桃太郎 大会編 全国大会
一週間後。
全国大会への切符を手に入れた俺たちは早速会場である姫路城ホールに整列していた。
昨日の夜、クラスメイト達や大会で戦ったライバルたちに激励され、全国大会の行われる姫路に入ったばかりだった。
姫路城ホールには俺たちだけでなく、他の学校の選手たちも一同に整列している。
試合自体は明日だ。
今日は開会式とトーナメントのくじ引きだ。
前回優勝の英雄学校は1番シードなのでくじは引かない。
反対側の2番シードで今回地元開催の姫路城魔法学園がライバルだ。決勝は俺たちとここの二校で確実と言われている。
俺たち以外の14校が、順番にくじを引いていく。
『3番、大友学校』
アナウンスが告げた。
3番、4番の勝者と俺たちが当たる。
大友学校は九州の古豪だそうだ。真面目そうだ。全体的に回復魔法をこなすらしい。
『6番、最獄学園』
すげえ、名前だな。カッコも何か世紀末みたいな格好している。くじを引いていた代表の髪型がモヒカン・・・いや、よく見るとちょんまげだ!
「けっけっけ!」代表がこっちに向けて舌を出しながら中指を立ててきた。舌にピアスがついている。
待機列のほうを見ると明らかにガラの悪い列が一校混じっていた。
準決勝で当たるかもしれんが、ネネさんとは戦わせないようにしよう。
『鬼殺丸選手!列に戻ってください。』
アナウンスが注意する。
くじ引きは続く。
『8番、聖乱女子』
お、女子校もあるのか。
くじを引いたのは髪を後ろで束ねた凛々しい感じの女侍だ。女侍はクルリと振り返ると会場に向かって叫んだ。
「拙者、上杉大阿闍梨!みな様よろしくお願いいたす!」
そう言って一礼すると彼女は戻って行った。
一番向こう側の列から拍手が上がった。たぶん聖乱女子の生徒たちだろう。
彼女たちも準決勝で当たる可能性がある。
『4番、寺子屋蝦夷』
ここが、もう一つの初戦の対戦候補か。
くじを引いたのはいがぐり頭の少年だ。
若い。
最年少はもちろん俺だが、二番目は喜久兵衛だろうと思っていた。
彼は喜久兵衛より若く見える。
フロックなのか、それとも才能があるのか。要注意だ。
こんな感じで、トーナメント表は埋まっていった。
試合は明日まとめて行われる。
全国初戦は、寺子屋蝦夷か大友学校のどっちかだ。
****
?「まじかよ!てめぇ、俺たちなんかよりずっと悪だな!けっけっけ!」
?「地元開催の意地ってもんがある。」
?「訊けば今回は、一年チームというではないか。勝負事でなめてかかってくる相手を拙者は好かぬ。」
?「しかし、かなり強いことは間違いない。」
?「桃太郎というガキと黒田という奴がネックだ。後はそうでもないらしい。」
?「桃太郎?このいがぐりよりチビじゃねえか?」
?「あ?なんだてめぇ!?やんのか?」
?「上等だ、受けてやんよ!」
?「お前たち、試合前に揉めるな。どうせ、勝ち進めば当たるだろう?」
?「まあ、我らがそうはさせんが。」
?「横から割って入って来てんじゃねえよ。まあいい、どっちもぶっ潰してやんよ。」
?「ともかく!!黒田と桃太郎をつぶす!これで、勝てるはずだ。」
?「で?どうやるのだ?」
?「耳をかせ。」
****
姫路の旅篭の一室。
孝高はこの部屋に宿泊していた。
食事とミーティングを終え、仲間と分かれれ部屋に戻ってきた孝高は廊下に続くふすまの隙間から紙が覗いていることに気が付いた。
孝高は紙を拾い上げ開いた。
『黒田様、乾の刻、裏の道にてお待ちしております。 輝子』
手紙だ。
恋文かどうか以前に、冷静な孝高は「何故この手紙の主が自分の名前を知っているのだろう」ということが気になった。
「乾の刻か・・・」
普段ならもう寝ている時間だ。
まあ、明日、シードなので一戦目はない。多少無理はできなくもない。それに、これは明らかに女の文字だ。
好奇心が勝った孝高は少し夜更かしをして、こっそりと宿を抜け出した。
