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精霊は還る場所を知っている  作者: くおんあづき


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帰ってきた男

【精霊は還る場所を知っている】

2026.9.25 47話一挙配信。

毎日21:00頃 5話ずつ更新しています。

═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═

翌日。

ジジは庭にしゃがみローズヒップの枝の手入れをしていた。

庭の片隅ではルナリスが移動椅子に座って指先を触っている。


昨日シャイアの診療所で初めて立って以来、ルナリスは隙あらば立とうとしていた。


「今日はやめとけって」


「ちょっとだけ」


「昨日やっただろ」


「今日まだやってない」


「だから休めっつってんの」


「立つだけ」


「ダメ」


「ちょっと」


「ダメ」


「……けち」


「何とでも言え」


ルナリスは不満そうに頬を膨らませた。


その時だった。

庭の向こうから、聞き慣れた声が飛んできた。


「お前ら何してんだ?」


ジジが顔を上げる。


「……またどっか行ってたのか」


「見りゃ分かんだろ」


ガイアは肩に掛けていた荷を下ろしながら、ルナリスへ顔を向けた。


「ルナ」


「ガイア!」


ルナリスが両手を伸ばす。

いつもならそのまま抱き上げるところだった。


だが、ガイアの動きが止まった。


ルナリスの膝から下。

そこにある二本の脚を見たまま、動かない。


「……」


「ガイア?」


「……お前」


「足、戻ったよ」


「……マジかよ」


ガイアの顔から、いつもの軽さが消えた。


「いつ」


「一昨日の夜」


ジジが答える。


「昨日シャイアんとこ連れてった。感覚もあるし動く」


ガイアは何も言わなかった。

ルナリスの前へしゃがみ、その小さな二本の脚をじっと見つめる。

やがて手を伸ばしかけて、止めた。


「ルナ」


「なに?」


「……触っていいか?」


「いいよ」


足の甲にそっと触れる。


踵、指先。それから足首。

ルナリスが足の指を動かした。


「動くよ」


「……うん」


「昨日、立った」


ガイアが顔を上げた。


「立ったのか?」


「うん!ジジとシャイアが手つないでくれて、ルナ立った!」


「……そっか」


ガイアの顔が、くしゃりと崩れた。


「よかったなぁ、ルナ」


「うん!」


次の瞬間、ガイアはルナリスを抱き上げた。


「うわっ」


「ほんっと、よかったな」


ぎゅう、と抱きしめる。


「ガイア、くるしい」


「ちょっと我慢しろ」


「なんで?」


「俺が嬉しいから」


「ルナも嬉しいよ」


「知ってる」


ジジが横から呆れたように見る。


「苦しいっつってんじゃん」


「うるせぇな。今いいとこなんだから黙ってろ」


「ルナ潰すなよ」


「お前より加減知ってるわ」


「何だそれ」


ガイアはようやく腕を緩めると、もう一度ルナリスの足を見た。


「……触っていい?」


「さっき触ったよ?」


「今度はこっち」


「どこ?」


ガイアの指先が、足の裏を軽くなぞった。


「ひゃっ!」


「お」


「くすぐったい!」


「ちゃんと分かるな」


「ガイア、もう一回!」


「やめろって」


ジジが即座に止める。


「本人がやれっつってんだろ」


「だからってやんな」


「お前ほんっと過保護だな」


「関係ねぇだろ」


「あるわ。ルナ、もう一回?」


「やる!」


「やんなっつってんだろ」


——————————————————————


「そうだ」


ガイアがルナリスの足を眺める。


「歩けるようになったら履くもんいるな」


「靴?」


「靴でもいいけど」


「何」


「草履、編んでやるよ」


「ぞうり?」


「俺の島で履くやつ。紐で足に留めるんだよ。軽いし、走りやすい」


「走れる?」


「走れるようになりゃな」


「ほしい!」


「じゃあちゃんと歩く練習しろ」


「する!」


「無理させんなよ」


ジジが横から言う。

ガイアが呆れたように見る。


「お前は黙ってろ」


