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第45話 これがデートと言うならそれでいい②

「これとこれ、どっちがいいかな?」


 ハッと気付けば、普段絶対入らないような店の中だった。

 隣にいるのはジュリエット。どうやら舞台衣装を選んでいるようだった。


「どっちも似合うと思いますよ」


 差し出されたワンピースとパンツスタイルのセットアップを見つめて答える。


「ありがとね、立野くん。でもそういうことじゃないの」


 瑚夏さんはやれやれと頭を振って呆れたように言葉を吐いた。

 じゃあどういうことなんだってばよ。


 どちらがいいか聞かれたら、「どっちも」が選択肢にあるのは不思議じゃないだろ。

 欲張りなことは否定できないけど。


「両方似合わないより絶対いいと思うんです」


 苦し紛れに放ったパンチはしかし、華麗に躱される。


「そりゃね!一般的に見ればね!というかどっちも似合うやつしか持ってきてないから似合うのは当たり前なの!」


 おうおう、勢いが強くなってきたな。

 この後理不尽に怒られる未来が見える。瑚夏さんと過ごしてきて感覚がわかってきた。


「私が聞きたいのは、立野くんならどっちが好き?って話」


 決め台詞をバチンッと決めた彼女は、こちらへ一歩踏み出した。


 だめだ、彼女のテンションにまだついていけない。


「ちょっと待ってくださいね、勢い任せでここまで来ましたが、そもそもこれどういう流れです……?」


 一旦我に返るのも大切だと思うんだ。

 特にこう、混乱している時は。


「お気に入りの学生の女の子を引っ掛けて悪い遊びを教えそうな立野くんをなんとか押しとどめて、私に付き合わせてるだけだけど?」


「前半が全部おかしいです、先輩」


「日本語なんて結局最後が大事なんだから、そんなこと気にしていいのよ後輩くん」


 ふふんと鼻を鳴らす。上手いこと言ったつもりか?

 それで騙されるなら世も末だが、相手は広報課のジュリエット。

 たまには優しくしてもいいと思うんだ。いや、いつも優しくしてるけど。

 突然発生する飲みに付き合ってあげたり、水族館とかいう海の底に船で行ったり。


「はいはい、この前のデートはワンピースだったので、セットアップがいいと思います」


「おおお〜?」


 首をこてん、と倒す瑚夏さん。いちいち仕草がかわいいな。

 だが俺は知っている。彼女の動きがすべて計算され尽くした演技であることを。


 ならば、ならば。

 瑚夏ゆりがジュリエットである以上、ここは舞台だ。


 主演が舞うなら、助演はエスコートしなければならない。これは社会の常識とか先輩後輩以上の間柄(・・・・・・・・・)だからとかチャチな理由じゃない。


 俺たちが生まれるずっとずっと前、古代ギリシアの時代から決まっていることなのだ。蝶が花の周りを舞うように、水が滝から落ちるように、月が空に浮かぶように。


 簡単な話だ、ジュリエットがロミオと呼ぶのなら、俺はロミオを演じる必要がある。


 だから仕方ない(・・・・・・・)


「パンツスタイルの瑚夏さんも見たいってだけですよ」


「ふへっ、君がそう言うならこれは買いましょう!決定!」


 そのままワンピースとセットアップ、両方を腕に抱えて彼女は進んでいく。


「あれ?そっちは戻さないんですか?」


 ワンピースを指差して問う。


「そりゃね、私の大事な大事はロミオ様が『両方似合う』って言ってくれたからね」


「誰がロミオ様ですか、冗談じゃない。大勢の前で演技なんてできませんよ!」


「主演私、助演はあなた、観客は世界中だなんて燃えない?」


「主に社会生活が炎上するんですが……」


「消火の必要なんて1ミリもないわね」


 そう言い切って、彼女はレジへと向かう。

 他の服には目もくれずに。


「試着とかいいんですか?」


 純粋な疑問をぶつけてみる。

 俺ですら服を買う時は試着する。後でやっぱりサイズが合わないとかもったいないし?


「いいのいいの、もう試着は全部してるから」


 こともなげに彼女は歌う。

 いつのまに……!?いや、今日はずっといっしょにいたはずだよな。


「あ〜おかしい、そんな鳩が豆鉄砲食らったような顔して!」


「え、だって今日はずっと一緒だったじゃないですか」


「ずっと一緒っていい響きね」


「ちょ、話が逸れる逸れる!」


 なんとか軌道修正しなければ。


「前にこのお店に来た時にね、欲しい服は試着してあるの」


「じゃあその時買えば……」


 言いかけたところで、人差し指が俺の唇に添えられる。


「ばかね、あなたに選んで欲しかったって言ってるの」


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