桃太郎 かぐや姫編 転
「魔法樹の枝になります。」石上が得意そうに笑って魔法樹の枝の束を渡した。
「ぐぬぬぬ。」大納言と右大臣が鬼の形相で石上を睨んでいる。
勝負は渡す前からついていた。
他の従者がいくつかの桐箱を目の前に置いている中、俺の前にだけ二宮金次郎の背負っているレベルで魔法樹の枝の束がこれ見よがしに置いてあった。
どんなもんじゃい!
危険だから取ってくることができないみたいなモンは力技で何とでもできるんじゃい。
ぶっちゃけ、この枝全部売っぱらえば石上がくれるはずの報酬の何百倍も儲かる。
だが、前回、依頼人に恥をかかせてしまったからな。
オワリのギルドの評判と俺の冒険者としてのプライドをかけて今回は頑張らせていただいた。
「ああぁん!」かぐや姫が甘ったるい声を出した。「かぐや、感動しちゃった!石上!!最高よ。」
「ありがとうございます!!」石上が頭を深く下げた。「ありがとうございます・・・うっ!」
泣いたっ!?
まじかっ!
他の求婚者たちが、青い顔で石上を睨みつける。
これ、勝負あったろ。
「ほんとに素敵よ、石上。これで、前回のはチャラね!」かぐや姫は言った。「トリュフやフォアグラのように素敵よ!」
これはどっちも知ってる。
てか、チャラかよ。このまま皆にギリギリまで貢がせる気満々だな。
「皆様、このままでは私、石上に心傾いてしまいますわ。」かぐや姫は言った。「次は皆様も頑張っていらして。次は・・・
かぐや姫が次のリクエストを口にしようとした瞬間だった。
「かぐや姫様、今回のクエストの結果を発表していただきたい。」
「その通りです。かぐや姫。少なくとも、前回と今回の二回あればご決断は可能かと。」
求婚者のうちの二人。今まで影の薄かった王家の二人が突然主張をし始めた。
「あらぁん。でも、前回は大納言と右大臣が。今回は石上が頑張っちゃったから、決めきれないわ。かぐや、困っちゃう。でも、心配しないで、あなた達も前回も今回もまずまずでしたから、まだまだチャンスはあるわよ。」
「かぐや殿。では、次回のテストで、この中から婿を選んでいただくと約束いただけませんでしょうか?」
「そんな性急には決められませんわ。女にとって結婚は一生ものですのよ?」
「つまり、我々にあれだけ貢がせておきながら、相手を選ぶおつもりはないと?」
「石作殿!車持殿!幾らミカドに連なる者といえ、その物言いは無礼にございますぞ!」大納言が王家の二人に向けて言った。
「私もかぐや姫を傷つける物言いは許せません。」右大臣も立ち上がった。
王家の二人は慌てることもなく静かな声で二人にとんでもないことを告げた。
「私達はミカドの名を受けて、かぐや姫による貴族たちへの結婚詐欺の調査をしている捜査官です。」石作と呼ばれたほうが言った。
「かぐや姫には他の納言達への結婚詐欺の容疑がかけられております。」車持も言った。
なんか、とんでもない事が始まったぞ!?
「な、なんだって!?」大納言と右大臣と石上が驚く!
「左大臣殿や他の大納言たちも被害にあっておられます。この屋敷も左大臣が立てたものです。」
「な、かぐや姫に限ってそんな?」大納言が絶句する。
「我々は今回かぐや殿がこの5人の中の、どなたかと結婚する気があるのであれば良しと考えておりました。」
「しかし、今回、これだけの魔法樹の枝を結納されておきながら、結婚をご決意されない。」石作が冷たく言った。「結婚詐欺に当たると判断いたしました。」
かぐや姫の顔が顔面蒼白になっていく。怒りのためか眉がつり上がって眉間にしわが寄っている。
「いや、実を言うと、かぐや殿は私と本来は結婚する予定なのだ!」大納言が叫んだ。「この試験が始まる前に、鷹狩の途中で怪我をしているかぐや殿を助け、将来の約束をしていたのだ。この試合は、私以外の求婚者を断るための言い訳に過ぎん!」
「なにを言うか、かぐや姫と付き合っているのは私ですよ。」今度は右大臣が言った。「宮廷のパーティーで怪我をしている姫を助け、すでに懇意になっていたのです。この試合は私と結婚するための出来レースだったのです!」
宮廷のパーティーで怪我?
