15. マルコの覚醒
「おじいさま、おかえりなさい!」
「ハン、エビータ国の式典はどうじゃった?」
俺とばあちゃんは、じいちゃんが帰宅すると連絡のあった時間になると、辺境伯城の入口横の部屋に作った転移室で、ソワソワしながらじいちゃんを待っていた。
「ルキリアもセイも……、こんなに遅くまで起きて待っていたのか」
「うん、俺、眠くない」
「我も眠くないぞぇ」
じいちゃんは、苦笑いすると、後ろに控えていたチャールズに声をかけた。
「チャールズ、執務室にホットミルクとハーブティーを頼む」
「畏まりました」
執務室に移動すると、俺はチャールズの持ってきてくれたホットミルクを飲みながら、じいちゃんの話を聞いた。
「空挺団が国を出た?」
「あぁ、どうやらノクタリア国に向かったようだ」
「ノクタリア国?」
「エビータ国の諜報員からは、ノクタリア国の者が空挺団に接触したという報告はなかったが……、秘密裏に交渉が行われていたようだ」
「なんでノクタリア国なんだろう……?」
「理由はわからんが、あの国には諜報員も入ることは出来んからな……。彼らがあの国に入ったら、追うことは難しい……」
俺が難しい顔をしていると、ばあちゃんが場の雰囲気を変えるように、明るい声でじいちゃんに声をかけた。
「式典はどうじゃった?」
「式典は素晴らしかった。半年前まで戦争していた国とは思えないぐらい、町も活気づいていた。あっ、忘れておった……」
じいちゃんは、上着のポケットをゴソゴソと探ると、リボンのついた2つの小さな箱を俺とばあちゃんの前に置いた。
「おじいさま、これは?」
「土産だ。エビータ国は、ラピスラズリの産地でな、昔からラピスラズリは『聖なる守り石』として、身に着ける物に使われることが多い」
ばあちゃんと俺は、「お土産!」と喜んで箱を開けると、ばあちゃんはラピスラズリの付いたネックレスで、俺のはブレスレットだった。
「うわぁ~!すごい神秘的な藍色。カッコいい!……んっ?」
「これは……!」
じいちゃんは、「気がついたか」と言って、ドヤ顔で俺たちを見た。
「聖エリス国の教皇も一緒に町を視察してその店に入ったから、その際にそのネックレスとブレスレットに加護を付けてもらった」
「聖エリス国の教皇に!?」
「あぁ。加護をつけましょうか?って軽く仰ってくれたからな、お願いした」
((遠慮しなかったんだ!))
そしてその夜、俺はじいちゃんからもらったブレスレットを付けて、ベッドに入った。
(じいちゃんが自ら選んだプレゼントを貰うのは初めてだ……。なんか嬉しい……)
♢*♢*♢*♢*♢
「ゔっ……、ぐっ……」
「……おがぁちゃん……ぐぁっ……」
「ぐがぁっ……頭が割れる……」
「みんな!3日の我慢だ……ゔっぐっ……」
ノクタリアの離宮では、真っ白な部屋に並ぶベッドに、5人がうめき声を上げながら高熱と体の痛みに耐え忍んでいた。
俺は、横目で仲間たちの様子を確認しながら、歯を食いしばって痛みに耐えていた。
赤い液体を飲んで2日目の夜、ふと気がつくと、なぜか俺はベッドに横になっている自分を見下ろしていた。
(なんだこれは……。俺は死んだのか?)
遠くに見える光を覗くと、エビータ国にいるライアン国王と第7王子の姿が見えた。
「まだガーラ国王からマルコたちの行方の連絡はないのか?」
「兄さん、まだ連絡はないよ……」
「やっぱり俺が探しに行く!あいつら、北で道に迷って凍えているかもしれん!俺は行くぞ!」
「兄さん!待ちなよ!むやみに探し回っても見つけられないよ!」
「離せ!弟が泣いてるかもしれないんだぞ!俺たちが探してやらないで、誰があいつを守ってやれるんだ!俺は……、マルコ、遅くなって済まない……」
ライアン国王が泣き崩れている背中を、第7王子が抱えている姿が見えた。
(なんだこれは……。夢か?)
目の前の光が閉じると、後ろの方に淡い光が見えた。
西の辺境伯の義父の葬儀を行っている様子が見える。義兄たちが棺の横で泣き崩れている。
(あの義父が、亡くなった?)
