3. 蓄魔力機
俺は工房に戻ると、溢れてくるアイデアを凄い勢いでノートに書き出しながら、魔力回路を一から書き直し始めた。
じいちゃんの特訓の時間以外は、ずっと工房に籠った。
「ルキリアは、ちゃんと寝てるのか?」
「寝ては……おらんな。食事は、チャールズが無理矢理、口に入れてやっているようじゃが……」
祖父母の心配を他所に、俺はフラフラになりながら、完璧な魔力回路を書き上げた。
「出来た……。この魔力回路なら理論上、魔力消費量は今までの10分の1に抑えられるはず……」
そして俺は、その回路を組み込んだ『蓄魔力機』を作った。
これは、人の過剰な魔力を吸収して、その魔力をこの機械の中に貯める装置だ。
魔力計の上に立って、幾何学的な魔法陣が青白く浮かび上がったミスリル製の球体に手を触れると、空中に魔力残量ゲージが浮かび上がる。
そして魔力を吸収されている間は、何の違和感もなく痛みも無い。
この蓄魔力機を親機として辺境伯城に置き、子機となる『魔力を吸収する魔道具』を各診療所と教会、そして辺境伯城の入口にも設置して、そこで領民達に過剰な魔力を吐き出してもらうようにした。
俺はドキドキしながら、完成した蓄魔力機と結界の魔道具を繋いで動作確認をしてみた。
「えっ……?蓄魔力機の魔力量が、ほとんど減っていない」
驚いたことに、結界を24時間フル稼働させても、魔力消費量はほんの僅かだった。
どういうことなのかと調べていくと、なんと魔石が持つ魔力よりも、人から放出された魔力の方が、少量の魔力で魔道具を動かせることがわかった。
魔力の質が違うのだ。これは大発見ではないか?
(……もしかして、魔石は『死んだエネルギー』で、人から出るのは『生のエネルギー』だからなんだろうか?)
俺は、急いでじいちゃんにこの結果を伝えなければと、執務室に走った。
「おじいさま!蓄魔力機に、大変な結果が出た!」
俺は興奮しながら、魔石と人が持つ魔力のエネルギー変換率について報告したが、じいちゃんは俺の話を真剣な表情で聞き終えると、この事は当分の間、機密事項とするように俺に厳命した。
確かに……、これが公表されたら悪用される可能性が高い。これらの魔道具は、慎重に、俺の管理下のみで使用することに決めた。
そして、今……、父上が死んだあの場所に、領地を守る『結界』が張られた。
「父上、出来たよ……」
魔道具を設置して数週間が経った、ある穏やかな午後……
「セイ様!この魔道具、凄いね!もう魔力過多症で熱も出なくなったよ!」
「セイ様、この魔道具のお陰で毎日身体の調子がいいですわい!」
辺境伯夫妻は、城の入口に置いてある魔道具に触れに来る民達を眺めていた。
「ハン……、この魔道具は、我らだけで秘蔵できるものではないぞ。ルキリアの才能は、もはや隠しきれるものではない……」
「あぁ、分かっておる……」
ハンは、腕を組んで少し考えた後、執務室に直行して転移の魔道具を起動させた。
青空が気持ちの良い数日後の朝、魔道具に触れに来る領民たちを眺めながら、ハンは辺境伯城の門前で、とある人物を待っていた。
「ハン、久しいな」
「陛下もお元気そうで。……また、護衛は無しですか」
「あぁ、30分だけ散歩してくると言って出てきた」
ガーラ国王のアーチーとハンは、王立学院で知り合い、お互いを尊敬しあう親友同士であった。今では遠く離れた土地に居ながらも、プライベートな相談をするような近しい間柄だった。
「あれが、過剰な魔力を吸収する魔道具……」
アーチーは、辺境伯城の入口に設置してある魔道具に、民達がにこやかに触れていく姿を遠くからじっと眺めた。
「あれから吸収された魔力で、この領の結界を張っているのか……」
「不足分は、儂と孫の魔力を注ぎ込んでおります」
「王都でも使用したいが、王都でこの結界を張ると転移した際に弾かれる。結界内に入るための鍵の設定が魔道具に必要となると……。王都での実用化は難しいな……」
「結界の魔道具の実用化は難しいですが、蓄魔力機は魔石の代わりに、今後は普及していくでしょうね。悪用されると大変なことになりますが」
「……そうだな。弟のレイノルドと慎重に相談する。また近々来たいから、この領地に入るための転移魔道具は貰っておくぞ」
「それは陛下用に作ったものですから、どうぞお持ちください」
「それでは、また来るよ」
アーチーは、魔道具を起動させようとして、ハッと何かを思い出したように振り向いた。
