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竜の色によって性格も大体似通っている。黒の竜は闇を司るものとして孤高を好み、赤の竜であれば炎のように剛胆かつ苛烈なものが多い。そして白の竜は気性が穏やかで潔癖だと言われている。
神殿が人々に教える竜の特徴を思い出していたエリオスは、真実は当て嵌まらないものだと現実に思考を戻した。
「ゼファは王様に会いに行くって言ってたんだよ。ゼファは何処?!」
「何処、と言われても知らぬ、としか答えようがないな」
何度同じ遣り取りを繰り返したことか。一向に引く様子のない女性にエリオスはうんざりしていた。
「ネーイ。陛下は本当に知らないのだろう。一旦落ち着け」
「でも黒の竜はお腹も真っ黒なんでしょ?黒の竜の言うことはまず疑えって兄様が言ってたじゃない!」
本人を目の前にして酷い言われようである。眉間に寄ってしまう皺を解しながら、エリオスは話すべき相手を変えた。
「そもそもゼファとは何者だ?使者殿」
「名乗りもせず失礼しました。俺はこちらのネイフィの夫カクスと申します。ゼファとはネイフィの四番目の姉が迎えた、赤の王の三番目の息子の一番上の息子のことです」
「……つまり赤の竜なのだな」
脳内で家系図を作ろうとして失敗し、簡潔に纏めた。カクスは是と頷く。
「そのゼファがこちらへと向かったのが一巡前の1の月のこと。以来定期的に書簡を送ってくれていたのですが、5の月以降それが止んでしまい……」
「心配になってやってきたと」
「そうだよ。手紙には王様のことも書いてあったから」
漸く話が見えてきた。最初からカクスと話をしていれば、無駄な問答を繰り返すこともなかったのにと悔やむ。
「事情は理解したが、私はそのゼファという者と面識はない。これは嘘ではないぞ」
「そうですか」
あからさまにしょげ返るネイフィとカクス。
「人手は割けぬが、納得するまで滞在すると良い。部屋を用意させよう」
「有り難う御座います」
侍従に目配せして二人を客間に案内させる。入れ替わりに大量の書類を手に入ってきたのはレグルスだった。
「珍しいお客様ですね。白の国の者ですか?」
外見的特徴を見れば何処の出身かは直ぐ分かる。先程すれ違った二人は美しい銀の髪と瞳の色をしていた。
「ああ。人捜しをしているらしいので、暫く滞在を許可した」
「滞在を?」
エリオスが王城の滞在を許可したなら相応の地位に居る者なのだろう。
「白の竜の一族だ」
「道理で城内が通常より明るいわけです。しかし、白の竜がわざわざ人捜しに来たとなると少々気になりますね。あそこの国は閉ざしているので、滅多に人は流れてきませんから」
「我が国でも繋がっているのは商人くらいだからな。しかし……似ているな」
話し方や浮かべる表情こそ違ったが、顔の造作がどことなく似通っている。
「ああ、エルネイン嬢とですか。確かに彼女も綺麗な銀の髪と瞳ですからね」
「案外彼等が探しているのはエルネインかもしれないぞ」
「そうかもしれませんね。……さて、お喋りはここまでです。仕事をしてください、陛下」
「わかった……」
彼等の予想が当たるのはそう遠くない未来のことである。
邸内がどことなく忙しないのは、主の婚姻が迫っているからだ。通常業務に加えて式当日の準備に追われ、目も回るような忙しさなのである。そんな使用人達とは裏腹に、主人とその婚約者は変わらない日常を過ごしていた。
一定の速度で頁を捲っていたが、文字の羅列がちっとも脳内に入ってこない。理由は分かっているのだが、今日も空席のままの向かい席を見やり、エルネインは物憂げな息を吐いた。ゼファは既に帰郷し、クロシュはエルネインの婚姻許可を貰いに孤児院の神殿を訪ねて不在。マァサも忙しく、更にエルネインの相手をして貰うのも腰が引けた。みんなの邪魔にならないところを求めていたら書庫に辿り着いたのだが、こうして一人で居ると落ち着かないのはそこにクロシュがいないからだ。
「早く帰ってこないかな」
この本もクロシュがエルネインが好きそうだからとくれたもの。旧天語で書かれているそれは分からなければクロシュに聞きながら読み進めていくのが常で、読み始めた当初は聞いてばかりだったのに半分もすれば自力で読めるようになっていた。教えることがなくなったクロシュは寂しがっていたが、同時に喜んでもくれていて。次の日プレゼントされたのはエルネイン専用の書棚だった。最初はがら空きだったそこも今では二段目までぎっしり本が詰まっている。
「クロシュ様……」
今頃何をしているんだろう。