……俺は、生まれてすぐに西の辺境伯に預けられたが、あそこで俺は余所者として扱われていた。誰も俺のことを見てくれる者はいなかった。最低限の食事と教育だけが与えられ、義家族と共に食事をした記憶はない。
光が消えて、目の前が真っ暗な闇に包まれた。
そして目を開けると、俺はベッドの上で熱と痛みを感じていた。
(今のは何だったんだ……)
丸3日が過ぎた日の朝、俺は静かに目を覚ました。
みんな、熱も体の軋みもおさまったのだろう。静かな寝息を立てているのが聞こえる。
「マルコ殿、お目覚めですか?」
「あぁ……」
ノクスが俺のベッドの横に立っていた。そしてなぜか、『懐かしそうな表情』で俺を見ていた。
「ご気分はいかがですか?」
「とっても……、体が……軽い……」
「後で鏡をご覧になってください。ヴァンパイアの血がとても良く馴染んでいらっしゃいます。後ほど専属の魔法医が診察に参りますので、それまでゆっくりお過ごしください」
ノクスが姿を消すと、俺は部屋の奥にある洗面所に行って、鏡を覗いた。
「これが……、俺……?」
俺の髪は銀色に変わり、そして目の色は紫色になっていた。俺の以前の色は茶髪に茶色の目という、なんの特徴もないような色だったのに……。
「あいつと同じ色になっている……」
部屋から、目覚めた仲間たちの声が聞こえてきた。
「うぁ~!サム!髪の毛が真っ白になってる!」
「お前たちの髪色も真っ白だぜ!」
洗面所から出て、みんなを見回すと、全員の髪の色が真っ白に染まっていた。
「うわぁ!団長も髪の色が……。んっ?団長の髪色は銀色だ。白じゃない」
「あっ、ホントだ。目の色も紫に変わってる」
(なぜ俺だけ、あいつと同じ色に……)
みんなは、髪の色が白色に変わっただけで目の色はそのままだったが、マルコだけ髪と目の色がノクスと同じ色に変わっていた。
魔法医から、健康状態に問題なしと診断を受けた俺たちは、新しく得た力を試しに、離宮のそばにある訓練場に出た。
「この訓練場は、貴方たち専用ですので、他の者が入ってくることはありません」
「殿下、なんで俺たちをこんなに高待遇で迎えてくれるんですか?」
ノクスは、一瞬だけ寂しそうな表情をしたが、すぐにいつもの冷たい微笑でエリックに答えた。
「この訓練場もあの離宮も、私の部下たちが昔に使っていたものです。遠慮なく使ってください」
♢*♢*♢*♢*♢
「ノクス殿下、陛下がお呼びです」
ノクスが執務室で王太子としての仕事を捌いていると、国王の側近がノクスを呼びにきた。
ノクスはペンを置いて顔を上げると、側近を睨みつけた。
「珍しいですね、陛下が私を呼びだすとは……。顔を見るのは半年ぶりでしょうか」
「……離宮に滞在している者たちのことについて、報告しろとのことです」
ノクスは立ち上がると、側近をその場に置いて国王の執務室に向かった。
「お呼びでしょうか」
ノクスが執務室に入ると、国王は側近たちを下がらせた。
「ノクス、久しぶりだな」
「ご用件は?」
「……お前が連れてきた者たちのことだ。彼らをどうするつもりだ?」
「彼らは、私の直属の部下となりました。近々、動いてもらう予定です」
「人族などを部下にしても、使えないだろう」
「すでに彼らを魔族の体に作り替えましたので、ご心配には及びません」
「お前は……、あの薬の研究を完成させたのか」
「はい。人族と魔族との共同研究でしたが、人族が研究を手放してからは、私がそれを引き継ぎました……」
「お前は、いったい何をするつもりだ」
「……私がこの国を継承したら、昔のようにこの国を強くしたいだけですよ」
「今のこの国は、弱いというのか!」
「弱くはありませんが、緩いですね……。この緩さに、この国の民は無気力になっている。日の当たらない氷の国で、国から与えられた仕事をして、身近な者と結婚して子を成し、生を終える……」
「それの何が悪い?戦争も無く、仕事を失うこともなく、飢えることもない。貧富の差のない管理の中、国民たちは安全に生活できる」
「貴方は……。いえ、やめておきましょう。王太子としての仕事はきっちりとしておりますので、ご懸念には及びません。……失礼いたします」
ノクスが執務室を出ると、国王は大きくため息をついた。
ノクスは、自分の執務室には戻らず、5人がいるであろう訓練場に向かった。
「みなさん、新しい体はどうですか?」
「体がとっても軽くて、魔力もみなぎってます!」
「うん。5日間かけてここまで来たけど、1日でエビータ国まで飛べそうだよね」
「俺は感動してるよ……。人族の体じゃ、俺たちに出来ることは限られてた。今のこの体なら……」
みんなの様子を見て、ノクスは満足気に微笑んだ。
「マルコ殿、みなさんの調整が整い次第、初仕事を指示したいのですが……、よろしいでしょうか?」
マルコは、緊張した面持ちで頷いた。
「あぁ、いつでもいける……」