そこには一人の女性が立っていた。
「ああ、孝高様。いらしてくれてうれしいですわ!」
「あなたは?」
「わたくしは、姫路城魔法学園のチアリーダーをしております。輝子と申します。」
「私は黒田孝高、何用でしょうか?」
「一目見てあなたに惚れてしまいましたの。是非、わたくしと明日デートしてくださいまし。わたくし色々なところをご案内できますわ。」
「ご申し出ありがとうございます。」孝高は予想外の言葉に面食らったが何とか平静を保つことができた。
そして、少し悩んでから言った。
「しかし、私は明日、試合なのです。あなたも姫路城魔法学園の応援があるのではないのですか?」
「あれ?ご存じないのですか?」輝子は驚いたように言った。「明日の試合が試合会場の水漏れのせいで、明後日に順延になりましたの。わたくし、それで、居てもたっても居られず孝高様にお会いしに駆けつけましたのよ。」
「そうなのですか?」
孝高はそんな連絡を受け取っていない。
彼女は自分の名前も知っていた。怪しい。
鑑定スキルをこっそり使用する。鑑定スキルで、多少の事なら確かめることができる。
輝子: 武力0 魔力0 HP100 MP1 チアリーダー/姫路城魔法学園生徒会副会長
彼女の出自自体には嘘は無いようだ。
自分の鑑定スキルの事を知っていれば、本当に彼女をチアリーダーの役職に就けておくことでごまかすことが可能だが、そもそも彼女は能力的に選手ではない。
何か策略があるにしても、本当にチアリーダーをさしむけてきたのだろう。彼女は顔が良い。たぶんそれが理由か。
「お、ちょうど良かった!」突然後ろから声がかかった。「そこの兄ちゃん、この辺りに夜泣きそばかラーメンしらない?」
振り返ると、そこにはいがぐり頭の少年たちが数人こっちを見て立っていた。
寺子屋蝦夷の生徒たちだ。どうも、対戦相手とは知らずに声をかけて来たようだ。
この時間から夜泣きそばを食べに行くのか?孝高は少し疑問に思った。
「私は、この辺りの人間ではないので・・・。」
「夜泣きそばで良ければこの道をまっすぐ行って、二つ目の角を曲がってしばらく行けばあるはずよ。」孝高の代わりに輝子が答えた。
「ありがとう。お姉ちゃん。せっかくの恋人の時間を邪魔しちゃってごめんね。」
「あら、もう!」輝子が嬉しそうにいがぐり少年の肩を叩いた。
「君たち、こんな遅くにそばを食べに出かけるのかい?」孝高は思わず訊ねた。「明日、朝一の第一試合だったよね?」
「あ、兄ちゃん僕たちの事知ってるんだ。明日の試合ね、明後日に延期になったんだって。」
「そうなの?」
「うん。だから、今日は夜更かししても大丈夫なんだ。」
「ね、言ったでしょう?」輝子が孝高の手をそっと握った。
「そのようですね・・・。」孝高は必死で顔が赤くならないように努力した。
「明日、いっしょに街に出かけましょ?」輝子が近づいてきて耳元で囁いた。「みんなにバレてしまうと怒られてしまうので、明日の朝早く。こっそりと出かけましょ。」
孝高は頑張って頷いた。
****
俺は旅路にあっても日課はこなす。
桃から生まれて二日目から続けている筋トレを終えると、宿のロビーの自動販売所でリンゴをひとつ買ってかじった。
リンゴは日課ではない。普段はなにかしらのたんぱく質だ。だけど、そんなもん今はない。
運動のあとの糖分と水分が美味い。たまにはこういうのも悪くない。
と、外で何やら声がするのに気づいた。
俺は宿の玄関を出て通りに出た。
通りでは男5人と女が揉めていた。
「離せっ!無礼な。」
「けっけっけ!こっそり偵察なんて卑怯者だな。卑怯もんにはお仕置きがひつようだぁ!」
モヒカンっぽいちょんまげの男が女侍の着物の襟を乱暴につかんでいた。
最獄学園の連中と、聖乱女子のたしか・・・上杉さんだ。
少し乱れた着物から肩とさらしが覗いている。
これはこれで!
