少しずつ外へ
【精霊は還る場所を知っている】
2026.9.25 47話一挙配信。
毎日21:00頃 5話ずつ更新しています。
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翌朝。
「ジジ、今日も鍛錬所行かないの?」
「行かない」
「お休み?」
「ん。午後シャイアんとこ行くだろ」
ルナリスの髪を梳かしながら、ジジが答える。
櫛が白い髪をゆっくり通っていく。
「アグラディアも来る?」
「来るって。千里眼のことで話あるらしい」
「せんりがん……」
「昨日言ってたやつ」
「ルナの見えるやつ?」
「そ。午前中、ギルド行くぞ」
「ギルド?」
「バルトに今日も休むって言わねぇと」
「マーサいる?」
「いるんじゃねぇの」
「行く!」
「分かったから動くな。まだ終わってねぇ」
「はーい」
返事をしたルナリスが大人しくなる。
ジジはルナリスの髪を最後手櫛で整えた。
「終わり」
「きれい?」
「ああ」
ルナリスが嬉しそうに笑った。
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午前のギルドは、いつも通り人が多かった。
依頼を探す冒険者。
受付へ報告する者。
掲示板の前で仲間と話し込む者。
いくつもの声と足音が飛び交う中、
ルナリスはジジに抱かれたまま顔を動かした。
「人いっぱい」
「朝だからな」
「マーサいる?」
「探すから待ってろ」
「ジジ」
受付の方から先に声がした。
マーサだった。
「あ、マーサ!」
「ルナリス久しぶりね。歩けるようになったって?」
マーサが受付から出てくる。
「いっぱい歩けるようになったよ!」
「本当?」
「昨日もお庭歩いた!」
「庭?」
「エルフの児童所!」
マーサがジジを見る。
「児童所?」
「昨日行ってきた」
「へぇ」
「アグラディアに、ルナ来させないかって言われてんの」
「アグラディアって、前に言ってた学者の人?」
「うん。あそこの所長もやってる」
「所長なの?」
「そうらしい」
「そうらしいって……」
「本人が言ってた」
マーサが小さく笑った。
「で、今日は?」
「午後シャイアんとこ。今日も鍛錬所休むってバルトに言いに来た」
「バルトなら奥にいるわよ」
「呼んで」
「自分で行きなさいよ」
「ルナいるじゃん」
「連れてけばいいでしょ」
「面倒」
「もう」
「おい。聞こえてんぞ」
奥から低い声が飛んできた。
間もなくバルトが姿を現す。
「俺を呼びつけようとしてんじゃねぇ」
「来たじゃねぇか」
「お前な……」
「今日も鍛錬所休む」
「先にそれ言え」
バルトがルナリスを見る。
「脚の方か?」
「いや、順調。今日は別の話」
「千里眼か?」
「それ。アグラディアが調べてたみたいで、話したいって」
「そうか」
バルトはそれ以上詳しく聞かなかった。
「なら今日は俺から候補生に言っとく」
「頼む」
「明日は?」
「行く」
「分かった」
「バルト!」
ルナリスが声を上げる。
「何だ?」
「ルナ、昨日いっぱい歩いたよ!」
「へぇ。どんくらいだ?」
「いっぱい!」
「分かんねぇな」
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ルナリスは昨日の出来事を思い出したのか、途端に話し始めた。
「ララノアがね、お花いっぱい髪につけてるの!」
「ララノア?」
マーサが尋ねる。
「お花の先生!」
「植物学を教えてるエルフだって」
ジジが補足する。
「すっごくいい匂いするよ。お花いっぱい!」
「そんなに気に入ったの?」
「うん!今日も行きたい!」
「今日は行かねぇよ」
「明日は?」
「知らねぇ」
「行きたい」
「分かったから」
ジジはそう言いながら、ルナリスの頭を軽く撫でた。
マーサがその様子を見て笑う。
「よかったじゃない」
「何が」
「ルナリスが気に入る場所ができて」
「まあ」
「ジジは心配?」
「……そりゃするだろ」
「なんで?」
ルナリスがすぐに聞く。
「ルナ、まだ歩くの慣れてねぇじゃん」
「ララノアいるよ」
「そういう話じゃねぇ」
「アグラディアもいるよ」
「分かってるって」
バルトが腕を組む。
「俺はいいと思うぞ」
「何が」
「児童所」
ジジがバルトを見る。
