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桃太郎の強さは皆が驚くほどのものでした。

 「おう、その剣は本当にムラマサ・ブレードなのか?」

 登録書に記入をしている最中、俺の後ろから声がかけられた。

 「さあ?」振り返って返事をすると、なんかでっぷりとした感じの悪いオッサンが立っていた。

 一応鎧とか剣を一式装備しているので冒険者のようだ。ちょうど今ギルドにやってきたみたいだ。

 「お前にゃ訊いてねえよ。ガキじゃ分らんだろ。」そう言って男は俺の頭を乱暴に頭を撫でた。

 ちょっとイラっとしてその手を払う。

 「おい!子供のくせに。礼儀くらい憶えろ。」オッサンはそう言ってこぶしを振り上げて殴るぞという脅すようなポーズを取って俺を睨んだ。

 「まあまあ、雑魚右衛門さん。大人げない。」受付ちゃんが慌てて割って入る。

 名前すげえな。

 「この子の剣はムラマサ・ブレードで間違いないと思いますよ。」

 「坊主、それ、譲ってくれ。」雑魚右衛門と呼ばれたオッサンがニヤニヤと笑いながら話しかけてきた。「ちゃんと、金は払うぜ。お兄さん、良い武器を持って無いせいで皆からいじわるされてるんだ。坊主にゃまだ、その剣は早いだろ?ほら、坊主が見たことも無いような数の銀貨やるからさ。」

 「嫌です。」

 一応、ジジイの形見分けみたいなもんだし、なによりお前が気に食わん。

 「さっきから、お前、態度がなってないぞ。」雑魚右衛門が声を張り上げた。「大人が話してる時はきちんと話聞けや。」

 「一応、『です』はつけてましたけど?」

 「お前、舐めてんのか!」再び雑魚右衛門がこぶしを振り上げた。

 めんどくさいので、無視して登録書の記入を続ける。

 「おぃ!聞けや!クソガキ!」

 5歳児に無視されて、怒鳴る大人。

 「雑魚右衛門さん、それだったらそこのボウヤと腕試ししてあげたら。」周りで見ていた冒険者たちがなんか煽り始めた。

 多分、俺のステータスが本物か確かめるつもりだ。

 でも、ちょっとこの世界の冒険者たちってのがどんなものか試してみたいのはある。

 ただ、このオッサンあんま強そうに見えないんだよな。

 「あ、馬鹿なのお前ら?ガキにイキってどうすんだよ?」雑魚右衛門が冒険者たちを馬鹿にするように言った。「金に任せた武器とコネだけで活躍してるからお前らはそんなんなんだよ。バーカ。」

 お前、こぶし振り上げて散々脅したり怒鳴ったり、散々イキってたけどな。

 「もしかしたら、雑魚右衛門さんのほうが弱かったりして。」少しカチンときたのか別の冒険者が煽る。

 俺を巻き込まないでいただきたい。

 「なんだと!?誰だ。今言ったのは。」雑魚右衛門がギルドの中を見回した。

 受付ちゃんが俺のそばまで寄って来て耳打ちした。

 綺麗なお姉さんの耳打ちは好きですか?

 私は大好きです。

 「雑魚右衛門さんって長年このギルドにいるからって、大きい顔して皆に絡むから嫌われてるのよ。」

 「はぁ。」

 「まあ、そんな強くないし。いっつもなんだかんだ理由つけて『腕試し』はしないから大丈夫よ。」

 「その『腕試し』って何をするんです?」

 「相手を怪我させないようにやる、模擬戦ね。木刀と簡式魔法だけで戦うの。もちろん防具はアリよ。」

 なるほど。

 「やってもいいですよ?」俺は雑魚右衛門に言った。

 異世界物のお約束だからな。

 こんなん義務みたいなもんやろ。

 「あ?」冒険者たちの方を向いていた雑魚右衛門がこっちを振り向いて怒鳴った。「お前、大人に向かってその口の利き方はなんなんだ!!」

 「特に何か無礼な事を言いましたか?」

 「大人に対して、生意気な口を聞くなと言ってんだ!」

 なかなかめんどくさいオッサンだな。

 怒鳴ってりゃ、俺が折れてくれるとでも思ってんのかな?

 俺、そんな大人じゃないぜ?

