スキル
王都へ向かう街道。
三人は馬車に揺られながらのんびり旅をしていた。
リリアは窓から顔を出して景色を眺めている。
「わぁ! すごい! あっちに湖がある!」
「あっちには、大きな鳥がいる!」
リリアは大興奮ではしゃいでいる。
「落ちるぞ」
「落ちないもーん!」
一方、ガルドは隣で酒を飲みながら寝ていた。
「……」
「飲みながら寝るなよ」
そんな平和な時間が流れていた。
ふと、リリアがこちらを向く。
「そういえばさ」
「ん?」
「ジョーのスキルって結局なんなの?」
その一言で空気が止まった。
「……あ」
確かに。
ギルド登録の時も、キングボア戦の時も、二人は詳しく聞いてこなかった。
寝ていたガルドも目を開ける。
「俺も気になってた」
「お前のスキル、普通じゃねえ」
俺は少し考える。
言うべきか。
隠すべきか。
サポーターの言葉が頭をよぎる。
《スキル情報の公開は推奨しません》
(……全部は言えないか。)
とりあえず俺は自分の冒険者カードを見せた。
「わぁ。Lv.5なんだ。かなり低いね……」
「新人冒険者でも10前後が普通だよ」
「そこじゃねぇよ」
リリアは俺のスキル欄を見ると、首を傾げた。
「ギャンブル?いっこだけしかスキルないの?」
「賭博?」
「まあ……そんな感じ」
「状況に応じて勝負をして、成功すれば有利になる」
「失敗すれば代償を払う」
二人とも真剣な表情になる。
「へぇ」
ガルドは腕を組む。
「だからあの時、急に突っ込んだのか」
「ああ」
「あの時は勝てると確信した」
もちろん、本当は勝率97%になったからだ。
だが、それは言えない。
「なるほどね!」
リリアは納得したように頷く。
「だから運がいいんだ!」
「……運?」
「キングボアの時、転んだじゃん?」
「あれ普通なら死んでるよ?」
「確かに」
ガルドも苦笑する。
「ありゃ奇跡だった」
俺も苦笑いするしかなかった。
(半分当たりなんだよな)
幸運値のおかげだった。
「でもさ!」
リリアが身を乗り出す。
「代償って何?」
ドキッと心臓が鳴る。
「…………」
答えられない。
寿命を賭けているなんて知ったら、二人は止めるだろう。
「魔力とか?」
「金貨?」
「体力?」
質問が飛んでくる。
俺は少し考えてから答えた。
「まぁそれも1つだが、違う」
「だから秘密」
完全な嘘ではない。
だが、胸が少し痛んだ。
「むぅー」
リリアは頬を膨らませる。
「ケチ」
「企業秘密だ」
「企業ってなに!」
「じゃあパーティー秘密」
「それも違う!」
馬車の中に笑いが広がる。
ガルドは酒を一口飲みながら言った。
「まぁ、言いたくねぇことまで聞く気はねぇ」
「仲間にも秘密はある」
「その代わり」
ガルドは真面目な目になる。
「無茶だけはするな」
「キングボアの時のお前」
「あれは、死ぬ奴の顔だった」
《あなたの寿命は有限です》
サポーターの言葉が蘇る。
リリアも珍しく真剣だった。
「私も怖かった」
「ジョーが倒れた時、本当に死んじゃったと思ったもん」
二人とも笑っていない。
心配してくれていたんだ。
ガルドは笑う。
「次からは俺を頼れ」
「俺は盾になる」
リリアも胸を張る。
「二人が時間を作ってくれたら、もっとすごい魔法撃てるから!」
「だからジョー一人で頑張らなくていい!」
その言葉に、胸の奥が少し熱くなる。
俺は返事をしなかった。
できなかった。
こんな言葉を掛けられたのは、いつ以来だろう。
ギャンブルにどっぷりハマって親に見放され。
妹にも縁を切られ。
誰にも期待されなくなった俺に。
「一人で頑張らなくていい」
そんな言葉をかける奴なんて、もういないと思っていた。
誰も信じられなかった。
でも今は違う。
「……ありがとな」
照れくさくて、それしか言えなかった。
「お?」
ガルドが笑う。
「ジョーが素直だ」
「珍しい」
「今日は雨が降るかも!」
「うるさい」
三人は笑った。
馬車は王都へ向かって進み続けた。