「あっ、レイノルドがハンの孫に会いたがっていたよ。王都観光に連れて行きたいって」
ハンは、呆れたようにため息をついた。
「……王都を視察させたいんでしょうか?」
アーチーは大声で笑うと、「そうかもね」と言ってその場から姿を消した。
「おじいさま、おばあさま、新しい魔道具を作ったので、感想を聞かせてください!」
俺は、じいちゃんとばあちゃんが縁側という名のテラスでお茶を飲んでいるところに駆け込んでいった。
「ルキ、今度は何を作ったんじゃ?」
「今回はね、姿を消す魔道具!本当に姿を消すのではなくて、光の屈折で姿を見えないようにしているだけなんだけど、諜報部隊で使えるんじゃないかと思って作ってみた」
フルーラ辺境伯騎士団には『影の騎士団』という、じいちゃんが直々に部隊長を務める諜報の特別部隊があった。
じいちゃんは、何かを思い出したように口を開いた。
「儂の前世でも同じような物を使っていたのを思い出した。そんなに性能のいい物ではないがな」
「前世で!?おじいさまは、前世では何の仕事をしていたんですか?」
「本業は忍びの仕事をしていた。たまに武士のようなこともしていたがな」
「忍者!」
「あぁ、儂は伊賀国に住んでおったからな、周りの者達はほとんどが幼い頃から忍びの修行をしていた」
じいちゃんはそう言うと、懐かしそうに表情を緩めた。
「おばあさまの前世の事も聞いていいですか?」
実はばあちゃんも、光の魔力が発現した時に前世の記憶を思い出した、前世持ちだった。
「我の前世か?我は宮中で執筆や記録の仕事をしておった」
(宮中で執筆って……)
「実は、今でも趣味で執筆をしておるんじゃ。正体が知られぬように、気をつけておるがな」
ばあちゃんは、ホッホッホっと笑っていたが、俺はばあちゃんの前世が誰だったか、ほとんど予想がついてしまった。
どうやら、このフルーラ辺境伯領には、なぜか落ち人や前世の記憶を持った者が頻繁に現れているらしい。じいちゃんは、前世で亡くなった後にあの森に赤子の姿で落とされていたところを、たまたま森にいた前辺境伯に拾われて、数日前に流産してしまった我が子の代わりにと、前辺境伯は役所に自分の実子として届出を出したという。
じいちゃんは、前世の記憶があることは誰にも言わずにいたらしいが、王都にある王立学院に入学した時にばあちゃんに出会って、ばあちゃんが前世持ちだということをすぐに見抜いたらしい。そして学院を卒業と同時にプロポーズして結婚したとか。
「そういえば、ルキの前世の話を聞いたことは無かったのぉ……」
「あっ……」
顔をこわばらせた俺を見て、じいちゃんは「言いたくないことは言わんでいい」と、俺の頭を優しく撫でた。
ばあちゃんも、俺を膝の上に乗せて「すまん……、過去のことなど、どうでもいいことを聞いてしまったのぉ」と俺をぎゅっと抱きしめた。
俺は……。俺のことを大事にしてくれる優しい祖父母に隠し事をしたくない……。じいちゃんとばあちゃんに、俺の過去を告白しよう……
「……おじいさま、おばあさま、俺の前世の話を聞いてもらえますか」
じいちゃんは「話したいなら話せ」と優しい表情で頷き、ばあちゃんは俺の背中を柔らかくポンポンと叩いた。
俺は、両親が亡くなる原因を俺自身が作ってしまったこと。
そしてそれを止めるために過去に戻ったら、時空間警察に捕まってこの世界に落とされたこと。
そして両親が亡くなる原因を作った俺を、どうしても許せなかったことを泣きながら話した。
二人は、何も言わずに俺の話を聞いていた。
「そうじゃったか……。ルキは前世でも道具を作っていたんじゃなぁ」
ばあちゃんは、優しい手で俺の頭を撫でながら、さりげなく俺の中の気持ちを光魔法で癒してくれた。
そしてじいちゃんはニカッと笑って、そんな小さいことに心を囚われるなと言って俺の背中をポンと叩いた。
「過去を振り返らない者は、過去を繰り返す。今世では悔いを残さぬ生き方をすればよい。ルキリア、この世界を楽しめ」
俺はじいちゃんに大きく頷き、ばあちゃんに背中を撫でてもらいながら、声を上げて大泣きした。
「ルキ、時間は命と等しいんじゃ。自分らしく生きていいんじゃ……」
じいちゃんとばあちゃんは、俺が泣き止むまで、ずっとそばにいてくれた。
その日の夜、俺がベッドに入ろうとしていると、ばあちゃんが寝る前の体調を見にきてくれた。
「……そういえば、ルキ。国王陛下の弟君が、お前に会いたがっているそうじゃ」
「えっ、王弟殿下が?」
……俺、何かしたのかな?




