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11話・完成


 ジョンの仮面の下の笑みを見て、ラウラは言い知れない不安を覚えた。


 すでにカードの選択は全て終わっている。

 あとは全てのカードをいっせいにめくるだけ。


 もはや出来ることなど何もないというのに、あの笑みを見せられただけで、何かまだ足掻けることはないだろうか、という気持ちにさせられる。


 あの、勝利を確信している目。

 きっと何かの方法でイカサマをして、自分に有利なカード選択をしてきたのだろう。


 レオは、そのことを分かっているようだったが、はたしてその対策をしてあるのだろうか。


 ラウラにはもう祈ることしかできず、知らず知らずのうちに胸の前で手を組み、テーブルの上のカードを見つめていた。


 と、そこへ。


「レオ!」


 突然、大きな声が賭場に響いた。


「どこで遊んでいる! 返事をしろ!」


「おーい! こっちだよー」


 その声に、レオが返事をする。

 すると人混みをかき分けて、背の高い黒髪の男がやってきた。


 ラウラはその姿を見て、以前の酒場でレオと一緒に店の外へ出て行った友人らしき男だということが分かった。


「いらっしゃい、スミ君」


「お前、店の場所ぐらいちゃんと言え。お陰で王都中を探し回ったぞ」


「ははは、ごめんごめん」


「それで? もう終わったのか?」


 レオは、ジョンに視線を戻す。


「いや、これから最後のお楽しみさ」


「そうか。それなら俺もここで見ていよう。隣、失礼する」


「あ、はい」


 そう言うと、スミと呼ばれた褐色肌の男は、ラウラの隣で腕組みをして仁王立ちした。


 隣に立たれると、余計にデカく感じる。

 背丈もそうだし、身体の厚みが常人より遥かにすごい。


 樹齢何百年もの大木のような存在感が、黒髪の男から感じられた。


 ラウラは、あまりの存在感にただただ圧倒された。


「ディーラーさん。カードをめくってもらう前にひとつ聞いてもいいかな?」


「はい、なんでしょうか」


「ここの賭場で使っているカードって、どこが卸しているの?」


 レオがディーラーに問う。

 ディーラーはすぐに答えた。


「はい、当店ではワイルドダック伯爵家の領地で製造されたトランプを使用しています」


「ワイルドダック家って、ギャンブル用品をたくさん作って卸してるところだよね」


「その通りです」


「じゃあ、ディーラーさんもワイルドダック家の人たちの顔、知ってるの?」


 ディーラーの男は、ピクリと眉を動かした。


「……いえ、私どもの支配人であれば承知していると思いますが、なにぶん私のような一従業員ではお会いする機会などありませんので……」


「そうなんだ? でも、ここの台でジョンが遊ぶ時だけは、()()()()()()()()最高品質のトランプを使うように言われているんでしょ?」


「……!」


「ね、ジョン?」


 レオがジョンに向き直ると、ジョンは喜色を浮かべたまま、レオに応じる。


「何が言いてぇんだ?」


「別に? ただ、単なるお客さんにしては、随分と優遇されてるんだねって思って」


 レオが、心の奥底までのぞき込むような、そんな瞳でジョンを見つめる。


「何が言いたいのか、全く分からないぜ。それよりも、早く最後のお楽しみといこうや。おい、早くカードをめくれよ」


 ジョンは、レオの言葉を無視して、ディーラーにカードをめくるように言う。


 頷き、ディーラーの手が二人のカードに伸びる。


「君は、勝ったつもりでいると思うんだけど」


「なんだよ、うるせぇな」


「不思議に思わなかったのかい? どうして僕が、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「……なに?」


