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桃太郎 学園編 決勝戦

 下級クラスが最上級クラスを破った。

 その一報は学校中を駆け巡った。

 二回戦には、学校中の生徒たちが俺たちの試合を見に観客席に集まって来ていた。

 1年から3年までの下級クラスの中で勝ったのはもちろん俺たちだけだったし、1年の中で勝ち上がったのも俺たちだけだった。

 つまり、蛇沢たちのチームは初戦敗退したわけだ。

 二年生の中級クラスの次鋒すら抜けなかったらしい。

 あいつら、散々フラグ立てておいて、目の前に登場すらせんかった。

 さんざん痛い思いをした喜久兵衛がやられ損だよ。


 というわけで、二回戦は二年の中級クラスだった。

 そして、その二回戦目。

 そこら辺のカタルシスを払拭するかのごとく、先鋒で出た喜久兵衛が大将までごぼう抜きした。

 MP温存もなにも、喜久兵衛はほとんど物理で相手をやっつけていった。

 相手チームに満足に古式詠唱を唱えられる奴が少なかったのだ。

 相手で古式詠唱を実戦レベルで使えたのが先鋒、次鋒、大将だけで、先鋒はすでにガス欠だった。

 そして、孝高の曰く、武力3あるという喜久兵衛は二年の中級クラスには荷が重かった。

 大将戦は、例によってずっころばしを唱えた敵に対して、喜久兵衛は相手の目の前にほたるこいで防御魔法陣を展開した。

 相手のマジックミサイルは喜久兵衛の防御魔法陣を壊すことすらできず四散した。

 喜久兵衛が展開した魔法陣が目の前からなかなか消えなかったため、まごついた相手に対して、喜久兵衛は距離をあっという間に詰めて物理戦に持ち込んだ。

 魔法使いタイプだった相手の大将は後はなすすべもなかった。


 三戦目の準決勝も、危なげなく勝ち上がった。

 この辺りからは他のクラスの残り試合が無くなっていたので、ほぼ学校中の全員が俺たちの試合を見に押しかけていた。

 会場に生徒たちが収まりきらず、先生たちが観客席を増設した。

 ついには、実況と解説までついた。

 試合は先鋒孝高と次鋒の俺だけで、他の3人を温存して勝ち切った。


 そして、舞台は全生徒注目の中、3年最上位クラスとの決勝戦へと場面を移した。






 『さて、実況を預かるのはわたくし放送部竹田。そして解説を預かるのはこちら。』

 『よろしくお願いしますわ。解説のかぐやです。』

 『さあ、今年は開催前から波瀾でした。英雄学校開校以来2度目となる全クラス参加での大会開催となりました。』

 『まあ、そうでしたの?』

 『ええ、創立した1年目に最上級クラスが実力の違いを見せつけて以降は、半分以上のクラスが参加している年のほうが稀です。自主的なノミネートが1クラスしか無かった年もあります。』

 『あら、かぐやのせいですのね。美しすぎてすみません。』

 『いえいえ、こんな面白いことになっていますので、かぐや姫様さまさまです。』

 『さて、奇しくも決勝戦、3年最上級クラスと1年最下級クラスという恐ろしい組み合わせになってしまいました。カタルシスに浸って下級クラスを応援するもよし、伝統とカーストを重んじて最上級クラスに肩入れするもよし。おっ、両チーム先鋒がリング上に上がりました。先鋒は喜久兵衛選手と中山田健一郎選手です。解説のかぐや姫様、どちらが有利でしょう?』

 『かぐや、戦いの事は良く分かりませんけれど、喜久兵衛選手が勝つと思いますわ。』

 『おっと、やっぱり同じクラスだと応援したくなりますか?』

 『いえ、そういう事ではございませんの。中山田選手は汎用な選手とお見受けします。汎用な魔法使いと汎用な戦士をたして二で割らなかったみたいな。ポイント制の戦いならそれでも良いのでしょうけど、何でも有りの戦闘では突破力のある喜久兵衛選手は止められないのではないのでしょうか?』

 『なかなかに玄人志向の解説ありがとうございます!さあ、今、審判が二人の前でゆっくりと手を上げました!』

 「始めっ!!」審判がバッと手を下ろした。

 『学校最強クラスvs学校最弱クラス!!どちらが最強なのか!!それを決める決戦が今ここに始まったぁっ!!』

 喜久兵衛が突進する。

 それを解っていたかのように、中山田が呪文を唱えた。

 『おおーっと中山田選手、通りゃんせだ!競技場の地面が一面大きくゆがむ!!これは喜久兵衛選手簡単には進めない。あーっと、後ろに下がった中山田選手、すぐに詠唱に入った、これはずっころばしだ!!』

