Eternal relationship
国王が居なければ舞踏会も終わることはなく、こうして話している間にも彼等は踊り続けているのだろう。恐れ多くもエリオスの自室に場所を変えると、クロシュは人払いを敢行した。そこへ更にエリオスが力を使って外部を遮断する。
「犯人達には今、兵士達が全力で締め上げていることですし、音を上げるのも時間の問題でしょう。それよりも私が知りたいのは、兄上のことです」
「お前に言われると気色悪い」
「酷いです、兄上」
「私も知りたい。先程の伯父上の力と、どうしてエルネインから伯父上の力がするのかを」
「面倒だ」
二人の疑問はばっさりと切り捨てられる。シグルスはエルネインへと助けを求め、エルネインは苦笑しながら頷いた。
「私も知りたいです、クロシュ様。教えていただけますか?」
絶妙な角度の上目遣いの”お願い”にクロシュは逆らえない。暫し視線を空に彷徨わせていたが、エルネインを抱き寄せたまま背もたれに身体を預け、口を開いた。
「まあ簡単に言ってしまえば、エルが私の”玉”だからだよ」
「「……ええ!??」」
玉というのは竜にとって力の象徴である。時折玉を持って生まれる竜の子供は例外なく強大な力を持ち、何処の国でも王になれるのは”玉”を持った者だけだ。だから、クロシュの跡を継いだのは弟のシグルスではなく甥のエリオスだった。
「そんなことがあり得るのか?」
エリオスが信じられないのも無理はない。身に余るからこそ玉という形で分けているものを、よりにもよって体内に持っているのだから。
「成る程。だから兄上はあの時力を失ったんですね」
「正確には無くしたわけではない。事実今日のようにエルを通して力は使えただろう?」
クロシュはエルネインの胸元に手を翳した。二人を起点にして、再び闇が集まってくる。
「信じ難いが、どうやら本当のようだな」
「ええ。ですが、それが先程の強大な力と一体どういう関係があるのですか?国中の闇が一瞬で消えてしまったようですが」
理解出来ないなりに聞いていたエルネインはふと室内の違和感に気付いた。クロシュも視線で理解したらしく、米神に軽く口付ける。
「玉に取り込んだだけだ。エルが……死にかけたからな」
「何ですって?!」
「あれは私の力そのもの。であれば、力を与えてやれば竜の気を多く体内に取り込むことになる。肉体も同様だ」
無理矢理力を与えてやることで瀕死状態のエルネインの肉体を活性化させたのだ。竜の強靱な回復力を利用して。薬で死にかけたと知らない二人はそれだけで引き下がった。勿論大怪我による延命だったら今の回答で間違いないのだが、今回は違う。けれども、クロシュがそれをわざわざ彼等に教えることは無い。
「……クロシュ様の一部が私の中にあるのですか?」
何時入れられたの?とは聞かない。エルネインが求めているのはもっと別のことだ。
「そういうことになるね」
「力が無いのも私のせい?」
「エルのせいじゃない。私が望んだんだ」
「でも」
今にも泣き出しそうなエルレインに胸を締め付けられる。額同士を合わせて無理にでも目線を合わせると、クロシュは笑った。
「エル?私は嬉しいんだよ。貴方の中に私が在るんだから。いつでも私は貴方と居られる」
「いつでも?」
「ずっとね。もう離れてやれないよ」
我慢出来なくなった涙がぽろりと両目から溢れてくる。困ったなと眉尻を下げながら、クロシュは零れる雫を一つも落とさないように舌で舐め取る。それはエルネインが泣き止むまで続いた。
他方、二人だけの世界を見せつけられたエリオスは、目の前で繰り広げられる光景を前に思考を放棄していた。初めてあれを見れば誰だってそうなりますよね、とシグルスは笑うばかり。
「ち、ち、父上」
十数年ぶりに父と呼ばれて内心嬉しかったシグルスは何ですか?と息子を見る。
「あれは、誰ですか?」
後継者として、同じ立場の者としてクロシュを人一倍敬愛していたエリオスだ。冷徹で冷酷な王の姿が、目の前でガラガラと崩れていくのを感じる。
「間違いなく兄上ですよ。兄上のようなタイプだと特に、一度振り切れてしまうとああなってしまうんですよね」
「私も何時かああなるのでしょうか?」
「どうでしょうね?あそこまで変わるかというとそうでも無いような」
クロシュとは違い、エリオスはまだ純真だ。悪戯盛りなのか多少困ったきらいはあるが、それでも面白ければ年相応に笑うこともあるし、何より愉快だと感じる心がある。
シグルスはくしゃりと息子の頭を撫でた。
「貴方もその内分かる時が来ますよ。私達のように」
シグルスもまた、愛に身を焦がした一人だ。相手は竜人と人の間に生まれた竜人の女だったが、血が混ざるほど人に近くなり、彼女も人間にしては大往生という短い時間で生を終えてしまった。当時は相当荒れていて、ココットはその時に出来た子供だったりする。今でも吹っ切れたとは言い難いが、それでも時間が経てば心の折り合いもついてくる。今は愛妾を迎えることもなく、残った愛妾達が無くなれば両親のようにレラインと穏やかに暮らしていく予定だ。
「……進展があったようだな」
「無暗に尻尾を踏みつける事も無いでしょう」
言外に人払いを解除するというエリオスにシグルスはクロシュ達に声を掛けるのをあっさり放棄した。暫くは二人きりにしておいた方が今後の為だろう。必然、甘ったるい世界を目撃してしまう者達には不運なことだが。
この日を境に、何処か遠巻きにしていた大公へと親しみを持つ者が増えたとか。




