第20話
マッケンジーはそれ以上教えてくれそうになかったから、私は席を立った。
「フェリシア嬢が戻るまで、いなくていいのかい?」
「用件は終わった。あとフェリシアはあんたの素性に気づいていない可能性がある。フェリシアをこのことに巻き込まないでほしい」
「フェリシア嬢とは本当に仕事だけだよ」
「そうかい。これからもヘロス商会の情報わかったら知らせてほしい」
私はいうことだけ言って部屋を出た。
執務室に戻ると、私は執務机の椅子に座り、椅子に背を預ける。
マッケンジーから海軍内の内通者を探せといわれたが、対象者は私が信頼している者たち全員だ。
どうやって調べていくか、ここから悩まなくてはいけなくなった。
数日後、面白い話で我が家の侍女たちが張りきりだした。
マッケンジーがフェリシアをデートに誘ったらしい。
フェリシアはマッケンジーが公爵家の次男で、男性だと本当に知らなかったようだ。
マッケンジーはフェリシア狙いだったのか?
まぁ、いい。
ヘタレのアレックスだと結婚までたどり着くか怪しいし、フェリシアがマッケンジーを選ぶなら、大変な相手だとは思うが、ヘタレよりフェリシアをしっかりと守るだろう。
侍女たちが張り切っているから、デートに行くフェリシアをより磨くように指示しておこう。
フェリシアとマッケンジーのデートは、どうやらアレックスをたきつけるためのものだったらしい。
マッケンジーとフェリシアのデートの翌日、アレックスが両手いっぱいの赤いバラを抱えて、フェリシアに会いに来たあと、フェリシアからアレックスと付き合うことになったと報告がある。
「やっとまとまったかい」
「シャルお姉様、まだですわ。お付き合いを始めましょうですから。結婚までたどりつくのでしょうか、この2人は?」
「ジャクリーン、ひどいわ」
「いいえ、夜会のエスコートや、わたくしを通じて、それなりにアレックスの人となりは知っているのに、婚約ではなく、お付き合いをですからね」
「確かに、のんびり屋の2人だからねぇー」
「お姉様!!」
「まぁ、フェリシアの人生だからね。でも結論は長引かせない方がいい」
「アレックス次第ですわ」
フェリシアがツンと顔を横に向ける。
「それが不安なんだよ。仕事はできる男なのに・・・・」
フェリシアの疑り深さは元婚約者のせいだが、アレックスももっと強引に事を進めてもいいと思う。
私やジャクリーンがアドバイスしてもおそらく無理だろう、フェリシアにはヘタレなアレックスだから・・・。
「なんとか、まとまったので、良しとするか」
私は肩をすくめた。
するとフェリシアは、私たちの前で宣言をする。
「お姉様、ジャクリーン、わたくしが安心して結婚できるように、お相手を早く見つけましょう。わたくし2人のお相手探し、頑張りますわ!!」
私はため息をこっそりとつく。
今までは軽く話す感じだったフェリシアが、宣言をしたということは本気で探すつもりだろう。
フェリシアの宣言は、過去に一度だけある。
私が成人して家を相続した時に、叔父のせいで我が家の資産が、ほぼゼロ状態だと発覚した時だ。
叔父が雇っていた弁護士ではなく、新しく我が家の顧問弁護士から話を聞いたあとで、私たち3人で役割を分担して、この困難を乗り切ろうと宣言した時以来だ。
あの時の行動力を発揮するのだろうが、今はそれどころではない。
妹たちにマポラの話をしないといけないのはわかっているが、話せば2人が無茶をしそうというのもある。
悔しいが奴に協力を仰ぐしかなさそうだ。
「ドレスを作りたいからと呼ばれたのに、全然違う話になりそうなのはどうしてかな?」
「ふん、初めから解ってきているくせに、嫌味をいうんじゃないよ」
もうすぐ春の社交シーズンは終わる。
シーズン最後に行われる王家主催のパーティーが終わると、私はロックフェルト領に戻る前に、マッケンジーからもっと情報を聞き出したかったからだ。
本来なら応接室へ通すのだが、仕事が忙しいからと執務室へ通させたマッケンジーが、ソファーに座るなり話しかけてきた。
マッケンジーの今日の恰好は、仕事用に着ているドレス姿だ。
「ご機嫌斜めだね。海軍の内部の洗い出しが、上手くいっていないのかい?」
「そうだよ。調べようにも信頼していた人たちを調べるのを、誰に任せたらいいかもわからない状態だよ」
「ここでシャル嬢に踏ん張ってもらわないと、ヘリオス商会を潰せないよ」
「わかっている。だから王家に話した情報を私にも売ってくれ」
マッケンジーが教えてくれたのは、どうやらロックフェルト侯爵領に近い5つの領が怪しいらしい。
ヘリオス商会を操っているのが、この5つの領の貴族ではないかということだ。
この5つの領はどこも薬草に力を入れている領だ。
おそらく薬を作っていて偶然できたものではないかということだった。
人体実験をして金になることがわかったのだろうともいう。
「それなら5つの領と言っているが、本当はもっと絞れているのではないか?」
「確信はないけれど、ロックフェルトに恨みを持つ貴族といえばいい?」
「私とフェリシアの元婚約者の実家か」
「そう、ロックフェルトが急速に発展、今は前侯爵時代よりも発言力が高まっているからね」
貿易で財を成した我が家と仲良くしたい貴族は、我が家の現状を知ってすぐに縁談を破棄した2伯爵家とはあまり交流をしていないと聞いていたが、放置していたことで逆に恨まれたということのようだ。
「我が家に罪を着せようとしているとことか!」
「断定はできない。どちらかの伯爵家を隠れ蓑にして、さらに黒幕がいるということも考えられるからね」