「エルフの子供が通うところなんだろ?」
「ああ」
「だったら尚更いいんじゃねぇか。
同じ年端と過ごす機会なんて今までなかっただろ」
ジジは黙った。
「私もいいと思う」
マーサが言った。
「ルナリスが行きたいならね」
「行きたい!」
「即答だな」
「だってララノアいるもん!」
「子供じゃなくて先生目当てじゃねぇか」
「お友達も作るよ!」
「まだ作ってねぇの?」
「昨日はお花見てたの!」
「なるほどね」
マーサが笑った。
それからジジへ向き直る。
「最初は心配なら一緒にいればいいじゃない。
慣れてきたら、少しずつ離れてみれば」
「……そうだな」
「ジジいなくなるの?」
ルナリスの声が少し小さくなる。
「一緒」
ジジの声も、先ほどより僅かに柔らかくなった。
「ルナが一人でも大丈夫って思ってからでいい」
「ほんと?」
「うん」
「じゃあ、まだ一緒?」
「いるよ」
ルナリスが安心したようにジジの胸元へ寄る。
マーサは二人を見ながら、静かに笑った。
「でも、いつかルナリスが一人で平気になったら」
「ん?」
「ジジも少しくらい、自分の時間を作っていいんじゃない?」
ジジが眉を寄せる。
「自分の時間?」
「今までずっとルナリス中心だったでしょ」
「別に困ってねぇけど」
「困ってるかどうかじゃなくて」
「じゃあ何」
「……まあ、今はいいわ」
「何だよ」
「何でもない」
マーサは笑って受付へ戻っていった。
ジジは納得していない顔でその背中を見ていた。
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しばらくギルドにいると、ルナリスはすっかりマーサを捕まえていた。
「マーサはお花何が好き?」
「私?」
「うん!」
「そうね……カモミールかな」
「お庭にあるよ!」
「そうなの?」
「いっぱい咲くの。ちっちゃくて白いの!」
「よく知ってるのね」
「ジジに教えてもらった!」
マーサが一瞬だけ目を細めた。
「そっか」
「ララノアの髪にも白いお花ついてたよ。マーサもつけたら?」
「似合うかしら」
「似合うよ!」
「じゃあ今度、ルナリスに選んでもらおうかな」
「選ぶ!」
ジジは少し離れた場所からその会話を聞いていた。
バルトが隣へ来る。
「何ぼーっとしてんだ」
「別に」
「ルナリス、随分元気になったな」
「ああ」
「ちょっと前まで抱かれて寝てることの方が多かったのにな」
「今は歩きすぎ」
「いいことじゃねぇか」
「限度あるだろ」
「お前が心配しすぎなんだよ」
「うるせぇ」
バルトが笑う。
「まあ、児童所の件は考えてやれ」
「考えてるよ」
「お前のためにもな」
「俺?」
「何でもねぇ」
「さっきから何なんだよ」
「そのうち分かる」
「腹立つな」
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昼を過ぎ、ジジとルナリスはギルドを出た。
「マーサ、カモミール好きなんだって」
「らしいな」
「今度持ってくる?」
「勝手に摘むなよ」
「お庭のだよ?」
「だからだよ」
「じゃあジジ取って」
「俺ならいいのか?」
「うん」
「何でだよ」
ルナリスが笑う。
ジジはその身体を抱き直した。
「そろそろシャイアんとこ行くぞ」
「今日はいっぱい歩けるかな」
「無理すんなよ」
「分かってる」
「疲れたらちゃんと言え」
「うん」
診療所が近づいてくる。
「来たね」
アグラディアが待っていた。
「早ぇじゃん」
「僕も今来たところだよ」
「見えるの、分かった?」
ルナリスが尋ねる。
「少しだけね」
アグラディアは穏やかに答えた。
「少しね。
昔の記録と、ルナリスに今まで起きたことを照らし合わせてみたんだ」
「ルナも聞く?」
「もちろん。君のことだからね」
「分かった!」
アグラディアが扉を開ける。
ジジはルナリスを抱いたまま、その後に続いた。
診療所の中では、すでにシャイアが二人を待っていた。
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お読みいただきありがとうございます。
くおんあづきです。
初執筆のため、慣れないところがあり読みづらい箇所等あるかと思います。
かなり長編になっていますので最後までお付き合いいただけると嬉しいです。