「何でだよ」


「どうせ転びそうになっただけで抱き上げんだろ」


「怪我すんだろ」


「子供なんか転んで怪我して覚えんだよ」


「しなくていい怪我はしなくていい」


「だからお前は過保護なんだよ」


「うるせぇ」


「お前がそんなんだと歩くの遅くなんだろ」


「昨日初めて立ったんだぞ」


「知ってるわ」


二人の間で、ルナリスが笑った。


「ジジとガイア、またけんかしてる」


「してねぇよ」


二人の声が重なった。


——————————————————————


その日の夕方。


マーサが作って置いていった料理を三人で食べながら、

ジジは昼間から考えていたことを口にした。


「ガイア」


「何」


「ちょっと聞きてぇんだけど」


「嫌だ」


「まだ何も言ってねぇだろ」


「面倒くさそうな顔してる」


「お前な」


「で、何」


ジジは匙を置いた。


「シャイアに、ルナ預けねぇかって言われた」


ガイアが料理を口へ運びながら答える。


「預けりゃいいじゃん」


「……早ぇよ」


「何が」


「ちょっと考えろよ」


「考えた」


「今だろ」


「十分だろ」


ジジが眉を寄せる。


「俺が鍛錬所にいる日の午後だけ。

 歩く練習を任せて欲しいって」


「医者なんだろ?」


「そうだけど」


「脚のことも診てた」


「うん」


「じゃあいいんじゃねぇの?」


「……」


ガイアがジジを見る。


「何が引っかかってんだよ」


「別に」


「じゃあ預けろよ」


「……」


「お前がいねぇと死ぬわけじゃねぇんだから」


「そういう話してねぇだろ」


「そういう顔してんだよ」


ジジが黙った。

ガイアは呆れたように息を吐く。


「専門家がいるなら任せた方がいいだろ。

 歩かせ方だって、お前より知ってる」


「それは分かってる」


「じゃあ何だよ」


ルナリスは二人の会話を聞きながら、黙々と食べていた。

ガイアは頬杖をつきながら気怠そうに聞いた。


「シャイアって信用できんだろ?」


「……マリアの弟子だった」


ガイアが止まった。


「マリア?」


「ああ」


「お前の?」


「俺のじゃねぇよ」


「分かってるわ」


ガイアは少し考えたあと、肩をすくめた。


「なら尚更いいじゃん」


「……そう思う?」


「マリアの弟子なら、少なくとも変なことはしねぇだろ」


「まあ……」


「それにルナは?」


ガイアが向かいを見る。


「シャイアんとこ行きたいか?」


「行きたい」


即答だった。


「歩く練習する」


「だってよ」


「……」


「何だよ」


「お前ら簡単に言うよな」


「お前が考えすぎなんだよ」


ガイアはそう言って、また食事へ戻った。


「嫌がったら迎えに行きゃいい。何かあったらやめりゃいい。

 最初から全部決める必要ねぇだろ」


ジジは黙っていた。


その隣でルナリスが足を揺らしている。

今までなら存在しなかった、小さな二本の足。


「……午後だけだしな」


ようやくジジが呟いた。

ガイアが鼻で笑う。


「最初からそう言ってんだろ」


「お前は何も考えてねぇだろ」


「お前よりは考えてるわ」


「どこが」


「少なくとも、歩行訓練に保護者はいらねぇってことくらいは分かる」


「誰が保護者だよ」


「お前だよ」


ルナリスが楽しそうに笑っている。

ガイアはそんな二人を見て、呆れたように口元を緩めた。


「とりあえず預けてみろよ。ルナが嫌ならやめりゃいい」


「……ああ」


「で、お前はちゃんと仕事しろ」


「何でお前に言われんだよ」


「暇だったら余計なこと考えんだろ」


「帰って早々うるせぇな」


「うるせぇのは昔からだ」


「自覚あんのかよ」


久しぶりに戻った声が、家の中に響いていた。

═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═•⊰❉⊱•═

お読みいただきありがとうございます。

くおんあづきです。

初執筆のため、慣れないところがあり読みづらい箇所等あるかと思います。

かなり長編になっていますので最後までお付き合いいただけると嬉しいです。

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