Mixed race?
娘の再会と同時に告げられた内容は、誰もが驚くべき真実の連続で。特に天帝と白の王の話を聞いた夫妻は、何とも言えない微妙な顔つきで聞いていた。
「色々聞きたいことはあるんだけど、クロシュさんに確認。貴方は娘に恋しちゃってるんだよね?」
「愛しています。一目見た瞬間から運命を感じました」
「あ……うん、そうなんだ」
赤子に一目惚れしたというクロシュに、集まっていた面々はどん引きだった。隣でエルネインは頬を赤らめているが、その反応はどう考えても間違っている。
「伯父上……」
「あの時の大暴れの原因はそれだったんですね」
「何ともまぁ」
「クロが運命って!!ブフッ笑えるんだけど」
「貴方はお黙りくださいませ」
「その気持ちよく分かるぞ。俺もネーイに会った瞬間に堕ちたからな」
「義父上は分かっていただけるか!」
叔母甥関係に当たる二人だが、実年齢が上なのはカクスだ。因みに彼がネイフィを見初めたのは、ネイフィが掴まり立ちを覚えた頃である。どちらもロリコンであることには違いない。
「年上の貴方に義父上と言われるのもなんだか気恥ずかしいな。俺のことはカクスと」
「では私のことはクロシュと呼んで欲しい」
「二人とも仲良しだね、エルネ」
「はい。嬉しいです」
すっかり馴染んでいるクロシュに、二人に散々振り回されたエリオスはげっそりしていた。今や彼の敬愛するクロシュの影も形もない。
「互いの誤解や疑問も解けたところで確認だが、エルネインは二人の娘で間違いないのだな?」
「間違いなくエルネは私達の子供だよ。ね?」
「ああ。匂いが変わることはないからな」
嗅覚にも優れている竜の鼻が判別を間違えることはない。
「ということは、嬢ちゃんも俺たちと同じ竜ってことか」
「そうなるのだけど」
ガリスとシエリナが戸惑うのも無理はない。竜同士は互いに会えば分かるものだ。力の気配といったものでどんな竜なのかを判別出来るのだが、エルネインからは全くそう言った力を確認することが出来なかった。
「確かに変だね。感じることは感じるけど……」
「混ざってる、のか?」
エルネインの両隣に座っていた両親も、子供の気配に首を傾げるしかない。
「エルは私の玉を体内に取り入れているから、二つの力が相反し合っていてもおかしくない」
疑問に答えたのはクロシュだ。光と闇は本来相反するもの。その二つが均衡を保っていれば、打ち消し合っていても不思議ではなかった。
「その仮説からすると、エルネイン嬢は兄上と同等の力を持っていることになりませんか?」
視線がエルネインに集中する。当の本人はきょとんとしていたが。
「ああ。それならエルネも玉持ちだからね。はい」
ネイフィが胸元からぶら下げていた小袋から取り出したのは、丸い乳白色の玉だった。反射的にエルネインが受け取った瞬間、ぽんと人と同じだけの大きさしかない小さな竜が現れる。注目すべきは全身輝く白に、尻尾や耳の先が黒くなっているところだった。
『私……?』
「エルにはまだ早い」
クロシュが素早く竜の手の中から玉を奪うと、再び人型に戻った。但し全裸で。エルネインが叫ぶよりも前にクロシュが自分の上着を被せたが、エルネインは手足を縮込ませ床に座り込んでしまう。丁度クロシュの身体が邪魔で、クロシュ以外からは見えない位置だったのだが、エルネインは羞恥心で死にそうだった。
「クロシュ様ぁっ」
「大丈夫だよ、エル。私以外は誰も見ていないから」
クロシュでも大問題なのだが、エルネインは本当?とただ問うたのみだった。着替えさせる為にクロシュ達は一旦中座し、五人と二人は緊張を解す為にそれぞれのカップへと手を伸ばす。
「お二人は今後、エルネイン嬢をどうなさるおつもりですか?」
返答次第では対立もあり得るのだ。問われた夫妻は顔を見合わせ、困ったように眉尻を下げる。
「正直私達も困ってるかな。エルネが望むならクロシュさんに任せても良いと思ってるけれど」
「俺たちも両親の反対を押し切って一緒になったからな。あの子には幸せになって欲しい。が……」
「折角手元に戻った子供を手放すのは辛いわよね。それが産まれて直ぐに離れ離れになってしまったら尚更そう思うわ」
シエリナが理解を示す。が、二人はそうではないのだ、と首を横に振った。
「クロシュさんは私達よりも格下の竜。どうしても娘を先に置いて逝ってしまう。私は残された娘を見るのが辛い」
竜の寿命は力で変わる。玉を残したクロシュの力は二人の目から見てとても弱々しく、五百年生きれば良い方だ。一方エルネインは力の制御も覚束ない幼竜。短く見積もっても二千年は生きるだろう。伴侶を亡くした竜の痛々しさは良く知っている。
「その点に関しては心配無用です」
「クロシュさん……あの子は?」
「多少時間が掛かるので、私だけ先に」
戻ってきたのはクロシュだけだった。
「ご存じの通り、私の力はエルの力の一部になっている状態だ。ならば私がこれを飲めば……」
クロシュが懐から取り出したのは、先程エルネインから取り上げた白い玉だった。
「エルネの力がクロシュ殿の一部になると。だが、危険だぞ」
「エルと共に生きられるならこの程度は何でもありませんよ」
とっくに覚悟を決めているクロシュにカクスは何も言えなかった。例え反対してもクロシュは必ず行うだろう。
「参ったな。エルネはとんでもない男を釣り上げたよ」
「今更どうしようもあるまい。天帝が定めた二人だ。引き離すのは不可能だろう」
二人も娘を差し出す覚悟を決めるしかないようだ。クロシュの熱意に負けた白の竜夫妻に、黒の国を支える一族はほっと胸をなで下ろした。ここで連れて帰ると言えば、間違いなく狂った竜がその瞬間に生まれることだけは想像に難くない。彼等は滅亡の危機が去ったことを天帝に感謝した。