 足場の変化によろめいた喜久兵衛だったが、飛び石でも飛ぶかのように、乱れた足場を中山田に向かって進む。

 「・・・ごまみそずい!」しかし、中山田の詠唱のほうが先に終わった。

 『距離を詰める喜久兵衛選手!しかし、中山田選手のほうが速い!しかも、一節を4つに分けて唱える高等技術!短4節詠唱だ!』

 中山田の後ろに8本の矢が召喚された。

 「終わりだ!」中山田が叫ぶと、魔法陣から8本の矢が喜久兵衛に向けて放たれた。

 「ほっ!ほっ!ほっ!ほっ!」

 「なんだとっ!?」

 『おおっと!なんだこれは、喜久兵衛選手奇妙な掛け声とともに、中山田選手の襲い来るマジックミサイルを走りながらつぎつぎと受け止めているぞ!!喜久兵衛選手、止まらない!!』

 「馬鹿なっ!!」八本の矢を全て受け切られた中山田が驚愕の表情で懐に入ってきた喜久兵衛を見下ろした。

 喜久兵衛の剣が中山田の喉元で止まった。

 「ま、まいった!」

 『おおおおお!決まったぁ!緒戦を制したのはまさかの下級クラスだぁ!』

 『お見事でしたわね』

 『解説のかぐや姫様。喜久兵衛のあれはなんだったのですか?』

 『あれは、防御魔法ほたるこいの短節詠唱ですわね。「ほっ」で短1節の短い完成された魔法なのです。』

 『短節詠唱?短節詠唱とは一節を複数に分けて普段と違う効果を与える詠唱方法ですよね?中山田選手が、「ずいずいずっころばしごまみそずい」を4節に分けることで一度に8本のマジックミサイルを召喚したような。』

 『いいえ、それは正確ではありません。一節を分解するのが短節詠唱ではありません。短い1部分だけで発動させる事もできるのです。中山田選手の短4節も実際は短1節を4回繋げているのですわ。』

 『はえ~。そうなんですか。』

 『奥深いですわね。』

 『さて、続いて、3年最上級クラス次鋒の真理選手が台上に上がりました。次の試合ですが、どちらが勝つでしょう?』

 『真理選手ですわ。』

 『おっと、これはまたずいぶんハッキリと名言なさいました。それはまたどうして?』

 『魔力に差が有り過ぎるからですわね。魔法が苦手な喜久兵衛選手は、互いに離れてスタートのこの試合形式では真理選手には勝てないでしょう。』

 『な、なるほど~。おっと、試合の準備ができたようです。』

 「はじめっ!!」審判が合図をかけた。

 「ずいずいずっころばしごまみそずい!」

 光の矢が真理の目の前に召喚された。

 「ほっほっほーたるこい!」

 喜久兵衛の防御魔法陣が出現し矢の行く手を阻んだ。

 『おおーっと!これは喜久兵衛選手、2回戦の大将戦と同じ流れだぁ!』

 光の矢が放たれ喜久兵衛の防御魔法陣が粉砕された。しかし、真理の矢も四散していた。

 「ずいずいずっころばしごまみそずい!」すぐさま真理が詠唱する。

 「ほっほっほーたるこい!」慌てて喜久兵衛も詠唱する。

 再び、光の矢が喜久兵衛の魔法陣と共に爆散した。

 真理が詠唱を開始する。

 『おお!これはいきなり膠着してしまった!!』

 『やはり、こうなりましたわね。』

 『というと?』

 『なぜ、これほどまでにずっころばしが多用されるかというと、詠唱後の発動の速さと威力の高さに有りますの。特に高魔力のずっころばしは一撃で勝負がついてしまいます。ですので、かわすか防御するかしないといけません。残念ながら喜久兵衛選手には光の矢をかわすだけの能力はありません。そして、ずっころばしの速さに対応できる防御魔法をほたるこいしか持ち合わせていないのです。さらに、喜久兵衛選手はほたるこいを一節詠唱をしながら、動くことができませんの。』

 『先ほどの試合でやったように短節詠唱しながら進んではダメなのですか?』

 『短節詠唱では真理選手の攻撃は防御しきれないという判断なのでしょう。』

 『はー。そのような高度な判断をしているのですね。ビックリしました。』

 『判断をしたのは黒田選手でしょうね。選手でありながら監督としてチームを良く引率していますわ。』

 『はえ~。おっと!すでに11回目のずっころばしとほたるこいの応酬が・・・ああっと!!』

 喜久兵衛がよろめいて膝をついた。

 「まいった。」喜久兵衛はそう言ってどさりと前に倒れた。

 『おおーっとこれはMP切れ、MP切れだぁ!!勝者、真理選手!』

 『完全に真理選手の思惑通りの試合展開でした。』

 『おっと、最上級クラスの様子が何か慌ただしいぞ、これはどうした・・・?お、ただ今、情報が入りました。真理選手次の試合を棄権するようです。かぐや姫様、これはいったいどういうことでしょう?』

 『もしかしたら、真理選手もMP切れ寸前だったのかもしれませんわね。ずっころばしのほうがMP消費は大きいですし、喜久兵衛選手が思いのほか頑張りましたからね。大金星ですわ。後で褒めて差し上げなくては行けませんわね。』

