた。


「悪くない」


仮に失敗しても失うのはたった一日。

この状況なら期待値は十分高い。


「一日賭ける」


画面に触れた瞬間、文字が光を放つ。


《ベット完了》


その直後だった。


「おーい、受付!」


酒臭い大男がカウンターへ歩いてきた。


「悪い悪い! 昨日勝った祝いで飲みすぎちまった!」


大男は懐から革袋を取り出そうとしたが、勢い余って床へ落としてしまう。

ジャラジャラッ!

銀貨が辺り一面に散らばった。


「しまっ――」


大量の銀貨が俺の足元まで転がってくる。

誰も見ていなければこのまま奪う所だが、ここはギルドだ。

場が悪い。

俺は仕方がなく拾い上げた。


「あ、これ」


「兄ちゃん、悪いが拾ってくれ!」


俺は落ちた銀貨を拾い集めると、男に差し出そうとした。

すると、大男は豪快に笑う。


「はっはっは! 礼だ、細けぇ金なんざ気にしねぇ!」


「……え?」


「昨日は大勝ちしたんだ! それくらい持ってけ!」


受付嬢も苦笑する。


「ガロンさんは一度勝つと、いつもこうなんですよ」


俺は手の中いっぱいの銀貨と受付嬢を交互に見た。


――ピコン。


《成功》

《寿命返還》

《登録料 三銀貨獲得》


「……本当に勝っちまった。」


自分でも信じられなかった。

偶然なのか。

それとも、このスキルが運命そのものを引き寄せたのか。

俺は三枚の銀貨をカウンターへ置く。


「登録、お願いします」


受付嬢は微笑みながら銀貨を受け取った。


「かしこまりました。それでは、お名前をお伺いします」


「神崎譲です」


「かんざき……じょう?」


受付嬢は困ったように首を傾げる。

やっぱり通じないか。


「……ジョーでいいです」


「ジョー様、ですね」


受付嬢は一枚の金属製カードを取り出した。


「こちらに手を置いてください」


言われるまま手を乗せると、カードの表面に淡い光が走る。

カードが完成すると、受付嬢はカードを見つめたまま、目を丸くした。


「……え?」


その声に、俺は首を傾げる。


「どうかしました?」


「い、いえ……少々お待ちください」


受付嬢はもう一度カードへ視線を落とす。

何度も確認するように目を動かし、小さく息を呑んだ。


「ジョー様……こちらのスキル、《ギャンブル》とは何でしょうか?」


「え?」


「私、そのようなスキルは一度も見たことがありません」


その一言で、近くにいた冒険者たちが反応した。


「おい、今なんて言った?」


「聞いたことねぇスキルだって?」


「ユニークスキルか?」


酒を飲んでいた冒険者たちまでこちらを振り向く。

一瞬で視線が集まり、ギルド内がざわつき始めた。


「コホンッ」


受付嬢は咳払いを一つすると、カードを差し出す。


「失礼いたしました。登録は問題なく完了しております」


俺は金属製のカードを受け取る。

そこには『ジョー』の名と剣と盾の紋章、そして――


スキル:《ギャンブル》


その一行だけが静かに刻まれていた。


どうやら、異世界でも俺は賭けるしかないらしい。

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