桃太郎 学園編 転入生
さて、2週間くらい経って、学校にも慣れてきた。
強いことがバレた俺は、自主練中にクラスのみんなに教える係になっていた。
主に魔法がメインだ。
孝高の鑑定スキルをフル活用しながら、みんなを鍛えていった。
冒険者仕込みのスパルタ法だ。唱えられるギリギリまで詠唱を長くして、それを気絶寸前まで繰り返すだけだけど。
ちなみに、このスパルタ法、自分はやってなくて、受付ちゃんから話に聞いてただけだったりする。
やり過ぎると死ぬらしいが、こっちには大量のグレートポーションがある。
みんなの魔法の扱いがどんどん上手くなっていくのが見ていて楽しい。
菅原先生もカリキュラム外でみんながどんどん強くなっていくのを喜んで、新しい事をみんなに詰め込んでいった。
そんなある日、教室に入ってきた菅原先生が突然言った。
「今日は転入生が一人このクラスに入学します。」
「おおお!」クラスがどよめいた。
「ミッチー!男?女?俺より年下?」喜久兵衛が早速尋ねた。
「女の人ですよ。」菅原先生はそう言って、扉の外に向かって声をかけた。「どうぞ入ってください。自己紹介を。」
廊下から、しゃなりしゃなりとドレスに身を包んだ女性が入ってきた。
うぉお!めっちゃ美人!!
ネネさんへの恋心が思わず半分くらい持ってかれる。
髪はやわらかなウェーブのかかったロングで明るめの茶髪。何故、冒険者を目指すこの学校に来たのかと思うくらい華やかでお人形のような娘だった。
ボディラインを活かしたドレスは、こっちの世界に来て初めて見る洋装だ。
クラスメイト達が男女問わず息を飲んでいる。
ここまでの美人はかぐや姫以来だ。
「初めまして、皆様。わたくし、かぐやと申します。」
本人じゃねえか。
持ってかれた気持ち半分が全額帰ってきた。
「皆様気軽に、かぐや姫とお呼びください。」
姫は気軽に呼ぶ呼称じゃねえ。
相変わらずのようだ。
クラス中で歓喜の叫び声が上がる中、俺一人がめんどくさいことにならないように息をひそめていた。
しかし、放課後。早速かぐや姫に捕まった。
自主練をサボったかぐや姫は、学校に帰ってきた俺を発見すると、「ちょっと、桃太郎君借りますわ。知り合いですの。」と言って俺を中庭に連れ出した。
「久しぶりね。桃太郎。」
「・・・お久しぶりです、かぐやさん。」俺は露骨に目をそらす。
「あんた、私のこと色々黙ってなさいよ。」かぐや姫が視線を逸らそうとする俺に顔をぐっと近づけてメンチを切る。クッソ、いい匂いの香水つけてやがんな。
「あっ、はい。」俺は返事する。
あんたの出方次第だけどな。
「そんなことより、かぐやさんは何でこんなとこに?」
話題をそらす。
「ここに来ないと財産を全部没収するってミカドに言われたのよ。」
かぐや姫は校舎の壁に寄りかかると腕を組んでため息をついた。
今にも懐からタバコでも取り出して吸い始めそうだ。
「ちょっと聞いてよ!酷いと思わない?」かぐや姫が興奮して愚痴り始めた。「ミカドの奴、被害者たちに全部弁償しろとか言うのよ?あいつらが勝手に貢いだだけだっつーの。」
そうだっけか?あんた品目指定してなかったっけ。
「屋敷も、床暖房も全部持ってかれちゃったのよ!」
「そりゃ、災難でしたね。」適当に話を合わせる。ネネさんとこに帰りたい。
「そんで、この学校に入学しないと、全財産没収とか言うのよ?」かぐや姫はご立腹だ。「酷いと思わない?」
「その割には、お金のかかったイメチェンして来ましたね。」
「あら解かる?」かぐや姫の機嫌が一気に治った。「せっかくの学校デビューだから、200着くらい自分で用意したのよ。全部洋服。着物は野暮ったくってね。髪の脱色がまた高いのよ。」
「よくそんな金残ってましたね。」
「何言ってんのよ。アンタの魔法樹の枝のおかげじゃない。」
「はぁ!?石上さんに返してないんですか?」
「魔法樹の枝取ってきたのはあんたでしょ?石上が損したのはアンタの給料分だけだもの。なんで魔法樹の枝まで返さなきゃなんないのよ?」
それなんかズルくねえか?
