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桃太郎 大戦編 前

 姫路城の天守閣に登ると、四国方面の地平線が黒く染まっていた。

 よく見ると地平線の黒はいくつもの小さな黒い影の集まりで、その一つ一つがうごめいている。

 その一つ一つが異形のものなのだ。

 大軍だ。西から南までの見渡す限りを埋め尽くしている。

 幸い、あの大軍が街に押し寄せるまではもう少し余裕がありそうだ。

 いや、そういうタイミングで警報がきちんと機能したってことか。

 「やれやれ、これは酷いね。」俺の隣でそう言ったのはリチャード一世だ。「大会より、あいつら等を殲滅するほうが楽しそうだ。」

 「であるな。腕がなる。これはツイていると言ったほうが良いのかな?」関羽が言った。

 「むしろ、我々が集まったところを狙ったとも考えられる。」ハーデスが言った。

 「ならば、我々の責任だな。悪魔どもを根絶やしにしてやらねばならぬ。」ワシントンが不敵に笑った。

 行くとこまで行ったハリウッド映画かな?

 「なに、我々なら何とか出来ようさ。」ニイカングが言った。

 すまん、アンタはわからん。

 「あの壁を使おう。」ゼウスが姫路城の城壁を指さした。「あそこから大軍に雷撃を放つのは気持ちよさそうだ。」

 「そうだな。あそこを防衛線にしよう。民衆を避難させねば。」リンカーンが言った。

 「軍も壁の内側に下がらせたほうが良いな。」劉備が言った。「巻き込みかねない。」

 「我々だけでは少し骨が折れるやもしれんぞ?大丈夫か?」ランスロットが訊ねる。

 「生半可な兵が居ても役に立たんだろう。」劉備が答えた。「むしろ、彼らには我々の取り逃した悪魔どもから民草を守ってもらったほうが戦いに専念できる。」

 「なるほど、名案だ。」と、ングウォレカラ 。

 アンタも知らん。

 「よし、集まってくれ。我々はそれぞれ連携したほうが良い。」ルーズベルトが音頭を取り出した。「今から、各国でやる事の分担を図ろう。」

 アメリカ代表の仕切りの元、各国の代表の守備範囲が決定した。

 西側をアメリカ代表。ここを守り切れるかどうかは大統領ズがどれくらいの強さかによるだろう。

 南西を中国代表。劉備軍が揃い踏みしていて負ける気がしない。無双してくれることを願う。

 南南西はイングランド=フランス代表。面子も良いし、神もいる。ここも頼もしい限りだ。

 南はオスマン代表。ここだけは文句なしに大丈夫だろ。全員神だし。逆にここがヤバいようだと打つ手がない。

 南東はアフリカ代表。うーん、未知数!!

 日本代表は俺とネネさんがアメリカ代表に加わることになった。ハナちゃんと孝高と喜久兵衛は後方支援に回ることにした。事実上の戦力外だ。孝高については軍師的なサポートを期待している。

 ここに、姫路、岡山の兵士たちが加わる。ハリマの冒険者ギルドからも冒険者たちが駆けつけてくれた。

 それにしたって、50人対数百万?の悪魔たちだ。

 勝てるのだろうか?

 全国大会からのインフレがすごすぎる。


 広い姫路城の城壁に俺たちは防衛線を敷いた。

 防衛線と言っても一人一人の間隔は5m近く開いている。この隙間を俺たちは死守しなくてはならない。

 「桃太郎君・・・(´・A・`)」ネネさんが不安そうな声を上げた。

 「大丈夫です。みんなもネネさんも僕が守ります。」

 強がる。

 たぶん俺はネネさんの場所もカバーしなくてはならない。ネネさんの得意なずっころばしは広域戦闘に向いてない。

 目の前に悪魔たちが迫り来た。

 「みんな準備は良いか!!」ルーズベルトが吠えた。

 「おお!!」

 そして戦いの火ぶたが切って落とされた。




 みんなすごかった。

 各国の代表もすごかったし、次から次へと迫りくる波のような悪魔の襲撃もすごかった。

 正直、最初は意外といけた。しかし、悪魔たちの死体が城壁の外に積み重なり、城壁が意味をなさなくなってきてから、戦いは熾烈となってきた。

 「XXXXXXXXXXXXX、XXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXX。XXXXXXXXXXXXXxxXXXXXX、XXx!!」アメリカ代表のあいつが皆を鼓舞する。

 さすがアメリカ。こういう時は頼りになる。

 しかし、ついに ネネさんが膝をついた。魔力切れだ。

 「下がって!ハナちゃんか喜久兵衛からグレートポーションを!!」俺は叫んだ。「ここはしばらく俺が押さえます。ずっころばし!」

 俺の横を抜けようとした悪魔たちを切り伏せ、ネネさんに襲い掛かろうとした悪魔をマジックミサイルで倒す。

 「ごめん、桃太郎君!すぐ戻るの!」ネネさんが後ろを向いて城壁から飛び降りた。

 「ほっほっほたるこい。」ネネさんの後ろに素早く魔法陣の膜を張り防御しつつ、悪魔はすり抜けさせない。

 くそう、手いっぱいだ。

 抑えきれない!


