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10話・仮面の下の思惑


 ジョンは、思う。

 コイツは馬鹿だと。


(よりにもよってこんな大勝負で、()()()()()()について何も触れてない契約書を作るとは。コイツ、カネは持ってるが世間知らずのボンボンか? 見たことねー家名だから、よっぽど僻地の小貴族か、外国に大店がある商家の出とかなのかもしれねーな)


「まずは先攻決めだね」


 レオとジョンはお互いの手持ちカードをシャッフルし、一番上のカードをめくった。


 レオは3、ジョンはAだった。


 最終ゲームは、ジョンの先攻でスタートすることとなる。


 そして両者ともに自陣にカードを並べていく。


「さて、俺様からだな」


 最初の選択権を得たジョンは、レオの陣地のカードを、じっと見つめる。


(ククク。分かる、分かるぞ。今回もきちんと分かる。どのカードが何のカードなのか、全て分かる)


 ジョンが見ているのは、正確にはカードの裏面の図柄だ。


 このサーティーン・ポーカーのテーブルで使われているカードの裏面は、紺と白のチェック模様を下地に、大小様々な花と果物の図柄が散りばめられている。


 そのうちのひとつ、左上隅の花の図柄に秘密がある。


 十二枚の花びらと茎、四枚の葉っぱで構成された花の図を、ジョンは見ているのだ。


「まずは、このカードだ」


 ジョンは、自陣の2のカードを選択する。

 ディーラーはカードをめくる代わりに、そのカードを前に出した。


(手始めに、コイツのAを奪ってやる)


 続いてジョンがレオの陣地から一枚のカードを選択すると、ディーラーはそのカードを裏向きのまま前に出した。


 カードはお互いに裏向きのままだが、ジョンには何と何のカードがぶつかっているのか分かる。


 レオのカードの裏面、図柄の中の花の図は、十二枚の花びらのうち、時計の一時の位置にある花びらが、他の花びらよりほんの少しだけ細くなっている。


 これは、そうと知って見なければ分からない程度には僅かな違いだが、そうと知って見ればきちんと違いが分かるようになっているものだ。


 だから、レオのカードがAだということが、ジョンには分かるのだ。


 同じように、例えば6のカードなら時計の六時の位置の花びらが、Jのカードなら時計の十一時の位置の花びらが、Kのカードなら茎の部分が細くなっているし、四枚の葉っぱのうちの細くなっている葉っぱの位置で、カードのマークが分かる。


 これが、ジョンの使っているイカサマ。


 花びらガンカード(目印付きのカードを用いるイカサマのこと)だ。


 ジョンは今までずっとこのイカサマカードを使って勝負をし、そして勝ち続けてきた。


(これでまずは30ポイントだ)


 ディーラーが、前に出した二枚のカードを横に滑らせて並べて置くと、次にレオに選択権が移った。


「さてさて、どれにしようかな」


 レオは、初手から悩む。

 自陣のカードとジョンのカードを見比べて、長考した。


(いきなりAを取られたんだ。それもそうだろうな)


 やがてレオが、自陣のカードを一枚選択した。


 ジョンには、それが2のカードだと分かった。


(俺様と同じことをしようってのか? だが、はたして俺様のAの位置が分かるかな?)


「うん、そのカードにするよ」


「……っ!」


 レオが選択したカードを見て、ジョンは顔がにやけるのを堪えるのに必死になった。


 レオが選んだジョンのカードは、3だった。


 レオは、ジョンのAを選ぶことができなかったのだ。


「次は俺様だな」


 次のジョンの出番で、ジョンは自陣のAをレオのKにぶつけた。


 これで三連勝。


 次いでレオは、自陣のQのカードをジョンのKのカードにぶつける。


 すかさずジョンは自陣のQをレオのJにぶつけ、これで五連勝。


 ジョンは、あまりの出来過ぎぶりに、口角が上がるのを無理やり堪える。


(コイツ、勘が良いのか悪いのか。選ぶカード選ぶカード、全部俺様にとって一番都合の良いカードを選んでやがる。あまりにもマヌケ過ぎだろ! 今の時点で、俺様の負けはほぼなくなったぜ……!)


 さらに次のレオの手番でレオは自陣の10をジョンのJにぶつけ、さらに次の手番でジョンは自陣の10をレオの9にぶつけた。


 これで、七連勝。


 ジョンは、思わずレオに話しかけた。


「お前、なかなかやるな。いや、まさかここまでとは思わなかったよ」


 これほどマヌケとは思わなかった、という言葉は、無理やり飲み込む。


「そうかい? けど、君もなかなかだと思うな」


 レオは、涼やかな瞳でジョンを見ている。


 その澄まし顔が、最後にカードをめくった時に絶望の表情になるのかと思うと、ジョンはぞくぞくとした得も言われぬ快感を感じた。


(ここまで来たら、完璧にやってやる。コイツに完全勝利してやる!)


 次にレオは自陣の8を選び、そしてジョンの9を選んだ。


 またもやジョンにとって完璧なカード選択であり、ジョンの心臓がバクバクと大きな音を立てる。


 次にジョンは自陣の8を選び、レオの7を選ぶ。


 レオが自陣の6を選ぶと、ジョンの7を選ぶ。


(残りのカードは、俺様が6、5、4。アイツが5、4、3! ここまで十連勝、このまま十三連勝も夢じゃないぜ!!)


 先ほどからジョンは、心臓の高鳴りで他の音が何も聞こえないほどに興奮している。


 ジョンは自陣の6を選び、レオの5を選ぶ。


 残りはあと二枚ずつ。

 実質的な選択は、このレオの手番で最後だ。


「ずいぶんと、嬉しそうだね」


「……あ?」


「まだ決着はついていない、どころか、まだどっちが勝っているのかも分からないっていうのに」


 変なの、とレオはからかうように笑っている。


「あ、ああ。そうだな。まだ、まだ勝負は分からないもんな」


「そうさ。最後にカードをめくってみるまでは、勝負の行方は分からないよ?」


(俺様には分かるんだよ、バーカ!!)


 内心でだけ叫ぶと、ジョンはレオに最後の選択を促した。


「さぁ、あと二枚なんだ。早く選べよ」


「まあ待ちなよ。最後の集大成なんだ。もう少し悩ませてほしいな」


 それからさらに焦らすと、レオはまず自陣の4を選んだ。


 そして、ジョンのカードを一枚選ぶ。


「うん。やっぱりこっちにしよう」


「……っ!!」


 レオが選んだジョンのカードは、5。

 この瞬間、残りのカードはレオが3、ジョンが4。



 十三連勝確定だ、とジョンはとうとうその感情を抑えきれず、仮面の下の素顔に喜色を貼り付けたのだった。



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