見たいもの
【精霊は還る場所を知っている】
2026.9.25 47話一挙配信。
毎日21:00頃 5話ずつ更新しています。
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翌日の午後。
ジジはいつものようにルナリスを抱き、シャイアの診療所を訪れた。
「今日も歩く!」
床へ下ろされるなり、ルナリスが言う。
「その前にシャイアに話あんの」
「話?」
「昨日のこと」
「あ、お人形?」
診察記録を整理していたシャイアが顔を上げた。
「人形がどうかしたの?」
「昨日、ルナが見えたって言った」
その手が止まる。
「人形が見えた……?」
アグラディアが聞き返した。
「うん。机の下にあった」
「実際に?」
「あったよ」
ジジが答える。
「急に分かったって」
アグラディアは少し考え込んだ。
「ラガードで受けた確認と似てるね」
「あの時の?」
「そう。離れた場所にいるジジを捉えたことも、
寝台からなくなったものを当てたこともあっただろ?」
「ああ」
「今回も、普通なら見えない場所にあるものを捉えてる」
シャイアがルナリスを見る。
「でも、最近はほとんどなかったのよね?」
「うん」
「脚が戻ってから?」
「人形が初めて」
アグラディアが小さく頷いた。
「やっぱり、身体の再生と関係があるのかもしれない」
「足治すのに力使ってたから?」
「前にも話したけど、その可能性はあるよ。
身体を治す方へ大きな力を使っていたせいで、
千里眼の発現が弱くなっていたのかもしれない」
「じゃあ、足が治ったから戻ってきた?」
「まだ一度だけだから、そこまでは言い切れない。
でも調べる価値はありそうだね」
「じゃあ、もう一回やってみれば?」
「それはやめておこう」
「なんで」
「能力が身体にどれくらい負担をかけるのかも分からないから」
アグラディアの声は柔らかいままだった。
「それに、出し方も分からない力を無理に使わせる必要はないよ」
「ルナできるよ?」
「うん。でも、できるからってやらなくていいんだ」
「そうなの?」
「そういうもの」
ルナリスは分かったような、分からないような顔で頷いた。
シャイアがその頭を撫でる。
「今日はいつも通り、歩く練習だけにしましょう」
「うん!」
「そっちはやるんだ」
ジジが呟く。
「本人がやりたがってるもの」
「千里眼もやりたがってんじゃん」
「一緒にしないで」
「何が違うの」
「分からない力を試すのと、経過を見ながら進めてる訓練を一緒にしない」
「……はい」
「素直でよろしい」
「なんか腹立つな」
アグラディアがまた笑った。
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ルナリスが歩行訓練をしている間、ジジは壁際の椅子に座っていた。
昨日より歩幅が少し広い。
シャイアがすぐそばについているが、手は出していない。
アグラディアはその様子をしばらく眺めたあと、ジジの隣へ来た。
「千里眼について。昔の記録が残ってないか探してみるよ」
「ルナのことも?」
「必要な範囲ではね」
アグラディアはジジを見る。
「嫌?」
「……別に」
「勝手なことはしないよ」
「分かってる」
短く答え、ジジはルナリスへ視線を戻した。
アグラディアもそれ以上は言わなかった。
「ジジ!」
「ん」
「見て!」
「見てる」
「さっきよりいっぱい歩いてる!」
「うん。転ぶなよ」
「転ばないよ!」
「そう言って昨日よろけたじゃん」
「昨日!」
「昨日だろうが転んだのは一緒だろ」
「転んでない! 壁触っただけ!」
二人のやり取りを聞きながら、アグラディアが小さく笑った。
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その日の夜。
エルフ居住区にある書庫には、紙を捲る音だけが響いていた。
机の上には、何冊もの本が積まれている。
古いエルフの文献。
特殊な能力を持って生まれた者について記された記録。
一般の書架には置かれていない古文書。
その中央に、ラガードから送られてきた報告書があった。
アグラディアは椅子に座り、改めてその一節を読む。
――視力を失っているにもかかわらず、
離れた場所にいる保護者の位置を正確に把握した。
指先が紙の上で止まる。
別の紙を引き寄せる。
そこには今日聞いた内容が、簡潔に書かれていた。
――自宅にて、机の下にある人形を視認。
――発現直前、人形の所在を強く意識。
――発現は短時間。
――通常視力の回復は認められない。
アグラディアはしばらく二枚を見比べた。
「ジジと……人形か」
あまりにも違う対象だった。
距離も違う。
状況も違う。
共通しているものがあるとすれば、ルナリス自身がその存在を探していたこと。
ページを捲る。
千里眼について残された記録は少ない。
持つ者そのものが希少だった。
遠方を視た者。
遮られた先を視た者。
戦場で敵陣を視た者。
記述はある。
だが、どうすれば発現するのかまで記されたものはほとんどない。
アグラディアは次の本へ手を伸ばした。
その横には、別の記録も置かれている。
白い髪。
人間とエルフの混血。
精霊の存在を認識する感覚。
再生した両脚。
そして、千里眼。
一つずつなら、珍しい事象で済む。
だが、一人の少女にこれだけが重なる。
「……不思議な子だな」
碧色の瞳が、積み上げられた文献へ向く。
しばらく考えたあと、アグラディアは新しい紙を一枚取り出した。
上部に名前を書く。
――ルナリス。
その下へ、今日確認したことを一つずつ記していきながら
再び千里眼の文献へ手を伸ばした。
夜は、まだ長かった。
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お読みいただきありがとうございます。
くおんあづきです。
初執筆のため、慣れないところがあり読みづらい箇所等あるかと思います。
かなり長編になっていますので最後までお付き合いいただけると嬉しいです。