 「クルルッ!!」


 ネネさんの居なくなった穴に向かった悪魔たちが突然現れたワイバーンに尻尾で薙ぎ払われた。

 「ワイ子!」

 一時間前に呼び子で呼びつけていたワイ子がもう駆けつけてくれた。京都から飛んできたのだ。新快速より速い!!

 「頼むワイ子、そこを守ってくれ!」

 「クルゥ!」

 ネネさんが戻るまでは持ちそうだ。

 そして、ネネさんが戻ってきた。

 ワイ子に乗るようにネネさんに指示する。

 ネネさんは突然現れたワイバーンに驚いていたが、ワイ子に乗ってからはワイ子に乗るためにネネさんのずっころばしがあったかのような活躍を見せ始めた。

 これで、一番不安定だった俺たちの防衛線が完成した。

 ・・・が、

 意外なところがほころび始めた。

 俺のすぐ横で戦っていた中国代表が押され始めたのだ。

 「くそう!兄者キリがねぇ!」張飛が叫んだ。

 「ぬう。」趙雲子龍っも押され気味だ。

 「玄徳、趙雲、張飛、下がれ!それ以上は無理アル。」陳さんが叫んだ。

 「しかし陳さん、今ここで踏ん張らないと!」劉備が言った。

 「中国代表が一番最初に穴をあけるわけにはいかない。」趙雲子龍も同意する。

 「ここは、私と関羽で押さえるアル。日本代表がグレートポーションを配っているからそれを食べて回復してくるアルヨ。急ぎ戻るアルね!」

 「でも、陳さん。あなた膝が!」

 「いいから行くアル!!死ななければ何度でもチャレンジできるアル。」

 陳さんって、もしかして強いの?

 「すまねえ陳さん。」張飛が城壁から飛び降りた。

 「頼みます!」劉備と趙雲も城壁を下りた。

 ぽっかり空いた中国の防衛線の真ん中に陳さんが陣取った。

 「中国4千年の歴史、見せてやるアルよ!アイヤー!!」

 陳さんの回し蹴り一発で周辺の悪魔たちが吹っ飛んでいった。

 つええええええ!!!

 いかん。

 他を気にしているほど余裕があるわけじゃなかった。


 戦いはさらに続いた。

 次々と脱落者が出て撤退し、そして、グレートポーションを食べて戻ってきた。


 分かったことがある。

 どうも元ネタが実在の英雄たちは、そこまで強くないようだ。

 陳さんは誰なのかよくわからないが、実在の陳さんとは関係ないのだろう。すげえ強い。

 アメリカもあの二人が常軌を逸して強いだけで、大統領ズはたぶんネネさんよりも弱い。

 おそらく、史実の活躍が能力にブレーキをかけてしまっているのだろう。

 三国志軍団が意外にも押されたのもそのせいだろう。

 ここからは見えないがイングランド=フランス合同チームもちょっと心配だ。あそこも、実在の人物が多い。一番有名な童話の主人公と一番有名な神がいるから大丈夫だとは思うが・・・。

 終わりの見えない悪魔の軍勢に対して、限界まで戦った英雄たちは、限界まで来ると何度もグレートポーションを食べて元気になって帰ってきた。

 そしてまた、限界まで防衛をこなす。

 まさに、死ななきゃやすいだ。

 「ええい何時まで経ってもキリが見えぬ!」隣で関羽が悪態をついた。「いつまで続くのだ。」

 「向こうもそう思ってるだろう。」劉備が関羽をなだめる。「いつまで、こっちの体力は続くんだと。しかし、我らは死なない限り回復できる。」

 いや、グレートポーションの個数にも限りはあるよ?

 「しかし、兄者よ。身体が続いてもこの有様では精神が持たん!」

 「耐えるのだ、雲長。終わりのない戦いは無い!」

 しかし、精神よりも先に限界が発生した。


 胃袋だ。


 人一倍小さな胃袋で、この戦いで一番キビ団子を食べて、なおかつワイバーンに揺られていたネネさんがついに吐いた。

 ゲロイン達成。

 「ネネさん!!」

 「だ、大丈夫・・・(;┓;)」口元からゲロを血のごとくたらしながらネネさんが言った。

 「・・・・・・」ワイ子がとても不機嫌そうだ。

 勘弁してやってくれ。後で牛あげるから。

 「無理しないで。」

 「うん。MPもHPも大丈夫、でもお腹が・・・。」

 これは、あんまり長くもたないかもしれない。

 俺はいまだ目の前の大地を一面黒く塗りつぶしている悪魔たちの大軍を見ながら思った。

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