「どうして僕は、さっきの契約書に、()()()()()()()()()()()()()()()()と思う?」


「ちょっと待て。……テメェ、何が言いてぇんだ?」


 先ほどと同じような言葉を、ジョンは再度言う。違うのは、今度は明確に困惑の感情が浮かんでいることか。


「このゲームはそのデザイン上、完全勝利するために絶対必要なものがある。それが何か分かるかい?」


「……なんだ、それは」


「それはね。()()()()()()()()()()、そして、()()()()()()()()()()()だ」


 レオは、ニヤリと笑う。


「このゲームで完全勝利するためにぶつけ合わせることの出来るカードの組み合わせは、一つしかない。つまり片方のカードに対して、一つだけ弱いカードを当てることを十三回繰り返さなければならないんだ。なのに、カードの選択はお互いのプレイヤーが交互に行うし、お互いのプレイヤーは相手のカードを見ることができない。そんな状態では、完全勝利することは、普通は不可能だ」


 だから、お互いが相手のカードまで全て把握した状態で、()()()()()()()()自分に協力させなくては、完全勝利はできない。


 と、レオは語った。


「と、いうことは、なんだけど。もし、今回のゲームの結果がどちらかの完全勝利になるとすれば。……それは、どちらかが騙されて協力させられた、ということになると思うんだよね」


「……だから、テメェは」


 何が言いてぇんだ、という言葉を、思わず飲み込む。


 ジョンを見つめるレオの表情。

 罠にかかって逃げられなくなった獲物を見つめる、猛獣のような笑みだった。


 ぞっ、とジョンの背筋に冷たいものが走る。


 そして改めてテーブルの上のカードを見る。


 勝っている。

 間違いなく自分が勝っている。


 全ての数字の並びで、自分が……!


「ところで意外だったんだけど。君ってお花が好きなんだね」


「……は?」


「だって、いつもカードの裏面の、()()()()を見つめてるからさ。お花が好きなんだと思って」


「っ……!?」


 まさか、バレていた!? いつから? どうやって? なぜもっと早く指摘しなかった! 何を考えて……!


 あらゆる疑問が洪水のように押し寄せてきて、ジョンは開いた口が塞がらない。


 そこにレオが。


「君が見ていたのは、カードの裏面だけだ。でも、この勝負はカードの表面の数字の強弱で決着がつく。……スミ君」


「なんだ」


「このテーブルの上の二十六枚のカード、触れずにまとめて表向きにできる?」


 カードに触れられるのはディーラーさんだけだからさ、とレオは言う。


「それぐらい、容易い」


 スミはテーブルに歩み寄ると、右手の人差し指だけを立てる。

 そして、指一本でテーブルの端をタンッッッ! と叩いた。


「わっ、カードが!」


 ラウラが驚く。


 スミの一撃からテーブルに伝わった振動で全てのカードが真横に起き上がり、そして二十六枚まとめて裏返しになった。


 そして、勝負の結果が明らかとなった。




 一戦目、ジョン2・レオ3。レオが2ポイント獲得。


 二戦目、ジョン3・レオ4。レオが3ポイント獲得。


 三戦目、ジョンA・レオ2。レオが30ポイント獲得。


 四戦目、ジョンK・レオA。レオが13ポイント獲得。


 五戦目、ジョンQ・レオK。レオが12ポイント獲得。


 六戦目、ジョンJ・レオQ。レオが11ポイント獲得。


 七戦目、ジョン10・レオJ。レオが10ポイント獲得。


 八戦目、ジョン9・レオ10。レオが9ポイント獲得。


 九戦目、ジョン8・レオ9。レオが8ポイント獲得。


 十戦目、ジョン7・レオ8。レオが7ポイント獲得。


 十一戦目、ジョン6・レオ7。レオが6ポイント獲得。


 十二戦目、ジョン5・レオ6。レオが5ポイント獲得。


 十三戦目、ジョン4・レオ5。レオが4ポイント獲得。



 ジョン0ポイント、レオ120ポイント。



 最終ゲーム、レオの勝ち。















「……………………はぁっ?????」



 ジョンは、大きく目を見開いて鼻水を垂らして、呆然とした表情で並んだカードを見つめた。


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