いや、それどころじゃない。
割って入って、モヒカンちょんまげの腕を払いのけた。
「女性一人に男5人がかりで卑怯なのはあなた達でしょう?」
「ああ?なんだ、ガキ。」
「あなた達は、最獄学園の選手ですよね?試合前にこんな事して、大問題になりますよ?」
「ボス、こいつ。英雄の選手です。」モヒカンちょんまげ2が後ろからモヒカンちょんまげ1に囁いた。
「ああ?まじか。」モヒカンちょんまげ1が2を振り向いた。「ちっ!もともと、そこの女が俺たちの事を偵察に来たから、相手してやってんだよ。なんか文句あんのか?」
「いいえ。でも、相手をするというならここからは5対2です。」俺は言った。
横で着物を直した上杉大なんとかさんが刀を構えた。
「けっ、明日、憶えてろよ!!」モヒカンちょんまげ1がそう言うと、俺と上杉さんの横を通り過ぎて、大人しく宿の中に入っていく。同じ宿だったのか。
他のモヒカンも、いちいち俺に一言いいながら宿の中に入っていく。
別にここで蹴散らしても良かったんだが。
「助かった!礼を言う。勇ましい少年。」上杉さんがしゃがみこんで俺の手を両手で握った。
きちんと整いきっていなかった着物が少しはだけて、再びさらしが覗いている。さらしの向こうにはきちんとした丘陵があるのがすぐに判った。
「このご恩は忘れない!」上杉さんは俺の事を少しギュッとすると、慌てて走り去っていった。
精通してたら今の柔らかさの思い出で、ひと仕事するんだが。
そして、明けて試合当日。
同じ宿の最獄学園の連中がお礼参りに来たり、聖乱学園の上杉さんが恩返しに来たりするんじゃないかとイマイチよく眠れなかったが、何事も無く朝は来た。
宿のロビーに集合する。
「孝高君遅いね。」ネネさんが心配そうに言った。
「俺見てくる!!」喜久兵衛が走って行った。
「ちょっと、他のお客さんも居るから走らないで。」
孝高が集合時間に遅れるのは珍しい。ちょっと心配だ。ん?
ふと視線を感じて、喜久兵衛が走って行ったのと逆の廊下に視線をやると、廊下の角から白い手が手招きをしていた。
女の子の手だ。間違いない。
「ちょっと、今のうちにトイレ行ってきます。」
俺は廊下の先へと向かう。
そこには上杉さんが居た。
「昨晩は世話になった。試合で対戦する前に貸し借りを残しておきたくない。これを受け取ってくれ。一生懸命作ったんだ。」
上杉さんはそう言うと俺の目を見ないように頭を下げて俺に風呂敷包みを両手で差し出した。
「開けてみてくれ。」
開けてみると中にはカツサンドが二つ入っていた。
「舶来の料理ゆえ口に合わなかったら申し訳ないが・・・。こういうのはお嫌いだろうか。」もじもじと言う上杉さんの手にはたくさんの絆創膏が張られていた。
「いえ、こういうの大好きです。今食べてもいいですか?」
上杉さんがパァッと笑顔になった。「是非!!」
こんなん、不味くたって美味いですとも!
一口食べる。
美味っ!!
思わず一つ目を完食する。
「よかった!それでは互いに試合頑張ろう!じゃ!」
そう言って上杉さんは廊下の向こうの勝手口から走って行ってしまった。
もう一つのカツサンドの証拠隠滅をしながらロビーに向かう。
「ああっ!何食べてるの?」ネネさんに見つかった。「桃太郎君、変な時間に食べると、試合中おトイレ行きたくなっちゃうよ?(#一一)」
「む、むぐぐ。」慌てて呑み込む。「孝高は居たんですか?」
「いないの。」
「『試合しててください。勝てます。』ってメモが残ってた!」喜久兵衛が言った。
「どこ行っちゃったのかしら。」
「困りましたねぇ。まあ、先行っときますか。メモが残ってたんなら、そのうち来るでしょ。」菅原先生が呑気に言った。
「ミッチーちゃんと引率しようよ・・・。」
「でも、もうすぐ一試合目が始まってしまいますよ。4人でもあなた達なら何とかできますから、会場に行っておいたほうが良いです。孝高君は私のほうで探しておきますので。」
「一応、会場も探してみましょう。先に行って何か情報を集めているのかもしれない。」
俺は平静を装ってそう言ったが、何か嫌な予感がしていた。
そして、試合会場に着いたが、やはり孝高は見当たらなかった。
「まだ、時間があるから少し探してきます。」俺はネネさんたちに告げて、姫路城ホールの中を探し回った。
その時だった。
ぴーごろごろごろ。
あっ、
お腹が・・・。
これ、おならすると一緒に出てきちゃうタイプのやつだ。
慌ててトイレに駆け込む俺。
$z%#P&#P&!
