Wedding dress
結婚式と言っても儀式に参列出来るのは両一族のみで、翌々日のお披露目で一族を除いた者達が呼ばれるのだ。そしてクロシュが選んだのは、式は黒の国で挙げ、お披露目は白の国で行うというものだった。
「私達は嬉しいけど、クロシュさんはそれでいいの?」
前王の結婚式となれば大勢が詰めかけようとする筈だ。
「種族だけでエルを判断した者達の、形だけの祝福など必要ない」
「だったら良いか。お父さんにはそのように伝えておくよ」
あっさりネイフィは頷くと、カクスに同意を求める。カクスも異論は無いようだ。
「さて、じゃあ少しエルネの様子を見てくるよ」
当日の衣装合わせの為にエルネインは席を外している。男達は見ることを許され無いので待つしかない。暫くしてエルネインの悲鳴が聞こえてくる。
「また何かやらかしたか」
妻の奇行には慣れているのか、カクスは小さく溜息を吐くだけ。クロシュも悲鳴が危険なものではないと知っているから苦笑を返すだけだ。
「愉快な奥方ですね。カクス殿も振り回されて大変そうだ」
「昔から跳ねっ返りなんだ、ネーイは。ドジでよく物を壊す」
「確かに、我が家の廊下の置物が2,3無くなっていたが」
「す、すまん。後で請求してくれれば此方で立て替える」
日常茶飯事らしく、ネイフィの通る場所には物を置かないのが鉄則なのだとか。それでもカクスの表情は明るく、ドジなところも可愛くて仕方がないのだと諦めているようでもあった。
「私が金銭を問わずに気に入った物を飾っているだけなので、気にしなくていいですよ。多少は悲しいですが」
「やはりすまん。金銭ではないと言うなら他の物で立て替えよう。何か要望はあるか?」
「ではエルの子供の頃の話を」
「……成る程。と言っても、俺が知っているのは貴方に比べればほんの少しだが」
手振り身振りで聞かされるエルネインの幼少期を聞き入っている客間の隣では、仕立屋のお針子達がてきぱきと着せていく。先程衣装を破りかけたネイフィは椅子から動くことを厳禁されて面白くなさそうだ。それでも仕立屋の奥方がラフ画を見せてやれば夢中で捲っており、その内にとエルネインの方を進めていくあたり、扱いに良く慣れている。
「私共がお作りするのはこちらです」
奥方が示したのは最後の頁だった。下着から装飾品まで事細かに指定されており、特に斬新なのは白を基調とした衣装に黒が使われているところだろう。正反対の色を大胆に使った珍しい型にネイフィは魅入られる。因みに結婚式には決まった色や形はないので、個人の好みで作られるのが一般的だ。
「クロシュさんの黒とエルネの白が使われてるんだ~。とても素敵だね」
「有り難う御座います。ですが、これも大公様の発案なのですよ」
「へえ?あの方は本当に良い趣味をお持ちだね」
この邸も決して華美ではないが上品さを失わずに品良く纏まっている。普段エルネインやクロシュが着ている衣装も同じで、緑の国で芸術家として生きていけるのではないだろうか。
「流石に下着までデザインさせるのはどうかと思うけど」
「お父様はお母様に服を贈らないの?」
「あの人が興味持つのは服じゃなくて身体なんだよね。もう少し女心を分かってほしいよ」
「身体???」
「あ~、エルネには少し早かったかな。……この調子だとまだ手を出してないのか。クロシュさん凄いな」
素直に賞賛を贈るネイフィに、邸の使用人達は気が気でない。
日頃、男所帯で暮らしているネイフィにとってはその程度は日常会話に入るのだが、エルネインにとっては全く未知の世界なのだから。母親が率先して妙な知識を植え付けないでほしい。
そこへタイミング良くクロシュがやって来た。いや、やって来たというのも語弊がある。既に着替えていたエルネインを抱いて走って行ってしまったのだ。後から追ってきたカクスは軽くネイフィの頭を叩く。
「こら。あまり変なことを教えるな。クロシュ殿が怒ってたぞ」
「聞き耳立ててるなんて狡いよ。それにあれくらい普通でしょ?」
「普通なのはお前だけだ。帰ったらお仕置きだぞ」
「え、やだ。カクスは長いから訓練に支障が出るんだもん!」
「そう思うならエルネをからかって遊ぶな」
「ごめんなさい」
「ん」
流石にキスまではしないようだが、甘い空気を放出しているには違いない。主達で耐性がついている使用人達は、手を止めることなく自分達の仕事を黙々とこなしていた。
一方、エルネインを全力で攫ったクロシュは空の旅に出ていた。竜だと自覚したばかりのエルネインは、自力で翼を出すことが出来ないのでクロシュに抱えられている。
「何処に行くの?」
「そうだな。何処に行きたい?」
質問を質問で返されたエルネインは考え込んでしまったが、やがて王都の西、竜の視力でもっても認識出来ない故郷を指さす。納得したクロシュは、畏まりましたお姫様、と唇を落とし、方角を西へ向けた。




