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第44話 これがデートと言うならそれでいい①

「さて、立野くん!」


 なんとか説明会も終わり……なんとかって言うほど苦労はしてないけど、会場のビルの前に立ち尽くす。


「当然のようにいますね……もう解散じゃなかったですっけ」


 確か人事課以外の応援職員はさっさと帰って良かったはずだ。

 俺はちょっとお腹に住むモンスターが暴れたから遅くなっただけで。


「誰かさんと一緒に帰ろうと思って探したのに全然いないから待ってたのよ、説明会に来てたお気に入りの女の子引っ掛けて遊んでたんじゃないでしょうね!」


 ずんっと瑚夏さんは身体を寄せる。


「酷い言われようだ……トイレにこもってただけなのに」


「あ、そうな!じゃあ許してあげましょう」


「上からだなぁ」


「私は先輩(・・)だからね!後輩でも同期でもなく!そう!ポニーテールの同期ではなく!」


「こだわりますね……瑚夏さんの同期の方ってポニーテールな方いらっしゃいましたっけ」


 思い浮かべてみるけど、自分の知っているポニテの人はいないな。

 いるのかもしれないけど。


「私のじゃなくてあなたの同期ね」


 言われて思い当たる。

 千波か。


「まーた千波の話、好きですねぇ瑚夏さんも」


「な!ちがうちが〜う!なーんにも伝わってない!」


 ぶんぶんと頭を振る瑚夏さん。

 そのままぐいっと俺の腕を掴むと、早足で歩き始める。


「ちょっ!」


「ちなちゃんとはこういうことしない?」


 世界中で付き合ってもないのに腕を組んで引っ張られる社畜がいるなら名乗りを上げてくれ。

 全力で羨ましい視線を送ってやる。


「するわけないでしょ、ただの同期ですよ」


「ふーーーーん!ただの同期とデート行くんだ!」


 なんだか前にもこんな会話をした気がするなぁ。


「行かないですって。というかここ数年デートなんて……」


 答えながらも頭の中の千波ちなは嫌そうな顔をしている。  

 そうだな、これはデートだって話したな。


 でも瑚夏さんにそれを言う訳にはいかないんだ。

 理由は……理由はまだちょっと言語化できないけれども。


 そこまで思い至ったところで失言に気がつく。

 進むテンポの落ち着いた瑚夏さん。


 恐る恐る顔を見ると、まるで般若のような強ばった表情。


「立野くん……」


「ごめんなさい、謝ります。いや、ごめんなさいもおかしいですけどね?」


「いい?今君は私の楽しい楽しいデート(・・・)の思い出をなかったことにしようとしてるわけ」


 水族館に行ったときのことを言ってるんだろう。


「あれがもしデートじゃなかったとしても楽しかったですよ」


「リップサービス?」


「まさか」


 リップでサービスしたのはそっちじゃないか。


「でもデートなんだよね、残念ながら」


「むしろ喜ばしいのでは?」


「そうとも言う!」


 土曜日の夕方に響き渡る明るい声。

 こんな毒にも薬にもならないやりとりを延々と続けたい。


 あぁ確かに、その気持ちは本当だ。

 それを叶えるためなら。


「どうしたの、急に大人しくなって」


「普段は暴れてるみたいな言い草じゃないですか」


「違うの?」


「どちらかと言えば瑚夏さんの方が」


「失礼しちゃうわね!」


 ぷんぷん!と口で言ってるこのかわいい生き物とずっと一緒にいられるなら。


「毒でも短剣でもかかってこいって感じですよ」


 思考が口を伝うのは脇の甘さから。

 いや、それよりきっと、どこか希望を持っているから。


 呟いた言葉が彼女に届いたかどうかはわからない。

 けれど、ほんのり夕陽に染まった耳と微かに強くなった腕は、嘘じゃない気がした。

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