セーフ!!
危なかった。
昨日のリンゴが痛んでたに違いない。後で宿に文句を言わねば。
ごろごろごろ
治まる気配がない。孝高探したいのに・・・。
7時間後
いかん・・・。
トイレから離れられない・・・。
俺は今何を出しているのだ?
人間とはウンコを創生する魔法装置か何かなのか?
人間の90%は水分と聞いたことがあるが、もう70%くらい出ているだろ、これ。
あっ、また来た。
O%%$($#&q#!
くそ。
治したいが、治療魔法を知らない。
ポーションもグレートポーションしか持ってきてない。
グレートポーションは覚醒効果があるのでドーピング規定に引っかかってしまう。
俺はこのまま死ぬのだろうか?
あっ!
~)~#$@^0w9!
ネネさんたちは大丈夫かな・・・。
と、その時扉の外から声がした。
「桃太郎君、お水と薬。」
そういって、トイレの扉の隙間から竹のペットボトルと薬の袋がにょきっと出てきた!
神よ!
薬を飲むとピタリと下痢は治まった。
「ありがとうございます。聖なる人よ!って孝高!!」
戸を開けるとそこには孝高が立っていた。
「急ぎましょう、決勝戦が始まっちゃいますよ。」孝高は何事も無かったかのように言った。
「え、あ、はい。でも待って、足が動かないのです。」
俺はフラフラと孝高の腰に捕まった。
脱水症状以前に、和式に7時間しゃがんでたのでふくらはぎがもう無理だ。
「ええぇ・・・。しょうがないですね。おんぶしますから捕まってください。」
孝高におんぶされて会場に向かう。
でも、よかった。
ちゃんと決勝まで残れてたんだ。
俺と孝高はパスを見せて会場の中に入った。
その瞬間アナウンスが流れた。
『試合終了!犬山ネネ選手、勝利!圧倒的強さです!英雄学校がたった3人で連覇を果たしました!!』
「ああ、優勝しちゃいましたね。」
「ええええ・・・。」俺ずっとトイレに居ただけなんですけど。
「ああっ!モモちゃん!」
「孝高君も!!」
ネネさん、ハナさん、喜久兵衛が寄ってきた。
「優勝おめでとうございます。全国制覇ですね。」孝高が呑気に言った。
「おめでとうございますじゃ無いでしょ!二人ともどこ行ったの!<(`^´)>」
「すみません。お腹を壊してトイレから出られませんでした。」素直に謝る。
「んもう!だから変な時間に食べちゃダメって言ったでしょ、もう!で?孝高君は?」
「姫路魔法学園の女の子とデートしてました。」
なん・・・だと・・・?
「は?( ゜Д゜)」
「昨日ミーティングで一人一試合ずつこなしてくって決めたじゃないですか。全3試合だから、僕出番ないですし。」孝高は言った。「校内バトル大会のほうが全然レベルが高いって言ったでしょ?」
「たしかに、超余裕だった!」喜久兵衛が言った。
そんな弱かったのか。
「そういう事じゃないでしょ!どれだけ心配したと思ってるの!」
「あ、これ。お土産です。」
「そんなものでお茶を濁そうったってそうはいかないからね!(#`Д´)ノ」
「消華堂の水羊羹とくず餅です。」
「くっ、今回だけよ。(*・▽・)」
孝高がぬかりなさすぎる。
「ちゃんとみんなの分もありますし、帰ったら食べましょう。」
「あ、デートの話聞きたい。(≧▽≦)」
『ピンポンパンポーン。全国大会優勝の英雄学校の生徒の皆様。全国大会優勝の英雄学校の生徒の皆様。』
と、場内アナウンスが流れた。
『この後世界大会についての説明がありますので、閉会式後も会場にお残り下さい。』
「えっ!?」
みんなが顔を上げた。
「世界・・・大会・・・?」