 だって子供だから。

 「自信が無いならやらないでも良いですよ?『大人』のあなたが、『子供』の私に負けちゃうと威張るところ無くなっちゃいますものね。」

 「じゃあ、やってやるよ!クソガキに大人の怖さを分からしてやる!」相変わらず怒鳴る怒鳴る。「おら、来いよ!!」

 そう言って、雑魚右衛門は腰の長物を抜いた。刀っつうかブロードソードだな。

 「雑魚右衛門さん。ここじゃダメですよ。」受付ちゃんが言った。「外で、木刀でお願いします。」




 ギルドの裏手にある、試合会場のような広場で雑魚右衛門と俺は木刀を持って向かい合った。

 ギルドにいた冒険者たちも、皆、『腕試し』を身に出てきていた。草野球の観客みたいに広場のはしに立っている。

 「ちっ、軽くて剣持ってる気がしねえ。」雑魚右衛門がやみくもに木刀を振るう。「俺のほうは大きい木刀にしてくれねえか?」

 「いいじゃないですか。『大人』も『武器』も関係ない、本当の雑魚右衛門さんの実力が試せますよ。」

 煽ってみる。

 「あ?」雑魚右衛門は嫌味も通じなかったのか、怪訝そうな顔だ。

 「準備は良いですか?」受付ちゃんが言った。

 一応、木刀を構える。

 雑魚右衛門は片手に持った木刀を構えもせず仁王立ちだ。

 「それでは始め!」

 雑魚右衛門が隙だらけで自分の前まで歩いてきて言った。

 「じゃあ、取り合えず、自分が子供だって事を思い知ってもらおうか。」

 雑魚右衛門はニヤリと笑うと大きく木刀を振りかぶって俺に向かって振り下ろした。

 とりあえず、一振りして、雑魚右衛門の攻撃を跳ね返すと、大きくのけ反った雑魚右衛門の身体に木刀が折れないくらいの力でもう一振り入れる。

 ブモンと鈍い音をたてて、雑魚右衛門が吹っ飛び、5m向こうに着地、水切り石のように撥ねながら跳んで行き、囲んでいた石壁をぶっ壊して止まった。

 ギャラリーの目が点になる。受付ちゃんも驚きを隠すように口元を押さえているが目がまん丸だ。

 「えーと、どうなったんでしょう?」

 受付ちゃんに尋ねる。勝ちで良いんだよな?

 「あ、はい!桃太郎さんの・・・」

 「まだだ!まだ負けてねえし、全然効いてねえし!」雑魚右衛門が無傷でがれきの中から立ち上がった。

 「おい、雑魚右衛門!ふんどし・オブ・プロテクションつけてやがるな!『腕試し』で魔術具はズルだぞ!」ギャラリーから声が上がった。

 「うるせえ、別に脱がなくたって変わんねえから良いんだよ。」

 変わってるやん。無傷やん。

 「あいつだって、なんかの強化魔法使ってるだろうが!」

 物理です。

 「強化魔法はOKですよ。」受付ちゃんが言った。

 そもそもOKなんじゃねえか。

 「うるせえ!自分勝手に騒いでんじゃねえ!!」

 騒いどんのはお前じゃ。

 雑魚右衛門が木刀を水平にして両手で持って集中を始めた。

 「ずい・・ずい・・ずっ・・・。」

 「雑魚右衛門さん!古式詠唱は禁止です!!」受付ちゃんが叫んだ。

 魔法だろうか?

 「・・・ご・・・まみそ・・・ずい!!」

 雑魚右衛門が苦悶に顔をゆがめて詠唱をおえると、突如彼の頭上に魔法陣が浮かんだ。

 「くっくっく!半分持ってかれちまったぜ・・・。」

 なにが!?

 「桃太郎さん!逃げて!!」受付ちゃんが叫んだ。

 「危ない!!」ギャラリーからも声が上がった。

 魔法陣はこちらのほうに向かってゆっくりと回転し、俺を正面に捕らえた。

 「死ねっ!」

 魔法陣の中から光の矢がすごい速さで飛んできた。

 あぶね!

 当たると痛そうだったので、ヒョイとかわす。

 俺の後ろの地面がはじけ飛んで穴が開いた。

 おお!すげぇ!

 「な、マジックミサイルを避けただと!!」雑魚右衛門が唖然とした声を上げた。

 ギャラリーからもどよめきがあがる。

 今のは、魔法!?

 もしかして、今の呪文は・・・

 試しに唱えてみる。

 「ずいずいずっころばしごまみそずい、茶壺に追われてとっぴんしゃん、抜けたーらどんどこしょ、俵のネズミが米食ってチュウ、ちゅうちゅうちゅう。」

 あと何だっけ?

 「ま、参った!!すまなかった。」雑魚右衛門が腰を抜かして叫んだ。「頼む!!殺さないでくれ!!」

 地べたにへたり込んだ雑魚右衛門は俺ではなく俺の後ろの空を見ていた。

 何事かと後ろを振り返ると、虚空に何十もの小さな魔法陣が浮かび、その真ん中には光り輝く矢が発射の命令を待つかのように待機していた。

 おお、かっけえ!

 「た、たすけてくれぇ!!」雑魚右衛門が悲鳴を上げながら、自分が壊した壁の間から転がるように逃げ出していった。

 集中というか感じていた魔力的なもんをOFFにすると、虚空に浮かんでいた矢も魔法陣もかき消すように消えた。

 「桃太郎さんすごい!」受付ちゃんが飛んできた。

 そのまま抱きしめてくれてもいいのに。

 「五節詠唱だと!?」

 「しかも、失われた最終節だ。初めて聞いた。」

 周りがざわついている。

 最終節も何も。まだ続きあったはずだぞ?後で頑張って思い出しとこう。

 どっかで試し撃ちもしてみたいな。

 にしても、もっと厨二な呪文が良かった。


ずいずいずっころばし: 江戸以前

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