 『それは羨ましいですね。お、次の選手たちがリング上に上がりました。3年最上級クラスは金持中納言選手、1年下級クラスは次鋒田中華子選手です。今まで、連続で予想を的中させているかぐや姫様はどうみられますか?』

 『そうですわね、正直どっちが勝つかは解っているのですが、ここは普段とてもお世話になっている金持中納言を応援したいと思いますわ。フレーフレー中納言。』

 金持中納言が放送席に向かってにっこりと手を振った。

 『金持中納言選手とお知り合いと。どういった選手なのでしょう?』

 『そうですわね。全身魔法具で覆った魔法具頼みの選手ですわ。』

 『・・・そうですか。』

 『魔法具は選手の技術と関係無く常に効果を発揮しますから、色々と器用な田中選手にとっては実は相性最悪の選手かもしれません。』

 『なるほど。そろそろ試合が始まるようです。』

 「始めっ!」

 金持中納言が一気に走り出した。

 『速い!速いぞ!!』

 『たぶんダッシュ++ですわね。』

 金持の突進からの強烈な剣撃を華子が空中に舞ってひらりとかわした。

 華子が直前まで立っていた地面が大きくえぐれた。

 『これはパワーもすごいぞ!!』

 『たぶんパワー++ですわね。』

 「ずい!」

 華子が掛け声を上げると、小さな魔法陣から光の矢が飛び出して金持に命中した。

 金持は一瞬よろめいたが、続けざまに攻撃を見舞った。

 これも華子はひらりとかわす。

 「ずい!」

 そして、もう一本の矢を打ち込んだ。

 『華子選手が「ずい」と叫ぶたびに小さな光の矢が出ているようですが、もしかして、これも短節詠唱ですか?』

 『ご名答。ずっころばしの短節詠唱ですわ。』

 金持が次々と繰り出す攻撃を余裕をもって避けながら、田中華子が地道にマジックミサイルを当てていく。

 『これは、一方的だ。蝶のように舞い。蜂のように刺す。この言葉は田中選手のためにあるようだ。金持選手の体力を削っていく!!』

 『金持選手も当たれば威力はありますから、最後まで諦めないで欲しいものですわね。』

 「ま、まいった・・・。」20発目のマジックミサイルが命中し、金持がついに折れた。

 『おおっと、ついに金持選手ギブアップだ!』

 『惜しかったですわね。』

 『惜しかったですか?』

 『命中++もあれば勝ててました。』

 『そうですか・・・。おっと、ここで金持選手だけでなく、田中選手もリングを下りていくぞ?』

 『魔力切れですかしら。短節詠唱とはいえ、20発撃っていますし。チームもリードしてますから、大事を取ってといったところでしょう。』

 『続いては3年最上級クラスは副将の幸田鶴丸選手。ここを負けるともう後がなくなります。そして1年下級クラスは中堅黒田孝高選手です。この戦いはどう見ますか?解説のかぐや姫様。』

 『黒田選手の圧勝でしょう。彼は勝てる戦いしかしません。』

 『黒田選手は3回戦でも中堅まで順調に勝ち抜いて、副将戦はさらっと棄権しましたよね。』

 『おそらく、相性があまり良くない選手だったのではないかしら?』

 『なるほど~。おっと、準備が整ったようです。』

 黒田孝高と幸田鶴丸が互いに向かい合った。

 「始め!」

 「ずいずいずっころばしごまみそずい!」

 「ほっ!ほっ!ごまみそずい!」

 勝負は一瞬だった。

 幸田鶴丸が召喚した2本の光の矢は黒田孝高の二つの魔法陣で阻まれた。そして、同時に出現したマジックミサイルが幸田鶴丸に命中し彼は気絶した。

 「それまで!勝者、黒田孝高!」

 『すごい!すごいぞ!!実況している暇がありませんでした!あっという間の出来事でしたが、何が起きたのでしょう、かぐや姫様。』

 『黒田選手が短節詠唱の複合を行ったのですわ。これはとても高難度の技術ですの。「ほっ」で二つ魔法陣を、「ごまみそずい」で光の矢を召喚したのです。』

 『は~。そんな事ができるんですか。って、あれ?「ほっほっずい」ではダメなのですか?』

 『おそらく、「ずい」では威力が足りないという判断でしょう。「ほっ」だけで守り切れるという判断もそうですが、幸田選手が短二節で二本の矢を召喚することを読み切っていなければできなかった芸当です。本当に素晴らしい洞察力ですわ。』

 『かぐや姫様ありがとうございます。さて、試合開始前、誰がここまで最上級クラスが追い詰められると予想したでしょう。最上級クラスはついに最後の一人となってしまいました。』

 『意地を見せて欲しいところですわね。』

 『しかぁあああし、最上級クラスの最後にはこの人が控えている!!』

 大きな声援の中、試合場に悠々と大将が上がってきた。


 『学校最強の男!生徒会長!ゴォォォオオオルデン・ジョォォォォオジ!!』

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