↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
精霊は還る場所を知っている  作者: くおんあづき


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

91/154

それぞれのお仕事

【精霊は還る場所を知っている】

2026.9.25 47話一挙配信。

毎日21:00頃 5話ずつ更新しています。

═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═

数日後。

昼を少し過ぎた頃、診療所の扉が開いた。


「こんにちは!」


ジジの腕の中から、ルナリスの明るい声が響く。


「あら、いらっしゃい」


奥からシャイアが顔を出した。


「今日も元気ね、ルナリス」


「うん!」


ジジはそのまま診察室へ入り、寝台の上にルナリスを座らせた。


「シャイアに預けるから、歩行訓練頼む。」


ガイアと話してから暫く悩んだ結果だった。


「ありがとう、ジジ。」


「今日は歩く練習するの?」


「いきなり歩いたりはしないわよ」


「えー」


「脚が戻ったからって、すぐに歩けるわけじゃないの。

 まずはちゃんと立てるようにならないと」


「立つだけ?」


「立つのだって大事な練習よ」


シャイアはそう言って、ルナリスの前にしゃがんだ。

細い足首へ触れ、膝を曲げ伸ばしする。


「痛いところは?」


「ない」


「こっちは?」


「だいじょうぶ」


「足の裏、触ってるの分かる?」


「分かるよ」


「これは?」


「くすぐったい」


ルナリスが足を引っ込めて笑う。

シャイアも笑って、その足をもう一度そっと取った。


「感覚も問題なさそうね」


その隣で、ジジは黙って様子を見ていた。


「それじゃあジジ」


シャイアが立ち上がる。


「そろそろ行った方がいいんじゃない?」


「……何が」


「鍛錬所」


「まだ時間ある」


「そうなの?」


「ちょっとは」


壁際の時計へ目を向けたシャイアが、再びジジを見る。


「そんなにないと思うけど」


「間に合う」


「……そう」


シャイアはそれ以上何も言わなかった。

ジジも動かない。

ルナリスは寝台の上に座ったまま、二人の声を聞いていた。


「ジジ」


「ん」


「お仕事は?」


「……これから」


「行かないの?」


「行くよ」


「じゃあ、いってらっしゃい」


「……」


返事はなかった。

ルナリスが首を傾げる。


「ジジ?」


「ん」


「ルナ、大丈夫だよ」


「……分かってる」


「シャイアもいるよ」


「ああ」


それでもジジは動かなかった。

やがてルナリスが小さな手を伸ばした。


何もない空中を探った手を、ジジが取る。

ルナリスはその指を握った。


「ジジはお仕事」


「……うん」


「ルナもここで、歩くお仕事する」


シャイアが僅かに目を細めた。

ジジは握っていた小さな手を見下ろしたまま、しばらく黙っていた。


「……無理すんなよ」


「うん」


「痛かったらすぐシャイアに言え」


「うん」


「疲れたら休めよ」


「うん」


「あと――」


「ジジ」


シャイアが口を挟んだ。


「何」


「私、医者なの」


「知ってる」


「無理をさせたりしないわ」


「……」


「ちゃんと見てるから」


ジジはシャイアを見る。

シャイアもまっすぐ見返した。


少しして、ジジがルナリスの手を離した。


「……じゃあ行ってくる」


「うん!」


ルナリスが笑う。


「いってらっしゃい!」


ジジはその頭を一度撫でた。

立ち上がる。

二歩ほど歩いて、また振り返った。


「夕方迎え来るから」


「うん」


「勝手にどっか行くなよ」


「行けないよ?」


「……まあ、そうだけど」


シャイアが吹き出した。


「何」


「なんでもないわ」


ジジは眉を寄せながら扉へ向かった。


「ジジ!」


背後からルナリスの声が飛んでくる。

ジジが振り返る。


「お仕事、がんばってね!」


「……お前もな」


扉が閉まった。

廊下へ出たジジは、その場に立ったまま動かなかった。


やがて一度だけ閉じた扉へ目を向ける。

数秒後。

ようやく足音が診療所から遠ざかっていった。


「……行った?」


ルナリスが尋ねる。


「ええ」


「ジジ、だいじょうぶかな」


「あなたが心配する方なの?」


「うん」


シャイアが笑った。


「大丈夫よ。お仕事が始まったら、ちゃんとやるでしょう」


「ジジ、お仕事ちゃんとするよ」


「知ってるわ」


シャイアは棚から乾燥させた薬草をいくつか取り出した。


「じゃあ、ルナリスもお仕事しましょうか」


「うん!」


——————————————————————


鍛錬所では、候補生たちの掛け声が響いていた。


「足止めんな!」


ジジの声が飛ぶ。


木剣を構えた候補生が、慌てて踏み込む。

その剣をジジは横へ流した。

体勢を崩した候補生の足元へ木剣を差し込む。


「うわっ!」


身体が地面へ転がった。


「剣ばっか見んな。足元空いてんぞ」


「はい!」


「次」


別の候補生が前へ出る。


「お願いします!」


鍛錬が始まってからは、いつもと変わらなかった。


一人ずつ動きを確認し、癖を見つけ、修正する。