「私も床屋で怪我をしているかぐや姫を助け、互いに一目ぼれをしていたのです。かぐや姫は私のために、私が中納言なれど他の求婚者に勝るとも劣らないことを示す機会をつくってくれたのです。それがこの場なのです。」石上も言った。
床屋!?
「嘘を言うな!」
「貴方はかぐや姫のやさしさに勘違いをされておられるだけだ。」
「私のための試験だったのです。」
3人が3人ともにらみ合う。
「それ、私たちも言われていますよ。左大臣や他の大臣たちも皆言われております。」石作が言った。「かぐや殿の常套手段ですね。」
「姫、嘘でございますよね。私と結婚してください!」
「私とだ!かぐや殿それしか道はございません。」
「かぐや姫、私は貴女を愛しております。」
3人がかぐや姫に猛アタックを開始した。
「もし、本当に結婚をする気があるというのなら、今この場でこの3人から選んでいただきたい。」車持がかぐや姫に言った。
「皆様、ご遠慮いたしますわ。右大臣はキザっぽくて嫌ですし、側室での迎え入れにございましょ?大納言は年齢がねえ。私みたいな若い美人がなびくほど若いおつもりなのかしら。石上は論外。」
石上・・・。
「かぐや殿・・・。」
「姫・・・。」
「かぐや姫様・・・。」
「この枝はもう貰ったから返さないわよ!」かぐや姫が言った。「急いで片づけて!!」
かぐや姫が家の名使いに叫ぶと、名使いが慌てて魔法樹の枝を回収して言った。
「ここでは特に文句は申し上げませんが。後ほどミカドから勅がでます。それまで、このお屋敷からどこへも行かれないように。」石作が言った。
「ちょっと!私の財産を奪い取ろうなんて考えてないわよね!?」かぐや姫が悲鳴を上げた。「これは全部貰った物よ!」
「さあ、ミカドと関白で決めることにございます。」
「貰った物は返さないわよ!」
いじきたねえな。
王家の二人はかぐや姫を糾弾し終えると、早々に帰っていった。
大納言と右大臣もガックリと肩を落として、かぐや姫のほうを恨めしそうに見ながらとぼとぼと出て行った。
部屋には、あれだけ言われたにも関わらず、石上だけが残った。
呆然自失のかぐや姫に石上は声をかけた。
「かぐや姫様。私は諦めません。私はそれでもあなたが好きなのです。」
彼は論外と言われてもめげていないようだった。
かぐや姫は石上の言葉など届いていないかのように、庭にせり出したテラスへとぼとぼと出て行って空を仰いだ。
「また、参ります。」石上は頭を下げた。「行きましょう、桃太郎。」
ちょっとカッコいいことを言ったつもりの石上は、恥ずかしかったのか顔を真っ赤にしてそそくさと部屋を出て行ってしまった。
とりあえず、荷物を纏めて石上の後を追って部屋をでようとした。
ふと、雲のない空に浮かんだ月を見上げていたかぐや姫の呟いた言葉が耳に届いた。
「悪徳令嬢から公爵の許嫁になってイケメンたちとのハーレムルートに行こうと思ったのに・・・。」
ん?
悪徳令嬢?公爵夫人?
俺は、慌てて、かぐや姫の所に引き返す。
「かぐや姫。あなた、転生者ですね!?」




