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第32話

馬車にはルクレッツィア王女殿下とわたくしだけで、王女殿下付きの侍女は別の馬車みたい。


「ルクレッツィア王女殿下、侍女が別の馬車でよろしかったのですか?」


「えぇ、ジャクリーン様とゆっくり話してみたかったの」



王女殿下はわたくしが15歳の時にアレックスとマストロ商会を立ち上げたことをご存じで、商会が上手く軌道に乗るまでの苦労話や他国に行ったことがあるのかと聞いてこられた。


「わたくしはアッテン大帝国へは数回行ったことがございますが、他の国はございません」


「それなのにナッカリア周辺国の言葉は全部話せるのよね」


「はい、取引する国の言葉で会話すると相手の信頼度が上がりますし、女性だからと舐められることは減りますので」


「なるほど・・・・商売をより上手くいかせるための知恵ね」


「ご存じだと思いますが、我が家は姉が成人するまでの代理人が勝手に投資をおこない、ほぼ財産を失いなましたから」



「でもそこから3姉妹で侯爵家を立派に立て直した。普通の女性貴族なら無理でしょうね」


「わたくしたちは運が良かったと思っております」


アレックスから話を持ちかけられた最初は疑ったけれども、事業家として名が売れていたし、なによりシア姉様にベタ惚れだったから、本当に運がよかったとしかいえない。


でもいまだに2人が結婚できないとは当時思っていなかったわ。



馬車が急に止まる、外から騎士が声を掛けてきたので窓を開ける。


「王女殿下、先の道で商人の馬車の車輪が壊れたらしく、立ち往生しているようです。今しばらくお待ちください」


「そう、わかったわ。商人を急がせるようなことはしないように」


「かしこまりました」


王女殿下の言葉で騎士の一部が商人の馬車の手伝いに加勢に行ったようだ。



「予定通りに宿泊先に着けばよいのですが・・・・」


「そうね、この道は広いと聞いていたのだけれど、他の馬車が通れないのかしらね?」


突然、馬車の外で「何やつ」「王女殿下を護れ」


などと怒号と剣を交える音がし出した。


わたくしは催眠魔道具を椅子の下から取り出そうとしていたら、覆面をした男たちが数名馬車に乗り込んできた。


「2人とも連れ出せということだ」


1人が話すと同時にわたくしたちに口元に何かをしみこませた布を押し当てられた。




「ジャクリーン様」と何度も小声で呼びかける声で目が覚める。


周囲を見合わすと木箱を積み上げられている倉庫のようだった。


体を動かそうとしたら両手足を縛られているようで、動くことができなかった。


「よかった。目が覚めたようですね」


「王女殿下」


王女殿下も両手足を縛られているが、何とか上半身を起こすことが出来たそうだ。


私は寝たままの状態で王女殿下に尋ねる。



「ここは倉庫のようですが、見回りとかありましたか?」


「わたくしが起きてからはないわ。残念だけれど、ここがどこかもわからないのよ」


周囲を見合わすと天井に近いところにある窓からの明るさだと夕方だろうか?


屋敷の中の倉庫なのか、商人たちが使う倉庫の一室なのかはわからない。


ただ襲われた場所を考えると、マサーヤの王都に戻った可能性が高いのではないかしら。



初日に、しかも王都に近い場所で襲われるとは誰も思っていないはず。


敵は我々の油断を読んでの行動だろうが、相当上位の貴族が手を貸さないとわたくしたちを王都へ連れ戻せないだろう。


だけどユリウス殿下やマサーヤ王家がわたくしたちを血眼になって探すのに、王都に連れ戻す理由がわからない。


絶対捕まらない場所にわたくしたちはいるということだろうか?


「襲われた場所からいうと王都へ戻ってきたということでしょうか?」


「王都に戻ったのなら、すぐに場所は特定されるはずよ。おそらく王都に近い大公領ではないかしら」



「賢い姪は騙されてくれないようだ」


「伯父様・・・・なぜこんなことを?すぐに特定されますよ」


入ってきたのは大公殿下だった。


まったくドアの開いた音がしなかったわ。


ここは隠し部屋か、特殊な魔道具で結界を張られた場所かもしれない。



「横になっているお嬢さんも肝が据わっているね。さすが女侯爵の身内だ」


「伯父様、わたくしだけ襲えばいいのになぜ彼女まで?」


「あぁ、私の仕事のパートナーがね、希望したのだよ。もう会うこともないだろうから、一度顔を合わせとくかい?」


入ってきた男性は仮面をつけていたが、私の傍まで来てしゃがんで仮面をはずす。



「伯父様、生きていたのですか?」


「覚えてくれているとは光栄だね。せっかく破産まで追い込んだのに立て直すとは面白くない」


「わざとだったのですか!」


「あぁ、君の両親も、私の両親も、君たち姉妹も私の邪魔ばかりする」


「両親を殺したのはあなたですか?」


「君のご両親は私ではないよ。君が亡くなれば女侯爵たちは悲しみ王家を恨むだろうねぇー」



「わたくしたちを殺しても伯父様にメリットなどありませんでしょ」


わたくしたちの会話の横で、王女殿下が大公殿下に喰ってかかっていた。


「いいや、弟夫婦や前国王陛下たちは悲しむだろう。私が味わった苦しみ、悲しみを彼らにも味わうべきだ」


「どういうことです?」


「そして両国間に不信感が芽生えればそれでよい」


「魔道具開発を阻止するには大げさすぎませんか?」


「エドワード君が生きている。マサーヤ王国は疑心暗鬼になるだろうよ」


「もしかして両国間で戦争を起こしたいのですか?」


「戦争?興味ないね」



「仕事のパートナーとはどういうことですか?」


わたくしは叔父様の顔を見ながら尋ねた。


「ジャクリーン、そのままの意味だよ」


「まさか、マポラの首謀者は・・・・」



「話過ぎたようだ。もういいだろう。情けで苦しまない方法で死なせてあげよう」


私の話を遮るように大公殿下は言い、2つのグラスにワインを注いだ。

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