自分探し
「採取してきたぞー」
「思ったよりも早かったな。明日の朝一で来ると思っていた」
道具屋に行くと閉店寸前だったらしく、若干嫌そうな顔をされた。
「じゃあどの程度か見させてもらうとするか」
「おう」
言いながら俺は籠の蓋を外してリアンを下見してもらう。
処理の方はそれなりに上手くやったつもりだが……。
「ふむ……籠を渡した時の態度から期待していた通りの正確な採取だな。冒険者志望や何にも知らない奴が持ってきた物とは違う……質も悪くないし量もある。これなら約束通り報酬に若干の上乗せしてやろう」
よっし!
小さくガッツポーズを取りつつ、採取したリアンを買い取ってもらった。
「じゃあしっかり数えるんだぞ。後で文句言っても知らんからな。銀貨が1枚、銅貨20枚だ」
既視感が訴える。
銅貨が100枚で銀貨1枚。
銀貨が100枚で金貨1枚相当。
時期や場所、流通によってある程度誤差はあるものの、これ位が普遍な価値だったはず。
で、銅貨30枚で大体定食屋等の酒込み高めの食事一食分。
日本の感覚だと一食ちょっと奮発して千円だとして合計四千円相当。
近所の薬草を納品するだけで四千円なんだから儲けた方だと思うべきだな。
但し、あくまで日本基準でしかない訳であまり参考にならない。
宿屋に素泊まりしたら一日で無くなる金額だ……装備とか、これからの活動を考えると宿屋に泊って居たらいつまで経っても貯まらないぞ。
「ありがとう。色を付けてくれて」
「いやいや、ちゃんとしたリアンを仕入れる事が出来た。こっちも良い商売なった」
小銭を稼げはするけどこの仕事を連日していたら草原のリアンはすぐに無くなるだろうし、供給過多で買い取り金額は下がっていく。
なので別の仕事が出るのを期待すべきか。
当面は村の雑用掲示板を基軸に金稼ぎをしていく方針だ。
行動範囲を増やすにしても下地が足りない。
調合した薬とかを買い取ってもらう方が金になるか?
ふと脳裏でそんな考えが浮かんだが……ここの道具屋では売れない様な気がした。
店が作った物を買うのはわかるけど、売るのは受け付けてないだろう。
むしろ俺が冒険者相手に売り付けないと無理だ。
それも視野に入れるべきだろうが機材と知識がな……出来るかどうかを既視感頼りにやって見るしかない。
もしも俺がこの世界の住人で物知りだったとしても、経験のない事、知らない事を思い出す事は出来ない。
どんな人物なのかもわかっていないんだし。
もう少し様子を見る事にしよう。
「さてと、じゃあ店を畳むから欲しい物があるなら今の内に言ってくれ」
「えーっと」
言われて俺は道具屋の店内を見渡す。
何が目的だったかな?
もらった金で買える品を見繕う。
「じゃあ釣り糸と釣り針をくれ」
「……釣りをするなら竿もオマケしてやろうか?」
「良いのか?」
俺の問いに道具屋は若干溜息と言うか呆れ気味に頷く。
「良い仕事をしてくれたしな。オマケしてやるよ」
「気前良いね、おっちゃん! ありがとう!」
素直に言うと苦笑いされた。
「その代わりに厚手の布と洗面用具を一緒に買うぜ!」
そう答えると良い感じに道具屋は笑顔を向けてくれた。
「毎度!」
ってな感じで道具屋に今日の稼ぎをほとんど支払って店を出たのだった。
「う……」
道具屋を出た後で、腹が減っている事に気づいた。
よく考えたら、この世界に来てから何も食べていない。
残った金銭で酒場でも行って飯でも食うか?
いやいや……今は少しでも金を貯めてこれからの活動資金にしないといけない。
出来る限り自給自足を目指そう。
そう決めて、草原で見つけた食べられそうな木の実を籠から出して頬張りながら川辺で釣竿を垂らし、太めの枝を用意して地面に突き刺し、厚手の布で仮設テントを作成した。
村のゴミって訳じゃないけど、藁をもらって敷く事でどうにか寝る事は出来そうだ。
宿屋? さっきも考えたけどそんな所に泊っていたら金が貯まらん。
とはいえ……なんだろう。
異世界に来て日雇いホームレスになってしまった気分だ。
焚き火を見ながら釣竿を垂らす。
かなりひもじい思いをしていないかと自問自答する。
……もしかして異世界に来る事は失敗だったか?
