桃太郎 かぐや姫編 結
「かぐや姫、あなた、転生者ですね?」
「まさか、あんたも転生者!?」かぐや姫が驚きの声を上げてこっちを振り返った。
やっぱりか!
「そうよ。私は異世界からの転生者!神様に悪徳令嬢からのハーレムルートを望んだのよ!そしたらOKって。」
神のハードルが低すぎる。
「まさか、かぐや姫になるとは思わないじゃない?ねえ?」
同意しか勝たん。
「設定が雑なのよ!そもそも、かぐや姫って令嬢じゃなくない?」
「月のお姫さまって設定じゃなかったですっけ?」
「まあ、そうなんだけどさ。設定だけあっても私に令嬢としてのメリットがないのよ。」かぐや姫は話せる相手ができて嬉しかったのか次々としゃべりだす。「それに見てよ、これ。」
かぐや姫が急に着物をはだけたのでドキッとする。。
剥きだされた白い胸元には肩口から着物の中に向かって大きな傷痕が走っていた。
「転生するなりおじいさんの斧でズバっ!よ。」
「胸中ご察しします。」気持ちが3周解かってなお余りある。
俺も少しでも回避が遅れてたら、額の真ん中からあんなんなってたのかな。
そういや、絵本の桃太郎ってみんな額にハチガネ巻いてたような・・・。
あれってもしかしてそういう事なの?
「こんなんじゃ。イケメン王子たちが身体を求めてきた時にどうしたらいいの?」
しらんがな。
「ともかく!私の秘密を知られたからには生かして帰すわけにはいかないわ!!」
「なんでよ!?」突然のかぐや姫の宣告に思わず言葉が飛び出る。「もう、そっちはそっちで好きにやったらいいんじゃないですか。俺も関与しませんから。」
「そうは行くか。機織りしたツルだって、その姿を見られるのを嫌がったのよ。あなたにはそういう気持ちが分からないの?」
「例えがハイセンスすぎて分からないです。」
「整形を知られたアイドルの気持ちなら?」
「そっちは、なんとなく分かるっす。」
「ならば、生かして返すわけにはいかない。」
「だから、なんでよ!?」
「召喚!月光の使者!!」突如かぐや姫が宙に向かって手を伸ばして叫んだ。「宇宙までをも題材とした広大なフェアリーテイルの力を思い知るが良い!」
く、カッコいい。
そんなセリフ投げつけられたら受けて立つよりないじゃないか。
「笑止!」俺も剣に手をかけてしゃがみこみながら叫んだ。「解放!魔剣ムラマサブレード!日本において最強にして最高の伝説は俺であると知れ!」
その瞬間、巨大な魔力のうねりを外に感じた。
俺は異変に気付いて庭に飛んできたワイ子に飛び乗る。
空がゆがんだ。
いくつもの渦状の空間の歪みが出現し、その中から銀色の人型のモンスターが多数出現した。
頭でっかちで手足の細長いそいつらは、ひゅんひゅんと高速飛行しながら手に持っている拳銃のような兵器でこちらにビームを撃ってきた。
ワイ子に騎乗して銀色の人状の生命体の撃ってくるビームをきり揉みしながらかわす。
多数の光の線がワイ子を襲い続ける。
ワイ子は空中をくるくると回りながら、敵のビームを器用に避ける。
俺も反撃とばかりに『ずっころばし』でマジックミサイルを召喚し撃ち返す。
数十体の月光の使者がマジックミサイルを受けて墜落した。
魔剣ムラマサブレード!!とか叫んでおきながら、剣の出番が一切ねぇ。
「まだまだ!!」
かぐや姫が第二陣を召喚する。次々と銀色の生命体が虚空に開いたワームホールから出現する。その数数百。
さらには、銀色の飛行船のような戦艦が姿を現し始めた。
「はぁーっはっはっ!桃太郎!楽しかったわ!これだけの使者相手にどれだけ頑張れるかしらね。」
ワイ子を第二陣の大軍の正面の空に制止させた。
敵の全体が動き始める前に一掃してやる。
ありったけのマジックミサイルを召喚する。
「ずいずいずっころばしごまみそずい、茶壺に追われてとっぴんしゃん、抜けたーらどんどこしょ、俵のネズミが米食ってチュウ、ちゅうちゅうちゅう、おっとさんが呼んでも、おっかさんが呼んでも、いきっこなーしーよ!」
くそ、呪文が映えん。
「八節詠唱だと!?」かぐや姫が驚愕の声を上げた。
まだまだ驚くのは早いぜ、かぐや姫!
「井戸のまわりで、お茶碗かいたの、だーあれ!!」
「くっ!十節!?いや、十一節詠唱か!!」
空一面に光り輝く魔法陣が出現し、その日、オワリの空は謎の光で包まれた。
「行け!」
光の矢が銀色の軍隊に降り注いだ。
月光の使者たちは一つ残らず爆散した。
かぐや姫が絶望の表情で膝をついた。
「馬鹿な!私が何をしたって言うの!?」かぐや姫が空にただ一騎残った俺に悲嘆にくれた声をかけた。「生まれるや否や斧でこんな傷までつけられて!もう私には悪徳令嬢になるしか残ってないのよ!!」
だから勝手になれって。話聞かないなぁ。
あれ?
ワイ子をかぐや姫の家の前に下ろす。
俺はワイ子から飛び降りて玄関近くで腰を抜かしている石上に近づいた。
良かった、石上生きてた。
「ちょっと、石上さん。これをかぐや姫に。」
そう言って魔法のストレージからキビ団子を一つ石上に渡す。
魔法のストレージってのはいわゆる異次元に収納する例のアレだ。
キビ団子が夏場を乗り越えられそうになかったので、全部しまってある。
もしかしたらすでに手遅れの可能性もあるが、とりあえずかぐや姫に食べさせてみよう。
「これは?」
「グレートポーションです。これをかぐや姫に。好感度が上がるかもしれません。」
石上は未だ庭にせり出したテラスで一人ヒステリックに喚き散らしているかぐや姫に近づいて行ってキビ団子を食べるように促した。
しばらく、押し問答の様子だったが、かぐや姫は説得に負けてキビ団子を口にした。
かぐや姫の傷が見る見るうちに消えていった。
「やったわ!これで公爵夫人になるチャンスが増したわ!エッチも解禁!!」
ろくでもねえな。この女。
「礼を言うわ、石上。」かぐや姫が言った。「モスコミュールとレモンサワーくらい大好き!!」
まあ、ちょっとは、頑張ったかいがあったのだろうか。
ここはどこかの城。
かぐや姫の屋敷から帰ってきた石作と車持が彼らのボスに報告をしていた。
「以上にございます。関白様。かぐや姫ですがやはり強大な力の持ち主だったようです。」石作がうやうやしく頭を下げた。。
「やはりか。」関白と呼ばれた男は一団高くなった畳の上にあぐらをかいて、漆塗りのひじ掛けに寄りかかったままで言った。
「それと、もう一つお耳に入れておかねばならないことがございます。」車持が言った。
「なんだ?申せ。」
「かぐや姫以上の力を有し、我が国を脅かしかねない人物を発見しました。」
「それは、誰だ?」関白が尋ねた。
車持は答えた。
「桃太郎という者です。」




