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第40話 ジュリエットは匂わせる②

 定例会議も終わり、同僚と法務部屋へと向かう。


「まさか合同説明会の動員がうちにかかるなんてな〜しかも立野が当たるとは」


 ポケットから取り出したグミを口へ放り込みながら、同僚はぼんやり呟く。

 くそ、他人事だと思って適当に喋りやがって……。


 彼の言う通り、会議の議題の一つとして就職説明会の動員が挙げられたのだ。

 就職説明会って普通、人事とキラキラ部署でやるんじゃないのか。


 うちや経理課みたいなバックオフィスは参加しないものかと思っていた。

 学生相手に事務系の流れを説明しても魅力が伝わるとは思えないんだが……。


 ここ数年なかった動きに、何者かの陰謀を感じる。絶対そんなはずはないのに、頭に浮かんだ二人の女性。

 いやいやさすがにないだろ、なんでもかんでもトラブルメイカーのせいにしては可哀想だ。


 というか何が一番不満かって、休日なんだよな。

 重いぞ、社会人から土曜日を奪う罪は。


「とんだ貧乏くじだ、なんでお前は当たってないんだよ」


「日頃の行いがいいからな。まぁ何事も経験だよ立野クン」


 隣でお菓子食ってるだけなのに!?

 それなら真面目に仕事してる俺も相当日頃の行いがいいだろ。


『まぁ、あんたはいろいろと日頃の行い悪いでしょ』


 おっと今脳内千波が暴れだした気がする。無視しとこ……。


 毒にも薬にもならないやりとりをしていると、法務課フロアに到着するエレベーター。


「土曜出勤がなぁ……」


 頭にもやもやと残るのは休日が消える痛み。

 こう、半身が持っていかれるような。


「相当嫌なんだな、でも代休あるだろ?」


「それはそう」


 土曜日をリリースして翌週金曜休みを召喚しようかな。

 千波と行く花火大会も来週の土曜日なことだし、前日に一息つくのも悪くないだろう。


「そういえば」


 同僚は新たな話題の口火を切る。


 法務課まであと数十メートル。

 もうここまで来れば自分の庭だ。


「来週末の花火大会さ、」


 聞き慣れた単語が耳を掠めた気がする。


 さて、俺の演技の見せどころだ。

 当たり前のように花火大会がある話をしているが、普段の俺なら絶対知らない。


「は、花火大会あるのか……すごい人だろうな」


 最近は社内きっての女優とよく話すはずなのに、まったくもって大根役者だ。


「土曜日だから家族連れとかも多そうだしな。これが平日だったら電車やばかったぞ」


「んで、どうしたんだ花火が」


「そうそう、俺の仕入れた情報によるとなにやら広報課の面々が揃っていくらしいぞ!」


 毎度どこから仕入れてくるんだその話は。

 しかも広報課かよ。


 千波のやつ、そっちで行かなくてよかったのか……わざわざこんな社畜と二人で行かなくても。

 いや、違う。考えるべきなのはそれにどう応えるのか。


「なんか広報課ってすごいよな、みんな友達みたいで」


 集まっても給料出ないのに……。


「確かに。法務課で花火誘ったら何人来るだろ」


「0人に一票」


「俺が誘うんだから少なくとも立野は来いよ」


「何が楽しくてアラサーの男二人で花火見なきゃいけないんだ」


「面白いぞ多分、むしろ純粋に楽しめそうじゃないか?」


 あれは恋人になるかならないかわからない関係のまま見るから楽しいんじゃないのか……?

 おじさんに大きな音とフラッシュは堪えるんだ。なんだか寝る前に思い出してうなされそうじゃないか。


「まぁ俺その日予定あるから行けないけど」


「おい!じゃあ全然だめじゃねぇか!」


 足踏みをする同僚。

 でも言えるわけないだろ、その日は広報課の千波ちなと二人で花火を見に行くなんて。


 ボロが出ないようなるべく口を噤んで、俺は自分のデスクへと座った。

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