少なくとも自分が何者かはわからなくても、日本で中藤洋として生きる事は出来た訳だし、しかも一流企業に受かったんだよな。
しかし……もう異世界に来てしまったのだから後戻りは出来ない。
蚊とか虫の襲撃に備えないといけないかもしれないなぁ。
ピク!
お! 竿が揺れてる!
「フィッシュー!」
川魚が釣れた。
一応、小型の魔物枠だけど、人間相手に敵うはずもない魚だ。
内臓を解体用の包丁で取り出してから木の枝を加工して作った串に差して焚き火の近くに突き刺す。
少しずつ火が通って行き、焼けて行く間に三匹釣れた。
随分と入れ食いだな。
そこは異世界だから沢山生息しているのかもしれない。
これなら食べるだけだったら困らないだろう。
しかも潮風が僅かにする……明日は海の方にでも出てみるかな?
なんか遠くで動物の声が聞こえる様な気がするし。
……うん、キャンプみたいで楽しくなってきたぞ。
バイクで一人旅、川原でソロキャンプとか憧れてたんだよな。
そんな感じでホームレス生活を満喫しながら魚を貪っていると……。
「おい」
ランプを片手に肉屋が声を掛けてきた。
背後には店員の女の子がいる。
心配そうなのか同情なのか、若干及び腰に見えなくもない。
そういや肉屋の裏手の川だったな。
肉屋は野宿の準備を終えている俺と仮設テントを交互に見ながら物凄く呆れたように眉間に手を当てている。
「シャロから聞いて確認に来たが……まさかそんな所で野宿する気か?」
「そうだけど……」
「宿は?」
「これ買っちゃったから今日は野宿だよ」
そう言って釣竿を見せた。
「はぁ~~~~~~……」
あ、本気で呆れられた。
凄い溜め息だ。
「あ、あの……」
「ん?」
女の子が親らしい店主に何やら囁いている。
店主の方が俺と女の子を交互に見てから再度溜息を吐いた。
それから俺の方を向く。
「来い」
「ん?」
「せめて屋根のある所で寝ろ。迷惑だ。家の裏手で焚き火を焚かれる方の身にもなれ」
「そう言われても……」
気持ちはわかるけど、俺も生きなきゃいけないからな。
悪いけど気にしなきゃ良いと思う。
それこそ他人と思ってさ。
などと若干DQN染みた事を考えていると肉屋の店主が言った。
「良いから来い」
ってな感じで肉屋に案内されたのは肉屋の物置きだった。
かなり狭い木造の物置き。
見た感じだと物置きの中はゴミかな? 素材の類は置いていない。
「ここを使え」
「……良いんですか?」
「本当に困っているなら役場に相談に行くかと思ったら、野宿とかふざけた事を考えやがって」
おお、この肉屋の店主、人相は悪いけど優しい人みたいだ。
女の子の助言もあったのかな? 真心が染みる。
ふと、脳裏に役場に泊る案が既視感で浮かんでくる。
役場はタダで泊めてくれるけど、後で請求されるはず。
しかも後々……何かに響く覚えがある。
それじゃあ、あんまり頼れない。
住み込みの仕事でも見つけなきゃネカフェ難民みたいな状況で、自分探しなんて夢のまた夢だ。
……自分探し。
言葉の意味は間違っていないはずなのに、ダメ人間になった様な気分だ。
俺は本当の自分を探しているだけで、ありもしない自分を探している訳じゃない。
多分。
「まあ、何でも自力でがんばる姿勢は評価してやる。さっきシャロが道具屋とも酒場で話をしてな。解体の腕も良いようだし、しばらく雑用でもして稼げ」
「ありがとうございます!」
これは渡りに船かもしれない。
こき使われる様だったら見切りをつけて旅立てば良いし。
店主と女の子に揃って頭を下げる。
「差し当って……お前、契約はどうなってんだ? 大方隷属させてたのが盗賊に殺されたんだろ?」