「じゃあ、魔法樹の枝は俺に返してくださいよ。」
「なんでよ?アンタ別に私の被害者じゃ無いじゃん。」
このアマ・・・・。
「それで、石上さんとはどうなったんですか?」
「石上?どうって?」
「いや、あの後どうなったのかなぁって。モスコミュールくらい好きとか言ってませんでしたっけ?」
「そんなこと言ったかしら?だって、石上、カッコ悪いじゃん。中納言だし。」かぐや姫はまったく悪気無い感じで言った。「私は公爵令嬢になりたいの。大納言以上は必須よ。」
石上・・・。
相変わらず、クソ女だな。
「だいたい、石上ってあんだけ色々あった後に『それでもあなたが好きです』とか告ってくる奴よ?私のこと見た目しか見てないっしょ?」
いきなりのぐうの音もでない正論。
「だいたい、魔法樹の枝もサラマンダーの皮も取ってきたのあんたでしょ?あんたと契約打ち切ったら、あいつ自身は大したことないじゃん。私がどうこうの前に、もっと自分を見ろって話よ。」かぐや姫は言った。「なんかさ、恋は盲目ってストーカーに使うべき言葉だと思わない?」
容赦ねぇな。
「おや、レディ!」と、外野から声がかかった。「・・・と、桃太郎君か。」
ゴールデン・ジョージ先輩だった。
「プリンセスかぐや姫。いま、校内は見目麗しいあなたの話題で持ちきりですよ!」ジョージ先輩が白い歯を見せて笑った。
「誰?こいつ。」かぐや姫が身を屈めて耳打ちをしてきた。
それやめろよ。お前見た目いいし、いい匂いするから、ちょっとドキドキすんだよ。
「ゴールデン・ジョージ先輩です。この学校の生徒会長です。」
ジョージ先輩がおでこにかかった髪をふわっとかき上げた。
・・・なんか、ジョージ先輩とか呼ぶの馬鹿らしくなってきたな。
「初めまして、ジョージ先輩。わたくし、かぐやと申します。」
「プリンセスかぐや姫はこんなところで何を?」
「いえ、桃太郎さんが足をくじいたみたいなので、これから寮まで連れて行ってあげますの。それでは。」
この場を去る適当な理由に俺を巻き込むのをやめていただきたい。
「桃太郎・・・子供だからって甘えるな。彼女は今日この学園に越してきたばっかなのだぞ?お前の世話などに時間を使わせるんじゃない。」金太郎が俺を睨んだ。
ほら、俺の好感度ゲージが駄々下がりじゃねえか。
「プリンセスかぐや姫。子供だからって甘やかしては行けない。彼の事など放っておきなさい。それより、学校を私が案内しましょう。」
かぐや姫が明らかに嫌そうな顔で、こっちに助けを求める視線を飛ばしてきた。
しらんがな。
あ、いい事思いついた。
「そう言えば、ジョージ先輩の生家って大納言でしたよね?」
かぐや姫の目がきらりと光ったのが分かった。
「そうだが?それがどうした?」金太郎が不機嫌そうにこっちを見下ろした。
「いやぁ、ジョージ先輩ならかぐやさんにも釣り合うんじゃないかなぁって思って。」
潰し合え。
「そ、そうかな?」一気に真っ赤になって後頭部を掻きながら照れはじめる金太郎。
ちょろいな、おい。
不覚にも萌えてしまった。
「かぐやさん、『名門』のジョージ先輩はこの学園の『No.1の』実力と『財力』と『権力』で、とてもすごい人なんですよ?」ここぞとばかりに金太郎をプッシュする。「未来の関白様とも言われています。」
「まあ、そうなの?お近づきになれて、かぐやとっても嬉しいわ!ジョージ様。きっとこれは運命の出会いですのね!」かぐや姫が言った。ジョージに見えないところで、俺を追っ払う仕草をする。
「転校初日に僕ばっかり、かぐやさんと話してたらダメですよね!ではこれで!」
よっしゃ撤退成功!。
とりあえず、これでかぐや姫も金太郎もこっちに絡んでくることはしばらくあるまい。