何度言っても直らなければ、実際に木剣を交えて身体で覚えさせる。


やがて休憩の声がかかった。


候補生たちが一斉に地面へ座り込む。

ジジも木陰へ移動し、水袋を開けた。

一口。

もう一口。


視線が空へ向く。

太陽はまだ高い。

蓋を閉じる。


しばらくして、また開けた。


「……教官」


「何」


「今日、なんかあります?」


「別に」


「そうですか」


候補生は首を傾げながら離れていった。

ジジは水袋を置いた。


「……」


数秒後。


「休憩終わり」


「ええ!?」


あちこちから声が上がった。


「まだ早くないですか!?」


「もういいだろ」


「よくないですよ!」


「立て」


「横暴だ!」


「元気じゃねぇか」


「そういうことじゃ――」


「次、誰だ」


候補生たちは文句を言いながら立ち上がった。


——————————————————————


診療所には、薬草の香りが満ちていた。

椅子に座ったルナリスの足が、温かな湯に浸かっている。


「いい匂いする」


「分かる?」


「うん。マリアのお庭みたい」


シャイアの手が一瞬止まった。


「……そう」


「これ、なに?」


「ローズマリーとカモミール。それから少しだけ別の薬草も入ってるわ」


ルナリスが嬉しそうに笑った。


しばらく温めたあと、シャイアは足を湯から出し、丁寧に水気を拭った。

床には厚い敷物が敷かれている。


「じゃあ、今日は立ってみましょうか」


「歩かないの?」


「まだよ」


「ちょっとだけは?」


「駄目」


「一歩」


「駄目です」


「……はーい」


ルナリスが渋々頷く。

シャイアはその両手を取った。


「まず足の裏を床につけて」


小さな足が敷物へ触れる。


「分かる?」


「ふわふわする」


「そうね。じゃあ、ゆっくり体重をかけるわよ」


「うん」


シャイアが身体を支える。

ルナリスの腰が椅子から少し浮いた。


両脚が震えた。


「……っ」


すぐに腰が落ちる。


「今のでいいの?」


「最初はそれでいいのよ」


「立ってないよ」


「少し立ったわ」


「ちょっとだけ?」


「ちょっとだけ」


ルナリスは自分の足へ手を伸ばし、膝に触れた。


「もう一回」


「少し休んでから」


「まだできる」


「休むのもお仕事」


「……ジジみたい」


「何が?」


「無理するなって言う」


「ジジが正しいわね」


「二人ともおんなじこと言う」


シャイアは笑いながら、もう一度ルナリスを椅子へ深く座らせた。


——————————————————————


夕方。

診療所の扉が開いた。


「ルナ」


その声に、ルナリスがすぐ顔を上げた。


「ジジ!」


椅子の上で身体が弾む。


「おかえり!」


「ただいま」


ジジが近づいてくる。


「どうだった」


「この前より立てたよ!」


足が止まった。


「……一人で?」


ジジがシャイアを見る。


「私が支えてほんの少しだけだけど」


ジジはルナリスの前にしゃがんだ。


「痛くなかった?」


「ならなかった」


「脚は?」


「だいじょうぶ」


「疲れた?」


「ちょっと」


「そっか」


ルナリスが両手を伸ばす。

ジジはその身体を抱き上げた。

ジジの腕の中で、ルナリスが顔を上げた。


「……明日は来ないの?」


「ん?」


「ルナ、明日も来たい」


「毎日じゃなくていいってこの前言ってただろ」


「歩かなくてもいいよ。シャイアのところ来たい」


ジジは黙ってルナリスを見る。


「今日、楽しかった。足あったかくしたのも」


「……そっか」


「明日も来たらだめ?」


ジジがシャイアを見る。


「来るだけならいいのか?」


「私は構わないわ。ただし、毎日訓練するわけじゃない。

 その日の脚の状態を見て決めるわ」


「温かいのだけの日もある?」


「あるわよ」


「それでも来る!」


シャイアが笑った。


「じゃあ、いらっしゃい」


「やった!」


ルナリスがジジの腕の中で嬉しそうに笑う。

ジジは小さく息を吐いた。


「……じゃあ、明日も来るか」


「うん!」


「ちゃんとシャイアの言うこと聞けよ」


「聞く!」


ルナリスがくすくす笑った。


「帰るぞ」


「シャイア、また明日!」


「ええ。また明日ね」


診療所を出る。

夕暮れの街を、ジジはルナリスを抱いたまま歩いた。


「ジジ」


「ん?」


「明日もお仕事?」


「ああ」


「ルナもお仕事」


「休むだけかもしれねぇぞ」


「休むのもお仕事ってシャイア言ってた」


「……便利な言葉覚えたな」


「えへへ」


やがてルナリスの頭がジジの肩へ預けられた。


「眠い?」


「ちょっと」


「寝てろ」


「……うん」


ほどなくして、小さな寝息が聞こえ始める。

ジジは眠ったルナリスを抱き直し、夕暮れの道を家へ向かって歩いた。

═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═

お読みいただきありがとうございます。

くおんあづきです。

初執筆のため、慣れないところがあり読みづらい箇所等あるかと思います。

かなり長編になっていますので最後までお付き合いいただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。