桃太郎 学園編 襲撃
さて、自主練の帰り道。
川の東まで来たついでに、俺はワイ子の様子を見に行くことにした。
学校の中に寮が用意されているのでそこに帰らなくてはならないのだが、山の中にワイ子を待たせたままにしている。
ワイ子は良い子なので、多分大人しく待っている。卒業するまでじっとさせておくわけにもいかないので、一度東の山に戻ってワイ子を放してやらんといかん。
みんなに寄るところがあると告げて、学校とは逆の方向に足を進める。
川沿いに5分も歩かないうちに、20人くらいの男たちが飛び出てきて俺の前に立ちふさがった。
野盗か?
「桃太郎。悪いが、ここで死んでもらう!」
俺の名前を知ってるってことは野盗ではないな。
「あなた達は誰ですか?場合によっては容赦しませんよ。」
やさしい俺は襲撃者たちに忠告する。
「合格したからって粋がってるんじゃねぇ!」
「そうだ、コネで合格しただけなのに勘違いするな。」
「俺たちのほうがよっぽど才能があるってのに。」
ああ、試験に落ちた奴らか。
ばかばかしい。
「そうですか、それはすみませんでしたね。」
そう言って彼らの囲いから先に進もうとする。
力ずくで止めにかかるんなら少し痛い目をしてもらおう。
「桃太郎君!」
来た道の先からネネさんの声が聞こえた。
「お前たち!なにしてる!」喜久兵衛も居る。
っていうか、クラス全員来てる。
「みんな、どうしてこんなところに?」
「桃太郎君が心配で追いかけてきたんだよ。」ネネさんが言った。「鴨川を山のほうにどんどん歩いてっちゃうし!絶対道間違えたでしょ!」
「え、いいえ、こっちに本当に用事が。」
「なら、この先は危ないからみんなで行こう。」クラスメイトの一人が言った。「こんな暴漢だって出てくるし、一人じゃ危ないよ。」
みんなが俺を守るように俺の前に壁を作った。
「クソッ!下級クラスの奴らだ。」
「今なら、勝てるぞ。こいつら古式詠唱しまくってた。MPがもう無いはずだ!」
「確かに!俺たちが編入した時の席が空いてなかったら大変だ。」
「下級の生徒なら俺たちと変わらないはずだ!桃太郎共々やっちまえ!」
襲撃者たちが戦闘態勢に入った。
「桃太郎君と喜久兵衛君を守って!」
クラスメイト達も剣を抜いた。
「かかれ!」
目の前で、乱戦が始まった。
「ちょ、ちょっとみんな・・・。」思いもよらない展開にちょっと困る。
みんな、良い奴過ぎんだろうか。
「大丈夫!桃太郎君は下がってて!ずっころばし!!」
ネネさんが俺をかばうように前に立ちふさがると、光の矢で敵の足を貫いた。
他のみんなも押している。個々の力量ではこっちのほうが上回っているうえに数も多い。
たぶん大丈夫そうだ。
ここは空気を呼んで、みんなに甘えてしまったほうが良いかな?
一応、戦局には目を光らせておく。本当にヤバそうなところに防御魔法を飛ばそう。
と、襲撃者の後ろのほうに巨大な影が現れた。
「気を付けろ!後ろに何かいるぞ!!」
敵の後ろから現れたのは人間の限界を越えた巨大な男だった。身の丈4m近くある。筋骨隆々とした男は、丸太のようなこん棒を構えていた。
「なんだ!あいつは!!」
「嘘だろ!?」
あまりの巨大な人間の出現にクラスメイト達が驚きの悲鳴を上げた。
大男は敵の間に並び立ち、怒りの形相で言った。
「俺様、お前らのせいで、退学、させられた。しかも、桃太郎、コネ使って、俺様落とした!許さん!!」
「いやいやいやいや、お前みたいなデカいのは居なかった!」
みんなが総ツッコミを入れる。
居たら絶対なにかしら触れてるって。
「俺様、影が薄い。」
「んなわけあるかっ!」
「うるさい!黙れ。ズル野郎!!」
大男が目の前にいたクラスメイトの一人にこん棒を振り下ろした。
「ほっ!」ほたるこいの短一節詠唱を唱えてクラスメイトの前に薄い魔法陣を作る。
が、さすがに大男の一撃は強力だった。魔法陣は簡単にはじけ飛んだ。
「うわぁぁああ!」
「きゃあぁぁぁぁぁ!」
大男の一撃の周りに居たクラスメイト達が衝撃で吹き飛ばされた。
「おのれ、よくもみんなを!」
まだ名前も憶えてきれていないクラスメイト達なのに、俺の中に怒りがふつふつと湧いてきた。
即座に呪文を唱える。
「なんだ、その呪文は!まさか、失われた古式詠唱魔法か!?」敵の一人が叫んだ。
そうだよ!
適当に前世の童謡を唄いまくって見つけた呪文だ。
「――――――(規制)!!」
俺が呪文を唱え終えると、途端に彼らの足元に黒い丸い影が召喚された。
「なんだ?」
「ちょっ、足が動かない!」
襲撃者たちが悲鳴を上げた。
足元の影から、無数の手が伸びてきて襲撃者の足をつかんだ。
「何か、俺様、つかんだ!」
「なんだこりゃああ!」
無数の腕が絡まり着くように襲撃者たちをつかみ、足元から影の中へ引きずり込んでいく。
「た、たすけてくれ!!!!」
「嫌だ!死にたくない!!」
襲撃者たちは命乞いをするが、今さら遅い。
俺がこの呪文の止め方を知らん。
襲撃者たちは、断末魔の叫び声を上げながら黒い影に飲まれていった。
彼らがどこへ行ってしまうのかは俺にも良く分からない。
昔、怒りに任せてこの呪文の犠牲にした奴はハワイに飛ばされてた。
お土産にマカダミアナッツを貰った。
最後に、大男の頭がゆっくりと闇に消え、最後の影が閉じた。
一丁上がりだ。
「ビックリしたよ、桃太郎君!」
「おまえ、そんなに強かったのか・・・。」
クラスメイト達が驚きの目で俺の事を凝視していた。
気まずい。
「す、すみません。みんなの事を巻き込んでしまって・・・。」
「ううん、ありがとう。助けに来たのにカッコ悪かったよね。」ネネさんが少し恥ずかしそうに言った。
「そんなことないです!とても嬉しかったです!みんなも!」俺は素直にクラスメイト達に今の気持ちを伝えた。
「とにかく、みんな無事でよかった。」孝高が言った。
「桃太郎!なんだ!今のカッコいいの!!」喜久兵衛が跳びついてきた。「いいな!いいな!その呪文俺にも教えてくれよ!」
「ダメ!この呪文は世界を滅ぼしかねない呪文だから、簡単に教えるわけにはいかない。」
「むむむ・・・そんな危険な呪文なのか!」
うっかり規制無しで唱えようものなら運営に世界ごと抹消される。
この世界の呪文にはものすごい注意が必要なのだ!
いや、ほんとに。
ほんとに・・・。
とは言え、喜久兵衛がいつまでも羨ましそうに俺を見つめているので、仕方なく俺は妥協した。
「あと5年くらいしたら教えてあげる。」
そうすれば、作詞者の没後70年経つからな。




